部活見学期間が終わり、いよいよ吹奏楽本入部初日になった。一年生は前と同じく第二音楽室へ集められた。来ている一年生の顔ぶれは同じだった。そこへ部長が見学のときと同じように
一年生が待つ音楽室へやってきた。
「はい!改めまして、赤塚高校吹奏楽部へようこそ!今年は43人の一年生が入部してくれました!この新たに入った一年生と一緒に赤塚高校流の音楽を作っていきたいな!…………私堅苦しい挨拶苦手だからボロが出る前にこの辺りでさっさと終わらせとくわ。それではまず最初に出欠を取ります。名前を呼ばれたら返事を。」
部長はパートが決まってないと出欠取るのも面倒ね、と小さく言いながら名簿を読み上げ始めた。皆それぞれ返事を返していく。その最中に三年生が二人部屋へ入ってきていた。
やがて出欠を取り終わり、部長は満足そうに顔を上げた。
「はい。全員の出席を確認!んー、全員揃ってよろしい!まぁ初日から休むやつは部則会議に掛けるけどね。みんな!それでは今から部の詳しい概要を説明します。
赤塚高校吹奏楽部は開校当時からある伝統ある部活です。部員数は二、三年生合計で86人、ここに一年生も加わって129人の部活となりました。パチパチ〜。部の成績は夏に行われる全日本吹奏楽コンクールでは一昨年が県大会出場、去年は地区大会銀賞でした。冬に行われる全日本アンサンブルコンテストでは昨年金管八重奏で県大会出場、一昨年ではサックス四重奏が支部大会に出場しました。
……なんか一年生からお前誰だよみたいな視線を感じるから、自己紹介をします!私は吹奏楽部部長兼ダブルリードパートリーダーのミサキです!担当楽器はオーボエです!オーボエについて語りたいこといっぱいなんだけどそれはあとに回します…。こちらの二人は副部長のアスカとサナ。」
副部長たちは一年生にお辞儀をする。一年生たちはたどたどしく礼を返す。
「私は副部長兼トランペットパートリーダー兼金管セクションリーダーのアスカです。担当楽器はそのままのトランペットです。夏の引退までに一年生に吹奏楽部の伝統をしっかりと教えていきたいです。」
「ハイ!副部長兼サックスパートリーダー兼木管セクションリーダーのサナでーす!担当楽器はテナーサックスです。今年は目指せ金賞!」
部長は副部長の挨拶の最中は壁に中途半端にもたれかかっていたが、それが終わるとバインダーを見ながら一年生の前に出直した。
「はい。一通りの挨拶が終わったね。それじゃあ今から部の用語や規則についての説明をするから必要な人はメモを取って。特に初心者の人はよく聞いて。まずは用語から。さすがに部長と副部長はわかるだろうから省略。
吹奏楽は様々な楽器で構成されています。その中でも大きくカテゴリー分けができます。そのカテゴリー集団をパートとと呼び、そのリーダーをパートリーダーと呼びます。基本はパートで集まって練習をします。
そして吹奏楽の楽器を最も大きく分けると『木管』『金管』『パーカッション』に分かれます。これについてはあとで説明するから今はカットね。で、セクションリーダーというのは木管と金管のリーダーなの。なんでパーカッションには無いかって?理由はパーカッションはパーカッションで1パートだからです。
今、この場にいないけどコンサートマスターっていう役職の人もいます。コンサートマスターは合奏の場でのリーダーなの。だから合奏の場だと部長である私より偉いのよ。……あとなんかここで説明すべき用語あったけな……。まぁこんなもんでしょ。ちなみに偉い順は部長、副部長andコンサートマスター、パートリーダーだからね。………………ちょっとアスカ。」
「なに?」
「バトンタッチ。」
「ええ!?あ、今から部の規則について説明します。説明というか、箇条書きで言います。」
「箇条書きで言いますっていう言い方ヘンじゃない?」
「うるさい。それではいきます。」
アスカは紙に書かれた規則を読み上げ始めた。
・先輩の言うことは絶対。
・返事は「はい」。「いいえ」は無い。
・挨拶は必ず言う。
・顧問は神なり。
・休むときは必ず届けを出す。
・高校生らしい身だしなみを。特にスカートの長さは膝上5cmまで。
・部活内恋愛禁止。
・全力でやる気が無いなら帰れ。
・勝手に帰るな。
・以上のことが守れないなら部則会議にかける。
「これは高校生として基本的なことなので守れるのが当たり前です。」
トド松はスカートの長さのことがここに入るってことはよっぽどだなと感じた。
というか、8つ目から9つ目の流れの切れ味やばすぎだろ……。ていうか部則会議ってナニ?
「部則会議というのは部長、副部長、生活指導係、パートリーダーと部則を守らない人で行う会議です。内容は秘密です。」
要するに軍法会議ってことね…。
「あと、部員は全員係に就くことになっています。これもあとで説明します。」
こんなところかな?と言いながらアスカは部長に向き直す。
「うん。とりあえずこんなものかな。えっと、じゃあ今から一年生が一番楽しみにしてる話をわするわ。楽器決めの話。」
チョロ松はこの話を聞いて、メモのために丸めていた背中を無意識に伸ばした。
「この学校の部活の方針としては一年生にはこれから三年間吹くことになる楽器を今週中に決めてもらいます。他の学校じゃあ一ヶ月くらいかけて楽器を決めるらしいけど、ウチの学校でささっさと楽器を決めてさっさと練習に移るのが基本となっています。ちなみに一年生の初お披露目は、6月下旬にある野球部の応援演奏です。それまでに吹奏楽経験者も未経験者でも人に聞かせられるレベルまで持っていく練習をするので、そのつもりでね。それじゃあ今から楽器の簡単な説明をします。それから実際に楽器を触ったり鳴らしたりしてもらって希望の楽器を決めてもらいます。希望者が多いときは何かしらで決めます。それではそれぞれのパートリーダーたちにバトンパスします。」
部長が合図を出すと廊下で待機していた三年生が10人ほど入ってきた。
「それでは今から楽器の簡単な説明をします。よく聞いて置いてください。」
三年生の一人が楽器を掲げる。その掲げた楽器にチョロ松はピクリと反応をし、まじまじと見つめる。
「これはクラリネットという楽器です。きっと吹奏楽未経験者でも一度くらいは名前を聞いたことがあるでしょう。クラリネットはリードと呼ばれる木の板を使って音を出す木管楽器です。音域は約4オクターブでこれは全ての管楽器の中で一番広いです。柔らかく温かみのある表情豊かな音色が特徴で、吹奏楽ではオーケストラのバイオリンに相当します。」
「こちらはサクソフォン。普通はサックスと呼ばれています。見た目通りほとんど金属でできていますがクラリネットとと同じくリードで音を出す木管楽器です。特徴はなんといってもこの金色の見た目にぐにゃりと曲がったボディです!まっすぐなサックスもありますがそれはソプラノサックスというもので、サックスの中でも一番高い音がでるものです。ちなみにこれはアルトサックス。これの他にテナーサックスやバリトンサックスなどもあります。それから……」
「あっ!クラにもバスクラリネットっていう低い音がでる種類があるからね!
」
「五月蝿いぞ。えっと……サックスは木管の中でも珍しい分厚い大きな音色が特徴です。比較的最近に作られ、比較的音が出しやすく設計されています。」
「次はフルートです。長さは65cmです。フルートはリードは使わず金属でできていますが木管楽器に分類されています。理由はここでは省略します。繊細で明るい音色が特徴で、吹奏楽の高音部を担当します。」
フルートのパートリーダーは所謂暗黒微笑を浮かべてからもう一つ楽器を一年に見せた。
「これはピッコロです。可愛いでしょ?フルートの半分の長さなんです。フルートよりも1オクターブ高い、吹奏楽最高音の音が出ます。コンクールなどでは50人の編成だと大抵1人しかいませんがとってもよく目立ちます。」
「はい!部長推しのターンです。オーボエはダブルリード楽器と呼ばれ、その名の通り二つのリードを使って音を出します。一応ギネスには世界一難しい木管楽器として登録されています。オーボエはソロが多いよ!ソロ!ソロ!」
「ファゴットです。バスーンとも呼ばれています。オーボエと同じくダブルリード楽器で、低音部を担当しています。大きいでしょ?大きさは140cmで、管楽器では珍しく指10本全てを使って音をだします。鼻が詰まったような音色が特徴で、スタッカートが得意です。」
「トランペットでーす!みんな絶対知ってるよね?トランペットはクラやサックスと違って金管楽器に分類されます。キンピカでしょ?トランペットは金管の中で最も高い音域を担当し、その明るい華やかな音色はまさに吹奏楽の花形!しかも明るいだけじゃなくてミュートと呼ばれる弱音器をつけることによって広がる表現の幅はとっても広いです!」
金管二人目のパートリーダーも男子だった。
「トロンボーンです。名前を知らなくてもジェスチャーすれば伝わる率一位のトロンボーンです。トランペットのパートリーダーは説明していなかったけど、金管楽器というのは唇の振動で音をだし、唇の調整と息遣いで音を変えます。ここが木管とは違います。キンピカだけじゃないです。」
トロンボーン男子はトランペット女子の方をちらりと見る。彼女はごめーんと返した。
「えー、トロンボーンは男性の声に最も近い楽器にと言われ、スライドと呼ばれる菅の長さを変えて音を変えます。吹奏楽では中音域を担当し、和音が得意な楽器です。」
「はい!ホルンです。ホルンは通称カタツムリなどと呼ばれ、この丸くまとまった菅をまっすぐに伸ばすと3m以上あります。角の無い優しい音色が特徴です。ちなみにギネスには世界一難しい金管楽器として登録されています。ホルンは4本で1組として演奏し、豊かなハーモニーで吹奏楽支えます。あと、ホルンの音色は他の楽器とよくなじみやすくて、まさに縁の下の力持ちなの!」
「ここからは低音パートの楽器です。低音は吹奏楽を一番下から支えるとても重要なパートです。本来なら縁の下の力持ちっていう言葉は低音に使うはずなんだけどなぁ……。これはチューバという楽器です。管楽器最低音を奏でます。特徴は……なんといってもこの大きさです。あとは………………特に無いです。これで終わります。」
部長がそんなんじゃ一年生入ってくれないよとヤジを飛ばす。そこで一年生に笑いがおこる。
「これはユーフォニウムです。ユーフォとよく呼ばれます。『小さいチューバ』なんて呼ばせはしません!ちなみにチューバとは構える方向が逆だよ。……ユーフォは金管楽器の中でも一番音が出しやすい楽器です。だけど簡単だからって侮らないで下さい、ユーフォの最大の魅力は表情豊かな音色です。反面、それは自由度が高いということであり、その曲にあう音色の追求が大変でありながらとっても楽しいのです!」
「コントラバスです!吹奏楽の中の唯一の弦楽器です!ちなみに吹奏楽最低音担当です。演奏方法は弦を指で押さえながら弓で擦ったりは指で弾いします。あ!みなさん知ってますか?コントラバスはゴジラの鳴き声の音源なんですよ?」
「こちらはパーカッションです!通称パーカス。打楽器など使って吹奏楽に彩りをつけるパートです。使用楽器はたくさんあるのでここでは紹介しません。それとパーカッションは打楽器だけでなく、管楽器や弦楽器に分類されない楽器も担当します。たとえばアコーディオンとかハンドベルとかピアノとか……。そしてパーカスは誰でも音が出すことができる音階の無い楽器ばかりです。しかしパーカスは音階が無い分だけ一打一打に力を込める必要があります。それが楽しいですね。」
パーカスパートリーダーは一拍置いてからこれで吹奏楽部にある楽器の紹介を終わりたいと思います。と言った。一年生からまばらな拍手が起こる。パートリーダーが部屋から出て行く中、部長は再び前に出てくる。
「みんな頭に入った?それじゃあ吹いたり叩いたりしてもらいたいと思います。一年生は副部長たちの指示で机を並べてね。」
それじゃ!と言いながら部屋を出ていった。