6つ子が吹奏楽部へ   作:ボコ砂糖野郎

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さぁ!楽器決めだ!

赤塚高校は部活必修である。

入学から一周間が過ぎると一年生は皆、入部届けをどこかしらの部に出していた。

そして6つ子は吹奏楽部にその入部届けを出した。

 

これは部活勧誘に必死こいていた二、三年生の間で話題となった。

 

「意外だ、意外だ。」と。

 

6つ子が吹奏楽部に籍を入れるなんて誰も想像していなかった。

 

それは当の本人たちも同じだった。

 

 

今日は楽器決めの日。

部活で三年間吹く楽器を、まだ吹奏楽部に入ったという実感がないのに決めなくてはならない。

 

それは中学で吹奏楽をやっていた一年生は余裕だったが、高校から吹奏楽を始める一年生には酷く重く感じるのだった。

 

それはまるでRPGゲームでいうところの最初の職業決めのような。

例えを変えるなら魔法学校で帽子にクラス分けを言い渡されるようなされるような。

たけのこ派かキノコ派か選ばされるような。

 

 

今日から始まった高校での本格的な授業を終え、6人は音楽室へ向かう。

先輩から「一年生は第一音楽室と第二音楽室の机運び、それが終わったら第二音楽室で待機」という指示があったのでおとなしく従う。

 

 

机運びが終わり第二音楽室で待機している一年生の話題は何の楽器をやりたいかというものだった。これはただののほほんとした会話に聞こえるが、見方を変えればお互いの探り合いだ。

全員が希望の楽器になれるわけでは無い。一つのところのに人が集中すればその分希望が通らない人が出てくる。そんな緊張の最中、部長と副部長が姿を現した。

 

「今日は楽器決めです!決め方はまず紙に希望を書いてそのあと面接をします。これは人数の集中に問わず全員やってもらいます!」

 

一年生からええ〜!という声が上がる。

 

マジかよ!!!マジかよマジかよ!

チョロ松は焦る。

 

楽器決めのための面接といえば聞いてくる内容など簡単に想像がつく。

「なぜその楽器を第一希望にしたのか」である。

希望動機以外なら精々入部理由と経験者かどうかくらいだろう。だがそれは時間的に確立が低い。

 

チョロ松の希望楽器はクラリネット。理由は入学式で一目惚れしたから。それ以外は無い。

しかしそれを面接で言っていいのかと彼は頭を悩ませる。

 

(一目惚れで見た目がかっこいいからって理由じゃ無いだろっっ!)

 

彼が焦る理由はそれ以外にもあり、それはクラリネットのことを何も知らないことである。高校から吹奏楽を始める初心者は皆そうだろうが、希望する楽器のことくらいちょっと調べるのが普通だと彼は思っていた。

しかし彼は調べてない。

他五人に比べて真面目になったチョロ松だがそういう不真面目さは抜けない。自分でも真面目系クズだと思った。

 

彼が焦る理由は他にもある。一年生の間でクラリネット希望の子はそこそこ多いから。待機時間のときにそれを聞いた。ライバルが多いのだ。

まぁそこそこと言っても3人ほどの会話からしか聞いていないが、彼にとってはそれは氷山の一角のように感じ、12人位いるような体感だった。

 

正直、クラリネットやるために兄弟巻き込んで吹奏楽に入ったと言っても過言ではないチョロ松にとって、これは死活問題だった。訂正、兄弟は勝手に彼についてきただけだ。

しかし彼が原因で兄弟が吹奏楽に入ったのは事実だった。

 

(昨日言ってくれれば話すこと考えてきたのに……!たぶんそれも試されてるんだろうな……)

 

面接の知らせに一年生の空気が重くなる。そこに先輩から紙が配られ、第三希望まで希望を描くように指示される。

 

チョロ松はとりあえずクラリネットと書き、言うことを考え始めた。

 

 

横を見るとおそ松兄さんはでかい文字でトランペットと書いて腕を組みながら自信たっぷりに座っていた。

チョロ松は「おい!面接なんだぞ!!これで楽器を決めるんだぞ!?カリスマレジェンドとか言ったらアウトなんだからな!?」と言いたかったが、遠かったのでなにも言わなかった。

 

 

隣のカラ松は紙に何も書いてなかった。じっとその紙を見つめている。

そりゃそうだろうな。強引にトロンボーンやりますって言わされたもんな。悩んで当然だし、腑に落ちないだろう。だけどトロンボーン以外の楽器を書いたら後々嫌味とか言われそうだよな。部活は辞めれないし。

そう思っていた中、いきなりカラ松は勢いに任せてトロンボーンと書いた。そして満足そうにシャープペンを置く。

 

「カラ松……それでいいのか?」

 

チョロ松は小声で聞いた。すると意外な答えが返ってきた。

 

「ん?なんでそんなこと聞く?」

 

まさか質問に質問で返された。

 

「え?だって強引にトロンボーンやるって言わされたじゃん。」

「あの時は強引に言わされたけど、よく考えたら一年生のなかであんなに必要だと言われたのは俺くらいだぞ。」

 

必要とされるのは悪い気はしない。と言った。

 

「いや、それ一年生のほとんどがそんなこと言われたぞ。ホント。あんな強くは言われてないけど。」

「ふっ……俺は何色にもなるカメレオン……。誰も入ってくれないと嘆いているセカンド・イヤー・スチューデントとサード・イヤー・スチューデントのためにトロンボーンを吹き散らす…これもまた人助けってな。」

「そう。」

 

そうなら仕方ない。そういうことにした。

 

 

隣の一松の紙はなにも書かれてない。カラ松と比べて書く気すら見受けられない。

 

「やりたいものが無くてもせめてなんか書けよ……一松。たぶんそんなの提出したら普通に怒られるよ。」

「あ?こうすればいいの?」

 

すると彼は紙に「なんでもいい」と書いた。

 

「ええええええ!!!」

 

思わずチョロ松は大きな声を出した。そして副部長に「うるさい」と一言言われた。すみませんと小声で謝る。

一松に言いたいことがあったが、注意されたので話すのはやめた。

もう知らん。

 

 

十四松は紙になんかたくさん書いていた。

見るのが怖かったので見なかった。

 

 

遠くのトド松はたぶんフルートと書いたのだろう。指でカエルを作って遊んでる。

小学生かよ。

 

「みんな書いた〜?それじゃあ1組の人はその紙を持って第一音楽室に来て。クラスごとにやるから。」

 

指示で1組の人は出て行った。1組であるおそ松と十四松も出て行ってしまった。

 

チョロ松は二人を心配そうな目で二人を見送った。

 

 

しばらくすると1組の人はが返ってきて2組の人が出て行った。

 

戻ってきたおそ松兄さんと十四松は僕に向かってグッジョブをしてきた。

うまくいったという意味だろうか?しかしこの二人のグッジョブはあてにならない。一体第一音楽室でなにがあったのだろうか気になったが、とりあえず自分は自分のことに集中しようと目をつぶり、込み上げてくる緊張を飲み込んだ。

 

2組の人が返ってきた。3組のチョロ松は紙を持ち立ち上がる。と同時に隣の一松も立ち上がった。

 

(そうだった〜っ!!一松も3組だった〜〜〜!!!こいつ紙を書き換えてないし!てか本当にあれを提出するつもり!!??僕は怒られ場面に立合わなくちゃいけないのなよ!!)

 

3組は第一音楽室へ向かう。もう僕は自分のことより一松のことしか考えていなかった。多分怒られる。

絶望と緊張を感じながら第一音楽室の扉をくぐる。

そこには昨日楽器紹介してくれたパートリーダーとその楽器担当と部長たちが全員揃って、オールスター状態だった。

 

僕は頭が真っ白になった。綺麗さっぱり言おうと思ってたこと全部忘れた。

 

「じゃあその紙頂戴。」

 

僕は震える手で部長に紙を渡した。

部長は3組の一年生から渡された計5枚の紙を読む。

 

「えっと〜。ルウトくんがパーカスで、セイカちゃんがピッコロで、ユメカちゃんがクラリネットで、チョロ松くんもクラリネットで……一松くんは……なんでもいい…と。」

 

部長以外の先輩の顔が明らさまに曇る。

部長は「一松くんどっち?」と聞いた。僕は震える指で隣を指差す。部長は頷く。僕は焦る。

 

 

 

「じゃあ順番に選んだ理由を聞かせて。」

 

「えっと……僕は中学バスケ部で吹奏楽はやったこと無いんですけど……ほら、あの……パーカスっていろんな楽器使うじゃないですか………それがいいし……………リズム刻むのが向いてるような気がして…………………………はい。」

 

たどたどしく言った彼にパーカスパートリーダーが言った。

 

「ぶっちゃけ……ドラムやりたい?」

「はい。」

「素直でよろしい。」

「はい次。」

 

「わ、私は小学生のころからピッコロやってました…だから高校でもやりたいです。」

「おっ!そこそこキャリアがある一年生が来たぞ〜。先輩抜かれちゃうかもね〜。」

「怖いわ〜」

 

「はい次。」

 

 

「私はセイカと同じで理由で、クラリネットを中学からやっているからです!」

 

「経験者はほぼ確実にそのパートに決まるよ〜」

 

マジかよ。

 

 

 

「はい次。」

 

僕の番だ。なにを言うかもう忘れた。

 

「……………………。」

 

あ、もうダメだわ。

 

「チョロ松くーん。大丈夫?」

 

 

「えっと…………あ……えっと………………僕は…吹奏楽は未経験者で……………というか僕ら全員………。さっきやってたから知ってると…………思いますが……………。えっと……それで……だから…………あ……クラリネットをやりた…い………理由は…なんというか…………触って……その……音色…………は…が……綺麗で…………あ…その……なんか………綺麗で…………かっこよくて……綺麗で…………あと……黒〜いのが…………あ〜…………………………………………です。」

 

 

しくじった〜〜!!!!!

穴があるなら入りたいいいいいい!!!!!

 

「はいじゃあ次。」

 

部長ドライだしいいいい!!!!!

次は一松だしいいいいいい!!!!!

 

 

「あ、なんでもいいです。」

「知ってる。」

 

もう僕の精神が持たないいい!!!

 

「特にやりたいのがないんで。」

「あっそう。」

 

一松ぅぅ!!お前ぇぇ!!!

 

「そうね……」

部長は1組と2組からもらった紙パラパラと見直した。僕の心臓はバクバク。

 

「じゃあ一松くんはうちのパートに来てよ。ダブルリード。」

「え…あ………はい。」

 

他の先輩が??という顔をする。

 

「6つ子ちゃんうちのパートに一人欲しいなって思ってたんだけど、昨日の様子見る限り誰も来そうにないからさ。いいよね?」

 

パートリーダーたちはう、うんと頷く。

 

 

「はい。3組の面接終わり。4組の人呼んできて。」

 

 

僕らは第一音楽室を出た。

 

 

(えええ!!??一松のあれだけで終わり!?ていうか、僕は完璧にしくじった……。)

 

 

 

重い足取りで第二音楽室に戻り、無言で座る。冷静になった頭で先ほどのことを思い出すと雑巾が絞られるような思いがする。膝の上の拳が固くなる。

 

「チョロ松〜。なんかあったの?顔真っ赤だよ。」

 

おそ松の呑気な声がくる。

何もなかったのなら顔は真っ赤にならないぞ。察してよ、バカなのかこいつ。バカだからこんなこと言ってくるんだろうな。あ〜あ、あ〜あ、あ〜あ、あ〜あ、あ〜。

 

 

「すんごくテンパってたよ。」

「へぇ〜」

「ハァっ!?なんで言っちゃうの!一松!!」

「えっ…」

 

一松の発言でチョロ松に溜まっていた化合ガスが爆発した。そして爆発した後はマグマが流れ出す。

 

「大体さ〜!希望用紙に『なんでもいい』なんて書くのってさ、部活舐めてるとしか思えないんだけどっ!!」

「えっ?一松はなんでもいいって書いたの?うわぁ……それはお兄ちゃんも頂けな……」

「おそ松兄さんは黙ってて!」

 

マグマの流れは止まらない。

 

「ほんっとさ〜、お前さ〜分かってないよな〜!向こうが希望を書けって言ってんのになんでお前そう書けるのさ!?どんな神経してるの!?」

 

一松はドロドロと湧いてくるチョロ松の言葉をほとんど相手にしていなかった。あぁ、またこいつデカイ声出してる程度にしか思ってなかった。

しかし『どんな神経してるのさ』という言葉でさすがの一松もカチンときた。

 

「あぁ?なんで俺に当たってんの?自分がアガってまともな日本語喋れなくなっていたからってさ。だいたい、あんな面接という名のお遊びにあんな風になるやつの方がどんな神経してるんだよ。」

 

「高校入試の面接もそんなのだったよ!悪かったな!!」

 

「しかも希望が無いなら無いなりに勝手にどこかしらに行かされるから。さっきもダブルリードやれって言われたから。聞いてた?」

 

「いや、お前一瞬パートリーダーの顔が曇ったの知らないの?知らないの??あとさ、相手に『何がいい?』って聞いたときに『なんでもいい』って答えが来た時が一番困ることも知らないの?」

 

二人の声がどんどん大きくなる。音楽用語で言うなら「クレッシェンド」である。

ちなみにどんどん小さくなることは「デクレッシェンド」という。

 

「顔が曇ったァ?そんなこと想定してるし!!」

 

「なんで想定しておきながらそんなことができるの!?」

 

「あの、二人とも……」

 

「実害ないだろ!」

 

「実害?実害が無くても吹奏楽部の中の社会的評価ダダ下がりだし!!」

 

 

チョロ松は怒鳴ったあと、音楽室が静かなことに気づいた。

一年生全員がこちらを見ている。

それに気づいたとき、彼の頭は一気に冷えた。ヒェッというアリにも聞こえない小さな悲鳴を上げる。

あぁ、まず最初に社会的抹殺されるのは殺されるのは自分か……。

二人はそれ以上なにも言わなかった。

 

どこからか「6つ子でも喧嘩するんだ」という声が聞こえてきた。

ああそうだよ。だいたい、年子は喧嘩が多いってよくいうのに、同い年で喧嘩しないわけがないだろ。

チョロ松は珍しくやさぐれた。

 

 

 

 

面接が終わり、一年生全員が音楽室に戻ってくる。それと同時に二年生も入ってきた。

 

「え〜今幹部たちは一年生のパート分けについて会議してます。その間に一年生には吹部の係について説明します。

吹部では全員なにかしらの係についてもらいます。部長などの役職についている人は例外ですが。係は基本的に勝手に決められます。理由は同じ係が一つのパートに固まらないようにするため、適正を見るためです。イコール、パートが決まらないと先輩も一年生の係を決められませんが、一年生にはどんな係があるか知ってもらいます。必要な人はメモを取って。

 

会計係・・・部活のお金の管理

楽器管理係・・・学校の楽器を管理、楽器を傷つけた部員に説教する

渉外係・・・学校外との連絡を取り合う

一年生指導係・・・一年生に躾をする

生活管理係・・・身だしなみや礼儀の指導、説教

スケジュール係・・・年間の予定や練習方針を決める

スカート係・・・抜きうちで部員のスカートの長さを測る、短ければ説教

楽譜管理係・・・部員に楽譜をコピーして配る

書記係・・・吹部の会議での書記をとる

鍵係・・・部活終了後に戸締りをする

生活係・・・体調不良者を保健室に連れて行ったり、石鹸の補充などをする

楽器運搬係・・・楽器を運ぶ

広報係・・・パンフレットやポスターの作成

プログラム係・・・コンサートの進行を考える

カメラ係・・・部の活動の様子を写真に残す

美化係・・・ちゃんと掃除ができてるかチェック

機械係・・・CDの管理や録音担当

点呼係・・・学校外での出欠をとる

接待係・・・校外からの講師やOBへの接待

アンケート係・・・部員や客にアンケートを取り、集計する

備品係・・・部活の備品の状況を把握

大道具係・・・大道具の作成、運搬

ハーモニーディレクター係・・・ハーモニーディレクターの準備

 

以上です。上の方にある重要係は一年生はできませんが、そういう係があることを覚えておいてください。あとこれが4月の予定表です。」

 

先輩は一年生に予定表を配る。その紙にはこう書かれていた。

 

 

……(木)朝練 7:30〜 午後練 〜5:30

……(金)朝練 7:30〜 午後練 〜5:30

……(土)1日練 9:00 〜 5:30

……(日)午後練 1:00〜 5:30

 

 

(((吹奏楽部って朝練あんの???)))

 

 

チョロ松の先ほどの蟠りはどこかへ消えた。

土日練は想像していたが、朝練なんて運動部だけだと思っていた。7時半という時間は決して遅くない。余裕を持ってこの時間に着くように家を出る時間を逆算すると確実に7時前には家を出ることになる。

彼は吹奏楽部に入ったことを少しだけ、ほんの少しだけ後悔した。

 

 

「あと、部費についてです。部費は1200円/月です。あと一年生にはスクラップブック(520円)、Tシャツ(1100円)、ジャージ(3420円)も購入してもらいます。計6420円を準備しておいて下さい。」

 

そういうことって入部する前に伝えることじゃないないのかな。しかも6420円って結構な額だし。まぁ他の部でも初経費はこれくらいかかるみたいだから仕方ないのかな……。

でも1200円の部費は最初に伝えるべきだろ。入部届けの件といい、カラ松の件といいこの部、若干黒いな……。

 

 

二年生がお金のことを伝え終わったあと、先生が入ってきた。

 

「一年生のみなさんこんにちは。私が吹奏楽顧問の武水です。まずは入学おめでとう、そして入部ありがとう。」

 

一年生はポツポツと座ったまま礼をする。

 

「この吹奏楽部では基本的に生徒自治で運営されてます。私は音楽面で指示を出し、合奏で指揮棒を振り、時々パート練に顔を出すだけです。

部長から説明があったと思うけど、赤塚高校は毎年県大会の常連でしたが、去年は地区大会で銀賞を取りました。そのことに関して二、三年生は猛烈に悔しがり、後悔し、反省し、次こそは県大会へ、いや全国へ!と大変意気込んでいます。そんな二、三年生たちの練習に一年生はしっかりついてきて下さい。

もう一度言いますが私も二、三年生も全国を目指しています。明日からそのつもりで部活に来てください。じゃあ。」

 

手短に言ったあと先生はさっさと音楽室を出て行った。一連の行動で一年生の武水先生への印象はサバサバ人間となった。

 

 

 

「部長さんたち、まだパートを決めているみたいなので、もう少し吹奏楽について説明します。

 

 

吹奏楽のコンクールは

 

地区大会→県大会→支部大会→全国大会

 

という流れになっています。

審査員からつけられる賞は上から『金賞』『銀賞』『銅賞』の三つのうちのどれかです。

間違えないで欲しいのが『銅賞=3位』ではないということです。ここは覚えておいて下さい。

 

そして金賞を取った学校の中から次の大会へ進む学校が決められます。『金賞=次大会進出』ではないです。ちなみに金賞を取ったにもかかわらず次大会進出ができなかったものを『ダメ金』と呼びます。

全国大会が行われるのは東京にある『普門館』というホールです。吹奏楽の甲子園とも呼ばれています。」

 

「ナニナニ〜?普門館の説明してるの?」

 

「え?あっハイ!こんにちは!!」

 

入り口のことろには嬉しそうにバインダーを持ったミサキ部長がいた。一年生の背筋が伸びる。二年生が「ほら先輩に会ったら挨拶!」と言い、まばらにハマった挨拶が音楽室に溢れる。それを見た二年生が不満そうに腕を組み、何かを言おうとしたが、部長が「それはあとでいいわ」と止めた。

 

「みなさんお待ちかねの楽器発表です!この書類にバッチリありま〜す!それじゃあ早速発表します。泣いても笑ってもこれを三年間やってもらうからね〜」

 

あぁ、どうしよう。あんな面接で希望なんか通るだろうか。心臓がばくばくいい、胸がキュンと苦しくなる。動悸と不整脈が同時に来る。ふーっと息を吸い込み落ち着かせる。よし、何がきてもそれを意地でもやってやると意気込む。それでも足は武者震いと緊張で震えてる。

 

 

 

 

部長は淡々と一年生の名前と楽器名をあげていく。

 

 

「ーー以上です。」

 

 

ぽかんとした一年生の間。

そしてやった!という声や残念…という声が聞こえる。

 

「じゃあ、パートの先輩に挨拶してきて。今は低音は第二音楽室前廊下、パーカッションは第一音楽室、フルートは3-6、クラリネットは3-7、トロンボーンは3-8、ホルンは3-9、サックスは3-10、トランペットは三年廊下、ダブルリードはコーラス室で練習してるから。ホラ、行った行った!」

 

わたわたと一年生はそれぞれの場所に向かい始める。

よかった〜という女子の明るい声を聞きながらチョロ松も廊下を歩く。彼はキュッと学ランの裾を握る。

 

 

 

ーー松野チョロ松、B♭クラリネット

 

 

 

正直、あんな面接で希望が通るなんて思っていなかった。やった、よかったという気持ちとなんで?という気持ちが入り混ざる。

希望者が少なかったから?まぁ、そんなことはもういい。希望が通らなかった人がいる中で自分はやりたいものをやらせてもらえるのだ。それだけで自分は幸運で幸せなのだ。

終わり良ければ全て良し。彼は先ほどの面接を完璧に頭からふるい落とした。

 

そして、ふるい落としたあとに彼の頭に残ったこと、それは……

 

 

 

”ベークラリネットってナニ?”

 


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