Fate/ley line [Ett lugnt område] 作:冷衣
バレンタインデー。
我々女子にとっては正直足枷に近いものだが、この時期になると不思議な義務感に駆られる。
駆られるので、こうして甘い香りのする台所の前に立っているわけだが…
「お、何か作るのかマスター?俺にも味見させてくれ」
…渡す相手といえば、このサーヴァントと、彼くらいしかいなかった。チョコを渡すであろう相手の前でチョコを作るというのもなかなか複雑な気分だ。
「チョコケーキでも作ろうかな、と」
「おお、それはまた豪勢だな!サトシ達も呼ぼう!」
そういえば、バレンタインデーに女性が男性にチョコレートの類を贈る風習は日本特有のものだと聞いたことがある。ははあ、だからこいつはこんなにも無頓着なのか。現代の多感な元JKにとっては癪に障るばかりだが。
「
「そうなのか?マスターといい
「聖杯の知識に、今日についてのことは無いの?」
「いいや、特に。二月十四日といえばバレンタインデーだが…正直、教皇に背を向け新教を支持した俺としては、聖ウァレンチヌスの記念日は心からは祝いづらい」
「なんだ、知ってるんじゃん。日本じゃバレンタインデーは、女の子が男の子にチョコをあげる日なの」
「ほう、そんな変わった風習があるのか。ではマスターは誰にそれを作っている?」
「もちろん、セイバーにも作ってあげるよ」
「に“も”…か。ふふ、それは期待しておこう」
「こいつ…わ、笑うな!」
何を熱くなっているのだろう。いたずらっぽく笑うセイバーを尻目に、私は料理に専念することにした。余計な邪念など取り払って…
「邪念…」
いやいや、そんな後ろめたいものでもないだろう。ダメだ、考えすぎだ。
キャスターは何を作るのだろうか。料理の腕はピカイチな彼女のことだ、現代の発想では出てこないような、奇天烈なものが出てくるに違いない。
***
いよいよこの日が来た。
太陽はいつになく余所余所しい照り方をしている。
今日の彼だけには、この太陽のような水臭い顔はして欲しくない。
私の愛は、そんなに重いだろうか。
「おはようキャスター。今日は早いんだね」
「あ、ああ。たまたま目が覚めてしまってな」
この時代に来てから、感情を隠すことが上手くなった気がする。
いや、生前の私が奔放すぎただけか。
照れ、か。
自身、恥じらいからは程遠い人間だと思っていたが、
なるほど、この時代の
顔の熱を、
手足の震えを、
胸の鼓動を、
感じているのか。
「…ま、マスター」
「ん、何?」
それ以上は言葉が出ない。
私は今どんな顔になっているだろう。
きっと酷い顔だ、鏡があっても覗きたくない。
それでも、渡さないと。
私の、愛の結晶とでも言うべきもの。
「…?」
「み、見てわからないか。チョコレートだ、チョコレート」
「…あ、ああ!今日はバレンタインデーか!…ありがとう、キャスター」
彼はいつもの笑顔で受け取る。
本音を言うと、もう少し特別な反応が欲しかったが、
そんな変わらない彼こそ、愛すべきものだと悟る。
「いつ作ってたの?全然気づかなかったよ」
「さ、昨晩…」
「そっか、お疲れ様。大事に食べるよ」
違う、そんなことを訊いて欲しいんじゃない。
父で何度も経験しているが、男はどうもこういったことに無頓着だ。
「その、それをわざわざ作って渡す意味、解っているだろうな?」
「え…」
今度は彼の方が赤くなった。
なんだ、この辺りはしっかり感受してくれるのか。
歓喜で、次第に恥じらいは甘く溶けていく。
顔に出ていないだろうか。いや、この際喜びは表現した方が…
「あ、ご主人様ー!チョコ作ったのでどうぞ!」
「うえ!?あ、ありがとう…」
「お、キャスターさんもチョコ渡されたんですか?やだーモテモテじゃないですかご主人様!」
「……」
この家の使用人の方が、今日の冬日よりもよっぽど太陽らしかった。
愛は、伝わっただろうか。
伝わらずとも、我が主への愛は
今回はまだ登場人物の名前も判明してないのにこんなパロディを書いてしまいました反省しておりますハイ。
まあ後々の本編の展開を追ってくだされば「あぁそういうこと」という仕様にはなっておりますのでどうかご了承をば。
ちなみに私は今年、チョコを自分で作って食べました。さすがに愛があっても、愛犬にはあげられないよ…