6つ子が吹奏楽部へ   作:ボコ砂糖野郎

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楽器の名前とパート合わせ

帰りの電車の中。電車の揺れるリズムはあまり心地よくはない。

 

ガタンガタンガッタンタタ…

 

「楽器に名前とかつけてる人っていた?」

 

おそ松は揺れのリズムに溶け込まない声で言った。

 

「あ!いたいた!」

 

その話に速攻で食いついたのはトド松だった。

 

「フルートに『ラティ』とか『プラチナ』って名付けてた先輩がいたよ。」

「うわぁ……」

「それで僕らにも『名前つけなよ!』って勧めてきてウザかった。」

「それで名前つけてた一年生はいたの?」

「みんなノリノリでつけてたよ。」

「トッティは?」

「つけたよ。僕の可愛さを誇示する糧に使った。」

 

トド松はピースしながらウインクをする。

 

「うざいって思っておきながらそこは抜かりないんだな。」

 

チョロ松は素直な感想を述べる。

 

「なんて名前つけたの!?」

「クララって名前つけたよ。十四松兄さん。」

「由来はね、一年生だけでフルートを机の上に立てれるか?っていう遊びをしてて僕がフルートを一番最初に立たせれてたから。」

「『クララが立った!』ってこと?」

「そういうこと。以外と好評だったよ。」

 

さすがドライモンスター。キャラを繕うために……。

 

「名前か……じゃあ俺はトランペットにトランポリンってつけるわ!」

 

一瞬だけ悩んだおそ松は懐中電灯のような笑顔で言った。しかしその直後トド松が低い声で

「でもクララって呼ぶことは多分今後無いわ……」と付け足した。

 

「そうだな。俺も付けるだけ付けて、今後名前を呼ぶこと無いわ……。」

「トランポリンとか安直過ぎだし、んでもってその名前捨てるの早ッ!」

 

チョロ松はの早口にかぶさるようにカラ松が口を開く。

 

「フッ…名前か……なら俺のトロンボーンは……」

「あ”?……そういえばオーボエにジェリコって名前つけてた人いた。」

 

一松の話にチョロ松はハァ?とリアクションを取る。

 

「僕はスティックに名前つけてるよ!」

 

十四松は瞬時にカバンからドラムスティックを取り出す。

 

「え、十四松バチに名前つけてるの?」

「大体パーカスはバチに名前つけてるよ。みんな同じで誰が誰のだが区別できないからテープ巻いたりペンで印を書いたりするついでに。」

「十四松のは何もしてないんだね。」

「だってわかるんだもん。」

 

十四松は右手と左手のスティックを見せて続ける。

 

「こっちが『十四松二号』でこっちが『十四松三号』」

「そうなんだ……」

二つセットの名前じゃなくて一本ずつに名前があるのか……。名前があると愛着が湧くのかな?でも僕は名前をつけないけど。だってもう愛着なら腐るほどたくさんあるし。

 

ガタンガタンガッタンタタ…

 

 

 

 

翌日の一日練習は武水先生がコンクールの曲を合奏していたのでほとんど二、三年生は練習場所におらず、一年生のみで練習が進められていった。しかし練習ラストの一時間くらいはチョロ松たちクラリネットの一年生は本日はヤヨイの指揮の下で合わせることとなっているのでそこに向けて練習を尖らしていった。

他のパートの一年生もかなり危機感と焦燥感を持っているらしく絶対無理〜なんて声が聞こえてくる。そしてその声に先輩が「んなこと言ってる暇があればやれよ!」と怒鳴るのがセットだった。

 

 

 

「…一年生全員いるね?」

 

ひたすら恥をかかないように、迷惑をかけないように練習した一日はやはり早かった。

ヤヨイは右手でドラムスティックを器用に回しながら、左手でダンベルを握りながら頭数を数える。

ちなみにダンベルは何年か前にOBの人たちからもらったもので楽器庫に30本ほど置いてある。使い道はパーカスが腕を鍛えるためにスティックの代わりに振っていたり、筋トレの合間に振り回したりする。

 

「八人いるね。じゃあ早速最初から合わせるよ。」

「「はい!」」

 

ヤヨイはダンベルを机の上に置き、その流れでメトロノームを動かし、スティックを両手に持って構えた。

 

「一、二、三……」

 

さっきの号令文句から3秒も経たないうちに合わせることが始まった。突然のことにチョロ松はクラリネットを慌てて咥えるが少し間に合わず、最初の部分だけ吹けなかった。同じように間に合わなかった一年生が何人もおり、始めからバラバラになった。

 

「あのね…、合わせるときは前に立っている人間が基準になるの。つまり指揮者が基準。指揮者が腕を上げたら瞬時に楽器を構えられるように指揮者をよく見ておいて。合奏だと一人一人が構えるのを待っている暇はないから。」

「「はい!」」

 

(ヤバい……今、リードを歯でガリってやった気がする……)

 

チョロ松は心配をするが、さっさとパーリーが再びカウントを開始したのでリードを確認している暇は無かった。

彼は基礎練を合わせているのと同じように一音一音に気を配り、周りを聴いて吹いた。

 

それはなんか凄くパワフルな感じだった。

クラリネットの一年生八人は基礎練と同じところを気をつけて吹いているはず(?)なのに全然違う。

理由は簡単だ。基礎練は皆で同じものを吹く。違うところといえばオクターブの音の違いだけだ。しかし、今クラリネットは「エスクラ」「ベークラ1st」「ベークラ2nd」「ベークラ3rd」「アルクラ」「バスクラ」の6パートに分かれて演奏している。ハモりがある歌と無い歌、どちらが豪華に聞こえるかは言うまでもない。チョロ松はそれを頭で分かっていながらも驚く。

吹奏楽部内でも一番パート数が多いのはクラリネットだ。パート練でこんなに豪華な音がなるのはクラリネットだけだろう。彼はその一部になっていることに歓喜しながら吹くのを楽しんでいた。

 

1+1+1+1+1+1+1+1は8ではなかった。

 

 

一通り曲を吹き終えヤヨイはスティックを叩く手を下す。それを見て僕らもクラリネットの構えを解き、ちらりとリードを見た。あ、やっぱり欠てる……。

 

「とりあえず一年生だけで三日間ほっておいてどうなるかと思ったけど、思ったより良いね!」

 

下手くそッ!と怒られるかもしれないと不安に思っていた彼はその言葉に安心する。

 

「たぶん経験者四人が残りの四人を引っ張ってくれたおかげだと思うけど……、まだ直すところがいっぱいあるの分かってるよね?もう一度最初のから気になったところがあったらすぐ止めるから。」

 

そこから猛烈な駄目出しと指示が始まった。

 

「Eからのスイング落としてる!」「3rd聞こえない!」「ここのミの音のピッチが酷い。」「音は最後まで伸ばして。勝手に終わらせないで。」「ヤイちゃん、そこは合奏までにできるようにしておいて。」「もっかいチューニングする?」「バスクラがクソ浮いて聞こえるんだけど」「2nd3rdは1stがやりやすいようにするのを意識してできるだけ暗い音色で。これはピッチ低めにって意味じゃないよ。」「合わせることの一番の近道はみんな同じ方向を向くこと!!」「もっと全体的に音量欲しいからもっと息入て。」

 

思ったことをズケズケと言い、駄目出しをする。そしてそのあとにどうすればよくなるのか、何故そうだといけないのかをしっかりと説明していく。一応ただの高校三年生なのにこの指導力の高さはさすが一気に五十人以上を相手にするコンマスだなと思った。そしてそれを楽譜に書き込んでいったら真っ黒になった。

 

一時間半経過、練習終了時間になった。その頃にちょうど2曲を終えていた。

ヤヨイがじゃあまた明日、と言ってパートの合わせは終わった。

今日の練習は今までの練習で一番楽しかった。みんなとの共同作業はこんなに良いものなのかと。そりゃ色々指摘を受けてほんの少し落ち込んだりもしたがそれと同時に上手くなってやろうというモチベーションも上がった。合奏の日が待ち遠しく感じた。

 

 

 

 

おそ松のトランペットパートも同じように合わせていた。クラリネットと違うところといえばトランペットは今、外で合わせているということくらいか。

 

「さんっしっ」

”パーパッラ パーパー↑”

 

トランペットなどの金管は音が空に吸収されないので外でもよく聞こえる。だから昔から戦での合図に使われてきたのだ。

 

おそ松のトランペットの音は前よりもトランペットの音らしくなっていた。

平日は朝練(一時間)+午後練(三時間)、土曜日は丸一日(十一時間)、日曜日は午後のみ(五時間)で週に三十六時間吹いてきているのだ。最初と音が全く変わらなかったらいくら小学生メンタルでも凹む。

飽きっぽいおそ松こんなにものに打ち込んでいることに母の松代が一番驚いていた。(まぁ部活に洗脳されて強制的やらされているという部分もあるが)

しかしいくら最初に比べてよくなったといっても中学で三年間やってきた経験者に現時点では敵わない。

だが高校からやり始めた子が中学からの子を超えるなんていう話は珍しくない。けれどもまだ始めて一ヶ月もたっていない現時点ではそれは無理だった。

 

 

トランペット一年生で合わせるのが終わり、片付けをしているときおそ松はなんとも言えぬモヤモヤに包まれていた。

そのモヤモヤの内容を意味のある言葉に言い換えると「不完全燃焼」「納得いかない」そして『しっくりこない』などであった。

しかしおそ松には自分から湧き上がるこの感情がどこからくるのかが分からなかった。

経験者組が自分よりもかなり上手いから?違う。

さっきの合わせた演奏が不服だったから?いや違う。さっきはとても楽しかった。

今日の俺は調子が悪かったから?違う、俺はいつもベストコンディションだもの。

この曲が嫌い?別に嫌いでも好きでもないし。何故か外でやらされてるのが不満?あ、それちょっとあるかも。でもそれも違う……。

 

「あ」

 

空虚な自問自答を繰り返していく中で気付いた。このモヤモヤのしっくりこない感じの正体を。

 

トランペットは大概は3パートに別れている。1st、2nd、3rd。どれもなくてはならないものだ。決してメインを吹くだけの1stだけあればいわけではない、2nd3rdがあっての1stだ。これは先輩から耳がタコになるほど聞かされている。

しかし1stと2nd3rdの間には壁があり、吹くだけの難易度は1st一番高い。(あくまで吹くだけの話で、極めるなら別)そのため1stには上手い人がかき集められやすいが、理想は上手い人はバランスのために一箇所に固まらないようにしたほうがよい。

しかし始めて一ヶ月もたっていない人に、上手い下手がわかりやすくよく目立ち責任重大のトランペット1stをやらせるにはいささか無理があるとパーリーは判断した。1stが潰れて演奏のレベルが下がるのが目に見えている。そのため六人いる一年生のうちの三人の経験者のうちの二人を1st、一一人を3rdとして配置し、残りの穴を未経験者の三人で埋めるという形になった。しかしこれはあくまで仮のパート分けであり本決めはもっと先のつもりらしい。

 

おそ松に渡された楽譜は2ndだった。個人練をしているときにはなんとも思ってなかった。へぇ2ndか…程度のものだった。

しかしこうやって皆と合わせて感じたこの「しっくりこない」感は自分が2ndを吹いているからということによるものだと今気づいた。

 

何度も言うが1stはメロディを吹き、2ndは1stとハモり、3rdは上二つを支えるものだ。

このモヤモヤはおそ松が長男としていつも扱われてきたことに由来するものであった。2ndに不満があるわけじゃないが、いつも一番目として扱われてきたのに急に二番目として扱われたことに少ししっくりこないものを感じたのだ。無論、日常生活を送っていて常に一番目として扱われないことはよくあることで一々気にもしていなかったし、気にしていたらどうかしている。しかし吹奏楽というみんなと一緒、みんなと同じが最重視されるところではその違和感がひょこっと顔を覗かしたのだった。

 

(あぁ…1stやりたいな……)

 

自己分析が終わったあと彼はそう思った。

そして決めた。パート本決めはのときに絶対に1stを取ってやると。

2ndの重要性はわかってる。わかってる上でやりたいのだ。そのためには1stになれるよう上手くなくてはいけないなと理解していた。経験者三人はそれぞれ分かれたパートになるので、未経験者の俺ら三人の中から確実に一人1stが選ばれる。チャンスならある、なら実行するしかないじゃないか。

 

 

翌日、また一日練習。吹奏楽部、というかこの高校の熱心に活動している部活に所属している者にはゴールデンウィークなどは無かった。

一年生は明日の合奏のことだけ考えて練習する。しかしその中で先輩が次の楽譜を渡してくる。12曲全てを二ヶ月で完成かつ、全て暗譜。気を抜く余裕はなかった。

しかしもっとも余裕がないのはコンクールのオーディションを控えている人たちだった。テスト前にオーディションをするのでそれに受かろうと血眼になっている。そのため部の雰囲気はその日が近づくにつれてだんだんピリピリとしていた。

 

この部の顧問は武水先生という音楽の先生だ。あの人は毎日部活の様子を見に来るわけではない。週に今は週に3回ほど顔を出してコンクールのための曲の合奏の指揮を取ったり、時々一年生の様子を見に来たりやパートごとに指導をして帰る。基本的に演奏ことなどしか触れない。それ以外は全部生徒にやらせている。ドライであまり過干渉しない先生、というのがチョロ松たちの認識だった。

 

 

そんな顧問が部活に来るたびに行っていることがある。それは部員全員を音楽室に集め、ほかの学校のコンクールの演奏を聴くことだった。

 

「今日の曲は希望の空です。地区大会で金賞を取った演奏と銅賞を取った二つの演奏を聴いて、どっちが金賞か予想してください。」

 

だいたいいつもこんな感じ。

 

「なんでそれを選んだかの理由をスクラップブックにでも書いて、解散したあとにそれについて話し合ってください。」

 

先生が再生ボタンを押す。チョロ松はシャープペンとスクラップブックを構えてそれを聴く。

 

 

クラリネットとフルートのトリルから始まるマーチ

優しい音色の楽器が滑らで飛び跳ねるような旋律を奏で、その裏で金管楽器が心地よいリズムを刻む

途中でいったん静かでゆっくりになったあと、再びもとの主題に戻る

ラストスパートのポジティブな雰囲気は題名のとおり希望を表していた。

 

 

いい演奏をするにはいい演奏を聴いて自分で区別できなくてはならない。でなくては部室にある練習用のレコーダーの意味が無くなると武水は言う。

また違う日は一曲だけ聞かされてそれが地区で何賞かを考えたりもする。

なんでその賞と予想したかをパートで話し合うが出てくる言葉は大体同じような感じだった。

 

つまりそういうことなんだとチョロ松は認識した。良くすることのポイントは同じ。どこまでソコを極めるかだ。

 

地区大会の演奏ににおいてどれが金賞かかという問いに「こっちだ!」と確信を持って答えれるが、県大会になると「なんとなくコッチな気がする…」とかなり自信のないものになる。

当たり前だ、県大会は地区大会で金賞を取った学校からさらに賞を決めているのでよりレベルが高くなる。そのためあまり音楽に触れてない人ははっきりと区別するのは難しくなる。

支部大会のものとなるともう「全部金賞じゃね?」と思うときも多々あった。

しかし武水先生は何大会であっても大体の区別はつけるくらいに知識と耳を鍛えておけと言う。

大体という言葉をつける理由はコンクールの結果というものは審査する人間の感性で変わってしまうから。万人に金賞と言わせることができるものを目指せと先生は付け足した。

 

どれだけよいものを作っても、評価する人間の感性で評価はガラリと変わる。明確なきっちりとした数字が示されないのが芸術。その人がそれが一番と言ったらそれは一番なのだ。

コンクールで上に登るにはそのそれぞれ違う感性を唸らせる演奏をする必要がある。それは砂場から砂鉄を素手で分別するのと同じくらい難しい。というか不可能だ。なぜなら感性が皆違うから。だがその無理難題をどれだけ真剣になったかが結果となり評価されるのがコンクール。

 

吹奏楽はコンクールが全てではない。これは紛れもない事実だ。聴き手も吹き手も楽しいのでいいのなら、それでよいのだ。精神削ってまで年に一度しかないコンクールになんかに一生懸命になる義務はどこにもない。

 

その一年に一度しかないコンクールにそんな取り組み方でよいのかこの問題に全国の吹奏楽部は部内で衝突する。どちらが正しいのかは分からない。

 

これが吹奏楽に潜む、誰も解けない難題。

 

そしてここの吹奏楽部はコンクールにおいて万人を唸らせ、上位大会に登ることを目標にしている。

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