「龍驤、目的の地点へ着きました」
「よっしゃ、じゃあ段取りを確認するで」
加賀の連絡に龍驤が元気よく声を張り上げる。一応「深海鉄騎討伐」の任にあたり旗艦は加賀なのだが、何故か仕切っていたのは龍驤だった。きっとそういう性分の艦娘なのだろう。本来ならば指揮系統に乱れを生じさせないために加賀が仕切るべきなのだろうが、生憎ここにいるのは龍驤を除けば私と加賀だけである。なので特に問題は無いし、わざわざ指摘して龍驤の不満を買う必要もないので話を続けさせた。
「まずは当初の予定どおり、飛行場姫がおったところにうちと加賀の艦載機で爆撃。んでもって、討ち漏らしをうちのユーナックちゃんたちで掃討しつつ深海鉄騎をあぶり出す。マグノリアはんは海岸にて待機、深海鉄騎を発見次第現場に急行。――以上でええな?」
「大丈夫よ、問題無い」
ちなみに『ブルーマグノリア』を海岸で待機という案を出したのは私である。表向きは「万が一深海鉄騎が空母を強襲してきた場合、すぐに対応できるように」という理由だが、本当はUNACを偵察兼削り役にするためだ。
複数のACで戦闘する場合、普通なら同時に攻め込んで数の利を得る戦い方をするものだが、それは人間同士の場合である。UNACの場合、龍驤の指示である程度陣形を組んだりはできるだろうが、細かい判断は出来ず連係なんて取れたものではない。それどころか、こっちが敵の近くで戦っていたら誤射をくらう可能性もあるのだ。ならばいっそ削り役にして玉砕してもらおう、というのが今回の考えである。
と言っても、これは加賀にも言ってないことではあるが……まあ、言い分なら後でどうにでもなるだろう。龍驤は私がそんなことを考えているとは知らず、景気よく艦載機とUNACを発艦させていた。
「ほな、お先に失礼するで!マグノリアはん、うちだけで深海鉄騎をやってしもうたら堪忍な♪」
「それならそれで楽だから助かるわ」
――そんなことは無いだろうが、と思いながら返事をする。それにもし、たかがUNAC三機程度にやられるような相手なら最初から戦う価値もない。残骸を回収させてもらって終了なだけだ。
「こちらも艦載機を発艦します、マギーは所定の場所へ」
「了解よ、加賀」
私も加賀から発艦し、海岸に着陸する。その頭上を加賀の航空部隊が綺麗な陣形で通り過ぎて行った。
◇ ◇ ◇
暫くすると龍驤から連絡が入る。
「早速奴らを見つけたで!うへ~、ホンマ蟻みたいや、気持ち悪ッ」
どうやら飛行場姫の再建場に着いたらしい。出発前に資料で見させてもらったが、深海棲艦の小型陸上型は四つ足でイ級のように有機的なデザインだった。以前、奴等の性質を聞いて「蟻みたいね」と評したことがあるが、他人の目からみてもそう感じるようだ。
「かなり再建も進んでいるようね。龍驤、陸上型と一緒に施設も破壊してしまいましょう」
「せやな、ほないくで!」
合図と共に二人は絨毯爆撃を敢行する。どうやら護衛として浮遊砲台も居たらしいが、練度の高い二人の艦載機はそんなものお構い無しとでもいうかのように、対空射撃をヒラリヒラリとかわしながら爆弾を投擲していった。
まだ建造途中で大した防御力もないのか、飛行場姫跡地はあっというまに廃墟へと早変わりする。そしてその廃墟をさらに蹂躙しに、三機のACが侵攻を開始した。
「害虫駆除や、逃がさへんで~」
三機のACはまばらに散り、スキャンを駆使しながら物陰に潜んでいた深海棲艦を見つけ出す。戦車程度のサイズと戦闘力しか持たない陸上型では龍驤のUNAC が持つハンドガンとパルスガンに耐えることも出来ず、あれよあれよと駆除されていく。しかし未だに深海鉄騎は姿を見せなかった。
「あれ、おかしいなぁ~、もう目標が出てもいいころやと思うけど……」
「いえ、龍驤……、目標出現しました!」
加賀の艦載機がそれらしき機影を発見する。だがそれは相手も同じようで、艦載機に砲口を向けていた。次の瞬間、耳を引き裂くような銃撃音が鳴り響き、空を舞っていた艦載機が次々に堕ちていく。
「そんな……、第一爆撃部隊喪失!!龍驤、マギー、気をつけてッ。敵は強力な機関砲を持っています」
――ガトリングガンか。
マギーは加賀からの情報を冷静に分析していた。しかも艦載機を堕とせる射程を考えれば、ある程度何を積んでいるかも予想できる。
「その程度の武装なら大丈夫や、うちのユーナックちゃんたちの装甲でも充分弾ける!」
削り武器としては馬鹿にできないのだけれど……というマギーの不安を他所に、龍驤は深海鉄騎の元へUNACを突撃させた。
(まあ調度いいか)
ガトリングガンは基本削り武器であり、普通はそれとは別に主砲を持っているものである。それを龍驤のUNACで確認させてもらおう――そうマギーは考え、敢えて遅れて海岸より出発した。
「こちらマギー機、目標地点に向かってるわ。龍驤、そっちの様子はどう?」
「こっちはもう視認できる位置まで来とるよ。このまま三機でメタメタに……あッ!?」
「……どうしたの?」
「アカン、一機ヤられてもうた……」
「はあ!?幾らなんでも呆気なさ過ぎる。あなた一体なにやってたの!?」
「そないなこというたって、いきなり射程外からごっついビームと、えと…あれや、ミサイルが飛んできたんや、しゃあないやろ!!」
「はぁ、……残りがやられるのも時間の問題ね」
しかし、これで思惑通りに相手のアセンを大体把握することができた。
――ガトリングガン、ミサイル、レーザーライフルを積んだ二脚型。
武器の構成は『ブルーマグノリア』と似ているが、ヒートマシンガンより重量のあるガトリングを積めているあたり重量二脚だろう。思えば出撃前に送られてきた深海鉄騎の画像も少し太めだった気がする。これで戦い方も掴めた。
「龍驤、敵は重量二脚と呼ばれる種類のAC よ。火力や装甲が高い分、動きが遅い。二手に別れて接近、敵を軸に旋回するように動いて。そうすればまだ戦えるはずよ」
UNACに少しでも敵のAPを削ってもらうために龍驤へ指示を出す。
「よっしゃ、おおきに!やったるで~!!」
龍驤は一機目の仇と言わんばかりに高揚した声をあげた。UNAC が二手に分かれて急接近を開始する。しかしマギーの指示通りに敵を取り囲むことは叶わなかった。深海鉄騎も、その巨躯からは信じられない速さで接近してきたのだ。
「ちょっ、どういうことや!?話がちゃうやん!!?」
龍驤が動揺している間に、深海鉄騎は手に持っている武装を変更しながらUNAC に向けて急加速する。そしてその勢いのままUNAC を思いきり蹴り飛ばした。
ACのコアにも匹敵する太さの脚部から繰り出される衝撃は、易々と龍驤のUNACの上半身を引きちぎる。そしてゴロゴロと転がるUNACには目もくれず、深海鉄騎は地面を蹴り急加速、もう一機のUNACへと先程切り替えた武器を振りかざす。
マギーが現場へとたどり着いたのはまさにその瞬間だった。
――『ANOTHER MOON』
その黒色の光刃が深々とUNACに突き刺さり、その身を焼き尽くしていた。その光景にマギーは"自分の最期"をフラッシュバックさせる。
「そんな、馬鹿な……、なんであの機体が……」
その黒刃に『機動重二』と呼ばれる特異なアセン。マギーはそのACのことをよく知っていた。しかしそれを“信じたくなくて”スキャンを走らせる。
――たまたま似ているだけだ
きっと『Unknown』と表示される、そうに決まっている。
しかし表示された機名は忘れもしないものだった。
それはかつて『傭兵』と一緒に組み上げた機体。そして数々の戦場を渡り歩き……私を殺した機体……。
――AC『ストレイド』
その機体の左肩には、焼け掠れた『黒い鳥』のエンブレムが刻まれていた……。