「チョロ松くんってさ、リードの供養とかする?」
ヤイはさくらんぼのサビのラストの「わ〜たし、さくらんぼ〜」の部分を吹き終わったチョロ松に話を振った。チョロ松はクラリネットから口を離した。
「リードの供養ってなに?」
「割っちゃったリードの扱いだよ。」
「ゴミ箱に入れるんじゃないの?」
「え〜!!」
彼女は口に手を当て驚きの感情をあらわにする。
(いや、え〜ってなんだよ。こっちがえ〜なんだけど。)
「未練とか残らない?あぁやっちゃったな、300円飛んでったな……っていう後悔というか背徳感。」
「あぁ……それはあるかな。」
「私さ、おとといの夢に割れたリードが出てきたんだ。それがめっちゃ怖かった。」
「相当罪悪感持ってるんだね。」
「うん。だからそれを断ち切るために、昨日寝る前に割れたリードを二つに折って寝たの。」
「それで?」
「今日はなにも夢を見なかったよ。だからこれからリードを割ったときはそうしようと思ってるんだ。」
チョロ松は「あっそう……」とつぶやいてから、「ぶっちゃけ、今の話どうでもよかったな」と思いながらクラリネットにつけているリードを見た。
吹奏楽部に入ってから女という生き物に興ざめしつつある彼は女子と話すということを特になにも思わなくなっていた。きっと中学時代ならこうじゃないだろう。
「でも、リード折るって供養になるの?」
「だからチョロ松くんに聞いたんじゃん。この 前リード咥えながら喋って口の中で割ってたでしょ?」
「あれは……うん……まぁ……。」
「その前には構えるときに割ってたし。」
「うん、よく知ってるね……。」
「タオルで拭く方向間違えて焦ってたよね?」
「うん、だからなんでそこまで知ってんの。」
「それを思い起こして『うわあああぁ!!』ってならない?あたしはなる!」
「『うわあああぁ!!』はないけど、まぁ……なる…ね……。」
「でしょ!?だから供養してるのかな?どんな風にしているかな?って思って聞いたの。」
あぁこれ、今僕がこうしなければまだ使えたのに……と思うときはあるけどさ……。
「折るのはどう思う?」
「いいんじゃない?」
「燃やすのは?」
「それ危ないやつ。」
「トイレに流すのは?」
「それ下水処理場の人が困るやつ。」
「水につけて置いておいたら芽が出るかなぁw?」
「何言ってんのw?」
ハハハと僕らは笑い合った。
え?僕のキャラが違う?前にも言った気がするけど僕は家と学校じゃ結構キャラが違うからね?
ふと時計をみると4時45分ごろだった。チョロ松は今日は二者面談だったことを思い出す。
「ごめん、今から面談あるから行ってくる。」
「いってらっしゃい。」
彼はクラリネットを机の上において、パーリーを探したがいなかったので副パーリーに二者面談に行ってくると伝えた。
トロンボーン、ホルン、サックスが練習している部屋の前を通り過ぎる。それぞれのパートの人は練習をしていたり、円になって話している人など色々いた。話している人たちはとても雑談をしているような雰囲気でなくシリアスな雰囲気であった。金管の人は僕らの悪口を言ってるのだろうかと想像した彼は足早に廊下を通り過ぎていった。
自分のクラスの前で待機して前の人が終わるのを待つ。ちなみに前の人というのは一松だ。戸籍上はチョロ松が兄ということになっているが出席番号順では一松の方が早いのだ。
一分、また一分と待つ中での廊下を過ぎる風は気持ちがよい。彼は窓から野球部とサッカー部と女子ハンドボール部と陸上部が練習するグラウンドを見る。
「右!」
「ハイ!」
「一年遅い!」
「ハイ!」
練習の掛け声はここからでも十分聞こえた。
(どこの部活でも変わらないなぁ……ん?)
サッカー部の練習が目にとまった。キーパー練習だろうか。一人の人がゴール前に立ち部員が順番に放つシュートを受け止めている。連続としたて来るシュートに必死で食らいつくキーパー。しかし段々体力がなくなってきて動きが鈍くなっていく。そしてシュートの一つが彼の顔面に当たった。後ろに仰け反り倒れる。皆から大丈夫かと声をかけられ、彼は小さく手を振りながら笑っていた。
「入ってだってさ。」
一瞬反応が遅れたが、声のした方を見ると一松がいた。チョロ松は分かったと言いながら扉に手をかける。彼の目には先ほどのサッカー部のキーパーが焼き付いていた。
「えっと、松野チョロ松だな?」
「ハイ。」
先生はしっかりと確認を取るように言った。
「それでは早速行こう。まず、この書類に間違えは無いな?」
それは入学式のときに提出したものだった。チョロ松はその紙をまじまじと見る。
「ハイ、大丈夫です。」
「じゃあ次、 『通学時間調査』ってものがあるのだが大体どれくらいで学校に来ている?」
「40分か50分くらいですね(ていうかそれ、絶対一松にも聞いてるよな)」
先生はメモを取った。そして一枚の紙をチョロ松に渡した。
「いじめ実態調査だ。今週の金曜日までに提出するように。」
「ハイ。」
先生は手元の書類を見ながら言った。
「え〜、教科担当の先生からお前に伝えておくことも特には無いな……」
ここで何かあるって多分授業態度のことなんだろうな……。
「委員会や部活動の方からも何もなし。」
「ハイ…」
委員会は真面目にやってるし特に心当たりは無い。部活はそもそもあの先生が僕のことを気に止めているかもどうかも怪しい。
「じゃあ何か気になることや言っておきたいことはあるか?」
あぁもうこれで終わりだ。成績の話が出てこない二者面談ってなんて速いのだろう。
「いえ、特に無いです。……あ。」
「どうした?」
「僕と一松以外にも同じ顔したやつがあと四人います。」
「流石にそれは知ってるぞ……。むしろ担任で知らなかったら笑えないだろ。」
「ですよね……。」
なんで言っちゃったんだろうと自分で苦笑する。
「本当のことを言うと俺、入学前からお前らのこと知ってたぞ。」
「なんでですか?」
「普通に教師間で有名だったから。」
なんで高校の教師の間で小中学生が有名になるんよ。
「んでお前らが吹奏楽部に入部届けを出したときには職員室のちょっとした話題になったぞ。」
「はぁ」
「…これただの俺の興味だから教えたくないなら教えてくれなくてもいいんだが、なんで吹奏楽部に入部したんだ?」
「え……」
先生は目をキラキラさせて聞いてきた。
”入学式にちらっと見たクラリネットの見た目がカッコよかった”なんて言ってもいいの?
そういえば楽器決めのときにもこれで悩んだな……。
「なんか、吹奏楽やってみたいなーって感じです。ハイ。」
「そうか。」
以外と普通だったな…というリアクションをする先生にチョロ松は疑問を投げかけた。
「あ、先生。入部届けで職員室の話題になったときって武水先生はどんな感じでした?」
「俺が知る範囲では普通だったぞ。」
「そうですか。」
あの先生が僕らのに対してどう思っているかが気になった。しかしあの先生の目には僕らは普通の部員の一人としか映っていないようだ。それはありがたいことだけど……。
「もう特にはないか?」
「ないです。」
「じゃあ次の人呼んできて。」
「ハイ、ありがとうございました。」
ガラガラと音を立てて教室を出た。次の人に「入ってだってさ」と伝えてからグラウンドを見た。
キーパーをやっていた男子はもうゴール前にはいなかった。
それから特に部内で進展が無いままテスト期間を迎えてしまった。
ここで改めて楽器の紹介をします
B♭クラリネット
一般的な普通のクラリネット。リードという木の板を使って音を出す木管楽器で、吹奏楽では一番人数が多く必要。小説での略称は「ベークラ」チョロ松が担当している。
Esクラリネット
ベークラよりも4度高い音が出る楽器で、甲高い尖った音がする。難易度はベークラよりも高いとされている。吹奏楽ではクラリネットとフルートの中継役。略称は「エスクラ」
アルトクラリネット
エスクラの1オクターブ下の音が出るクラリネット。テナーサックスと一緒に木管中音域を受け持ち、暖かい音色が特徴。この楽器がある学校はやや珍しい。略称は「アルクラ」
バスクラリネット
ベークラの1オクターブ下の音が出るクラリネット。そのまろやかな音色で低音楽器の音の角をとる。大きさはベークラの2倍ほどの大きさ。略称は「バスクラ」
フルート
リードは使ってないが木管楽器に分類される楽器。空気の振動で出る澄んだ音で全体に飾りをつける。楽譜の黒さに定評あり。トド松が担当している。
ピッコロ
フルートの1オクターブ上の音で吹奏楽最高音を担当する。難易度はフルートよりも高いとされている。その音は小鳥のさえずりのよう。
アルトサックス
クラリネットと同じくリードで音を出す木管楽器。しかしその音は金管と木管の中間と言われ、吹奏楽では二つの差し渡し役となる。略称はアルサク。
テナーサックス
アルサクより4度低い音が出るサックス。中音域で裏メロなどを担当。木管とは思えない音のデカさに定評あり。略称は「テナサク」
バリトンサックス
アルサクの1オクターブ低い音が出るサックス。渋くてとんがった太い音色が特徴。木管とは思えない音のデカさに定評あり。略称は「バリサク」
オーボエ
ダブルリード楽器という二枚のリードを使う楽器に分類される。その難しさはギネスに載った。高く甘い妖艶な音色でソロをやることが多い。
ファゴット
同じくダブルリード楽器。低音部を担当する。細長い茶色の管体は一度見たらあんまり忘れない。キーの多さに定評あり。一松が担当している。
コントラバス
吹奏楽内で唯一の弦楽器。大きさは180cmほど。チューバのオクターブ下などをやり低音部に厚みをつける。略称は「弦バス」
トランペット
金管高音楽器。華やかな音色で吹奏楽の花形を務める。しかしそのプレッシャーは大きい。おそ松が担当している。
トロンボーン
スライドで音を変える唯一のスライド楽器。中音で和音を作るのが仕事。腕の疲労に定評あり。カラ松が担当している。
ホルン
世界一難しい金管楽器。音域はかなり広く、その音色は木管のような丸い音色。そのため時々木管のアンサンブルにいたりする。前を向いて吹いても音は後ろに飛ぶ。
ユーフォニウム
チューバの小さいやつ。中音域で裏メロを担当したりメロディやったり色々美味しい。その音色はどの楽器ともよく馴染む。
チューバ
あのデカイやつ。低音といえばまずこれ。暖かくずっしりとした音で全体を支える。チューバを家に持ち帰ったら伝説として語り継がれる。
パーカッションシリーズ
スネア・ドラム
小太鼓。パーカスの基本が詰まってる。略称はスネア。
バス・ドラム
大太鼓。基本のリズムを作る。略称はバスドラ。
シンバル
シャーン。これがないと締まらない。
タンバリン
舐めるなよ。
トライアングル
本気で上手くなろうとしたら泣けてくるらしい。
ドラム・セット
スネアとかバスドラムとかシンバルを一人でできるようにまとめた。略称はドラム。
シロフォン
一般的な木琴。
マリンバ
シロフォンの下に長い筒が付いてたらこれ。柔らかい音がする。
グロッケン
鉄琴。大きくない方。よく通る音。
ビブラフォン
鉄琴。大きい方。
ティンパニー
デカイ太鼓。音階がある。
マラカス
シャカシャカ
ウィンドチャイム
金属がぶら下がっててシャラシャラ音がする。
チャイム
ハンマーで叩く。
以下省略