6つ子が吹奏楽部へ   作:ボコ砂糖野郎

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7月
真夏の試金石


蝉の声がどんなものなのかを説明する必要はないだろう。カラ松に聞こえるのはそれとトロンボーンの音だった。

 

窓の外の白く光るう○このような形をしている雲には目をくれず、ひたすら練習をする。

OBから差し入れでもらった冷えピタが額の汗で

剥がれかけてきたので、それをもう一度貼り直し、少しでも涼しくなれる風を浴びようと教室の窓を全開にするが大して変化はない。時々、10円玉サイズの羽のある虫がブンブンと教室に入って天井を迂回するのを目で追いかける。

 

彼の少し離れたところでコンクールメンバーがひたすら横の線を揃える練習をしていた。それを意識するたびに上手くならなくてはと自分が自分を追い立てる。

彼はトロンボーンと一緒の限り無口で痛いことは何も言わない真面目な高校生であった。

 

 

休憩時間中、先輩たちや同輩はトロンボーンを置いて駄弁る。

 

「暑いね〜。」

「夏だね。」

「夏といえばデートじゃん!あんたは良さげな男子いる?」

「いるわけないでしょ……。部活のせいでそんことしてる暇無いよ。」

 

カラ松にその会話は聞こえない。

 

「〜でもトランペットの子はデキてるらしいよー。」

「マジ?誰が?」

「知らない。ただの噂だもん。」

「そっか〜。話変わるけどクラリネットの人たちって恋愛系に疎いよね。」

「わかる。恋バナとかしそうじゃないもんね。『そんなことしてる暇があれば練習!』っていう殺気がヤバイ。少しくらい楽しんでもいいのに……。」

 

練習に殺気は出していないが、熱気なら出している高校生男子がここにいる。

 

「あとさ、クラリネット男子の彼女いない感がヤバイ。」

「確か五人いたよね。全員漏れなくガチでいなさそう。」

「類は友を呼ぶのね〜。」

 

 

スッと、カラ松の視界に一枚のまだ使用されてない冷えピタが映った。見るとパートリーダーのテツヤ先輩だった。

 

「ほら、やるよ。」

 

「あ……」

 

ちらっと冷えピタの箱の方を見るとカラだった。

 

「それ最後の一枚じゃないですか、いいですよ。」

 

彼はほんの少しだけ鬱陶しそうに答えた。それは無意識だった。

 

「受け取れよ。練習頑張ってるからくれてやる。」

 

「え…あっ……はい…。」

 

受け取れよという言葉に拒否を許さない威圧があったので、仕方なく「ありがとうございます」と受け取った。

 

練習頑張ってるって認めてもらえて嬉しかったが、別に頑張りを認めてもらうためにやっているわけじゃないのでちょっと罪悪感があった。まるで媚売ってるようじゃないか。

 

「でも休憩しろや。それであとで音出せなかったらしばくぞ。」

 

「いえ!まだまだ大丈夫です!…それに俺は下手だからもっと練習しておきたいです。」

 

ちなみにテツヤ先輩の口癖は「しばくぞ」で、何回もカラ松が痛いこと言うたびに言われ続けてきたが、今のところ本当にしばかれたことはない。

 

「よし、冥土の土産に教えてやる!」

 

「先輩…とうとう自分の大罪をカミングアウトしてゴートゥーヘルするのか……。」

 

「うるさい。よく聞け。」

 

「はい。」

 

「俺、パートリーダーやってるけどトロンボーン始めたのはここの吹部入ってからだ。」

 

「え……」

 

衝撃過ぎてでよく飲み込めない。

え?高校の吹部のパートリーダーって少なくとも中学からの経験者じゃないのか?そういう暗黙のルールじゃなかったのか?

 

「ちなみに同じ三年のうち経験者は2人いた。」

 

え?つまり経験者二人を破ってパートリーダーやっているということか?

 

「俺、立候補してないよ。先輩様からご指名を受けたんだぞ。」

 

立候補無しで!?パートリーダーは実力じゃなくてまとめる力が高い人がやってることは今までの経験で知っているが、そもそもパートリーダーとしてパートをまとめるにはそれなりの実力と経験がないと厳しいことも知っている。

 

先輩はクソドヤ顔である。

 

「ま、精々頑張りな。」

 

いや、だからそういうつもりじゃないのに……。

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