偽悪になった少年 R   作:茶ゴス

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A's 18th

 シャマルが結界を張ったのを確認し、私は深呼吸する。意識を集中し、自分の体中に張り巡らされている神経を鋭敏にしていく。ザフィーラの足の筋肉が膨らんでいるのが解る。恐らくは短期決戦を仕掛けるつもりなのか、それとも最初に優位性を確保することで長期戦に持込み、ジリ貧で削ろうとしているのか……

 

 いや、いずれにせよ

 

 

「甘いな」

 

 

 一足でシャマルの元へ近づく。当然のごとくそこに立ち塞がるのはザフィーラだ。他の3人は反応すら出来ていない。

 障壁を展開し、シャマルを守ろうとしているのだろう……だが、それでは遅い。私へと突っ込むつもりだったと言う事は障壁を展開する準備をしていなかったということ。それでは私の攻撃までに展開できるまでもなく……

 

 

「フン!」

 

「グッ!!」

 

 

 私の掌底を無防備に受けることとなる。

 いかに超能力を使用していないにしろ、筋力までは変わらない。増強していないが、それでも岩を砕く程度にはある。

 それだけの打撃を内部へと浸透させずに放てばある程度吹き飛ばされるのは道理。

 

 加えて……内部へと浸透させた打撃ならば……

 

 

「ハッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

 シャマルへと掌底を繰り出す。

 筋力は申し分なく、更に鎧通しの要領での攻撃は騎士甲冑では防げない。

 

 衝撃は緩和しえど、打撃に対する防御力とは比べるまでもなく低い。故に内部へと浸透する衝撃は有効打となる。

 

 

「シャマル!!」

 

 

 やっと状況を理解できたというか、反応できたのか、はやてが叫んだ。

 が、既に遅い。八極拳の震脚により、今一歩踏み込み、突き上げるように顎へと掌底をかました。

 

 

「クソ!!!」

 

 

 打ち上げられるような攻撃を食らったシャマルは既にその意識を飛ばした。いかに魔力体の守護騎士であろうと、人体の構造が人間に酷似している以上、神経の麻痺と脳への衝撃は無事では済まない。

 シグナムの剣を上体を反らして躱しつつ、地面を蹴って距離を取った。

 

 後方への着地とともにシャマルがドサリと地面へと落ちる音がする。

 

 視線を前に向ける前に空気がこちらへと迫ってくる感覚を得る。

 ヴィータからの攻撃なのだと判断し、地面を蹴って横に跳ぶことでその攻撃を躱した。

 

 

 はやて達の方へ視線を向け、状況を把握する。

 既にシャマルは倒した。結界は壊れていないのは事前の情報で知っているため、特に驚きはしない。シグナムとヴィータはシャマルの様子を見るはやてを守るようにこちらへとデバイスを向けているが……攻撃をしてこないというのであれば都合がいい。

 

 突き飛ばしたザフィーラは両手を振りながらこちらへと歩いてきている。掌底を放った時に妙な違和感を感じたが、腕でガードされていたか。

 

 

 さて、ここまでは相手の状況だ、問題は私の状況だが……接近する為の足の腱。掌底を繰り出したことにより、幾つかの血管の破損。震脚による右足の骨へのヒビ。超能力があれば直ぐ様回復してしまうようなものだが、さっき程のような動きはあと出来て2回と言った所か。痛みは無視できるが、動かなくなるのは不味いな……これで私に長期戦という選択肢は無くなったというわけだ。

 

 両手を握り、具合を確認。まだ、行けるな。

 

 

 幸いにもこちらの状況はあちらにはバレていない……いや、ザフィーラは気付いているか。若干こちらを怪訝そうな目で見ている。観察を怠らない所は流石歴戦の戦士か。戦闘経験は間違いなく劣っている故に私が注意すべきはそこなのだろう。

 息を吐き、再度集中する。第一目標は達した。後は仕留めるだけ。

 

 私は地面を蹴り、森のなかへと姿を眩ませた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

【ザフィーラ】

 

 総司が姿を眩ませた。その隙にシャマルの様子を確認するが、見事に意識を刈り取られているようで、暫くは目を覚まさないだろう。

 これで回復役がやられたわけだ。そうならぬように注意していたが、こうも容易く突破されるとは、盾の守護獣が聞いて呆れる。だが、今の攻防で、損害を被ったのはどうやらこちらだけではないようだ。あれだけの動き、魔力を纏わずに更に言えば騎士甲冑やバリアジャケットを身にしていない状態であれだけの力。まず、身体が持たない。そのことに主はやてやシグナム達は気づいていないようだが、言うべきことではない。総司の思惑は察しは付いているが、主はやてが自分で決めた事だ。私が意見する必要はないだろうし、総司の不調を知ればその考えを改めてしまうかもしれない。それは主はやての為にもならないし、総司の思惑からも一番離れてしまうことに成る。ならば私にできることは主はやての騎士として、総司と対峙すること。

 

 総司に記憶を戻された私ならばまだしも、シグナム達に今の総司を相手させるのも心許ない。本来であれば、数に物を言わせて攻めるべきだが、現状戦い方を知らぬ主はやてを1人にしておくのは不味い。いかに管制人格のリインフォースとユニゾンしていようと身体の主導権は主はやてにある。故にこの場において守るべき対象であることに変わりはない。

 

 

「シグナム、ヴィータ」

 

「なんだ?ザフィーラ」

 

 

 この戦いにおいて、敗北条件は主はやてが倒されること。長期戦を仕掛けるのが1番だが、シャマルがやられた以上、誰かがやられていく度にこちらが不利となる。

 シグナムとヴィータでは今の段階でも総司を相手取ることは出来ない。ならば、現段階で1番勝ち目のある方法は……

 

 

「私が総司を倒す。ここで主はやての護衛を頼んだ」

 

 

 私が一人で総司と対峙すること。

 

 

「……本気か?」

 

「勿論だ」

 

 

 私でも総司を倒すことは叶わないだろう。だが、それでも今の総司にダメージを与え、少なくともシグナム達で倒せる程度に弱らせれば勝ち目が出る。

 

 

「何故全員で攻撃するという手段を言わない?」

 

「現状、この場の誰かを減らされるのが最もまずい状況だ。それならば一人ずつ総司を消耗させるのが1番効果的だろう」

 

「……確かに、お前だけが総司の動きに反応出来ていたが……」

 

「だからこそ、お前がやられたらダメじゃねえか」

 

 

 それも一理ある……

 だが、正直今のシグナムとヴィータは総司を舐めきっている。超能力や魔術が使えないと言えど総司の根本的な強さには、なんら変化はないのだ。

 それを理解できない2人にまだ体が動く総司の相手は務まらないだろう。

 

 

「いや、私が行く」

 

「……わかった。任せる」

 

 

 意識の集中は常に行っている。それすらも怠っていると言う事は戦場においてあり得ないこと。

 仕方のない事とは言え、牙を向ける方法を忘れたシグナム達との連携は厳しい物がある。

 

 それに……

 

 

「(あれは味方が居ない方が都合がいい)」

 

「何か言ったか?ザフィーラ」

 

「……いや。それよりも、主はやての護衛を任せた。あと、負ける気はないが、出来るだけ弱らせる」

 

「わかった。止めは任せておけ」

 

 

 

 

 さて、勝ち目は薄いが、私の全てをぶつけ、お前を倒させてもらおうか……

 

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