6つ子が吹奏楽部へ   作:ボコ砂糖野郎

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こんにちは、処女作です。暖かくお見守りください。なにかありましたらお気軽にコメントください。また、本作はPixivにも投稿してます。http://touch.pixiv.net/series.php?id=658840


4月
入学式の日


赤塚高校のどこの部活も春休みからとある話題でもちきりだった。

 

「なんか6つ子が入学してくるらしい」と。

 

 

『ねえねえ聞いた?6つ子がこの高校に入学してくるってハ・ナ・シ!!』

『うん知ってるけどさ……』

『みんな同じ顔だってさ!』

『なにそれwww』

『最近その話ばかりだけどその情報の出所どこだよ』

『なんか〜この前の入学前説明会に見かけたんだって』

『俺は実際に見たことないけど、俺の中学では学校こそ違ってたけどそこそこ有名だったぞ』

『似てるってだけですごく目立つよねー』

『だから今回の部活勧誘はどこの部も例年以上に力を入れると思うよ』

『そういえば入学式っていつだっけ?』

 

 

 

 

桜が四分咲きになったころ、入学式がやってきた。

高校の校門では朝から部活勧誘が行われていた。期待と不安を持った一年生の足はそこで強制的に止められる。

 

「ねえ!バレー部入らない?」

「あ…考えておきます……」

「君はラケットが似合うんじゃない?是非ともテニス部に…」

「いやいや!自然科学部とかどう?」

「あの…」

「高校の部活といえばダンス部!ハイ、このチラシをどうぞ!」

「写真部でーす!」

「……通してください……」

「バレー部は初心者も大歓迎ですよ」

「コラコラ。一年生困ってるじゃん、通してあげてよ。ハイ、合唱部です」

 

一年生は雪崩のような部活勧誘と、ぐいぐいと渡されるチラシに洗礼を受けながら門をくぐる。

しかし門の先でも部活勧誘の嵐は止まらない。それは花道のようにクラス発表の掲示板まで続いていた。園芸部は得意げに桑を構え、軽音部はギターを掲げ、張り合うように吹奏楽部も楽器を掲げ、鳴らす。それぞれの部活の勧誘文句はそれぞれの勧誘文句にかき消され、校舎外はパニック状態だった。

 

 

 

突如そこに静寂が訪れた。さっきまで声を張り上げていた二、三年生も声を詰まらした。彼らの視線の先には6つ子がいた。

同じ顔を同時に6つ見た彼らは一瞬驚いたが、それもつかぬのこと今年の部活勧誘の目玉である6つ子に一斉に声を浴びせる。それはワニが獲物を取り合うようだった。

 

「君たちがあの6つ子だね!ねぇ!是非ともバスケ部には入らないか!?」

「あの、俺たち……」

「え?合唱部がいいって!?みんな〜6つ子ちゃんたちは合唱部がいいんだって!!」

「何にも言ってないだろうが!!勝手に決めんな!ねぇねぇ〜美術部とかどう?」

「抜け駆けはさせるか!!!柔道部とか柔道部とか柔道部とか柔道部とか良さげだぞ!!!」

「通りたいんですが……」

「高校の部活動は陸上部以外ありえねぇし!」

「ハッ。走るだけの部活に何の脳があるの?」

「今陸上部侮辱したヤツ誰だァ!!??」

「誰でしょうねー」

「ほらほら、あんな奴らほっとこ。あなたたちのは物作り部に入ってくれるんだよね?」

 

 

 

 

 

 

結局6人が掲示板で自分のクラスを確認するまでに20分かかった。6人はもうあんな大騒ぎは嫌だと話しながら階段を登る。ちなみにクラス分けはおそ松と十四松が1組、カラ松とトド松が3組、チョロ松と一松が5組だった。このクラス分けには意味がある。全員を同じクラスにするのは面倒なことだということは言うまでもない。かと言って全員をバラバラにするとクラス間での人違いが頻発することになるのが想像できる。だからこの2:2:2の分け方なのである。そしてクラスが一個づつ離れているのもわざとだろう。そんなことを頭に思いつつチョロ松は窓を見る。後ろでは十四松がルンルンとスキップをしていた。

 

「ねぇ、なんであんなに部活勧誘が激しかったの?」

 

トド松は貰った、というより押し付けられた勧誘のチラシを煩わしそうに眺めながら言った。

 

「それはアレだろ。珍しいからだろ?」

おそ松は答える。

 

「でもさ、珍しいからってあんなバーゲンセールのババシャツみたいに食いつくの?部活で活躍できるとも限らないのに。」

 

「わかってないなぁたくさん取っておけばその分レギュラーとかで選り好みできるだろ?」

 

「にしてもさぁ……」

 

「ここじゃあ6つ子の『む』の字も知らない人がいてもおかしくないじゃん。地理的に離れてるし。」

 

ここ赤塚高校は松野家の最寄駅から12駅離れたところにある。小中ではとなりの学校どころか、となりの学校のそのまたとなりの学校の、さらにそのまたとなりの学校のまで6つ子は有名だったが、さすがにここの辺りまでは知名度は及ばなかった。故に知らない人の方が多いのである。

 

 

 

 

チョロ松は自分の席にカバンを下ろした。教室では近くの席の子同士の自己紹介が始まっていた。前に座っている一松は机に突っ伏して入学式までのときを過ごそうとしていた。自分も誰かに話しかけようかなと思った矢先、横から声をかけられた。

 

「ねえ、貴方たち双子なの?」

 

大方予想していた質問が女子からかけられた。チョロ松は最初が大切だと自分に言い聞かせてた。

 

「あっハイ。双子というか…」

「やっぱりだよね?双子初めて見るわ〜」

「いやっ!ウソつきました!本当は6つ子なんです!」

 

こういうことは最初にきちんと説明しなければならない。ホントは先生が設けた自己紹介タイムでしたかったが。何度も言う必要がなくなるならだ。

 

「えええ??じゃあ噂の6つ子ってアンタたちなの?」

近くの席の女子が話に割り込んできた。

 

「噂!?どこで広まったの!!??」

 

「同じ中学の友達から。」

もう1人の女子も同じく、と当たり前の顔で答える。中学生と高校生の女子のコミュニティの蜘蛛の巣を身に持って知って少し寒気がした。

 

「マジかよ〜、まぁこれで謎は解けたけど。」

「謎って?」

 

チョロ松は伸びをしたあと女子2人に向き直す。一松は寝たままだった。

 

「うん、校門のところで部活勧誘していたじゃん。その部活勧誘が僕らにだけえらく激しかったんだよ。なんでかなって思ったけど、今納得したの。」

 

あぁ〜と間の抜けた返事が返ってきた。

 

「でも6つ子だからって血眼になって勧誘のするものなのか……?」

 

 

「そりゃそうだろうよ。」

 

後ろの席の背の高い男子が本から目を離さずにポツリと言った。3人の視点がそちらへ向かう。

 

「だって6つ子を部活に入れれば学校外での知名度アップができるじゃん。『赤塚高校の○○部って?』『ほら6つ子がいるところ』ってな具合に。」

 

彼の目は本に向かったままだった。

 

「はぁ!?いや、僕ら全員同じ部に入るとも限らないじゃん。」

 

はっきり言って迷惑な話だ。そんなチョロ松の心情を悟ったのか、彼は本から顔を上げ斜め横を見ながら言った。

「まぁな。高校ってそんなもんだぞ。多分二人取ったら勝ちだって思ってるんじゃないか。どこの部も。」

 

高校はそんなもんだぞで納得できたら苦労はしないんだけどなぁ。

 

 

「で何部に入るつもりなの?」

 

チョロ松には女子が興味津々なのがひしひしと伝わってきた。その興味を削がないように、かつ語弊が無いように気をつけて会話を続ける。

 

「僕は特に考えてないな……入る気が無いし。」

「この学校部活必修だよ。」

「え”?」

 

チョロ松は小さい目をさらに小さくさせた。

 

「うん。入学前説明会で言ってたじゃないか。」

 

のっぽの男子がようやく上げた顔は道端の石を見るようだった。そして行ってなかったの?と付け足した。

いや入学前説明会には行ったには行った。ちゃんと行った。だけどその最中におそ松兄さんが隣からちょっかいをかけてきたせいで幾つか聞き逃したところがあったのは自覚していた。まさかその虫食いが三年間の生活に関わるこんな重要なことだったとは。そうだと知っていれば勧誘のチラシをもっと受け取っていたのに。

 

「そうだったんだ〜。ハハハ……」

 

上向きな声で笑うチョロ松に男子が追い打ちをかける。

 

「しかも幽霊部員になろうものなら一般指導だよ」

 

一般指導というのはこの学校で校則違反をしたりなどしたときの生徒への処置である。具体的には作文用紙2枚分の反省文とスタンプカードの提出である。スタンプカードについては、1人の先生から1回お説教を受けるとスタンプが一つもらえる。それを5つ集めるのである。全然楽しくもないスタンプラリーだ。

ちなみに一般指導の上位交換に特別指導というものがある。これは校長室まで親と共に呼び出される。このことはチョロ松も説明会で聞き逃さなかった。

そのとき先生がガラガラと勢いよく戸を開け入ってきた。生徒は一斉に席に戻り僕らの会話もここで途切れた。

 

「えー、今年1年5組の担任をする仙谷だ。これから入学前だから……」

 

 

 

先生の指示が終わり、クラスは体育館へ向かった、

 

 

 

 

体育館横と廊下では一年生が長い列を作り入場待機していた。生徒たちがそこの肌寒さを感じ始めた頃その列はゆっくりと動き出した。くぐもった入場の音楽と拍手が聞こえてきて、チョロ松はようやく自分も高校生になったのだなと少し安心感をもった。

体育館の入り口が近づいてくるにつれてその音楽ははっきりしつつあった。そして彼は気づいた。この音楽はCDじゃなくて生演奏だということに。体育館に入るとその生演奏はより大きくなった。

舞台の左下で吹奏楽部が指揮者の指揮棒に目線を集中させて演奏していた。吹奏楽部は紺色のセーラーだけでなく黒の学ランの色も目立っていた。踊るように舞う指揮棒には重力というものを感じさせない。どれかひとつが出ているわけでもないそれぞれ違う楽器が同じ方向を向いて一年生の入学を祝す。

その「矢印」のような演奏にそチョロ松の五感は釘付けだった。

やがてフルートをもった女子が立ち上がり、ソロを吹き始めた。一本のフルートの小さな高音は他に埋もれずに他の楽器の音色の上に優しく乗っかった。そして流れるように短いソロを吹き終わった女子は安堵と満足の表情で椅子に座り直し、ページをめくる。そしてまた吹く。

 

やがて一年生が全員入場し終えたころ、指揮者の先生は手をすぼめて演奏を止まらせた。拍手は止まり、場は静まる。

 

「只今より平成○○年度、赤塚高校入学式を始めます。」

 

 

 

入学式の最中、チョロ松の目はずっと吹奏楽部のとある楽器に釘付けだった。

それは自覚の無い無意識だった。

祝辞の言葉などは彼の耳に届かなかった。

 

 

 

「これをもちまして、平成○○年度、赤塚高校入学式を終えます。」

 

先生が指揮棒を振ると、また吹奏楽部の演奏が始まった。一年生は一斉に立ち上がり列を成して体育館出口へ向かう。チョロ松は体育館を出るまでその楽器を凝視したままだった。

 

 

 

その後教室へ戻り適当に持ってきた書類の提出をしてから解散となった。廊下は人でごった返しになった。

その中でカラ松とトド松を見つけたチョロ松と一松は2人に駆け寄り、4人で階段を降りる。おそ松たちはクラスにはもういなかったから、多分下駄箱か校門あたりで待っているのだろう。

 

「ねえ、部活必修なんだってね。知らなかったよ。」

「うん。そうだよ。」

 

チョロ松の湿った声に対して乾いた声でトド松は返した。

 

「何部にするの?」

「どうしよっかなー」

「カラ松は?」

「俺は葵い空の下の学校で……」

「一松は?」

「……興味ない」

「必修なんだよ!?入らないって選択肢はないの!!」

「そう言うチョロ松兄さんはどうなのさ?」

「え?あぁ……まだ考え中。」

「その言い方は何か宛があるな?どれ、兄貴に教えてみろ。」

 

宛が全くなかったわけではないことをカラ松に見破られたチョロ松はそのことを言うべきか一瞬悩んだが、ここははっきり言わずに控えめに言うことにした。

 

「す、吹奏楽とかいいな…ってちょっと思った。」

 

予想外の単語がチョロ松の口から出て3人はええ?という声を出しながら階段を降りる足を止め、彼に振り返る。

 

「…………チョロ松兄さんがね……ちょっと意外かな」

 

トド松は額を掻きながら言うと再び足を動かした。残りの2人も足を動かす。

 

 

 

 

下駄箱に着くとおそ松と十四松がそこで待っていた。

 

「よっ!高校生デビューのお初日はどうだった?お兄ちゃんはもう文句なしの100点スタートだったよ!」

「6つ子って言っただけで人があつまってきたもんねー!」

「ばっ……それは内緒だって言っただろ十四松!」

 

靴を下駄箱から取り出し、床に置く。

 

「そうそう、おそ松兄さんと十四松兄さんは何部を考えてるの?」

 

おそ松は鼻の下をこすりながら遠くを見た。

 

「あぁ〜、その必修ちゃんの話ね。」

「知ってたんかよっっ!!!!」

 

チョロ松の大きなツッコミで周りの生徒からの視線が集まる。そこで思わず彼は口をおさえる。それに御構い無しにおそ松はいつものテンションで聞き返した。

 

「何?お前知らなかったの?ちゃんと説明会聞いた?」

「誰のせいで説明会の話を聞き逃したと思ってんだよ。」

「誰?」

「お前ダァッ!」

 

一連のボケとツッコミのやり取りが終わった後、6人は校舎を出た。

 

「なんかねチョロ松兄さんは吹奏楽部がいいんだって。」

「へえー、チョロ松兄さんすいそーがく行くんだー」

「いやっ、まだ決めたわけじゃないし。そもそもなんで思っただけの話がどんどん雪だるま式に誇張されていく……」

「あっ!!!吹奏楽いいな!」

 

チョロ松のぐだぐだとした話を断ち切って、おそ松は人差し指を立てて斜め上の空を見ながら言った。

 

「いや…なんで?」

 

チョロ松は動揺を隠せなかった。なんでまたこの馬鹿兄貴がそのようなところに行こうとおもうのか。

 

「なんでって…………勘。」

 

勘と答えられてしまえばそれ以上の探りようはできなかった。昔からおそ松はそうだった。勘と言ったら勘としか答えてくれない。カンなのだ。そこでチョロ松は諦めた。

 

 

 

 

校舎から少し行くと校門が見えた。

 

「「あっ…………。」」

 

帰りの門でも絶賛部活勧誘中だった。

 

 

チョロ松のもっとチラシをもらっておけばよかったという後悔は全く不要だったのだ。二、三年生はギラギラとした目でチラシを押し付けてきた。「今のうちだ!」と言わんばかりに捕まっていた一年生はその場から逃げる。あー、また始まっちゃった。

 

 

 

その日の夜。6人は布団の上で会議を開いた。議題は「明日どうやって学校の中に入るか」だった。正確には「明日どうやって勧誘を回避するか」であったが。そして6人が出した結論は「明日早く学校に行く」になった。中学の頃は遅刻か遅刻しないかの瀬戸際だった彼らには早く学校に行くなど柄ではなかったが、仕方ないという結論に至った。遅く行ったら部活勧誘に捕まってしまう。

 

 

 

 

 

翌日、6人は昨日より20分はやく家を出て、彼らは最寄駅から学校に歩いていた。

中学のときより早い起床時刻におそ松と一松は起きる気配が無かった。そんな2人の布団をカラ松とチョロ松が引き剥がす。後ろでは十四松が何時ぞやのランドセルに用具を詰め込んでいた。それにツッコミを入れるチョロ松。通学にに至っても、まだ数回しか使ってないルートに四苦八苦して、挙句の果てに「なんで昨日のこと覚えてないの!?」と少し喧嘩になり、満員電車に押しつぶされ、今に至る。

 

 

 

 

 

まぁ今日はあの部活勧誘に巻き込まれないからマシだな……

 

 

「英会話部ですッッッ!!!!!!!!!」

「将棋部でエェェす!!!!!!!!!」

 

そう思っていた時期が僕にもありました。

 

 

 

 

 

いつから校門に立ってんだよ、お前ら。

 

 

 

 

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