6つ子が吹奏楽部へ   作:ボコ砂糖野郎

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出陣!野球応援!

コンクールメンバーも決まり、野球大会が近づいたことにより練習がより激化していた。コンクールメンバーは合奏のたびに精神をけずり、合奏が終わった後も部屋でひらすら縦の線を合わせる練習をし、横の線を合わせるハーモニー練習をひたすら何度も繰り返し繰り返しやっていた。

 

 

そして野球応援のチームはというと、中庭で野球部の応援部隊とチアリーディング部と合同練習をしていた。

 

吹奏楽部がバカスカ吹くその横で、野球部は野太い声で応援文句を叫び、さらにその横でチアリーディング部が高い声でいちにっさんしっ!と言っている。その奇妙な光景は一年の中でも今しか見れないだろう。

 

「できないなら吹くな!!覚えてないなら吹くな!!」

 

「声小セェぞ!!!腹からだせッ!!!!」

 

「一年何遊んでんの!!!」

 

それぞれの部活から入るしばきの声。それを受けて部員たちはより頑張る。

 

今吹奏楽部か吹いているのは「フライングゲット」時々覚えていないのか、明らかに外れた音が聞こえてくる。それを聞くたびに演奏をしていない「メガホンパート」が竹刀を叩いて威嚇するようにメガホンを叩いて部員に注意を入れる。

トド松はファゴットの担当ゆえにメガホンパートになっている一松を見て、暗譜しなくていいから楽そうだなと思った。

 

野球部の高校生男子が低い声で全力で歌うフライングゲット。それは本当に今しか見れないだろう。

 

そうして野球応援に向けての練習が進められていった。その中で第一回戦は勝ち、第二回戦に進出という朗報を聞いてさらに三つの部は盛り上がった。

 

 

*****

 

 

帰りの電車の中でカラ松は濡れた体で楽譜を開く。やばい、本番まであとテストを挟んで12日くらいしかないのに全然楽譜が覚えられない。野球応援で使う曲は12曲もあるため、彼は焦りを感じながら音符を頭に叩き込む。

その横で「よくそんなことやる元気があるなぁ」と同じくビショビショのおそ松が疲れた顔で言ってきたので「これが青春だろぉ?」と言い返した。

なぜ彼らがビショビショなのかというと、今日は雨だったから。もっとちゃんと説明すると、雨の中で中庭で応援練習をしたからだ。トランペットやトロンボーンなどの金管楽器は雨の下で吹いてもなにも問題の無い楽器なので雨が降ったから練習中止などにはならない。ちなみに金管以外はは水に濡らしたらアウトなので長兄二人以外は一切濡れていない。

梅雨でほぼ毎日雨が降っているので、いつも濡れて帰ってくるおそ松とカラ松を見て母さんが「ウチの長男二人はちゃんと傘の使い方を知っているのか」と心配していたのが記憶に新しい。

 

 

 

そしてやってきた全国高等学校野球選手権県大会二回戦当日。

 

まず朝学校に来たらパートリーダーから本日の予定や流れを改めて説明する。

 

「え〜今日は晴れ時々曇りで最高気温は27度のの予定だとか。曇りでよかった〜。炎天下とかもう最悪だよ。」

 

「今日はどこと対戦なんですか?」

 

「梅田工業高校らしいよ。」

 

「ぶっちゃけどこが相手でも私らには関係なくないですか?」

 

「何言ってんの、戦うのは野球部だけじゃないのよ。応援組は応援組で相手チームと戦ってるんだから!吹奏楽部だと音量勝負よ!だけど梅田って吹奏楽部あったっけな……?」

 

「梅田は工業高校だから吹奏楽はないよ。それよりも梅田って去年ベスト4くらいまで行ったところじゃん!」

 

「えぇ〜いきなりそんなところに当たったんですか!?うあ〜今回が今年で最初で最後の応援になりそう……」

 

「ま、まだ分かんないよ……。今年はうちの野球部にすごい一年生がそこそこ入ったみたいだからイケるかも……。」

 

「でもいくら上手くても一年生をレギュラーに入れるの?野球部だよ?」

 

「それは…知らない……。」

 

 

それが終わったら楽器をトラックに詰め込む。ここで初めてチョロ松たち「楽器運搬係」と「大道具係」の係としての仕事がやってきた。

 

「まず管楽器から〜!打楽器は後!」

 

カラ松、チョロ松、十四松、トド松と他部員は四階にある音楽室と一階の昇降口をひたすら行ったり来たりして楽器を運ぶ。しかし音楽室内の黒い塊、楽器ケースの小山は何度行ったり来たりしてもなかなかちいさくならない。

ちなみにほとんどの場合、楽器ケースは楽器本体よりも重いことが多い。具体例を出すとトランペットは本体が1キロでケースが2.5キロ、トロンボーンは本体が1.5キロでケースが3キロである。しかし例外的にスーザフォン(野外用チューバ)は本体9キロでケースが5キロとなっている。

それを急いで四階から一階に運ぶ作業は重労働以外の何物でもなかった。そしてそれが終わるとある意味楽器運搬の最大の山である打楽器たちを運ぶ作業があるのだが、今回は野球応援なのでビブラフォンやシロフォンなどの大型打楽器は運ばないのでまだ楽だった。

 

下では先輩男子勢がこの楽器の量をどのようにして限られた空間しかないトラックに詰めようかとあれこれ議論しながら詰めていた。それはテトリスのようであった。

 

ようやくそれに終わりがめえ始めた頃に部員たちが野球場への移動を開始し始めた。野球場へはパートごとに少しづつ時間をズラし電車で行く予定だ。

 

 

「あそこに人が入れそうだな。あれに乗ってけば電車代浮くし勝手に連れて行ってもらえるじゃん。」

 

おそ松はまだ若干スペースが空いているトラックを見て言った。

 

「あぁそれ中学の時にコンクールでやったことあるけど、熱中症になるわ先生にスンゲェ怒られるわで散々だったけど、楽したいならやってもいいと思う。」

 

彼の独り言をたまたま聞いたトランペット二年生男子が懐かしそうに言った。おそ松は「やっぱやめときます」と早口で返した。

 

 

そして野球場へ着いた。

まず部員たちより早く到着しているトラックから楽器を運び出し、応援に参加してくれるOBの把握をして、野球部とチアリーディング部との最終確認をして、相手校の様子をチェックしたりなど……。ちなみに最後三つはメガホンパートが全部行っていた。

 

チョロ松はクラリネットを組み立てたりするなどの個人の準備を終え、スタンドから灰色に曇った空を見上げる。野球場で生暖かい梅雨独特の風を浴ながら見る空はいつもよりも広い気がした。

彼の周りはガヤガヤと騒ぎながらそれぞれのことに当たっている。

本当に空が広い。青い空だったのなら気持ち良いのかもしれないが、今の彼がそう思うには十分であった。曇りは雨の次に人を憂鬱にさせるというが、ギラギラと突き刺すような日光を浴びるくらいなら曇りの方がいいかもしれない。

チョロ松は太陽を遮る白いはずのカーテンがなぜねずみ色に見えるのだろうとなんとなく考えてみた。無論それはプレイボールまでの単なる暇つぶしであったが。

ベンチの方に視線をやると、野球部が吹奏楽部と同じように各自の準備に忙しなく動いていた。キャッチボールをしたり素振りをしている者もいた。それを見てチョロ松は自分もクラリネットの音出しをしなくてはと思い楽器にふぁ〜と息を入れる。

あ、楽譜を最後の最後で見ておこう。正直彼は曲全部を覚えきれていなかった。楽譜を開き怪しい部分を何通か吹く。

 

四月から色々がんばってきたこと披露する場所が野球場で、演奏相手が試合中は音楽なんか聞いていられない野球部のバカ共なのが癪だけど、今日は部員全員にOBたちも合わさってすごく大人数なので非常にワクワクしていた。一体OBたちは何人くらいいるのだろう。そんなことを思ってる中、部長が全員のの前に出てきた。

 

「全員いるね!?」

 

「「「はい!」」」

 

部長が声を張り上げ、はじめの言葉っぽいものを言い始める。

 

「今日は例年通りOBの方々に来ていただきました!懐かしの再会なども果たせた人も多いと思います!まずは部員一同感謝の気持ちを込めて拍手!」

 

パチパチパチパチパチ〜

 

「あと五分くらいでプレイボールです!今まで合奏とかでピッチが合ってないとか注意されてきただろうけど、屋外で長時間吹いている以上は絶対にズレます!!もうそれはこの際見ないことにして全力で野球部を応援してあげてください!!」

 

「「「はい!」」」

 

「楽しく全力で吹いていれば野球部はきっと私たちを甲子園に連れて行ってくれるはず!!…………たぶん。とにかく!ガンガン吹いちゃって!!うるさいは褒め言葉だ!!……それではコンマスのヤヨイちゃん!いつものアレよろしく!!」

 

「はい!では行きます!」

 

 

 

「我々は赤塚高校吹奏楽部員である!!」

 

「「「我々は赤塚高校吹奏楽部員ある!!!」」」

 

 

「誰にでも恥ずかしくない演奏を!!」

 

「「「誰にでも恥ずかしくない演奏を!!!」」」

 

 

「音楽は至高!!」

 

「「「音楽は至高!!!」」」

 

 

「目指せ金賞!!」

 

「「「目指せ金賞!!!」」」

 

 

「目指せ全国!!」

 

「「「目指せ全国!!!」」」

 

 

「金賞は至高!!」

 

「「「金賞は至高!!!」」」

 

 

「吹奏楽部最高!!」

 

「「「吹奏楽部最高!!!」」」

 

 

「もっかい!吹奏楽部最高!!」

 

「「「吹奏楽部最高!!!」」」

 

 

「ファイトー!!」

 

「「「オーー!!!!」」」

 

 

3話に登場して以来ずっとご無沙汰だったこの掛け声。作中に登場しなかったからといって彼らがこの儀式をやらなかったわけではない。彼らは毎日毎朝これを叫んでから部活に励んでいたのである。一年生でも四月から通算100回以上は言わされているこの言葉により一気に部員の士気が高まった。もう何回も言わされたこの"洗脳文句"……もとい"気合い入れ文句"は条件反射でおうむ返しで叫ぶように全員調教され済みだった。

ここでは金賞とかは全く関係ないが普段やっているものから変えると調子が狂いそうということで元のまま叫んだ。

その若干宗教じみた吹奏楽部の様子を気持ち悪そうにチアリーディング部が横目で見ていた。

 

 

そして赤塚高校第二回戦 〜 vs梅田工業高校 〜が始まった。

 

 

 

我らが赤塚高校は先行だ。試合は最初が肝心、ここでビシッといい流れでスタートしてほしい。

 

 

「一松くん!仕事だよ!一曲目はコレだって!バッターは鈴木!」

 

メガホンパートという野球応援の指揮部に入っている一松はマトイ先輩の指示を聞いてスケッチブックの鈴木と書かれたページを開き、応援団全員に見せる。マトイ先輩は曲名が書かれたスケッチブックを掲げる。そして曲名を大声で言う。

 

「「宇宙戦艦ヤマト!!」」

 

ドンドンと鳴るトランペットのイントロで応援も始まった。

 

一松は最初にこの曲をやると聞いて今は平成だよな?と困惑した。しかし高校生野球の応援曲は懐メロが多く、大体使い回しなんだとか。だからOBたちも現役部員と吹くことができる。

 

「一松くん!想像以上にうるさいね!!」

 

オーボエ一年生のハルネが自分の隣で叫ぶ声を一松はかろうじて聞き取った。適当にそれに相槌を打ち、少しボーッとしてからグラウンドを見るとちょうど鈴木がバントで球を地面に転がして走っているところだった。

トップバッターがバントかよ……と彼は呟く。それは誰にも聞こえなかった。その証拠にマトイ先輩が「一松くん!バッター変わったよ!!スケッチブック!!」と普通に彼に催促してきた。

えっと二番目って誰だったっけ……?え……野崎?村井?あ、堀川だ。

彼は堀川と書かれたページを全体に見せる。

 

「「かっ飛ばせェ〜堀川!!」」

 

すると野球部の応援チームの応援文句が堀川に切り替わる。一松はそのことに気分が良くなった。

愚民が俺に従っている。

 

 

そして赤塚高校攻撃の一回表は0点でと終った。応援軍一同はとりあえず水を飲む。

 

「ファイトーー!!」「頑張れー!!」

 

高校野球には相手チームの攻撃時は楽器を鳴らしてはいけないという明確なルールが存在する。しかし声援はOKだ。そのため応援団は攻撃が終わったからといって休憩せず、今度は声援で応援をするのだ。

 

 

カラ松はペットボトルを己の欲求のままにペットボトルの水をがぶ飲みする。暑い。さっきまでこんなに気温が高かっただろうか。

 

「きっとこれは俺たち熱気だな…!そう、俺たちの野球にかける熱い思いがここの球場の温度を上昇させているのさ!オウアハートのビーティングはまさしく……」

 

何かを語っているカラ松の独り言も、声援で誰にも聞こえなかった。

 

そしてまた赤塚の攻撃が始まる。メガホンパートの人が「学園天国」と書かれたスケッチブックをこちらに見せる。

 

フルートとクラリネットの軽やかな前奏。

そのあとにトランペットとトロンボーンのソリだ。

そのソリを全体が追いかける。

 

"テーテッテ テー↑テー↓"

 

""テーテッテ テー↑テー↓""

 

"テーテッテ テー↑テー↓"

 

""テーテッテ テー↑テー↓""

 

"テー⤵︎"

 

""テー⤵︎""

 

"テー⤵︎"

 

""テー⤵︎""

 

 

カッ……

 

たぶんこの不自然な音はカラ松とその周りの三、四人にしか聞こえていなかっただろう。

この音はカラ松のトロンボーンのスライドが彼の前の列にいるクラリネットの先輩の頭を直撃した音だ。

先輩は頭を押さえる。そしてちらりと真後ろを向いた。

カラ松は青くなりその場で平謝りした。それを見て先輩は苦笑いしてから演奏に戻った。

トロンボーンのスライドのリーチは1mを超えるため、気をつけて吹かないと前の人を攻撃してしまう。カラ松も最初は当たらないように角度を変えて気をつけて吹いていたのだが、吹いている途中でうっかりノリノリになってしまい、角度が変わって今の現状にいたる。とりあえず彼にはいい薬になっただろう。

 

 

そして試合はどんどん進んでいった。それに比例してペットボトルの水もどんどん減っていく。

 

十四松は全体的に薄っぺらい音色に変化し始めていること(九割型バテが原因)を感じながらカウベルを叩く。

野球の方ははっきり言ってあんまり見ていなかった。それは応援している人のほとんどの人に言えることだった。しかし時々ボールが空を飛ぶたびに歓声の声が上がるので見ている人は見ているのだろう。

攻撃の途中で曲が終わると二つの選択肢が生まれる。リピートするか他の曲をやるかだ。それを決めるのはメガホンの皆さんなのだが今回は……どうやら今の曲はリピートせず「さくらんぼ」に移るらしい。

「さくらんぼは僕はタンバリンじゃん!」

パーカスは曲が変わるたびに移動をして楽器を変える。狭いスタンドで素早く行動しなくてはならない。彼はその大変さを応援というものを通して全力で楽しんでいた。

 

 

*****

 

 

え?今?今は七回裏だよ。もう終盤でクッタクタだよ〜。全然口に力が入らないんだもん。お兄ちゃん疲れたわ〜。戦況は2-3で梅田の優勢で、負けてる。ちょっと大丈夫?せっかく応援に来てやってるのになぁ〜、ちゃんと勝ってくれないとこっちも居心地悪いよ〜。

 

頭が心臓が脈打つたびにキンキンとし、そのたびに視界に映る星が瞬く。その気持ち悪さにふらふらとおそ松は座り込んだ。

 

「おそ松くん大丈夫?日陰で休憩する?」

 

心配する先輩に白い顔で「はい…」と返事をし、場を離れた。

 

 

*****

 

 

「今バッター誰だよ!」

 

「打者は背番号順だよ。」

 

歯をギザギザにしながら半ギレ気味の一松に臆することなくハルネは普通だった。

 

「だからそれがわからないんだ。」

 

「ちゃんと見ておこうよ…。」

 

「はい!私、なんかに使うかと思って双眼鏡を持ってきたよ。」

 

「おお〜先輩さすが〜!これでバッターが誰なのかを確認できますね!」

 

オーボエ先輩は双眼鏡を覗いてバッターを見るが口をへの字にして「あの人知らないわ」と言った。

 

「じゃあ私が見るわ!」とミサキ部長が名乗りを上げて覗く。

 

「んんんんん?一松くん、レギュラーの名簿を見せて。」

 

「はい。」

 

「ん〜。あれは多分、竹内くんじゃない?」

 

「先輩の知り合いなんですか?」

 

「いや、全然知らない。でもあの顔はいかにも竹内って顔だよ。間違いない!」

 

「「…………。」」

 

 

一松はもうどうなろうと知らないと竹内のページを開いて全員に見せた。

 

あれが竹内なのかを知る人は誰もいなかった。

 

 

そして九回表がやってきた。赤塚最後の攻撃だ。メガホンパートは九回にやる曲は「あとひとつ」と決めていた。

 

「みんな!ラストだよ!クタクタだろうけどこれが最後だから!!頑張るよ!」

 

「「はい〜!」」

 

フルートパートのイントロから始まる野球応援歌にトド松は指を動かす。この曲で終わりだと自分に言い聞かせ頑張る。ヘロヘロの状態で吹くフルートに日の光が当たって反射する。

 

「「あと一粒の涙で一言の勇気で!願いがかなう!そのときがくるって!」」

 

隣で野球部か歌ってるというより叫んでいる。

それだけが彼にわかる周りの状況だった。あとのことは熱気に煮えられた頭ではもうわからなかった。

 

 

*****

 

「キャーーー!!!」

 

フルートパートの休み中に同パートの一年生女子の歓声でトド松は覚醒した。どうしたのかと思い見ると満塁状態だった。

 

「頑張れー!あとちょっとー!」「目指せホームラン!」「キャー!」

 

「ほら!トド松くんも声出して!」

 

「う、うん。頑張れー」

 

「もっと!」

 

「頑張れー!」

 

「もっと!」

 

「ファイトー!!」

 

もうフルートの休み部分は終わったのだが、二人はそれを忘れてエールを送る。

 

 

梅田か投げる。ボールと判断した赤塚は振らない。

梅田が投げる。赤塚は空振りでストライクとなる。

梅田が投げる。赤塚が振る。カキンと音を立てボールが空を飛んだ。

 

 

それに二人は思わず声を漏らす。何かが吹っ切れるような感じがした。

 

目測で追うボールの着地点は上手いことに相手チームの誰もいないところだった。おそらく走ってもノーバウンドでは捕球はできないだろう。

 

軽く跳ねて拍手する。

 

赤い四人が走る。

 

「はやくはやく!」

 

そして一人が本塁ベースを踏んだ。

 

「キャーー!!」

 

その高い声とともにトド松は隣の女子とハイタッチする。

 

二塁にいた人は三塁のベースを踏み、ちらっと聞こえたベンチからの「そのまま走れ!」という声に従いさらに全力で駆ける。

 

相手がキャッチャーに向けて投げたボールがその人にぐんぐんと追いつこうとしてくる。

 

(どうなるどうなる……!)

 

ベースの上に倒れこむとほぼ同時にキャッチャーのミットにボールが収まった。

それを見て審判が腕を水平にふった。

 

「「ヤッタッ!!」」

 

4-3で赤塚の逆転となった。二人は感情に任せて叫ぶ叫ぶ。

 

そして試合はそのまま何も無いまま九回裏の終わりを迎え、赤塚の勝利となった。

 

「「ありがとうございました!」」

 

野球部の野太い挨拶の声を聞きながら応援団は喜びを分かち合う。

 

「私さ!野球に興味なかったんだけど、こんなに盛り上がるとは思わなかった!キャー!」

 

「僕もそうだよ。野球部の応援面倒くさいって思ってたのに、ボールが飛んだとたんスイッチが入っちゃって。あはは。」

 

「あ、途中から私らが吹いていなかったことは内緒ね。」

 

「そういえば吹いていなかったね。」

 

トド松は笑う。

自分でも想像してなかった。こんなに野球に熱が入ることに。それは一瞬ではあったがとても長く熱い一瞬であった。

みんなでドンチャンドンチャン演奏して、一つ一つのことに一喜一憂して感情分かち合うことがこんなに楽しいこととは知らなかった。

いや、彼は知っていた。それは昔から知っていた。ただそれを最近忘れていただけだ。そのことはフルートに対する熱も同じであった。物凄い大人数で一つのことを作り上げる喜び。特に細かいこと気にせずに吹くことが楽しい。ただ楽しい。彼は吹奏楽やっててよかったと思った。

 

 

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