6つ子が吹奏楽部へ   作:ボコ砂糖野郎

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魂喰流 コンクール②

気がついたら演奏が終わって拍手を送っていた。拍手の音はホールの中を縦横無尽に反射されている。

 

 

 

 

舞台の上に立つ部員は下を向きながら素早く舞台から消えた。そこにすぐに運搬係の人が次の学校の準備を始める。

 

 

チョロ松は左右に座ってる二人の顔を見た。彼女らも同じだったのかチョロ松の顔を見てくる。

 

 

 

 

 

二人の顔は驚いていた。多分、僕も同じような顔をしているだろう。

 

 

 

 

 

ただそれだけでそれから二人は何もリアクションしなかった。

 

それがもどかしかったから僕の方から仕掛けた。

 

 

 

このホールではアリにも聞こえないような小さな声で「きん?」と聞いた。

 

 

 

その声は二人に届いたらしい。

 

 

 

いやおそらく口パクを理解したという方が多分正しいだろう。

 

 

二人はガンガン首を振って「だよね!?だよね!?だよね!!」と小声で叫んだ。

 

 

 

僕のたった三ヶ月間の経験がこれは金と言っている。中学からやっているカナ子が金と言ったならもう疑う余地は無い気がする。

 

 

 

他の部員も同じような感じだった。

 

とりあえず、演奏終了後は外で記念撮影することになっているので移動しなくてはならない。その時にも「あれ絶対金だわ」という会話が聞こえてきた。

 

 

外に行きしばらく待つとコンクールメンバーがやってきた。夏の太陽に金管楽器が照らされ、直視したら目が潰れそうなくらいにギラギラ輝いていた。

 

「先輩!めっちゃよかったですよ!!」

「さっきみんなで『あれ絶対金だ』って話してたんですよ」

「キャーー!!」

「お疲れ様です!」

「ホントダントツ1位だと思いますよ!金じゃなかったら審査員に殴り込みに行くわ」

「とにかく、お疲れ様!」

 

「はいはい!感想はあと!写真撮るよ!!みんな並べ!!」

 

部長が全員を誘導し集合写真を撮った。皆、真面目で顔を作ろうとしていたが先ほどの高揚感によりその顔は少しニヤついていた。

その後はパートごとの写真をとる。クラリネットパートはクラリネットが星型にになるように合わせたり、ホルンはベルを頭に被ったり、チューバはバズーカ砲などをやってたりしていた。

 

 

キャーキャー騒ぎ全員の額から汗が流れ始めた頃に本物の反省会が始まった。

 

 

「席から聞いていて……今日の演奏はどうでしたか?」

 

先生の問いにギクつきながらも「金だと思います」と口々に答えた。

 

「なんで?」

 

一人が答えた。

 

「何故なら私の経験がそう言っているからです。……先生が私らにCDを聞かせ続けたのはこう言わせるためじゃないですか?」

 

「……その通りです。客観的に判断して欲しいからです。他に思う人はいませんか?」

 

誰もいなかった。満場一致で金予想となっている。

 

「じゃあ今日演奏した人たちは自分たちでやっていてどうでしたか?」

 

一人が答えた。

 

「全力は出し切れてないと思います。」

 

先生が何か言おうとしたときに彼女は続けた。

 

「……というかこれが全力だと思いたくないです。」

 

「そうですね。確かにその通りです。何せ私たちは全国を目指しているのだから。」

 

「……!」

 

「人事を尽くして天命を待つという言葉があります。結果すら出てない現時点で何を言い合っても無駄だと思んです。とりあえず今は自分たちを褒めてください。」

 

顔の緊張が解けた。

 

「私はどんな結果でも赤塚高校が一番だと思ってます。」

 

吹奏楽顧問のお決まり文句を言ったあとお昼休憩となった。

 

 

 

休憩後は全員で残りの演奏を聴き続けた。感情の無い声とともに演奏が続き時が流れた。

 

 

「ーー22番、豊山高校。」

 

 

そしてこれがラストとなった。課題曲は赤塚高校と同じであった。

 

 

「この曲が明日も練習できますように……」

 

カラ松の横に座る先輩が小さく呟いた。

 

先輩は目を拭うような動作をした。

 

 

 

 

「ーー以上をもちまして、本日の発表は全て終了しました。」

 

 

終わった……。

 

 

「結果は今しばらくお待ちください。」

 

 

あれから赤塚高校を超える演奏は来なかった。

 

 

「また、結果発表が開始されますとホールからの出入りができなくなります。」

 

 

来なかったように思われた。

 

 

「お手洗いの方はホール出て右、または左の先になります。」

 

 

不安だけど…多分赤塚が一番だと思う。

 

 

「お早めにお済ませください。」

 

 

一番だと思いたい。

 

 

 

席にはいろんな学校の生徒が座り、会場は制服の白一色となっていた。

 

ザワザワと聞き取れない大きな話し声に囲まれながら友達と適当な雑談をして時を待った。

 

 

 

 

やがて頭がバーコード気味のおっさんが何もない舞台に現れた。

それに続き各校の代表者が二人づつ現れ、係りの人は大量の盾が置かれた机を運んできた。

 

我らの赤塚の代表は部長とサックスの副部長だった。

 

会場の声はボリュームダウンし、入れ替わるように舞台のマイクのスイッチがオンとなった。

 

「えー、それでは結果発表の方に移りたいと思います。」

 

見ればサックスの先輩はここから見ても分かるくらいに膝が笑っている。

とりま落ち着け。

 

「結果は金賞、銀賞、銅賞、三種類で発表いたします。ですが金と銀はよく発音が似ているため、金の場合は『ゴールド・金賞』と発表いたします。」

 

ふむふむ、確かに金と銀を間違えてぬか喜びとか恥ずかしい以外の何物でもないな。

 

「また歓声は発表の3秒以内でお願いします。繰り返します、歓声は3秒以内で。歓声は3秒以内でお願いします。」

 

なんだよ、歓声は3秒以内って。

 

「それでは発表します……」

会場にピンと糸が張られた。

 

「1番、櫓流高校……」

 

への字にして聞き入る。もちろん手には結果をメモするためのシャーペンがある。

 

「ゴー…」

 

「「キイイィィィヤァァァア!!!」」

 

耳をつんざくような女子の高い声が会場を引っ掻き回す。

 

生徒らはガッツポーズをしたりハイタッチをしながら奇声をあげている。

 

 

歓声は3秒以内ってそういうこと……。まだゴの字しか言ってないんだけど……。

 

「続いて2番、東堀北高校……」

 

「銀賞。」

 

先ほどとは違い、奇声はなかった。拍手だけだった。

 

「3番、桜司高校……」

 

「ゴ…」

 

「ッッシャァアアァァァァ!!!!」

 

もういい、分かったから。

 

「4番、瑞橋高校……」

 

「銅賞。」

 

拍手だけだった。

舞台にいる代表者たちは順番に盾と賞状を受け取っていっている。

 

どんどん赤塚の番が近づいてくる。副部長の足の震えが大きくなっている。

 

 

 

「11番、赤塚高校……」

 

もう来ちゃったよ!

 

もっと勿体ぶって発表してくれてもいいのに、司会の人は淡々と発表していく。

 

「神様…」と手を組み目を瞑る先輩。何故か目隠ししている先輩。じっと司会者の頭を見つめる先輩。と色々いた。

 

それぞれがこれから来る結果に対して万全の準備をしていた。

 

 

大丈夫、あれなら絶対に金だよ。多分金だよ。

どうしたの、みんな。さっきまで金じゃなかったら審査員に抗議してやるって言ってたじゃないか。さっきまでの自信はどうしたのさ……。

 

 

「ゴールド・金賞。」

 

 

ガバッと僕らは顔を上げた。そしてワンテンポ遅れて黄色い声をあげた。

 

だけどその声は前の学校と比べて小さかった。飛び跳ねるものもいなかった。別に嬉しくないわけではない。自信が他の学校よりかなり強くかくしんがあった。だから小さかった。

それに1番大事なのは僕らが県大会に行けるかだ。金賞はそのためのワンステップに過ぎない。

 

 

 

 

 

「以上で結果の発表を終わります。続きまして県大会に推薦する高校を演奏順に発表をします。」

 

 

ここからが本題だ。県大会に行ける高校は金賞を取った高校の中からさらにうまかった高校の中から選ばれる。

今回、金賞を取った高校は10校。この中から上位4校が県大会に進める。

 

「3番、桜……」

 

「アァアアアアァアアアアアァァァ!!!!」

 

 

すぐに次が発表される。

 

「9番、南……」

 

「バンザーーイ!!!」

 

 

次に金賞を取ったのは11番の赤塚高校だ。

つまり、次に読み上げられなかったらアウトということになる。

 

 

あぁこれ…すごく心臓に悪い……。

見てよサックスの副部長、顔が真っ赤だよ……。

 

 

「11番…」

 

「きたああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

今度こそ僕らは座席から飛び跳ねて喜んだ。

 

11番、赤塚高校。キタ!!

 

隣のヤイとカナ子と思いっきりハイタッチをした。

後ろの先輩が喜びのあまり僕の座ってる座席を蹴ってきた。

 

 

その後残りの一つの発表を終え、関係者がありがたいお話をしてくださっていた。しかし僕らは喜びのあまりほとんど聞いていなかった。

 

 

 

「これをもちまして、吹奏楽コンクール地区大会を終わります。本日はみなさんお疲れ様でした。」

 

 

司会者は頭を下げた。バーコードがよく見えた。今日1番の拍手が起こった。

 

 

 

 

 

外に出て反省会が行われる。同じように他の学校も反省会を行っている。

 

「とりあえず、みなさん金賞おめでとう。県大会出場おめでとう。」

 

「「ウェーーイ!!」」

 

「では明日からも練習頑張りましょう。今度は支部大会に行けるように。私からは以上です。」

 

パチパチパチ〜

 

顧問が喋り終わると副顧問が喋り始めた。

 

「では、審査員の方から頂いた総評を読み上げたいと思います。

『日頃の濃い練習の成果が伺えるまとまりのある演奏でした。特にピッチによく気を使われていることがひしひしと伝わってきます。しかしピッチを合わせることに集中しすぎて全体としての激しい起伏が少なかったように思われます。しかし全体としての安定感はどの学校よりも抜きん出ていました。県大会にてのさらなるご活躍をお祈りしています。』だそうです。」

 

最後の部分ってモロに就活のお祈りメールそのままだな。

 

「色々あったけどとにかくおめでとう!私からは以上!…なにか部長からありますか?」

 

「もう今日は朝といいチューニング室といいたくさん話したのでもう疲れました……。」

 

「私も疲れました。精神的疲労ヤバかったです……。」

 

「あははは、舞台の上でコチコチだったもんね、アンタ。」

 

「そんなことないよ…。」

 

「あの……、私から一ついいですか?」

 

手を上げたのはホルンパートのエチ子先輩だった。

 

「はいどうぞ。」

 

「じゃあ行きます…………何満足してるんですかっ!!私らにはこれから県大会があるんですよ!!もっと気を引き締めて!!次はもっとヤバイよ!!……………………以上です。」

 

悪戯風が吹くように大声で意見を述べた彼女にポツポツと拍手が送られた。

 

「そうだね!そうだよね!それでこそ我らのエチ子だわ!」

 

部長が感激して彼女の手をブンブン振り回す。

 

「ええっ…あっはい……。」

 

「アンタのそういうとこ好き!みんな聞いた!?明日からはもっともっと練習に力入れるよ!今度は支部大会に行けるように!そのためにも……」

 

部長は武水先生の方を向いた。

 

「明日からもよろしくお願いします!」

 

この後に言う言葉は分かった。

 

「「よろしくお願いさます!!」」

 

全員の声に周りの学校がこちらを向いてきた。

先生はふふふと笑った。

陽はほとんど西に落ちていた。

息を吸うのも億劫なくらい蒸し暑い。僕らの頭上の宇宙に吸い込まれるような紺色の空には星が光っていた。

 

 

 

 

 

それから練習は続いた。コンクールメンバーはマーチングの練習をしながらコンクールの曲の精度を高め、僕らはひたすらマーチングで真夏の太陽に撃たれていた。

 

そして二週間が過ぎた8月の第1週に県大会は開かれた。

 

レベルは地区大会で金賞受賞校を集めただけあって高かった。しかし我らの赤塚はさらに技術を高めてきた。

 

 

結果は金だった。

 

地区大会に比べて、演奏を聞いての自信は薄くなっていたがしっかり彼らは金を取ってきた。

 

そして肝心なのが支部大会に行けるかどうかだ。

 

 

 

 

 

 

ーー「8番赤塚高校支部大会推薦」になった。

 

歓声は前よりもずっと大きかった。何せ赤塚高校がここ10年は行けていなかった支部大会という舞台に自分らで進んだのだから。

 

去年の地区大会銀賞の無念は完全に晴らしたと言ってもいいだろう。

 

 

 

次に迫るのは支部大会。8月30日だ。

 

まだまだ3年生は引退できない。3年生の青春の期限はまた引き伸ばされた。

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