6つ子が吹奏楽部へ   作:ボコ砂糖野郎

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シューティング☆スター

数日後に三回戦がすぐやってきた。

前と同じように楽器を運ぶ。違うことは今回はコンクールメンバーが応援にはいかないことだった。

 

「というわけで…頑張ってね。一松くん、ハルネちゃん。」

 

「いや頑張ってねじゃないんですけど!先輩たち無しで私らだけで応援指揮しなくちゃいけないじゃないですか!」

 

ハルネが一松の代わりに抗議してくれる。

 

「大丈夫。適当にスケッチブックを全体に見せて、適当にOBに愛想よくしておくだけの簡単なお仕事だから。なんか発言求められたらそれっぽいこと言っておけばいいし。で、いざとなったらバスクラ二年生に全部押しつけなさい。」

 

「うわぁ……。部長の本性が見えた気がする……。」

 

「なんか言った?」

 

「なにも。」

 

「じゃあ頑張ってね。あ、そういえば三回戦の相手ってどこか知ってる?」

 

「え…どこだったっけなぁ……?うーん。一松くん覚えてる?」

 

「緑条」

 

「あっそうだった!緑条でした!」

 

「え……緑条…………?」

 

そこで先輩たちの目の色が変わったことにハルネと一松は気づく。

 

「ええええええ!!!緑条なの〜〜!!」

「うわ……」

「チッなんでよりによって今回なのよ!!」

 

「せ、先輩たち…緑条高校に親でも殺されたんですか…?」

 

マトイ先輩がファゴットを銃のように構えながら悪態をつく。

 

「なに言ってんのさ。緑条は赤塚の長年の敵なんだから。あいつら何かとこっち張り合ってきてウザいんだよ。まぁここらへんでちゃんと鎮圧しておかないと調子乗るだろうし、ちょうどいい機会なんだけどさ。」

 

「へ、へぇ……(要するにライバル校ってことなのか)」

 

「ここは絶対に勝ってもらわなくては……赤塚のプライドが……!二人とも勝てるように全力で応援してきてね!」

 

「はい…」

「……。」

 

「返事!」

 

「はい!」

「はい。」

 

 

今回の応援の雰囲気は吹奏楽部もチアリーディング部も野球部も前回とは違い、殺気を持ったものであった。それは相手校が緑条だから以外の理由はなかった。

 

 

トド松は思う。

 

(ごめん。さっき吹奏楽部に入っててよかったとか言ったけど。あれ嘘だわ。だってめちゃめちゃ暑いんだもん!!)

 

彼の頭上には雲ひとつない晴天があった。ギラギラと光る太陽の光で目を細めないと周りがよく見えない。まだ午前中なのに立っているだけで汗ばんでくる気温。浴びるだけで身が焦げるような太陽光線が容赦なく彼を攻撃する。

 

(うわっこれ絶対にSPH25の日焼け止めじゃ絶対ダメなやつだ!まだ一応初夏だよ!今日は真夏並みじゃない!?今日3L水を持ってきたけど足りるかな……。暑い〜!!)

 

すでに楽器運搬で一汗かいたがこれからの応援がメインディシュだ。彼に逃げる場所はなかった。

 

 

野球場に着き楽器の運搬をしていると緑条の吹奏楽部の部長と部員一同がこちらに挨拶にやってきた。赤塚もそこで作業を止め、正面から迎える。

部長がコンクールメンバーなのでここにいない今、赤塚の代表として出て行くのは現在メガホンパートの総指揮役のバスクラの二年生だった。

 

「赤塚高校の皆さんこんにちは。」

 

「あ、こんにちは。」

 

「本日はとても良いお日柄ですね。」

 

「そうですね。こんなに晴れてしまってますね。天気が私たちの気持ちに反応したのでしょうか?」

 

「うわ〜赤塚の方の熱気ってすごいんですね!ちなみにどんな熱気でしょうか?」

 

「そりゃもう勝ちたいって熱気ですよ。緑条に。」

 

実況おそ松(赤塚、緑条を挑発ッ!)

 

「あっそうですか〜。あと今年の赤塚さんの吹奏楽部の人数が少ない気がするんですが……たくさん辞めたんですか?」

 

実況おそ松(なんで緑条はそれを知ってる!?)

 

「そ、それは……、今回はコンクールメンバー抜きの56人で来ているからですよ。OBも合わせれば75人くらいですかね。……それより緑条さんは今年部員入ったんですか?かなり少ないと聞いたんですが……?」

 

実況おそ松(なんで赤塚はそれを知ってる!?)

 

「な、なにを言いますか、今年はレベルの高い一年生がたくさん入ってくれましたよ?」

 

「具体的にいうと?」

 

「21人ですね。」

 

「あっ少ないですねw」

 

おそ松(またしても赤塚が緑条を挑発ッ!)

 

「いえいえ、野球応援は戦いですがウチは毎回部員全員71人で全力で楽器を吹いて応援していますから数なんか関係ないですよ。」

 

「先に数の話をされたのはそちらなんですけどね。にしても毎回部員全員ですか……、私たちは吹奏楽部の真の戦いの場はコンクールだと考えているので応援はコンクール練習の息抜きのたしなみ程度に捉えています。」

 

「そうですか。そういういい加減な気持ちでやる人たちは、今回の試合が今年最後の野球応援になると思いますよ?」

 

「いい加減なんて一言も言ってませんよ。」

 

実況おそ松(今度は緑条が挑発ッ!このダークのな雰囲気……二人の背中に黒い羽が見えるようです!)

 

「それはそうと……今年は去年とは違って赤塚さんはキャップを被っているんですね。」

 

「ほら、こんな日差しですからね、帽子を被らないと視界が悪くなって………………私たちが勝ったときの緑条さんの悔しがる顔がよく見えないじゃないですか。」

 

実況おそ松(赤塚、ここで最大級の挑発を繰り出すッ!ここで緑条はどう出るッ!?)

 

「にしても赤塚さんはいつも通りの真っ赤なTシャツですね。………………もしかして血まみれにされること前提でここにきているんですか?」

 

実況おそ松(緑条も最大級の挑発ッ!俺たち一応ここに野球応援できているんだよな……?)

 

「それじゃあ挨拶はこれくらいで、またスタンドで会いましょう。」

 

「そうですね、それじゃあ。」

 

実況おそ松(速報、今のはあくまで挨拶だった)

 

 

 

 

ギラギラした太陽の下で試合が始まった。

 

お互いの学校が吹奏楽部を応援に使っているので戦いは常にうるさい状態だった。

 

「もっと音量だして!緑条の吹部に負けるから!」

 

グラウンドで野球部が戦っている隣で吹奏楽部は吹奏楽部で爆音合戦を繰り広げる。もう応援という本来の目的はどこかへ行っているようであった。

スタンドは赤塚の赤と緑条の緑のTシャツの反対色が目をチカチカさせる。チョロ松は最初はヤクルトvs広島みたい…と呟いたがだんだん暑さでそんな冗談が言っていられなくなった。空の綺麗な青がこちらを見下ろし続ける。

 

 

 

一松たちはいなくなったコンクールメンバーの分の仕事が増え忙しくなっており、試合を眺めるとかそういうことをしている余裕がなかった。

 

「一松くん〜。次は…なんの……曲にする……?」

 

「なんでも…いい……。」

 

「そんなこと言わないで…意見出してよ……。今何回目……?」

 

「七回目……」

 

「え?ラッキーセブンじゃん……。」

 

暑さでフラフラになりながら相談する二人。ラッキーセブンというのは野球の試合での大きな節目である。プロ野球ではこの回に風船を飛ばしたり歌を歌ったりする重要な回である。

赤塚の吹奏楽部もこの回だけはやる曲をあらかじめ決めてあったので二人が相談する必要はなかった。

 

「え〜七回目の曲は『ルパン三世のテーマ』です!!みなさんあと少しだから気合い入れていきましょう!」

 

 

ババッパバッババラ〜 ババッババッバッババ〜↑

 

今は2-1で赤塚が勝っている。このまま勝ちきってほしい。

 

 

チョロ松は休みのときにタオルで顔をゴリゴリと拭く。そして久しぶりにグラウンドを見る。その時だった。

球がバットに当たった。それは斜め50度ほどの優雅な曲線を描いて雲の無い空へと登っていく。かなり速い速度のはずなのにチョロ松にはスローモーションのように見えた。

 

 

ーー綺麗。

 

 

どこまでも登っていきそうな白を青は優しく受け入れる。

 

キャーキャーワーワー周りが騒いでいるが彼には聞こえなかった。

 

 

ただ空を舞う球体を眺めて、

 

ただ聞こえる音楽を聴いて、

 

ただ初夏の日の光を浴びて、

 

ただリードの苦味を感じて、

 

ただ蒸される空気を吸って、

 

 

チョロ松はクラリネットとスタンドに立っている。

 

 

今演奏しているルパン三世のテーマの歌詞でこんなものがある。

 

『男には自分の世界がある。例えるなら空を駆ける一筋の流れ星。』

 

カラ松がルパン三世のテーマをよく歌っていたから覚えてる。そのときは全体的にカラ松が好きそうな痛い歌詞だな、と気にもとめていなかった。

だが今考えるとここの部分だけは最高にカッコいい。サビの終わりと曲の流れも合わさってここの部分はこの歌詞以上に感じさせるものがあった。

 

 

きっと今空を飛んでいるボールが今の野球部の流れ星で、世界なんだろうな……

 

 

作詞者は何を考えて男の世界を「一筋の流れ星」と比喩したのだろう?

 

何にも構わずに一直線に向かっていくところか

一瞬だけ光って一瞬で燃え尽きてしまうところなのか

孤独に光るところなのか

ほとんど誰にも見られずに光るところなのか、なんなのかは分からない。

 

でも確かに分かることは野球部にとっての流れ星はあの球なのだ。

すぐに消える流れ星は時に普通の星より美しい。

 

 

野球部にとっての流れ星がアレなら、僕にとっての流れ星は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「勝ったーーーー!!!!!」」

 

無事赤塚高校は三回戦も勝った。

「どうだ緑条」と言わんばかりに全員で大げさに喜ぶ。チョロ松もそれに加わっていたがどこか心がいたたまれない感じがした。

 

 

 

それからどんどん赤塚高校野球部は勝ち進んでいった。

 

「今回も勝ったねー!うちの野球部ってこんなに強かったんだー!もしかして甲子園に行ってくれたりして……」

 

「公立で甲子園は厳しいでしょ〜」

 

「でも毎年甲子園に出る50校のうち10校は公立高校だよ。可能性は無くは無いって〜。チョロ松くんはどう思う?」

 

「…………。」

 

「チョロ松くーん?」

 

ヤイとカナ子の二回目の呼びかけでチョロ松は反応した。

 

「あっごめん、甲子園?無くは無いんじゃ無いかな。でも甲子園に出たらコンクールに響きそうなんだけど。」

 

 

そう、着々と近づいてくるコンクール。チョロ松はそれにだんだん息苦しさを感じるようになった。

 

「そうだよね。緑条の人が言っていたように吹奏楽部の戦場はコンクールだもんね。」

 

「コンクール頑張っ!」

 

コンクール地区大会が始まる7月25日は決して初夏とは呼べない。今の段階のコンクールメンバーどんなレベルなのかをチョロ松はよく知らない。でもあれだけ頑張っているのだからきっといい結果になるだろう、なってほしいと彼は思う。

 

何回も野球応援に行って、野球部の勝ったときの喜び方を知っている。ワーとみんなで集まってひたすら叫ぶ。

一体あそこにどれだけの努力が隠れているのだろう。一生懸命。そういう言葉が似合う。

 

 

 

今年は暑い夏になりそうだとカラ松が言った。

 

チョロ松にはそれが痛々しく聞こえなかった。

 

 

黒いカラスが銀色の噴水でカーカーと鳴いた。




十四松「応援楽し〜!それでさ、野球の応援の帰りにパーカスのメンバーで打線組んだんだよ!」

十四松「なんの打線かというと……ジャン!『運びにくい打楽器打線』!」

十四松「それでは早速発表しま〜す!!」


1 (投)ハープ 32〜40kg
重い、高い、持ちにくいの3点セット。

2 (投)シロフォン 20〜24kg
階段の上り下りには最低四人は必要。

3 (投)ヴィブラフォン 28〜32kg
同上。金属製の破壊力はすざましい。

4 (投)ティンパニー 一台27〜45kg ×3〜4
一台の持ち運びには最低三人必要。そして3〜4台でワンセット。丸い形で持ちにくい。フチを持つとパーカスの人がキレる。

5 (投)チャイム 85kg
打楽器最重量。しかし形は他と比べると運びやすい。

6 (投)コンガ 22〜26kg
重さの割には大きさが小さいので1〜2人で運ばざるを得ない。

7 (投)シンバル 一枚2kg ×2
足に落としたら骨折or指切断。

8 (投)バスドラム 22〜28kg
これどうしよう感がすごい。

9 (投)マリンバ 30〜60kg
デカイ。物にもよるけどデカイやつはどうしようもないくらいデカイ。


トド松「十四松兄さん、全部投手ってどういうこと…。一気にたくさんのボールを受け止めなきゃいけないキャッチャーが可哀想……。」

十四松「キャッチャーもいな〜い!」

トド松「あっそうか、なるほど。……ってちがーう!!」
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