偽悪になった少年 R   作:茶ゴス

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4th

【ユーノ・スクライア】

 なのはに連れられ、彼女の家で過ごすようになってもう少しで二週間が経過する。

 高町家の人達は基本的に温和でフェレットの姿をしてる僕をかわいがってくれている。

 

 父親の高町士郎さんは喫茶店を経営しながらも武術の腕が凄い。道場で見た時の剣筋が全く見えなかった。

 母親の高町桃子さんの料理は美味しそうだけど、僕はたまになのはがお菓子を持ってきてくれる時にしか味わえず、ご飯を食べたことがない。

 長男である高町恭也さんは格好良くて戦える人だ。士郎さんに劣っているらしいけど、一般人だと思えないほどに強い。

 長女の高町美由希さんは恭也さんと一緒に剣の修行をしている。

 

 そして、なのはと同じ年である次男の高町総司、彼のことだが……正直分からない。

 恐らく一番この家族で浮いている存在だろう。双子でもないのになのはと同じ年だというから恐らくは何か事情があるのだろうけど……

 彼はいつも誰かの為に動いている。僕にだってそうだ。彼が朝ごはんを作る際には僕の食事も人間の物と一緒になっている。まるで僕が人間だと気付いているように……

 

 そして、彼の一番の特徴といえば……笑わないことだ。彼は褒められても不思議そうな顔をするだけで笑わない。更には反論するほどだ。素直に慣れていないとなのはは言っていたけれど、よくわからない。

 

 別にリンカーコアがあるわけでもなく、魔導師関係ではないのはわかっている。なのに何故ここまで気にかかるのだろうか……

 

 

 それもいまここで解るかもしれない。今日はなのはが月村すずかという子の家に遊びに行く日。だけど、今朝はその前に高町家全員が道場に集まっていた。

 珍しくなのはも早く起きて道場に来ている。僕はなのはの膝に乗り、今から始まる試合の空気を感じていた。

 

 戦うのは高町恭也さんと高町総司。恭也さんは2本の木刀を持っているけど、総司は何も持っていない。

 

 

「じゃあ、ルールはいつもどおりだ。恭也は総司の腕と足以外への攻撃で勝ち、総司は恭也の胴体への打撃、それか木刀を2本とも弾き飛ばすことで勝ちとする。質問や言いたいことは何かあるかい?」

 

「無いよ、父さん」

 

「無論、私もだ」

 

 

 馬鹿げている。19歳の男性と9歳の男子。ルールも恭也さんが有利の状況。武器も持っていないのにどうして誰も何も言わないんだ?

 

 

『見てたらわかるよ、ユーノ君』

 

 

 なのはが念話で伝えてきた。

 僕が不審に思っているのを感じたのだろう。だけどいくら言われても疑問ははれないよ

 

 

「では、はじめ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

【高町恭也】

 神速を発動し総司へと斬りかかる。

 右側上段からの振り下ろし、スローモーションで見える程集中している。

 総司の左手の甲が木刀へと当たるが、総司はそのまま木刀をいなしながら前へと進んでくる。

 右脇に構えていた左手の木刀の柄で総司を突く。それを総司は右手の正拳突きで迎撃してきた。

 

 とんでも無い力での正拳突きに左手の木刀は僕の手を抜け、飛んで行った。

 視線を向けること無く、左足で蹴り上げる。

 総司は体を反らして足を避けた。そしてそのまま回転して裏拳を放ってきたので右手に持った木刀で受ける。

 

 凄まじい衝撃が身体を走った。

 力は逃がしたというのにここまで衝撃が来るなんて、正面で受けたら木刀が折れていたかもしれない。

 

 神速で回りこみながら斬りつける。

 速度は総司の方が上。容易く躱されるだろう。だけど、躱した直後なら当てることが出来るかもしれない。

 集中して総司の動きを確認する。

 

 どこにどうやって躱す?左か?右か?前か?後ろか?飛んで躱すか?しゃがむか?

 

 全部対応して攻撃してやるぞ。

 

 木刀が迫る。それに総司は一瞥するとその姿を消した。

 

 

「なっ!」

 

 

 神速状態でも目で追い切れないなんて、ありえるのか?

 

 いや、今はそんなことを考えている余裕はない。

 総司はどこに……

 

 

 《ミシッ》

 

 

 天上から何がか軋む音が聞こえた。

 

 

「上か!」

 

 

 見上げると、天井を蹴って此方へと迫ってくる総司が見える。足を振り上げている構えから攻撃はかかと落とし。回避すれば……間に合わない!

 

 木刀を上に構えてかかと落としを止める。

 ズン!と音がするような力がかかり、足へと衝撃が走る。だが耐える。これまでどれだけの修行を続けたと思っている。

 これくらいで耐えれなく成るほどやわではない。

 

 

 しかし、この手に持つ木刀は耐えれなかった。ピキッと音がなったかと思えば木刀は真っ二つに折れた。総司のかかと落としはそのまま俺の目の前を通り地面へと繰り出される。

 その間に一歩下がって距離を取った。

 

 

「そこまで!」

 

 

 ……父さんの終了を告げる声が聞こえた。それと同時に背後にいる総司が手刀を下げたのがわかった。

 とんでもない速さで動くもんだ。かかと落としの後、いきなり消えて背後を取られるとは……

 

 

「やっぱりお前は強いな。またこんど頼めるか?」

 

「ふん、勝手にするがいい」

 

 

 踵を返して道場を出て行く総司の姿に俺はまだまだなのだと理解できる。

 

 そう、俺はまだまだ強くなる事が出来るんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【高町なのは】

 お兄ちゃんと総司君の試合が終わった。最初は見ることなんてなかったけど、いつの間にか試合を家族全員で見るのが当たり前になっている。

 頻度はだいたい2ヶ月か3ヶ月に一回くらい。総司君がやるかどうか決めるので、結構まちまちだ。

 

 で、今回私はレイジングハートにお願いして魔力で動体視力を強化してもらったんだけど、お兄ちゃんの動きならたまに見えるんだけど、総司君の動きは本当に見えない。まるで瞬間移動しているんじゃないかってくらいの移動速度と、手が消えてるかのような手さばき。

 

 いや、お兄ちゃんも大概人間を辞めてるとは思うけれど総司君はそれ以上だ。お父さんと試合をする時でも勝率は8割がた総司君だ。2割は総司君が油断していたからとお父さんは言っていたけど、そう考えると総司君がいかに人間離れしているのかがわかる。

 

 それにしても私の家族はなんか凄い人が多いなぁ。魔法を使えるようにはなったけど、自信なくしちゃうよ……

 

 

 膝の上に座っているユーノ君へ視線を移す。驚いているようだけど無理もないよね。私も初めてみた時は自分の目を疑った、というか全く見えなかったのだから。

 

 

『ユーノ君、どうだった?』

 

『信じられない。魔力の痕跡もないのにあれだけの動きができるなんてとてもじゃないけど信じられないよ』

 

『にゃはは、お兄ちゃんも総司君も人間離れしてるからね』

 

『……それで片付けていいのかな』

 

 

 いいんだよ、ユーノ君。あまり考えてもお兄ちゃんたちの事はどうしようもないんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【高町桃子】

 道場から去っていく総司を見つめながら息を吐く。

 恭也は満足そうに笑い折れた木刀を持って士郎さんと談笑している。なのはは膝に座らせたユーノ君を触って何かを考えている。美由希は何やら拳を握って決心している。

 

 みんな気付いているのかしら……

 

 

 私もずっと思ってはいたけれど、心の片隅で否定していたこと…

 あの子はこの家で幸せに暮らしてるって思い込んで。必死に否定していたけど、ちゃんと自覚して、改めて総司を見ているとやっぱりと確信できる事……

 

 

 あの子、一度も笑ったことがないのよ。

 

 

 士郎さんも恭也もあの子との模擬戦は楽しそうにしているわ。美由希も得られることが多いと喜んでいる。

 なのはも普段、一緒に遊べて嬉しそうにしている。

 

 だけど、あの子は?

 総司はどう思っているの?嫌な顔はしていない。だけど笑顔ではない。

 

 感情を表に出すのが苦手だといえばそれまでだけど、私にはそうは思えない。

 

 

 普段から私達を助けてくれている総司、だけど私達はあの子に何かしてあげられているのだろうか。

 

 

 あの子の中で私達は家族になれているのだろうか……

 

 このままでは何か取り返しの付かないことになりそうで、総司が消えちゃいそうで、胸が痛む。

 

 

 あの子の元々の両親が虐待をしていたから私達を警戒しているのかもしれない。だけどそれならあそこまで私達を助けてくれるのは変な気がする。

 

 

 一体あなたは何を思っているの?総司。

 あなたは私達の息子なのだからもっと甘えてきていいのよ?

 

 

 

 

 

 考えていてもしかたのない事なので、立ち上がり総司が向かったであろう台所へ向かう。

 いつか、その心の中を話してくれる日が来てくれるのかしら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【高町総司】

 

 ふむ、確か今日は高町なのはと高町恭也、後ユーノの3人は人外少女の家に向かうのだったな。私も誘われたが断固拒否しておいた。高町美由希は友人と出掛けるとの事。高町士郎と高町桃子の両名は翠屋での仕事とな……

 

 食事に対しての悪事を行うのは今は無理か。朝食に仕込むには時間が足りない。昼食は誰も必要としていない。残るは夕食だが、まだ準備するには早過ぎる。

 

 

 どうしようか。いや待てよ?人外少女の家に遊びに行くということは自ずと人外少女が縛られるということ。なれば図書館に出没しないということだ。

 普段であれば何故か私が図書館に行く度に出没し、寄ってきて私の情報収集の邪魔をしてくるが、今日はその心配がない。

 

 よし。今日の悪事は夕食にするとして、昼の間は情報を集めに図書館に向かおう。悪行にしろ善行にしろ情報や知識がなくては話にならんからな。

 

 

 

 

 そして、図書館にて車椅子少女が高い所にある本を取る練習をしている努力を水の泡にするのは別の話。

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