偽悪になった少年 R   作:茶ゴス

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6th

 温泉旅行があった日から数日が経過した。夕餉の辺りから記憶がなく、朝は高町なのはと同じ布団で目が覚めたことに些か疑問を感じ得なかった旅行だったが、所詮は小旅行。得るものなどは無かった。日頃の疲れを癒やすという意味では有意義といえるだろうが、生憎と疲れなどは感じようともどうにかしようと思えばどうとでもなるようなもの。つまり、私にとって言えば無意味なものだったと言えるがな。

 

 

「それにしても将来のことかぁ。総司は何か考えている事ってあるか?」

 

 

 ふと、前の席に座るクラスメイトAが話しかけてきた。内容は先程の授業で述べられた将来の己と進路について。小学校3年生に聞くのはおかしい気もするが触れないでおこう。

 それで、私の将来か……

 

 

「無論、私は世界を取る」

 

「へー。オリンピックにでも出るのか。総司なら出来そうだから馬鹿にできねえや」

 

 

 ふむ、所詮は唯の一般人。私の壮大な思想を理解することは出来ぬようだな……それにしても世界を取るにはオリンピックに出なければいけないのか。少しばかり検討しておくとしよう。

 

 

「それで、貴様はなにもないのか?」

 

「それなんだよなぁ。今言われてもぱっとしないというか何というか……」

 

 

 ふむ、やはり己の将来に関して今から考えるのは少々酷というもの……つまりは、私はこの者に酷な思いをさせる事で悪事を成すことになるというわけだ……

 

 

「貴様が好んでいることは何だ?」

 

「好きなコトかぁ……人と話すこととか好きだな」

 

 

 人と話すか……様々な分野で必要とされる技能……私ならばそれを有効に使うには……ただ言っても意味は無い。この者に悩ませる必要がある。

 

 

「貴様には二つの道を提示してやろう」

 

「お、なんだなんだ?」

 

「一つは医療関係。カウンセリング等が挙げられるが、医師ならば対話の機会は自ずと多くなる」

 

「なるほどなぁ」

 

「もう一つは教育者だ。生徒や他の教員。学生や教授と言ったように他者との対話が重要となる職務だ。無論、教授に成るのであれば己が何かしらの研究をしなければいけないのだけどな……」

 

「へー……人と話すってのは色々な事に使えるんだなぁ」

 

「無論。他の分野でも必要とされるが……貴様は商才がない風貌をしている。営業職等はやめておけ」

 

「酷い言いようだなぁ。でもまあ、ありがとよ!俺なりに色々調べて考えてみるわ!」

 

 

 む?何故礼を言う?

 普通であれば今現在悩む必要の無いことで悩まされるのだぞ?感謝する意味がわからんのだが。

 

 そんなこんなで昼休みもあと15分で終わる。少し微妙な時間であるが何か出来ることでもあるか……

 なにやらドシドシと廊下の方から歩く足音が聞こえる。

 

 

 

 足音は私がいる教室の前で止まり、ドアをガラッと音を立ててアリサ・バニングスが入室してきた。

 

 

「あ、いたいた。ちょっと来なさい!」

 

「ぬ?」

 

「ぬ?じゃない。ちょっと話があるのよ!」

 

 

 ドシドシと教室に入り私の前まで来たアリサ・バニングスは私を指差すとそう宣言した。

 

 一度わざとらしく後ろを振り向いてみたが、頭をガシっと掴まれ強制的に目を合わされる。目と鼻の先まで近づけてきているため、余程興奮しているのだと理解できた。

 

 

「仕方あるまい。この者は私に何か用があるようだ。クラスメートAよ、この議題に対して大いに苦悩するがいい」

 

「誰がクラスメートAだ!俺は暮住(くらすみ)明斗(あきと)だ!」

 

 

 なにやら叫んでいるクラスメートを無視し、アリサ・バニングスに誘われ教室を出る。

 そのまま付いていくのだが……向かう先は屋上か…

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇屋上にて(voice only)

 

 

 

「で、あんたはなのはが何か隠してるって知ってるの?」

 

「なのはが隠している事?私のシャツを数枚持って行っていることを隠しているのは知っているが……」

 

「そんなどうでも良い事……ちょっと待ちなさい。一体あの子何やってるのよ」

 

「知らぬ。それ以外で隠していることも特には知らぬな。何せ私はお前が何を知らないのかを知っておらぬのだから」

 

「……そう、じゃあ最後に。あの子魔術関係に巻き込まれているわけではないのね?」

 

「……貴様、何故魔術を知っている?」

 

「はあ?あんたが教えてくれたでしょ。3年前に私とすずかを誘拐犯から助けてくれた時に」

 

「……そんな些事、覚えておらぬわ。まあよい、それでなのはが関わっているかどうかだが、結論から言えば関わっておらぬ」

 

「そう、じゃあいいわ。あの子が言うまで待ったほうが良さそうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 その日の夜、高町なのはが家を抜けだした。

 相も変わらず高町士郎は気付かない。あやつほどならば気付いてもおかしくはないのだが……もしや高町なのはが成長するためにわざと何も言わないのか?

 

 いや、あやつの考えにそんな事は一切ない。単純に娘だから油断しておるのだな。英雄も身内には弱いというわけか……

 

 

 まあ良い、私も折を見て高町なのはの近くへ移動する。

 一度部屋に入って電気を消し、鍵は閉めて移動したから大丈夫だろう。

 

 

 ビルの上から戦っている高町なのはと金髪少女を見下ろす。初めて見る少女だが、金髪少女Bと高町なのはの違いは明確だ。技量は金髪少女Bが上。速度、力、全てにおいても凌駕している。

 だが、高町なのはを攻めきることは出来ていない。恐らくは精神的な強さが優っているからだろう。

 

 む?石の力が膨れていっておるな。このままでは爆発しそうだが…戦っている者達は気付いておらぬようだが……もしや、愚かな悪者の目的はこれか?

 

 ならば好きにさせるわけにもいくまい。仮面をかぶり、姿を歪めさせ石の前に降りる。

 

 

 まだ高町なのは達は気づいていない。

 

 取り敢えず石の力を外へ漏れ出さないようにしてみるが、このままでは力をゆるめてしまったら爆発するだけになってしまうな……ならばそうだな、力を上に逃すか。

 愚かな悪が何者かの抹殺が目的ならば誰もいない方向へ力を放出するのが良いだろう。

 上空に人は…….いないだろう。力を上へ放出した。

 

 

 地面が揺れ、力の奔流が雲に穴を開ける。

 そこでやっと全員が石の状態に気づいたようで、接近してきた。

 

 右側からは金髪少女B、左側からは高町なのは。

 

 

 右手で少女の鎌の刃を掴み、砕く。左手で高町なのはの杖を掴み、受け止める。

 

 

 私の存在に気付いてなかったのだろう。2人共驚いたように距離を取る。

 

 さて、石の力は……もう既に爆発も出来ぬ程度まで放出したか。これで愚かな悪の目的は果たされないだろう。

 役目は終えた。直ぐ様ビルの上に移動し、高町なのはを観察する。

 

 2人は私が移動した後も警戒をしたまま石に近づく。姿を歪めるのは夜の街では随分と効果的なようだな。これならばある種、奇襲に使えそうだ。

 今日はそれだけでも収穫になった。コレ以上見ていても仕方あるまい。次の愚かな悪の目的を頓挫させるために何時でも動けるようにしておくか。

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