艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ
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第十話_番外編「赤城の残滓」

 私は甲板の上に立っていた。そこは炎に包まれ、消火を行う者や逃げ惑う者、すでにただの肉塊となってしまった者などが見える。遠くを見ると見慣れた空母が同じように火に包まれていた…。

 

(加賀…?)

 

 そんな状況にいても冷静にいられたのは、これが夢だと分かっていたから。舞い上がる火の粉まで確認できるほど鮮明な景色とは裏腹に、本来ならするはずのむせ返るような硝煙や血の匂い、聞こえてくるはずの爆音や悲鳴が全く無く、まるで無音映画のようであったのと、その映画に合わない女性が隣に佇んでいたからだ。

 

「こんにちは、マギー」

 

 声をかけてきた女性は私と似た服――ドウギと言うらしい――に赤色のミニスカートを身にまとっているが、その立ち振舞いには粗野な私と違い上品さがある。

 

――こいつと会うのはこれで何回目だったか…?

 

 私は何度か同じ夢を見たことがあった。原因は分かっている。こいつは残滓なのだ。

 

 艦娘の人格を形成する情報は主に二つ。

 

 一つは艦船を動かすのに必要なAMS 適正のある体、そのクローンの元となった人物の記憶。これは性格や言語、作法などの基礎知識の元となるらしい。

 もう一つは自分の艦船の戦闘オペレーション。これにより自分の艦船の性能や操り方、戦術を生まれながらにして持つこととなる。

 戦闘オペレーションなどと銘打っているが、その艦船の歩んできた歴史そのものが人生にまるっと上書きされるため、まるで自分がその艦船の生まれ変わりのように感じるらしい。中には艦長の名前まで覚えている者もいるようだ。

――だからそれは『前世』なんて呼ばれている。

 

 私の場合はファンタズマビーイングにより自分の情報、『魂』と言い換えてもよいそれを電子化されていたが、これには遺伝子情報などは無い。そのためこの時代に『開発』された時に、本物の私に似た艦娘の体に私の『魂』を上書きしてできたのが今の私だった。

 夢に出てくるこいつは上書き時に消えきらなかった艦娘の残滓なのだ。

 

「どうです、今の生活にはなれましたか?」

 

「そうね、あとはあなたが出てこなければ文句ないわ、『赤城』……」

 

「そんなこと言わないでくださいよ。私はあなたでもあるんですから」

 

「体はね」

 

「心もですよ。貴方の『魂』が上書きされたとき、ちょっぴり『私』が混ざっているんです。だからこうして私が出てきてしまうことがあるんですよ。特に貴女自身が揺らいでいる時は……」

 

「私が揺らいでる……?」

 

「ジレンマを感じているんじゃないんですか?自分だけでは黒い鳥に追い付けないと、戦艦棲姫との戦闘で感じてしまった…。だからといって他人の手は借りたくはない、けれどもやはりそれでは“届かない”……何より負けっぱなしは嫌だ。そんな所ですかね?」

 

「……そうやってわかってるような口を聞くやつは嫌いなのだけど」

 

「不機嫌になるのは図星を言われているからです。貴女の時代でも組んで行動する傭兵は珍しくもなかったでしょう?加賀たちと協力することは、そんなに悪いことではないと思いますけど……」

 

「……それはあなたが艦娘だからそう感じるだけよ。私とは違うから……」

 

「いいえ、マギーさんも十分艦娘ですよ。……今、周囲に広がっているこの光景は、“わたしの最後”なんです。いつかあった戦争、その戦争で『赤城』は……『私達』は負けたんです。私達艦娘は生まれた時から、その『敗北』が刻まれています。……きっと皆がそろって戦場に赴くのはそれを払拭したいから……その『敗北』に抗い続けるのが艦娘なんですよ……マギーさんと一緒です」

 

「だから私も艦娘だと?」

 

「はい、そして艦娘はそのために協力を惜しみません。だからマギーさんが加賀達と共闘するのはむしろ当たり前のことなんですよ」

 

「……だからって『はいそーですか』って切り替えできたら、私はここに居ないわ」

 

「…難儀な方ですね」

 

「自覚はあるわ、治せないだけ……」

 

「それはそれでどうかと……。まあ今の生活を気に入ってはくれてるみたいですし、気長にいきましょうか。“ファットマン”や“彼”以外に信用できる人たちに囲まれて過ごせば、なにかが変わると思います。それにあなたの時と比べて美味しいものがいっぱいありますしね!」

 

「…それ関係ある?」

 

「大いにありますよ!食は全ての基本です!!ちなみに今は秋刀魚がオススメなので、晩御飯は秋刀魚の塩焼き定食にしましょう!」

 

「……覚えてたらね」

 

 途中まで良いことを言っていたような雰囲気だったのに…こいつは……。うなだれながら目を閉じる。

 しばらくしてから顔を上げ、目を開けたときには見慣れたACのモニターが目の前にあった。

 

「…マギー、母港に着きました」

 

「…ええ、ああ……ACを工廠へ搬入するわ」

 

 どうやら帰路の途中、ACのコックピット内でうたた寝をしていたようだ。加賀の呼びかけ寸前で起きたためか、幸いそのことがバレている様子はない。金剛から「ゆっくりしているといい」とは言われていたが、流石に眠りこけていたのはバツが悪かった。

 

 今回の戦闘で工廠の修理装置入り、通称『入渠』が必要だったのは私のACだけだったので重ね重ね恥ずかしくなり、そそくさと『加賀』から『ブルーマグノリア』を降ろしドックへ運んでいく。

 艦載機が『入渠』とはおかしな言い回しだが、この時代には未知の技術の塊であるACは『入渠』でしか直すことができないらしい。ドックへ移動が済みACから降りると加賀が近くの壁に寄りかかっていた。

 どうやら私を待っていたようだ。

 

「お疲れ様、マギー……。ちょっと早いですが、晩御飯一緒に食べませんか?」

 

 『グゥゥゥ』と言葉よりも先に体が返事をしてしまう。自分があまり上品な方ではない事は自覚しているが、それでもこれは恥ずかしい。

「なんでこの体はこんなに燃費が悪いんだ!」と内心、赤城に毒づく。

 

【挿絵表示】

 

「フフ…、では混雑する前に行きましょう」

 

「……今日の日替わりってなんだったっけ?」

 

「たしか『秋刀魚の塩焼き定食』よ、今が旬ね…。私はそれにする予定…」

 

「じゃあ私も…、これは気分が高揚するわね」

 

「マギー、人のセリフ取らないで……」

 

「別にいいじゃない」

 

 こんなくだらない雑談をしながら、私は加賀と食堂へ向かっていった。そういえば、同い年ぐらいの同性とこうやって過ごしたことは『前世』では無かったかもしれない。

 

「――なにかが変わる…か……」

 

「?マギー、なにか言いました?」

 

「…なんでもないわ」

 

 ちなみに焼き魚を食べるのはこれが初めてで、骨をとるのに悪戦苦闘するハメになったものの、『秋刀魚の塩焼き定食』はとても美味しかった。それは旬だったからか…それとも誰かと一緒だったからかは、今の私にはわからなかったが……。






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