艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ
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第十二話「MISSION03_深海鉄騎撃破-01」

 ヒトマルマルマル

 執務室に差し込む朝日によりその室内が暖まり始めた頃、一人の男が欠伸をしながらぼやいていた。

 

「なあ、マギー、もう10時だ…。俺は10時と15時は休憩すると決めている」

 

「ならそれは書類を片してからにして」

 

 ぼやいた男、白鳥提督は秘書艦補佐に任命された女性に休憩を却下され「チッ」と舌打ちをする。

 

「はあ、人選をミスっちまったかな……」

 

「じゃあこのレポート作成止めるけど、いいの?」

 

「……頼む」

 

 わかってるんだったらさっさと仕事に戻って、と提督をひと睨みあと、マギーはノートPCへと視線を戻した。

 

「はあ、吹雪が秘書艦の時が恋しいぜ…」

 

 有能な秘書補佐を目の前にしながらそんなことを呟き、提督は渋々書類を手に取った。

 執務室がこんな状態になったのはほんの些細な切っ掛けだった。現秘書艦である加賀がマギーとの食事中に「うちの提督は書類作成まで押し付けてくるから大変だわ」と愚痴をこぼした際に、マギーが「私そういうの得意だから手伝おうか?」と申し出たからである。

 

 マギーは黒い鳥と組んでいた時に依頼のレポート作成を担当しており、そういうことには慣れていた。ならばいざ、ということで手伝ってもらうと、殆ど添削もせずに大本営に提出できる程の書類を作成してくれるので、加賀と提督は両手を上げて彼女を歓迎した。しかし、提督にとって思わぬ誤算が発生する。

 

「これでサボらせてくれたら最高だったんだがね……」

 

 マギーは提督のような人物の扱いに馴れているのか、のらりくらりと仕事をかわそうとしても直ぐに捕えられてしまう。しかも上がってくる書類のペースも加賀一人の頃より当然早くなっているため、仕事は早く終わるものの時間単位の作業量が増えたのだ。

 無論、本来ならそれは良いことなのだが、マイペースを信条とする白鳥提督には面白くなかった。そんなおり、執務室の通信機 からコール音が鳴る。通信室にいる大淀からだった。おお、助かった、と内心提督は思う。この時間帯の連絡は艦娘からの緊急連絡を除けば、だいたい知り合いの提督からの連絡とかだ。どうせ演習のお誘いだろう、ついでに雑談に花を咲かして少し休憩に付き合ってもらうとするか……。そう思いながら受話器を取とる。

 

「おう大淀、俺だ、どうした?」

 

『提督にお電話が……』

 

「相手は?」

 

『それが、その…』

 

 大淀が口ごもるなんて一体誰だ?と提督はいぶかしむ。――嫌な予感がする。提督の予想は見事的中した。

 

『……倉井元帥からです』

 

「……」

 

 先程までのだらけたの表情が一転して強ばる。倉井元帥……個人的に最悪の部類に入れている人間からだったからだ。こいつが関わるものは大抵ロクなものがない。とはいえ大将である自分の上司からの連絡に応じないわけにもいかなかった。

 

「わかった……替われ」

 

『……はい』

 

 受話器から発せられる音声がうら若き乙女の声から低く渋味のある男性の声に変わる。

 

『久しいな、白鳥』

 

「これはこれは倉井元帥殿、私なんぞに一体何のご用で?」

 

『そんな言い方をするな、貴重な同期だろうに』

 

「ああ、そうだな……テメーが薦めた戦線拡大で貴重になっちまった」

 

『必要な犠牲だ』

 

「お前に都合の良い状況を作るのにか?」

 

『何か誤解しているようだな……。私の全ては秩序をもたらすためにある、私欲の為ではない……。これから貴様に下す任務も然りだ』

 

「……チッ、ああそうかい」

「それで……用件はなんだ?」

 

『ガタルカナル島の基地型深海棲艦撃破の報は聞いているな?』

 

「ああ、確か飛行場姫だったか……。お前のとこの艦隊でやったんだろ?」

 

『ああ、その通りだ』

 

 白鳥提督が戦艦棲姫らを倒した任務はこのための布石だった。ガダルカナル島近海の敵勢力を排除し、その海上から艦隊砲撃にて飛行場姫を撃破する、当初からその予定であり、つい先日その作戦成功の報を白鳥提督は聞いたばかりであった。

 

『後は上陸部隊にて島の残存勢力を掃討し、制圧を完了させる手筈だったのだが……。敵新型により上陸部隊全滅の報告が入った……貴様にはその新型の討伐をしてもらう』

 

「おい、ちょっとまて。それは陸での話だろう?なら陸軍の管轄だ、なぜ俺に回ってくる?」

 

 深海棲艦にも陸上型が存在する。飛行場姫のような基地型もいれば、そこから生産される四つ足の生えた戦車の様なものや小型の浮遊型砲台などもいる。それらは陸上警戒用の兵器なのか、数は多いが個々の能力は低く『巣』ごと艦隊砲撃である程度減らしてしまえば後の掃除は陸軍の管轄である。犠牲になった部隊はお気の毒だが、蟻の様に潜んでいる敵に対して海軍ができることは精々物資や兵の運搬ぐらいだ。

 『討伐』は明らかにお門違いであるはずだった。

 

『それについては見てもらった方が早い、今その新型の画像を送った』

 

 白鳥提督のPCからメール受信を知らせる音がする。画面をみると、件名も無くただ画像データのみ添付されているメールが一通届いていた。その画像を開き、白鳥提督は息を飲む……。

 

『大本営ではそれを“深海鉄騎”と名付けたが……貴様はそれの正体がわかるだろ』

 

 逃げている兵士が撮ったのかピントがズレてぼやけているが、白鳥提督はその独特のフォルムに見覚えがあった。画像に映り込んでいたのは『ブルーマグノリア』と同じような二本脚の鉄巨人……紛れもなくAC だったのだ。

 

「……一体なんのことだ?」

 

『惚けるなよ、戦艦棲姫二体を相手取っていたあの蒼い奴……あれと同じものだ』

 

 偵察機でも放っていたのか、倉井元帥はどうやら前の戦闘の様子をどこからか観察していたらしい。

 

「覗き見は趣味が悪いぜ、倉井……」

 

『あれの報告をしていない貴様に言われたくは無いな』

 

「たかが艦載機一機、いちいち報告書に書いてたらきりがないと思うが?」

 

『よく言う……。まあいい、そのことについては不問としよう。ともかく、“あれ”にこの深海鉄騎の撃破を依頼したい。陸軍には荷が重いが、”あれ”ならばそう苦戦はしないはずだ……。詳しい内容については後で正式な指令に記載する。蒼い奴の力、見せてみろ……』

 

 そう言い残し、倉井元帥は通信を切った。白鳥提督はため息をつきながら受話器を置く。そして聞き耳を立てていた二人の秘書、加賀とマギーに「お前らに仕事だ」と言い放ち、先程の会話の内容の説明を始めた。

 

◇ ◇ ◇

 

「しかし、よりにもよって一番知られたくない奴にAC のことがバレるとはな……早速面倒事が舞い込んで来やがった。俺は面倒が嫌いなんだがね」

 

 二人に説明を終えた提督が愚痴る。

 

「随分と嫌ってるみたいだけど……、その倉井元帥って何者?」

 

 提督にここまで言わせる相手の事が気になり、マギーは質問を投げ掛けた。

 

「一応俺の同期だよ、大した交流は無いがね。……と言うより、誰も奴の事をよく知るやつはいない。士官学校にも在籍してなかったしな。着任式の挨拶で誰も知らない同期がいてビビったぜ」

 

「どういうこと?」

 

 マギーはこの時代のことをまだあまり知らない。しかしそれでも組織の上部、提督などの士官になる者は基本的に相応の教育なりを受けた、いわゆるエリートコースの人間がなることは知っている。それはどの時代でも変わらない……だから倉井が異様な例であることがわかる。

 

「さあな、相当な金でも積んだんじゃないか?『企業』なんてのがバックにいるって噂もある。そいつらが何者かもよくわからんがね」

 

「ただの成り上がりってわけ…?」

 

「いいや、やつは立場相応に優秀だよ、上のジジイどもに取り入る手腕も含めてな。しかし……とにかく胡散臭い、後ろ楯の『企業』ってのも含めて……。聞いた話じゃ、深海棲艦の出現を予知していたそうだ。しかもやつらを支配できれば、この国を世界屈指の強国にできると奴は上層部に吹聴しているらしい」

 

「深海棲艦を支配ですか……そんな馬鹿なこと……」

 

 できるわけない、と加賀は反論しようとした。しかしあることを思い出し言葉が途中で詰まってしまう。

 

「……俺も噂を聞いた当初はなにをイカれたことを、と思ったよ。それを信じて戦線を拡大し続ける馬鹿ども含めてな、だが……、もし奴がそうさせる程のなにかを知っていたとしたら……」

 

 マギーは提督がなんのことを言おうとしているのか分かった。それは自分が『財団』から破壊目標として依頼されたものだろう。

 

深海棲艦( パルヴァライザー)統括機構……インターネサイン……それを知ってるって言うの?」

 

 にわかに信じがたい事だった。そもそもインターネサインは『財団』の話を信じれば、『大破壊』当時ですらJ・Oといった一部の人間しか知らなかった情報のはずだ。ましてや『大破壊』以前の技術が失われつつある現在において、『財団』などのタワーAIでもなければ知り得る情報ではない。

 

「あくまで可能性の話だ、マギー。倉井がなにをどこまで知ってるのか皆目検討もつかん……。ただ単に話に乗せるのが上手いだけかも知れんしな……だが、奴が戦線拡大を推し進めているのも事実だ……まるで何かを探すように……。そして俺たちをその為の駒程度にしかアイツは思っていない。……だから極力関わりたくなかったんだがな」

 

 提督がAC『ブルーマグノリア』を開発したことや『インターネサイン』のことを上層部に報告しなかったのはその為だった。知られれば今回の様に体よく利用されるのがわかっていたからだ。

 

「……でも提督、これはチャンスかも」

 

 マギーの発言に白鳥提督は目を丸くする。

 

「一体どういうことだ?マギー」

 

「倉井元帥がインターネサインを知っていようがいまいが、深海棲艦を支配するっていうなら目標はそれなんでしょ?こちらと目的は違っても、目指す所が同じなら情報を得るには調度いい……。こっちも上手く利用してやればいいわ。今回の“深海鉄騎”の件もそう……。倒したAC を回収できれば、なにかインターネサインに繋がる情報を得られるかも」

 

 ACにはパイロットデータとリンクして様々な情報が記録されている。深海棲艦に乗っ取られてからの戦闘ログ等を解析できれば、インターネサインに繋がる足掛かりが得られるとマギーは考えていた。

 

「……なかなかしたたかな女だな、全く」

 

 前向きなマギーの意見に提督は素直に感心する。

 

「“虎穴に入らずんば虎子を得ず”よ……提督」

 

 加賀もマギーの考えに賛同していた。そもそも艦娘は深海棲艦を撃滅するために造られた存在だ。その本懐を達成できる可能性があれば、多少の危険があっても前に進みたかった。

 

「おまえもやる気満々って訳か……揃いも揃って殊勝だな。わかったよ、利用されっぱなしってのも確かに癪だ……。おっさんは役に立たんかもしれんが、出来る限りの配慮はしてやるさ。まッ、とりあえず正式な指令が来るまでそのやる気を維持しておくんだな」

 

 ハッハッハッハッ、と笑いながら提督は秘書艦達の肩を激励するように叩く。そしてそのまま執務室のドアへと向かい、ノブに手をかけた。しかし、それは回されることなく終わる。

 

「……提督、出る前にこの書類に押印して貰えない?」

 

 なにさりげなく逃げようとしてるの、とでも言いたげな目を向けながらマギーは書類を突きつけた。

 

「マギー……、今のは見送る流れだろ?」

 

「まだお昼まで1時間近くあります」

 

 加賀も合わせて書類の束を提督に突きつける。提督はノブに掛けた手を戻し、うなだれながら自分の机へトボトボ戻っていった。

 

「全く、ウチの秘書艦たちが優秀過ぎて涙が出そうだぜ」

 

 「あの野郎、早く指令送ってこいよ……」と先程までの「関わりたくない」という発言を棚に上げ愚痴りながら書類に判子を押していく。

 結局優秀な秘書艦たちにより昼までみっちり仕事をするはめになった白鳥提督であった。

 

◇ ◇ ◇

 

 イチヨンマルマル

 提督のPCの画面を二人の秘書艦が凝視している。そこには次の作戦内容が映っていた。

 

≪ミッションを説明する。ガダルカナル島に出現する敵新型陸上深海棲艦、深海鉄騎の撃破が今回の目標だ。目標は飛行場姫跡地周辺に出現することが確認されている。恐らく飛行場姫を再建している深海棲艦の防衛戦力として配備されているのだろう。そのため、まず航空戦力にて敵再建部隊を爆撃し目標をおびきだす。後は例の艦載機で目標を撃破してくれ。こちらからも軽空母『龍驤』を支援として送ろう。指定の海域で合流し、共にガダルカナル島に向かえ。指令内容は以上だ、期待している≫

 

 

「以上が指令内容だ。こちらの航空戦力を考慮して支援つけてくれるなんざ太っ腹だな。あいつのとこだけでやってくれたらなお良かったんだが」

 

白鳥提督は倉井元帥から届いた指令のメールを加賀とマギーに見せながら皮肉を言う。

 

「とりあえず目標近海の制海権は確保できている、恐らく海上で敵に出会うことはあるまい。目標も陸上だ、行きの護衛は天龍と吹雪で充分だな?ちょうど近くの駐屯部隊まで物質運搬の任務を任されている、そのついでだ。帰りも適当に合流して戻ってこい。何か質問はあるか?」

 

 提督の発言に加賀が小言を言う。

 

「随分と雑ですね」

 

 提督のデスクの上にあるPC画面を見せられながら他には何もなく口頭のみとは、指示を聞いてるのが自分とマギーしかいないとはいえちょっと適当過ぎはしないか?と思っていた。

 

「遠征系の説明なんていつもこんなもんだろ。今回は爆撃支援があるにはあるが、どっちかといえばAC 輸送任務だしな。陸から上のことはマギーに一任する。そっちの方がマギーも都合がいいだろ?」

 

 微妙に言い逃れに使われているような気がするが、事実その通りだったためマギーは「そうね」とだけ返事をした。

 

「よし、じゃあ早速行ってこい。下で天龍たちも待ってる。マギー、気を付けろよ」

 

「わかってるわ」

 

そう返すとマギーは踵を返し、加賀と共に港へと向かって行った。

 

「……やれやれ、これで口うるさいのがいなくなった」

 

 二人の秘書艦が居なくなった執務室にて提督は呟く。暫く忙しかったし、鬼の居ぬ間になんとやらだ、と提督は椅子に体重を預け休もうとした。しかし、それは儚い夢に終わる。

 執務室のドアから少々強めのノックが鳴り、「失礼する」と凛とした声が通る。中に入ってきたのは鎮守府の第二艦隊を取りまとめる艦娘の一人の那智だった。

 

「ん?どうした、那智?お前、今日は非番だろ?」

 

「ああ、だから貴様がサボらんよう加賀たちに見張りを頼まれている」

 

「嘘だろ……」

 

 午前中と同じオチだ。どうやらウチの秘書艦どもは俺を過労死させたいらしい。

 

「そんな呆けた顔をするな。私も手伝ってやる、後で奢ってくれればな」

 

「……高いのは無しだからな」

 

 全くもって抜け目のないやつらだ、と提督は部下たちに称賛を送る。無論、半分皮肉だが。まあこの分なら何かあっても大丈夫だろうと加賀たちへの心配を打ち切り、昼前と同じように書類を片しながら彼女たちの帰還を待つことにした。






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