私が私立聖祥大学付属小学校に入学してから2年と少しが経ち、3学年となった。数えでは9歳なので普段はそちらを使っているが、誕生日は7月であるためまだ厳密には8歳だ。
現在はバスの中で高町なのはの隣に座り、学校までの道を窓から眺めている。私としてはそこまで彼女と一緒にいる必要性は感じられないが、双子の兄弟が基本的に同じクラスにならないように、私と高町なのはが一緒のクラスに成ることはなく、それならば少しでも一緒にいるべきだと彼女に駄々をこねられ、登下校を一緒に行っている。そのせいで高町なのはの友人である金髪少女と人外少女とも顔馴染みとなってしまったが、些細な事だろう。
それにしても私の義妹である高町なのはや義兄である高町恭也の周囲は実に劇的である。金髪少女、大企業の社長であるバニングス家の長女で世間一般でいう天才少女。人外少女、これも名家の月村家の次女であり、その正体は吸血鬼か何かの類である。気付けたのも些細な事ではあるが、匂いが違うことと思わず能力を行使しかけたからだ。断定はできないが、身体能力面から見ても普通の人間ではないだろう。
そしてその人外少女の姉は高町恭也の恋人である。次いで高町恭也自身常人よりも身体能力が優れている。
もしかしたら高町恭也と高町なのはの二人は英雄になり得る存在なのかもしれないな。何故運命が私をこの二人と結びつけたかは理解出来ないが、いつかは真正面からぶつかることに成るのだろう。悪と英雄という関係は結局のところぶつかり合う事でしかその意義を見出せないのだから。
「…っと!」
それにしても、未だに高町家の連中は音を上げずに悪意に対して善意を返してくる。今日も勝手に昨日の夕飯の余り物で弁当を作るという暴挙に出たのだが、それでも感謝してくる。随分と本心を隠すのが上手いのだろう。私ですら裏のない言葉に聞こえる。恐るべしは英雄(仮)の家族だというべきか。
「ちょっと!聞いてる!?」
高町なのは越しに金髪少女が喚いてくる。思わず顔をしかめ視線を少女に移す。
「五月蠅いぞ、私の思考を邪魔するな」
「黙りなさい。相も変わらずに変な喋り方してる奴に悪態をつかれたくないわよ」
「周囲の者へ配慮も出来ぬ小娘と交える言葉は持ちあわせていない」
私の言葉に現状を理解できた金髪少女は周囲を見渡した後、少し顔を赤くしながらボスンと自分の席に座る。それに高町なのはと人外少女は苦笑を浮かべていた。
天才といえど所詮は小娘ということか。私ならば今の言葉を聞いても構わず続けるぞ。周囲の者への配慮は勿論するが、それは私が配慮するに値すると判断した時のみだ。それ以外の者に割く配慮などは持ってはおらぬ。
「して、何用だ?」
「……今週末の予定聞いてたのよ」
「何故そのようなことを聞く?」
「えっと、お父さんが監督してるサッカーチームの試合があるから一緒に応援に行こうって3人で話してて、総司君も一緒に行けたらいいなって思って」
隣に座る高町なのはが答えた、何やら憤慨している金髪少女を視界から除し顎に手を当てる。
ふむ、確か高町士郎が監督を務めているチームの名は翠屋ジュニアフットボールクラブという物だったか。以前高町士郎に勧誘されたが球蹴り遊びに興味はない為断ったな。
しかし、週末に応援に行くのか……サッカーとは外でやる競技……
「……それは良いことを聞いた」
「え?今なんて言ったの?」
「いや、気にするな。それよりも私が行くかどうかだが、結論から言えば行かぬ」
「ええ、何か予定あるの?」
「生憎とそのようなことに割く時間は持ち合わせてはおらぬ。私にはやることが山積みなのでな」
「そっか、残念だけど仕方ないね」
話は終わったようなので、私は再度視線を外へと向ける。あと数分で到着といった所か。
「ちょっと、なのはの気持ちも考えなさいよ」
「いいよ、アリサちゃん。総司君いつも人を助けているから忙しいんだよ」
「そうは言ってもね……」
いや、ちょっと待て。
「今聞き捨てられない言葉が聞こえたが、何と言ったのだ?」
「え?総司君がいつも人を助けているから忙しいって」
「……そのような理由で多忙なわけがあるまい。人助けなどするならばまだお前達に付き合った方がマシな時間の使い方だろう」
「じゃあ、あんたも参加ってことね」
「……人助けをしている等と勘違いされるのも癪だ。仕方あるまい」
しかし、それでは私の考えていた悪事の実行が難しいな。当日の弁当に油物を増やすことで高町士郎と高町なのはの胃にダメージを与えるという高尚な作戦が……いや、私の身体がその程度でやられるほどに柔ではないな。実行しても問題はあるまい。
「そ、総司君今付き合うって言った?」
「む?確かにそう言ったが、どうしたのだ?なのは」
「……わ、私達兄妹だから隠れてじゃないとダメだよぉ……」
「……すずか、なのは疲れてるから寝かせといてやってくれない?」
「うん。私も総司君がいいなら付き合うのいいよ」
「……あんたも何言ってんのよ」
何故か深くため息を吐いている金髪少女はすぐに高町なのはと人外少女の瞼を閉じた。
後数分で降りるというのに何をやっているのか。子供の考えることは私には分からぬな。年齢が同じといえど、思考の違いでここまで理解に苦しむ結果になるとは、あまり考えも思わなんだ。
◇
その日の夜、街に謎の影が現れたが、その影は運悪く買い物袋を持った私と対峙してしまい、すぐにその存在をかき消された。無論私が故意にしたことだが……
影のいた場所に変な石ころが落ちていた。何やら力を秘めていたようだが、破壊に特化するだけという詰まらぬものだったので放置し、台所へと帰った。
帰る直前に何かの鳴き声が聞こえた気もするが気のせいだろう。
石ころを改造して持ち主への悪事をしようとも考えたが、そんな陳腐な悪事をするならエアコンの温度を一度下げる方がマシだと考え実行しなかった。
後、私が帰ってきてから数十分程度経って高町なのはがこそこそと帰宅していた。何やら小動物の姿に化けている人間を抱えていたが、英雄(仮)の行動をいちいち気にしていてはキリがないので考えないことにした。