パーパカうるさい音楽室で肩を落としているパートがあった。
トロンボーンパートだった。
彼らは明るい音楽室で唯一黒いオーラを出して黙っていた。
そのオーラを唯一その部屋で察したカラ松はぞくりと体を震わせた。
…………ここは話しかけるべきだろうか。関わらない方がいいのだろうか、ここにいるみんな誰も触れてないし。
カラ松の中で二つの選択肢が渦巻く。でも話しかけないと後々後悔するような気がしたので恐る恐るその黒いオーラに話しかける。
「あの……どうかしたんですか…?」
先輩たちの目に眼光が走る。
「こうやって話しかけてくれたのあんただけだよ〜。あのさ、ちょっと私らの愚痴聞いてくれない?」
ねっとりとした声を出しながら先輩はカラ松の肩に手を置く。彼の体はピクリと震えた。。
高校生男子なので少しくらいドキッとしてもおかしくなかったが、これはどちらかというと恐怖からきていた。
なんで俺、話しかけたんだろ……。これからもしかして女の闇を覗くことになるのか??
「なんかさ〜」
「……はい。」
「トロンボーンを希望する子がめちゃめちゃ少ないんだけど。」
「そ、そうなんですか……」
そんなことか。そんなことでこの光の音楽室にダークオーラだすなよ。
あ、ダークオーラって言葉いいな。
「だってさ今の所、トロンボーンを第一希望にしているのが中学で経験した子が一人だけなんだよ?サックスとかは結構いるのにさ〜。なんか傷つく。」
「そうなんですか……。」
もう俺、ここから離れちゃダメなのかな?ダメなの?離れたいんだけど!
「あーあー、どこかにトロンボーンを第一希望にする子いないかなー。」
「ねぇ!トロンボーンやらない?ねぇ、トロンボーンやらない?ねぇトロンボーンやらない?ねぇトロンボーンやらない?」
「え、え、え?まだ考え中です…」
「考え中ならトロンボーンやってよ〜。さっきいっぱい音出てたじゃん〜。」
「それたぶん僕じゃないです……」
「まだ考え中なら当然トロンボーンも視野に入ってるんだよね?」
カラ松の肩を掴む先輩の手に力が入る。
「そ、そうですね……。」
「トロンボーンやらない!?」
「考えておきます……」
カラ松はその場から逃げようとする。しかしねっとりとした声がそれを妨げる。
「ちょっと行かないで!」
「トロンボーン楽しいよ〜。スライドを使う楽器なんてトロンボーンだけだよ〜。松野くんそこそこ手が長いから向いてると思うんだけどな〜」
「他の松野じゃダメなんですか…同じ体格ですよ……」
もうこの人たち怖い。十四松とトド松がニヤニヤしながら俺のこと見てるし!ちょ、助けて……
「トロンボーンやらない!?」
これもう俺がyesって言うまで解放してくれないんじゃないか?
「じゃ、じゃあやります……」
「やったぁぁぁっ!!」
「よっしゃぁぁぁ!!二人目!!!」
最終的にカラ松は折れた。
脅されたような感じがしたが、カラ松がやってくれると言って喜んでいる先輩を見ると悪い気はしなかった。
まぁいいや、どうせ特別やりたい楽器があったワケでもないし。人助けだと思っておこう。
カラ松はそう割り切った。
その日の楽器体験は終わりを迎えた。
「規律、礼、ありがとうございました」の合図で解散となった。
六人が音楽室を出ようとしたところ、名前も知らない一年生男子に呼び止められた。
「君たちこれから用事ある?」
「無いけど。」
「じゃあちょっと残ってよ。」
六人は疑問に思いながら音楽室に入り直す。
「全員そろったぞ。」
「よしっ」
音楽室には男子しか残っていなかった。
男子は残されている彼らに向き直った。
「同じ吹奏楽部一年男子として挨拶をしとこうって思ってさ。」
なんだそんなことか。
何のためにここに残されているのだろうかと思っていたみんなの顔が綻んだ。
「まぁ、女子ばっかの部活でやっていくためにも男子の結束は強くした方が賢明だよな。」
「そゆこと。」
「え?一年男子って、1、2、3……………13人なの?」
トド松が割って入った。
「だって今日は全員出席だって部長が言ってただろ?」
「早退とか…」
他の男子が付け加える。
「まぁ、それはそれでいいんじゃないか?」
その後彼らは自己紹介軽く自己紹介をしあって適当に雑談した。
その中でわかったことは男子13人のうち吹奏楽経験者は4人。女子の吹奏楽経験者の人数は不明ということだった。当然、その4人に6つ子は含まれていない。 分からないことがあったらとりあえずあの4人に聞けばいい、ということになった。
先輩に鍵を閉めるから帰れと言われ13人は音楽室を出た。
明日は楽器決めだ。
そのことにチョロ松はうずうずしていた。