6つ子が吹奏楽部へ   作:ボコ砂糖野郎

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第46話

 

……で、すぐにその日はやってきた。

 

俺はAチーム、トド松と十四松も同じだ。

Bチームの人に見送られながら原幼稚園に出発した。鼻水垂らした幼稚園児がいっぱいいるんだろうなと思うと気が重かった。

 

高校から歩いて30分経つと柵に囲まれた明るい色の建物が見えてきた。

駐車場門から中を覗くと既に楽器を乗せたトラックがついていた。

 

「こんにちは〜。」

 

園の職員の人が出てきた。俺らはあいさつを返す。

 

「えっと、それじゃあまず…」

 

「お構いなく!私たちは私たちで準備をしますので!」

 

パーカスの副部長が食い気味で言った。その気迫に押されて職員は「じゃあお願いします…」と細い声で言った。

 

「じゃあホールに荷物を全部運んで!すれ違った人にはあいさつを忘れないように!」

 

「「はい!」」

 

ちなみに彼女かこのAチームのリーダーとなっている。

 

 

ホールに楽器を運ぶときには園児とは、すれ違わなかった。どうやら教室で何かやってるらしい。運動場のジャングルジムと滑り台が寂しそうに風に吹かれている。

 

楽器を運び終わったら早速組み立てる。ファゴットの組み立てのめんどくささと言ったらもう最凶クラスだ。終わると個人で音出しをしていく。

 

「チューニングします!」

 

「「はい!」」

 

金と木が混ざった音がガラス面が多いホールに乱反射する。俺らは舞台に乗って演奏はしない。舞台が狭すぎる。

 

「いい?相手は幼稚園児。もしかしたら演奏の途中でこっちに走ってくるかもしれないよ!そういうときは赤塚高校の名にかけてアドリブで乗り切るように。それと笑顔も忘れないように!」

 

「「はい!」」

 

「あとなんか今日は保護者も何人か知らないけど見に来るらしいから、恥ずかしくないようにすること!」

 

「「はい!」」

 

しばらくすると園児たちが先生に引き連れられてホールにやってきた。園児たちは金や銀に光る楽器を見るなりに驚きの声を上げ始めた。

たぶんこんなにたくさんの種類の楽器を一度に見るのは初めてなのだろう。

 

「今日は、原幼稚園のみんなのために赤塚高校のお兄さんとお姉さんたちが来てくれました。ちゃんと静かにできるー?」

 

「「はーい!!」」

 

先生が園児にちゃんと注意を入れる。

人数は200人くらいか、それプラス職員と保護者でホールは埋まった。

園児がちんたら並んでいる間、俺らはずっと待つ。ひたすら待つ。吹部の部員で唯一違う動きをしているのはティンパニーのチューニングをしている人か。ポーン、ポーンと柔らかい音がする。

 

ようやく園児たちが並び終わった。ほんと長かった。たかが5分か10分くらいだかほんと長かった。

しかしまだティンパニーのチューニングが終わっていないらしい。

 

「センパイ、大丈夫すか?」

 

十四松は先輩に問いかける。

 

「あ…うん今頑張ってる……。」

 

ポーン

 

「これ音途中で上がってるよね。」

 

「上がってますね。」

 

「どうしました?」

 

同じく一年生もやってきた。それを見て先輩は細い声で「私、あんまりティンパニのチューニングしたことないんだよね……。」と言った。

 

「ファイト!」

 

「あぁ…いっつも三年生がテキパキ終わらせていましたからね……。」

 

ここでも新体制の弊害が出てきた。

 

「あれ?音が高いときってスプリング調整ボルトをどっちに閉めるんだっけ?」

 

 

*****

 

 

副部長はティンパニのチューニングが終わるのを待っていたが、時間が無いと判断し終わる前に前に出て話し始めた。

 

「原幼稚園のみんな、こんにちは!」

 

「「こーんにーちはー!」」

 

ポーン

 

「私たちは赤塚高校から来ました!」

 

ポーン

 

「今日はみんなと楽しい時間を過ごせたらいいな!」

 

ポーン

 

「じゃあ楽器の紹介をしようかな!」

 

ポーン

 

「みんなの知ってる楽器もきっとあると思うよ!」

 

ポーン

 

副部長はクルッと振り向くと「ティンパニーはまだ終わらねぇのかよ」と視線を送った。

十四松たちパーカッション全員は「あと一台です!」と視線を返した。

 

「それでは紹介をどうぞ〜」

 

ポーン

 

「はーい!こんにちは!これなんて言う楽器か分かる!?」

 

「なんか見たことある〜!」

「クラリネット!」

「たてぶえ〜」

「クラリネット!」

 

ポーン

 

「そう!これはクラリネットっいう楽器なんだ!クラリネットはこんな小さい木の板を震わせて音を出してる楽器で、高い音も低い音も得意なんだよ!」

 

ポーン

 

「それに仲間もたくさんいるんだ!じゃあクラリネット4重奏で『クラリネット壊しちゃった』を吹きます!」

 

*****

 

クラリネット壊しちゃったが終わるころにはティンパニーのチューニングは終わっていた。

 

「これ、なんていう楽器か知ってる!?」

 

「フルート!」

「フルートォ!!」

「フルート?」

 

「せいかーい!フルートっていう楽器なんだよ。フルートはキラキラしててとっても可愛いよね。フルートは高い音が得意なんだけど、ピッコロっていうさらに高い音が得意な仲間がいるんだ!ちなみにピッコロって検索かけると緑色の宇宙人の方が上に来るけど、間違えないでね。」

 

トド松たちフルートパートの人は前に出てきた。このあとに吹く曲は彼らの担当だ。

 

「じゃあ今からフルートピッコロさ3重奏て『ピタゴラスイッチテーマ』を吹きまーす!」

 

トド松は構えた。なぁに、この曲は1番上のピッコロが忙しいだけで下のフルート2本は表打ちをするだけだ。しかも短い。

 

*****

 

「こんにちは!この楽器、とってもキラキラして綺麗だよね?この楽器なんていうか知ってる人〜!」

 

「トランペットォ!」

「ラッパ!」

「ラッパ?」

 

「そう!サックスだよ!サックスはクラリネットと同じように木の板で音を出してるんだよ。それに仲間がたくさんいるんだ。みんなこれはサックスだよ!サックス!サックスだよ〜!」

 

トランペットとか言われたのが相当キテるんだろうな…と大役を終えたトド松は思う。

 

「じゃあサックスファミリーで『アンダー・ザ・シー』行きまーす!」

 

*****

 

「みんな!これなんていうか知ってるよな!」

 

「トランペット!」

「ラッパ!」

「トランペット!」

「トランペット!」

 

「やっぱみんなトランペットはよく知ってるようだな。トランペットはファンファーレとか華やかな音が特徴なんだ。じゃあ今から独奏で『ハトと少年』を吹きまーす!」

 

*****

 

「みんなこれ知ってる?」

 

「……ラッパ?」

「ラッパ!」

「…ラッパ!」

 

「うん、ラッパなんだけど、正しくはホルンっていう楽器なんだ。このグニャグニャの菅を伸ばすと3メートルくらいになるんだよ。ちなみにホルンやトランペットは唇の振動だけで音を出す、金管楽器っていう楽器だよ。それじゃあホルン3重奏で『さんぽ』を吹きます。ホルンのあったかい音色をわかってもらえるといいな。」

 

*****

 

「こうやってここを動かす楽器ってみんな見たことある?」

 

「ラッパ!」

「ラッパァァ!!」

「トロンボーン…」

「見たことある!」

 

「トロンボーンっていう楽器だよ。トロンボーンはここを動かして音を変えるの。よく前の人に当てちゃうことが多いんだよ…。トロンボーンは太い音が特徴で1番大き音がでる管楽器と言われてるの。それじゃあトロンボーン3重奏で『ミッキーマウスマーチ』やります。」

 

*****

 

思ったんだけど、なんでこんなテンションが高いの?俺もあのテンション紹介しなくちゃダメなの?と思いながら一松はオエリ先輩と立ち上がった。

 

「はーい!こんにちは!これなんて言う楽器か知ってる?」

 

「クラリネット!」

「クラリネット!」

「クラリネット!」

 

「残念!クラリネットじゃないんだ。ほら先っぽを見てトンがってるでしょ。これはオーボエっていう楽器で。なんと二枚の木の板を使って音を出してる楽器なんだよ。世界一難しい楽器って言われてるからみんな覚えてね。オーボエっていうんだよ。オーボエ。オーボエだよ〜。オーボエだからね〜。みんな覚えてね〜。オーボエだよ〜。オーボエね〜。」

 

(そんなにオーボエの知名度を上げたいか)

 

続いて一松が紹介を始める。

 

「これ、なんていう楽器でしょう。」

 

「……」

「……」

「……」

 

(うわぁ…。言うんじゃなかった。そうだよな、一般人が知らないなら幼稚園児が知るわけないもんな。)

 

「……」

 

(ちくわ大明神でもいいからなんか答えろや!)

 

「あ…これはファゴットっていう楽器。オーボエと同じく二枚の木の板を使って音を出しています…。音は結構特徴があるのに合奏になるとほとんど聞こえません。今からオーボエとファゴット2重奏で『もの…」

 

「お兄ちゃん、さっきはフルート吹いてなかった?」

 

一番前に座っていた園児が声を張り上げた。一松は舌打ちした。

 

「あれ?でもさっきフルート吹いてたお兄ちゃんはこっちにいるから……お兄ちゃんたち双子!?」

 

「あ?う、うん。そういうことでいいや…」

 

園児たちの中で歓声がわいた。

 

「あのね〜、アカリちゃんのお姉ちゃんも双子なんだよ〜」

 

「へぇ……」

 

(アカリちゃんの姉ちゃんとか俺知らねぇよ)

 

「じゃ、じゃあオーボエファゴット2重奏で『もののけ姫』やりまーす!」

 

先輩が無理やり割って入って軌道修正した。

 

とりあえず今日の仕事は終了したも同然になった。

 

*****

 

「これは…、ユーフォニウムっていう楽器で、トランペットとと同じ金管楽器なんだけど、優しい音が特徴なんだよ。」

 

「これはスーザフォンっていう楽器だよ。お姉さんはいつもはチューバっていう楽器を吹いてるけど立って演奏したりするときはこっちの楽器を使うんだ。音はとっても低い音がなるよ。」

 

「バイオリンじゃないよ、コントラバスだよ。でっかいでしょー!吹奏楽の中で唯一の弦楽器なんだよ。でっかいバイオリンじゃないからね〜。では今から『ぞうさん』をやります!」

 

*****

 

「はーい。パーカッションです。パーカッションはみんながよく知ってる楽器が多いと思うよ。」

 

「これはドラムです。全体の進行役です。」

 

「続いてはこれ!右からシロフォン、ビブラフォン、グロッケン!みんなは鉄琴とか木琴て呼んでるよね。」

 

「これはティンパニーでーす!でっかい太鼓で3〜4つでセットでーす(ドーン」

 

順番にローテーションをしていく中で十四松が喋りはじめた。

 

「あい!これはカウベル。叩いて音を出すの(カーン で、これがトライアングル(チーン これがタンバリン!知ってるよね!」

 

そしてバトンは再び副部長に戻ってきた。

 

「で、これがシンバル。他にも色々あるんだけど残念ながらここには持ってきてないんだ〜。……今紹介した楽器たちは単体でもとっても綺麗な音なんだけど、組み合わせるともっとすごいことになるよ!『夏祭り』をお聞きください!」

 

 

ドラムの4カウントで木管パートの静かなイントロのが始まった。

前奏が終わるとでっかく金管たちが入ってきた。その音量に幼稚園児たちはビクついたがそれはだんだん手拍子へと変わっていった。

 

手拍子をもらいながら吹くというのは初めてだった。拍手に乗せられだんだんテンションも上がってきた。そのまま走るように夏祭りは終わった。

 

「ありがと〜!じゃあこの調子でみんなノッて行ってね!」

 

 

その後フライングゲット、紅蓮の弓矢、狙いうちを演奏して今回の訪問演奏は終わる。

 

終わったあとも出るのに一苦労だ。園児たちは楽器に興味津々でこちらにウヨウヨ寄ってくる。それをくぐり抜け楽器をトラックに乗せて完了。

 

 

一松たちが幼稚園にいる頃、学校の方では……。

 

 

*****

 

 

おそ松は青い空に向かってディズニーを吹く。若干ヒリヒリする口をタオルで拭いて、マウスピースも拭く。

 

バランスのために未経験の一年生のどっちかに1stをやらせるという話があった。それを決めるのは夏休み中で、実際に1stに移行するのは音楽会とときかららしいが。

 

今は九月。その話題に関して夏休み前から全く進歩がない。

たぶん先輩から忘れられている。

 

まぁ無理もない、何せ支部大会まで行ってしまってドタバタ忙しかったのだから。しかしおそ松はそろそろアヤカとの一触即発状態に疲れを感じ始めていた。

 

いかに自分が1stに向いているかをアピールするために無理をしてやたら高い音を出し続けたり、いかに自分が真面目な人かを先輩に見せつけるために休憩時間もほとんど休憩せずに練習をしたりなど。

でもその代償を払うほどにおそ松は1stがやりたかった。

 

なぜならトランペット1stは花形だから。

それ以外に無い。

 

でもそろそろ本当に疲れた。それはアヤカも同じようであった。決めるならさっさと決めて安心したい。

 

でも先輩から今のところそれを決めるような気配を感じられない。

 

(こういうのはもう言っちゃっていいのかな……?)

 

でも言わなくてもある程度すれば、必然的に決めなくてはいけないから言う必要はないかもしれない。

もしかしたらこのままの状態でいくかもしれない。

 

(でもそれじゃあ一年トランペット2nd壊滅的じゃん。やっぱここで堂々と言っちゃって、度胸アピールした方がいいのか……?う〜ん…)

 

 

珍しくおそ松が悩んでいる。

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