艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ
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第十八話「MISSION04_黒い鳥-01」

 倉井元帥の鎮守府にて、こそこそと通信室に入り込み誰かと通信を取ろうとしている影があった。倉井元帥は現在大本営に出向中であり、まさに鬼の居ぬ間にという様相である。ただ残念なことがあるとすれば、例え倉井元帥がいたとしても大して警戒はされておらず、本当はこそこそする必要もあまり無いことであった。

 

――要は舐められているのだ、捨て置け、と……

 

 それに腹が立つものの、警戒に値する暗躍を出来ていないことに情けなさを感じながら、影の主――龍驤――は自分の本当の上司へと通信を繋ぐ。

 

「あー、あー、『最近どうでっか?』」

 

「『ぼちぼちでんなー』…………なあ、龍驤……この合言葉、やめにせんか?意味があるとは思えん」

 

「なにゆってんねん、これは挨拶も兼ねてるんやで、大切にせないかんよ!赤羽はん!!」

 

『赤羽元帥』

 彼が龍驤の本来の上司であり、彼女を倉井元帥の元へ送り込んだ張本人である。現在は前線から身を引き大本営勤めだ。

 

「わかった、わかった……それで、深海鉄騎とやらからは何か引き出せたか?」

 

「……あっかんわ、やっぱりちんぷんかんぷんやで」

 

「貴様、倉井から無人ACを授かって運用しているのだろう?何故出来ん?」

 

「んなこと言ったって、うちはUNACちゃんの操作方法聞かされてるだけや!解析とかできへんわ!!」

 

「……はぁ、やはり情報の真偽確認は無理か……」

 

「ああ、そういえば倉井はんはそっちでなんて言っとったん?」

 

 倉井元帥の大本営への出向は深海鉄騎から引き出した情報、統括機構インターネサインの場所についての報告をするためであった。赤羽元帥としては倉井元帥のもたらす情報の真偽を確認したかったため、龍驤に深海鉄騎の解析を指示していたのだが……結果はご覧の様だ。

 

「統括機構は『沈黙海域(サイレントライン )』の向こう側……だそうだ」

 

「あー……、やっぱそうやったか。随分と荒れたやろ?会議」

 

「ああ、皆薄々考えていたとはいえ信じたくなかった答えだからな。知らぬが仏、というやつだ」

 

 『沈黙海域(サイレントライン)』とはSOUTH FRONTIER近海に存在している“境界線”の内側のことである。深海棲艦が出現した際にSOUTH FRONTIERが制圧され、作り出された境界線。そこに入った途端何処からともなく飛来物が押し寄せ、どんなものも打ち落とされるのだ。艦載機だろうが戦艦だろうが……。かといって水中は水中で数えきれない程の機雷が漂っている。

 誰の侵入も許さず、入れば最後、水底に沈む運命が待ち構えている……ゆえに『沈黙海域』。攻略方法は未だ確立しておらず、避けて通るしか手立てがない場所である。

 

「倉井は駒が揃ったので近々攻略する……とぬかしていたがな」

 

「流石やね、あの人……それで統轄機構は具体的に何処やって?」

 

「それがだ、わかったのは沈黙海域の向こう側としかやつは言っていない。詳細は現在調査中だそうだ」

 

「……おかしいなぁ、マグノリアはんの言う通りなら深海鉄騎には詳細な場所の記録が残ってる筈なんやけど……」

 

 この前の任務にて龍驤はマギーから「深海鉄騎は統括機構までたどり着いたAC」と聞いていた。それが正しければ倉井元帥は嘘の報告をし、情報を隠していることとなる。

 

「報告にあったあれか。なぜマグノリア・カーチスがその情報を知っているかは省略された……とあったが、信頼できるのか?」

 

「嘘をついてるようじゃなかったで。ACのために翔鶴に喧嘩売ろうとしたぐらいやからな、それなりに確信はあったとウチは踏んどるよ」

 

「なるほどな……しかし、やはり深海鉄騎の解析ができんと話にならんな」

 

「せやかて、さっきも言ったけどウチらはACの解析なんかできへんよ。倉井はんもそれが分かっとるから放置しとるんやろ。舐めくさりおって、ほんま腹立つわ~」

 

「……そういえばさっきの……マグノリア・カーチスであれば解析できる、と報告書にあったな?」

 

「確かに報告書にそないなこと書いてたような……でもそれがなんやっちゅうねん?」

 

「いや、良いことを思い付いてな」

 

 赤羽元帥の声が今までの神妙そうなものから打って変わって楽しそうなものになる。まるでイタズラを思い付いた子供のようだ。きっと悪い顔しとるんやろな、あのオッサン……と龍驤は苦笑いを浮かべた。

 

「龍驤……確か貴様、居心地悪いから異動したいと言っていたな?」

 

「まあスパイに優しくしてくれるやつはおらんわな、普通」

 

「いいぞ、その願い受領してやる。今日から貴様は白鳥のところへ異動だ、さっさと準備しろ」

 

「はッ!?いきなりなにゆうてんねん!!」

 

「なに、問題は無い。白鳥も空母不足を嘆いていたからな、きっと歓迎されるだろう」

 

 赤羽元帥もまた白鳥提督の同期であった。しかも倉井元帥と違い同じ釜の飯を食べた仲である。そのこともあり、前線に残っている白鳥提督とは互いに無理を言い合う持ちつ持たれずな間柄だった。

 

――例のAC乗りが奴のところなのは都合がいい。

 急なことだが、きっと奴なら悪態をつきながらも対応してくれるだろう。

 

 そのような信頼を赤羽元帥は白鳥提督に持っていた。

 

「でだ、龍驤……随分急なことだし、私達はACのことをよく理解していないからな、UNACを一機ぐらいなら積み間違えてしまうこともあるだろう」

 

「……うわ、そういうことかいな。大丈夫なん?それ」

 

 要は深海鉄騎をパクって白鳥提督のとこまで届けろということだ。下手しなくとも軍法会議ものである。しかし赤羽元帥は悪びれた様子もなく語る。

 

「奴だって色々強引な手を使っているのだ、たまにはこちらもやらせてもらう」

 

「はあ、しゃ~ないなぁ……責任はそっちで取ってよ?」

 

「分かっている。今の私はそれくらいしかできんしな。そっちに忍ばせている作業員にも今連絡を送った。倉井が戻る前にケリをつけろ」

 

「了解、はあ~ほんま人使い荒いわ~」

 

 龍驤は通信を切り、急ぎ足で工廠へと向かっていった。

 

◇ ◇ ◇

 

 装甲空母『翔鶴』の中には三機のACが格納されている。No.2、No.8……そしてその隣にある三機目を倉井元帥は整備していた。その三機目のACに通信が繋げられる。相手は隣にいるNo.8だった。

 

 No.2、No.8は『デザインド』という処置を受けた元人間であり、身体の機械化の末彼らはACと一体化させられている。そのため彼らは誰かと話すときはACのスピーカーを使うか近場の通信機にアクセスする必要があった。スピーカーは音が大きすぎるのであまり使用せず、彼らはもっぱら後者の方法を使用する。特に個人的な話であれば尚更だ。

 

「倉井……深海鉄騎の処分、あれでよかったのか?」

 

 倉井元帥は整備の手を動かしたまま答える。

 

「龍驤が持ち出したことか?整備不良のUNACを持ち出したことによる不幸な事故。全ては海の底に沈みそれで終わり。……シナリオに何か問題があるとでも?」

 

「随分回りくどいと思ってな……」

 

「ただ解体するにしても色々と理由がいるのさ……ましてや、こんなものが身に付くとな」

 

 そう言うと倉井元帥はコックピットから手だけを出し、階級章をNo.8に見せつける。

 

「自由を謳歌していた鳥も随分と変わったものだ」

 

「変わるもなにも……それはオリジナルの話だろう。私は倉井であってクラインではない、私は私だ。貴様らを下した人物とは別人だよ」

 

 珍しく彼が言葉に乗せた感情は自嘲だった。最初の黒い鳥の写し身ながらも、その性質と真逆のことをしている。そんな自分をどこかおかしく思っているのかもしれない。

 

「気分を悪くしたなら謝る」

 

 皮肉のつもりで言った訳ではなかったので、No.8は誤解を解く意味も込めて謝罪をした。

 

「気にするな。それよりもNo.8、深海鉄騎の処分が気にくわないようだが……どうした?」

 

「……貴様のと……いや、クラインのと似たエンブレムだったからな……、そのわりには呆気ないと思っただけだ。下らない感傷だ」

 

 心のどこかで望んでいた黒い鳥との再戦、その面影を感じさせるACがこれからつまらない最後を迎えることにどこか虚しさを感じていた。

 

「そういうことか……そんなものすぐに忘れる。黒い鳥……それはエンブレムなどの有無ではない。私達が秩序を造り出そうとする限り、必ず目の前に現れる。あれはそういう存在だ……」

 

 倉井元帥は断言する。自身のオリジナルがそうであったからか、『企業』から時代の節目にそのような存在が観測されてきたことを教わったからか、それが世の理とでも言うような力強さを持って……。

 

「今回は……やはりあのカーチスの末裔がそうなのか?」

 

 それに対しNo.8は自らの考えを吐露した。自分達に与えられた新たな任務、現状それを阻害しうる唯一の存在。自分達に匹敵する戦闘力と闘争本能と兼ね備え、しかも統括機構のことも知っている。まるでタイミングでも計られたように現れた彼女にNo.8は因縁のようなものを感じていた。

 

「……少なくとも修正対象ではあるな。しかしイレギュラーというのは“想定外”だからイレギュラーというのだ。ヤツ以外の“想定外”も想定しておいたほうがいいだろう」

 

 倉井元帥はACの整備を終えコックピットから立ち上がる。そして決意を確かめるように自分の『逆さ吊りの鴉』のエンブレムを仰ぎ見た。

 

「……例えなにが来ても、イレギュラーは全て消すがな」

 

 人間の可能性――戦いをやめられない性。

 それを制御するために、秩序を復活させるために『 黒い鳥(チカラ)』をこの身に宿しているのだから。






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