6つ子が吹奏楽部へ   作:ボコ砂糖野郎

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マッピが抜けない

 

一日練習の昼の休憩の時間。食べ終わった人は他のパートの人と話に行ったり、楽器の手入れをしたり、他の部活の様子を見にいに行ったり、早々と練習を再会していたりなどそれぞれの時間を過ごす。

カラ松は早々と練習を再会している人の一人だった。先週は兄弟たちのところへ回って行ったりなどもしたが、今日はそういう気分でもないし、兄弟たちも自分のところへ来ないから多分気分が一致しているのだろう。さすが6つ子だな。

彼のトロンボーンの音が静かな教室とその廊下に響く。

うーんこれはなんか違うぞ…など考えていると、ひょこっと自分と同じ顔をしたやつが現れた。

「カラ松!」

「なんだ兄貴。今俺はトロンボーンと共に漆黒の夜に朝日を登らせる終わり無い戦いをしていて忙しいんだが。」

おそ松は無言でカラ松にトランペットを差し出す。その行動にカラ松の眉間のシワが薄くなる。まさかトランペットを吹けといいたいのか?

 

「抜いて。」

 

******

 

誰もいない3-8組では男子高校生の力み声だけがする。

「ふぬぬぬぬぬぬ……」

おそ松のトランペットのマウスピースが本体から抜けなくなってしまった。おそ松は自力で頑張って抜こうとしたが抜けなかったので力のあるカラ松に頼りに来たのだ。

カラ松はありったけの力を込めてマッピを引っ張るが抜ける様子は無い。だんだん引っ張る手が痛くなってきた。マッピとトランペット本体は溶接されているかのようにピクリとも動かない。

「はぁはぁ…兄貴……。」

「何?抜けそう?」

「一体、この子に何をしたんだい?」

「いや、俺は何にもしてないよ?ただふとマッピ抜こうとしたら抜けなくなっていただけ。」

おそ松はにこにことした声で言う。

「で?抜けそう?」

「マッピの接続部分だけ時間が止まってるんじゃないのか?これ?」

「はぁ…どうしような……。ゼッテー怒られるよな。」

おそ松は手を頭の後ろで組み上を見る。声はニコニコしているがその顔には余裕は無かった。

 

「よしカラ松、二人で引っ張るぞ。お前本体の方な。」

 

【悲報】二人で抜こうとしたが抜けなかった【洒落にならん】

 

うぅ…先生、うちのたかしはどうなるんでしょう……?

やばいまじでこれやばいやつだわ。二人でやっても抜けいとかマジでどうすんのこれ?マッピつけたままじゃケースにしまえないしどうしよう。俺ピンチだわ。

「マッピ抜けないってやっぱめっちゃ怒られるよな?」

「落としただけでそこそこ怒られるもんな。」

「あ、カラ松も落としたんだ〜。俺4回落とした。」

抜けなくなった原因は4回も落としたことなんだろうな……。と思いながらカラ松は手の中のトランペットを見つめる。

「あとさ……」

おそ松が口を開いたとき、廊下から誰かの足音が聞こえてきた。

二人は慌てて平然を装い、何気無い光景を演出する。トランペットのマッピが抜けなくなっていることがバレないように。

その足音はここ3-8の教室に顔を出した。トランペットの二年生だった。

彼女はおそ松とカラ松が二人並んでいるのを見て一瞬停止したが、カラ松がトランペットを持っているのを見て彼がトランペットのおそ松だと思って話しかけた。

「あ、おそ松くんここにいた。午後からは一年生は練習を中庭でやるらしいからよろしくね。じゃあ。」

そう言って先輩は廊下を通り抜けて行った。

二人はその先輩の後ろ姿を視界から消えるまで呆気にとられて眺めていた。

「だってさ、兄貴。」

「うん……。」

驚きで心の抜けた声で二人は会話を交わす。

いや、別に間違われたことを驚いているんじゃないよ?もう慣れてるし。親に間違われるレベルだし、別になんとも思わない。じゃあ何に驚いたのかっていうと、俺たちは楽器で区別されてたんだな……ってこと。「トランペット持ってるやつがおそ松」「トロンボーン持ってるやつがカラ松」って具合に。通りで最近部活ですんなり名前を呼んでもらえるなって思ったわけだわ。初めての経験だけにこれはマジでビックリだわ。トランペットが俺の名札とかこれはマジで面白いわ。いい話のネタになるな〜。

 

「あ、引いてダメなら押してみるとかどうだ?」

「ダメに決まってんだろ!カラ松!」

「じゃあ、温度変化を利用するのは?」

「温度変化??」

「ほら金属は温めたり冷やしたりすると伸びたり縮んだりするだろ?」

「おっ!いいアイディア!じゃあマッピを冷して、本体を温めればいいんだな!」

「逆だろ?金属は冷やされれば伸びるから……。」

「違うだろ?冷やせば縮むんだろ?」

「え?」

「え?」

少しの沈黙。

「カラ松がそういうこと言うから自信なくなってきたじゃん!」

今に始まったことではないが、二人揃ってバカだった。

仕方ないのでチョロ松に聞きに行ったところ「冷やしたら縮む」と答えられた。二人は彼を信用してトランペットのマウスピースを水道水で冷やし始めた。そして冷えたマウスピースを引っ張ったがやはり抜けなかった。

「どうしような……。」

「おそ松、プランCがある。」

「え?なに?」

プランCという響きにおそ松は目を輝かせる。

「プランAが二人で引っ張る。プランBが温度変化を利用。そしてプランCは……」

「なに?」

「素直に先輩に言って怒られてくる。」

「ええ〜、そこに行き着いちゃう?言ったとしても男子二人でやって抜けなかったんだから抜けないと思うんだけど。」

「でもどうやってケースにしまうんだよ。」

「う…。」

なにも言い返せないおそ松。練習が終わる頃には勝手に抜けたりしないかな?まぁそれは無いな。そんなことが起こったら鼻からプリン食べてやる。

いや〜まさかこの弟から一番の正論を言われるとは……。うん。

さっきマッピ落として怒られたばかりだから自分からそれを言うのはかなり気が重かった。でももうどうしようもないので素直に報告するしかないなと決心する。

そろそろ休憩時間が終わるので練習場所に戻る。カラ松から親指一本立てられファイト!のエールだけもらった。

 

うーん。報告するならどの先輩にするかが大事だよな。二年のあの先輩なら良さげっぽいんだけど、どうかな?あっ、やっぱよく絡むあっちの先輩の方がいいかな?うーん。

あれこれ考えた結果、おそ松は三年の女子の先輩に言うことにした。一番優しそうだからだ。

 

「あの〜先輩〜〜。」

「ん、何?(おそ松くん?)」

「大変申し上げにくいんですが……」

「何?」

「マウスピースが抜けなくなりました!」

「はあ?」

 

先輩の声のトーンが一気に黒くなった。あ、これはダメなやつだわ。

 

「あんたさ、さっきはマッピ落としてたよね!?そりゃ抜けなくなるわさ!もっと大事に楽器を扱ってよね!」

「はい……。」

「ていうかなんでそれを私に言ったの?普通パーリーのアスカに言うよね?」

「そうですね……。」

「私じゃどうしようもできないからアスカに言って。多分音楽室の辺りにいるから。」

「はい……。」

 

うーん、失敗だった。もう一回アスカ先輩でトライしなくちゃならないとか気が重いわ……。

おそ松は音楽室の方へ行き、アスカを探す。

あ、いた。

ちょうど廊下のところだった。おそ松は腹をくくる。

 

「あの〜先輩〜〜。」

「なに?(たぶんおそ松くんかな?)」

「大変申し上げにくいことがあるんですが〜。」

「なに?」

「その〜マッピが抜けなく……」

「はあ!?マッピが抜けなくなったぁ!?」

「はい……。」

 

アスカ先輩にだけは言いたくなかった。だってこの人一番怖いんだもん。

 

「なんで抜けなくなったのさ!!?普通に扱ってたら抜けなくなったりしないよ!!!そういえばあんた今日もマッピ落としてたじゃん!!そんなんだからそうなるんだよ!!!くどいようだけど楽器は高いんだからね!!?もっと丁寧に扱ってよね!!!トランペット吹かせないよ!?それにマッピの部分の歪みは音に直結するし、こうやって抜けなくなったりするからあれほど落とすなって念を押したんだよ!!!あれはフリじゃないからね!!!そもそも○☆△*%★#〜〜〜〜!!!!!」

「……。」

 

怒号が廊下によく反響する。おそ松はそれを静かに正面から受ける。男子がこうやって次から次へと言葉が出てくる女子と口喧嘩したらそりゃ勝てねぇよな…と冷静に考えていた。

 

5分経過したころ、先輩が言いたいことを超早口でいい終わりひと段落ついた。

アスカはおそ松からトランペットをもらい、そのマウスピースに力を込めてみるが全く動かなかった。捻ることもできない。男子がやって無理だったんだから、私がやっても無理だよね…….。

「あ、これを二人がかりで抜こうとかしてないだろうね?」

「してません(大嘘)」

「トランペットは金属だけど5mmくらいの厚さの管だからすごく柔いんだからね!?変な方向に力を加えたら管が捻じれたりするよ!」

「はい……。」

「もういいや、こっちきて。」

連れて行かれたのは楽器庫だった。

「ネジが4つくらいついている工具がどこかにあるから探して。」

二人がかりで箱やロッカーを開けてその工具を探す。しかしドライバーやペンチやナイフや半田ごてやよく分からない工具は見つかったが、そのネジ4つの工具は見つからなかった。先輩は音楽準備室かな……?と言い、そこも探したが無かった。

「備品係か楽器管理係なら知ってるかもな……。よし聞こう。はぁ……気が重いわ。」

と独り言を言って今度は第一音楽室に二人は行った。

第一音楽室ではパーカスが練習している。おそ松がちょうど見に行った頃はパーカスの一年は皆椅子に座って自分の膝にバチを打ちつけていた。十四松たちはなにしてるんだろ……とおそ松は不思議そうな視線を送った。

「ねぇ楽器管理係長。」

「なんだ?」

楽器管理係長はパーカスの人(男子)なので第一音楽室に来たのだ。

「ヌッキーってどこにあるかわかる?」

「わかるけど、なんで?抜けなくなったの?」

アスカとおそ松は無言で頷く。

「はぁ!?なんでマッピ抜けなくしてんだよ!!!お前がちゃんと注意してないからだろ!!□&▼→$@○%€〜〜〜〜!!!!!」

今度は楽器管理係長に二人で怒られた。おそ松もさすがにアスカ先輩に申し訳なくなってきた。

五分のお説教か終わったあと、三人は楽器庫にいた。楽器管理係長は椅子に乗って棚の上に置かれている箱に手をかける。そこは二人が気づかずに盲点となっていた場所だった。

箱から出てきたのは捻り棒が四つくらいついた金属の塊だった。

「これはヌッキーっていう抜けなくなったマッピを抜くのに使う道具。」

なんだそういう道具があるんじゃんか。

彼はヌッキーにトランペットを固定していく。

「いわば逆万力ってところだ。力技でマッピを抜く最終兵器。使うと稀にトランペットが欠けたり歪んだりするからできればあんまり使いなくなかった。」

「すみません……。」

「楽器屋に持っていくとハンマーで叩いたりして取ったりするのよ。素人がやるとリスクが高すぎるからヌッキーに頼るの。」

トランペットを固定し終え、いよいよ抜く作業に入った。

キリキリと棒を捻ってマッピに縦の力を加える。

 

バキンッ!

 

最後の一捻りでトランペットからヤバそうな音がした。おそ松は思わず身をすくませる。まさか壊れた?

「ホラ取れたぞ。」

「ありがと〜。」

あ、取れたんだ。あれは取れた音なんだな。すんげえ音したな……。

楽器管理係長はマッピをじっくり観察する。

「目立った歪みはないな……。」

「じゃあ原因はなんだろうね?」

「まぁいいや。ハイ。」

マッピとトランペットをおそ松に返す。

「あ、ありがとうございます……。」

「気をつけろよ。」

「ハイ……。」

 

 

 

 

「……てな感じでマッピが取れたんだ、チョロ松。」

「で?何が言いたいの?オチが無いよ?」




今更ですが、セリフの中の説明や演奏への心構えはその登場人物によるものなので必ずしも正しいとは言えません。ご了承ください。
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