6つ子が吹奏楽部へ   作:ボコ砂糖野郎

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Q.そういえばカラ松は演劇部じゃなかった?
A.多分中学だと思います……(目そらし)


部活初日② 〜楽器体験〜

机を並べ終わると先輩たちが沢山の楽器を抱えながら第二音楽室に入り、それを机の上に並べた。

 

「では、今から楽器を吹いてもらいます。第二音楽室にも楽器はあるのでそちらにも行くように。それではみなさん散って下さい。」

 

副部長の合図で一年生はそれぞれ自分の吹きたい楽器のところへ移動を始める。チョロ松と十四松も移動をしようとしたが後ろから強く肩を掴まれた。

 

「ねえ。ホルンやってみたくない?ホルンやろうよ?」

 

 

吹奏楽部における楽器体験は二、三年生にとって「どこのパートが沢山一年生を勧誘できるか」という戦いになる。「勧誘」という言葉よりは「拉致」という言葉が似合うかもしれない。ともかく、その拉致対決に一年生は振り回されることとなる。「この楽器をやる?」という質問に意見をはっきり言えない内気な子は自分の望まぬパートになってしまうことも少なくないのだ。

チョロ松と十四松は笑顔でホルンをわたされた。

 

「右手はベルの中に入れて、左手はレバーのところに当てるの。」

 

ちなみにベルというのは菅の出口の大きく広がった部分のことである。

二人は言われるがままに楽器を構える。鳴らしてみてと言われたので息を思いっきり吸って吹いてみる。しかしスゥーーという3mの菅を抜ける空気の音しかしなかった。そのうち肺の空気を全て出し切り、その音は途切れる。もう一度息を吸おうとしたとき、隣の十四松ン”ン”ン”ン”ン”という鼻の詰まった音を鳴らした。

 

「わーい!音でたー!」

「すごいな十四松。」

「あらー、十四松くん音が出たわねー。ホルンやらない?」

「他の楽器をやってから決めまーす!」

 

先輩はにやにやしながら尋ねたが十四松はあっさり突っぱねる。先輩は少し残念そうな顔をした。

 

「あっそう…。えっと……あなたは松野ナニ?」

「ち、チョロ松です。」

6つ子の上の名前はすでに吹奏楽部内に知れ渡っていた。

 

「チョロ松くん。口を閉じたまま息を出す感じでやってみて。」

 

口を閉じたまま息を出すって矛盾していないか?という感想を持ちながらもう一度息を出す。今度は空気の通る音すらしなかった。口を閉じるということを意識しすぎて彼は口から空気が出せなくなった。チョロ松の顔がだんだん赤くなっていく。

 

「ぷはぁっ!はぁはぁ……。あ…苦しい……。」

 

肩を上下して呼吸する。音を出す段階でこんなに苦労することは想定していなかった。演奏なんて夢のまた夢に感じる。

 

「んー。みんなそこそこは音が出るはずなんだけどなー。練習すれば出るようになるよ。」

「いや……他の楽器もやってみたいので……。」

 

そう言うとチョロ松は先輩にホルンを返し、軽く会釈をしてから他の楽器のところへ移動した。十四松もあとについてきた。

 

 

 

 

 

ちょうどチョロ松が顔を真っ赤にしているころ、カラ松も顔を青色にしていた。彼はフルートと対峙している。

一生懸命息を吹き込むが音は出ない。酸欠で視界に星が見え、ゼェゼェと荒い呼吸をするカラ松にトド松が少し休憩したら?と声をかける。

 

「いや…、こいつが……な、鳴らしてクッ、れって……」

「むしろフルートの方は鳴らして欲しくないんじゃない?」

「え」

 

 

かと言うトド松もフルートを握ってるだけでほとんど吹いていなかった。

 

(周りの女子もめちゃめちゃ一生懸命に音を出そうとしているけどさ……、ほとんど変顔になっちゃってる子もいるんだよね………。)

 

 

フルートは清楚な可愛い女の子が穏やかな表情で吹いているイメージがある。

しかしあれは嘘だ。フルートの音を満足に出すためには、吹奏楽の中でもトップクラスの肺活量が必要である。しかも肺活量だけでなく早い息のスピードも必然とされる。そのため、フルートの音色を出すために必然的に演奏者の表情は大なり小なり歪む。

フルートを全く表情を崩さずに吹ける人の腹筋が割れているという例は少なくない。

 

 

「カラ松くんさ〜、息を当てる位置が違うんじゃない?」

「え、そうですか?」

「穴に息を当てるんじゃなくて、穴の角に息を当てるんだよ」

「なるほど!」

 

彼は穴の角を意識して息を吹き込む。すると低い フー という音がした。

 

「やった!出た!!」

 

正直、トド松にはあそこまで一生懸命になってフルートを吹く気は無かった。

恥ずかしい

その感情がトド松の中で大きくなり、早々にこの部活に入ったことを後悔し始めていた。

 

(ていうか思ったんだけど吹奏楽部って間接キスのオンパレードだよね。みんな突っ込まずに普通にやってるけどさ……。)

 

そこの点も潔癖症気味のトド松にとってはマイナスポイントだっのだ。

 

 

 

 

「あれ〜?カラ松くん吹いてないの?」

 

先ほどの先輩とは違う先輩がトド松に不意に話しかけてきた。

 

「僕はトド松で、カラ松はこっちです。」

 

彼は指差し説明する。

先輩はごめんと謝ったあと、持っている自分のフルートをトド松の顔の真ん前に近づけ、見せつける。

 

「よく見て。このフルートのボタン、キーって言うんだけどさ、ここを押すとココが閉じるの。で、コッチのを押すとココとココも連動して閉じるの。」

 

不思議じゃない?と先輩は言う。

そうなるように作ってあるんだから、そうなるのは当然だろ。そう思いながら彼はフルートのキーをガチャガチャと押す。小さな金属が小さく動く。

 

「しかもフルートは管楽器の中で一番歴史が深くて、今のこのフルートができたのは19世紀なんだよ。19世紀にはもうこんなものを作れてたなんて意外じゃない?しかも19世紀って工業の発展とかその他もろもろ色々あってとっても忙しかった時期だよ。そんな忙しい中で、腹の足しにもならない音楽のためにフルートが生まれたのはなんでだと思う?」

「なんでしょう……?」

 

「音楽がやりたかったから!」

「はぁ……」

 

なにかぐっとくる答えがくるかと思い身構えていたが、予想の斜め下の答えに脱力する。

先輩はそんなトド松にドヤ顔で言い放つ。

 

「腹の足しにならないメイドイン19Cをあなたに!さぁ吹け!」

 

 

(腹の足しにならないフルートかぁ……)

斜め上を見ながらトド松は言われるがままに吹いてみる。

そこには風がつむじを作るような音がした。

 

「ほらでたじゃん。」

 

(鳴った…)

彼は目を見開く。始めてフルートを鳴らしたその感想は、同じく吹いて鳴らすリコーダーを始めてやったときとは全く違った。 漠然とした感動が彼を包み込む。この気持ちはなんだろう。不明瞭な感動の中にある確かな疑問は彼の瞬きを忘れさせる。

 

今自分の中で風が起こった。

 

その事実を手のなかのそれとともに握りしめた。

 

 

 

 

 

おそ松と一松は開始早々にサックスパートの人に拉致られた。二人が断りの言葉を入れるスペースはどこにもなかった。

渡されたアルトサックスは想像以上に重たかったが、吹いてみると案外簡単に音が出た。

先輩が指使いはリコーダーと同じだよと説明すると、二人はドレミファソ〜と音を出す。

その音は横にうゎんうゎん揺れていた。

 

そしてある程度吹いて先輩を満足させたあと二人はその場所を離れた。

 

 

 

 

 

 

「なぁ〜一松。吹奏楽で一番オイシイ楽器ってなんだ?」

「オイシイ楽器?」

 

おそ松は楽器の説明をされているときもそのことしか考えていなかった。どの楽器が一番音が聞こえやすく一番目立つかということを。

 

「一番目立つ音の大きい楽器だよ。長男はそれを演奏するっていう責任と義務があるだろ。」

「そんなこと聞いたことないし。」

 

彼の性格的にそう楽器をやりたがるのは必然的だった。もう深くは説明しない。

 

「あ。」

「ナニナニ?一松?」

「ほらあの黒いやつ。オーケストラのバイオリンポジって言ってた。なんだっけ?」

「あぁ〜〜チュバリネットだっけ。」

「クラリネットだよ。」

 

二人の後ろには腕を組んだチョロ松がいつの間にか立っていた。

 

「それそれ!てゆうかチョロ松吹いたの?」

「さっき吹かせてもらったよ。バスクラリネットだったけど。」

 

バスクラリネットというのは普通のクラリネットより大型でより低い音の出るクラリネットのことである。

そして本当のことをいうと、彼ががバスクラリネットを持っていた時間のうち楽器を吹いていたのは三分の一程度である。残りの三分の二はひたすらクラリネットを眺め、キーをいじっていた。

一つのキーを押すと1〜3つの穴が閉じたり開いたりする。彼はその連動の仕組みをずっと感心・感動し、眺め確かめ続けていた。

楽器を鳴らそうとしている一年生の中に一人だけキーをひたすらいじくり回しているチョロ松に先輩が若干引いていたことに彼は気づいていない。

 

「それって音デカイ?」

「デカてりゃいいってものじゃないだろ。」

「思いっきり吹いても怒られない?」

「思いっきり吹いたら全体のバランスが崩れるし。」

 

「ハイハイは〜い!そこのお前!トランペットやらないか!」

 

二人の会話に割り込んできた男子の先輩は待っていました!と言わんばかりだった。

 

「トランペットは吹奏楽の花形の花形の花形だし、大きい音出しても『まぁ、トランペットだから……』って許してもらえるし、それどころかもっと音量を要求されたりもするんだぞ。」

「はぁ」

「あと、川の土手で夕日に向かってトランペットを吹いて、自分に酔うのが楽しい。」

 

それ後々黒歴史になったりするやつだろ。

チョロ松はこう思ったが相手は先輩なので口には出さない。

 

「君の楽器適性診断の結果はトランペットだ!!」

 

ビシッとおそ松に指を指す。彼はその指の先をぽかんと見つめる。

先輩の大きな声に他のトランペットの先輩が集ってきた。

 

「メイン担当多いスか?」

「多いよ!眠くなるくらい休みも多いときがあるけどな。吹くところはメインばっかだぞ。」

「あっ、じゃあトランペットやります。」

 

「決断早っ!!」

「よっしゃー!一年取ったどー!」

「やったね!」

 

先輩たちは口々に喜んだ。

 

長男様はいざってときに目立ってナンボだもんな。おそ松なプライドだった。

 

 

「他の兄弟はどうなの?一箇所の楽器に何人も固まったら大変そうだね。」

 

主に区別の面で、と先輩は付け足す。

親でも間違えるレベルなのに、赤の他人に分かるわけがなかった。

 

 

「六つ子って好みも同じなの?同じ楽器を選んだりするの?」

 

先輩たちは嫌味などの意味ではなく純粋な興味で三人に質問した。その目は生まれてはじめ朝顔を見たような目だった。三人はその質問で顔を見合わせる。

 

「チョロ松、お前何やりたいの?」

「クラリネットだよ。」

「一松は?」

「えー。特に無し。」

 

「あっやっぱ好みは違うんだ。」

「なるほどー。」

 

じゃあ!と言ってから先輩たちは他の一年生の勧誘に行った。

 

「なんでお前クラリネットなんだよ。」

「悪い?」

「聞いただけじゃん。なんでキレてるんだよ。」

 

やりたい理由が一目惚れなんてこの兄には言えなかった。恥ずかしい。絶対イジられる。

チョロ松にはメインがやりたいという理由でトランペットを選んだおそ松の方がまだ真っ当だと思っていた。

パートがまだ決まったわけではないけど。

 

一松についてはいつもがこんな感じなので、特にやりたい楽器が無くてもなんとも思わなかった。たぶんこのあと困ることが出てくるだろうな……程度だった。

 

 

 

 

 

そんな中、

 

 

「みんな聞いて〜〜!!!!!!」

 

 

 

 

部長が大声で部員に呼びかけた。

場は静かになる。

 

 

「一年生の楽器体験は明日までってなっていたけれど、諸事情により今日限りに変更します!」

 

 

ええ〜、マジで〜という声が主に二、三年生から漏れる。

 

 

「だからしっかり楽器勧誘をするように!以上!」

 

 

楽器勧誘が出来るのが今日だけということが知らされるなり先輩たちの空気の色が変わった。

一年生を拉致する声の音量が上がる。

 

当然三人にも声がかかる。

 

「ねぇ〜キミ。聞いたでしょ?楽器体験、今日までなんだって〜。ホルンやらない〜?」

「僕、ホルンならさっきやりました。」

「またまた〜。6つ子だからって他の兄弟のフリしな〜いの〜。」

「チョロ松です!さっきやりました!」

「え?チョロ松くんなの??……まぁいいや。何回やっても損はしないから。」

「あぁ…」

 

そう言いわれてまたチョロ松は拉致られた。

おそ松もパーカスに拉致られ、一松もユーフォに拉致られた。

 

 

なんだこの執念……

 

 

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