艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ

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第二話あたりのおさらい的な内容。
こういう設定を考えること自体は好きなんですけど、いざ文にしようとすると中だるみしそうで不安になるんですよね。


第二十六話「EXTRA MISSION_死神艦隊撃破-04」

鎮守府会議室にて『死神艦隊』を撃破するための会議が行われていた。中に居るのは提督と、『死神艦隊』と交戦した那智の艦隊、そして那智からの報告を受け提督より選抜されたメンバーたちだ。

 選抜メンバーの構成は、旗艦に正規空母『加賀』、戦艦『金剛』『榛名』、重巡『妙高』、正規空母『瑞鶴』、雷巡『大井』、そして AC 『ブルーマグノリア』『吹雪弐式』であった。 AC のスポット頼りの長距離砲撃を前提とした、攻撃力偏重の編成である。それは最初の航空戦……いや、 AC戦の勝敗が艦隊の勝敗を決することを意味していた。 ACを懐に入れてしまえば、その艦隊には勝ち目は無い。それは敵味方同じだった。

 

「―――以上が報告だ。何か質問のある者は……といっても、私も質問したいことばかりなのだがな……」

 

 皆の前で自分に起きた事を説明した那智は、後は頼むという眼差しをマギーに向ける。

 

「那智、提督に演習を強要してきた男は確かに『財団』と呼ばれていたのよね?」

 

「ああ、間違いない。しかもご丁寧にそいつは分からない事があればお前に聞けと言っていたぞ、マギー」

 

――――面倒なことを押し付けて。

 マギーは内心『財団』の身勝手さに苛立ちを覚えつつ、何から話したものかと思案していた。すると提督から質問が上がる。

 

「マギー、確か『財団』ってのはお前をここに送りつけた奴だったよな?深海棲艦を倒すために。だが今回の行動は明らかにその目的と矛盾してやがる。そいつは一体なにが目的なんだ ? お前はそれが分かるのか?」

 

「……ええ」

 

 本人に妙なプレッシャーを与えたくないので本当はあまり言いたくはないが……、言わない訳にもいかないか。

  マギーは「あくまで私の予想だけど」と念頭に置いた上でその理由を口にした。

 

「『財団』の目的は恐らく吹雪よ」

 

「はぁ、なんだそりゃ?なんで吹雪が狙われる?」

 

「そうね……、順を追って話しましょう。提督と加賀には着任時に話した内容と被ってしまう部分もあるけど、理解してもらうには最初から話した方がいい」

 

 提督は首を縦に振り許可をだす。会議室の壁際に立っていたマギーはそのままゆっくりと口を開け"昔話"から喋りだした。

 

◇ ◇ ◇

 

――――世界がまだ破滅に向かっていた時代。

 ある男は人間に絶望していた。だから人間を辞め、その愚かさを証明しようとした。

 『タワー』のAIとなり『財団』と名乗るようになったその男は、人間同士の争いを誘発し激化させ、「世界を滅ぼすのは人間自身だ」ということを証明しようとしたの。

 でもその時に邪魔者が現れた。『財団』が作ろうとする混沌すら壊してしまう者。全てを焼き尽くす死を告げる鳥、人間の可能性……そいつは『黒い鳥』と呼ばれたわ。

 その存在を予見していた『財団』は、素養のある者を探しだし殺し回った。でも結局、その『黒い鳥』は生まれたわ。……ここまでは私の『前世』での記憶。私は『ある傭兵』が『黒い鳥』になるところを見たの。

 

( そう……彼に殺され燃え落ちた時、私の目に写った彼は紛れもなく"本物"だった…… )

 マギーは目を細め、懐かしむ様にその時を思い出していた。加賀だけがそれに気付き、複雑な表情を浮かべていたのには気づかず……。

 マギーは話を続ける。

 

 ここからは『財団』から聞いた話に私の臆測を混ぜたものになる。

 『黒い鳥』はありとあらゆる戦場を渡り歩き、様々な戦力を焼き尽くしていった。戦争を激化させたかった『財団』からしたら邪魔で仕方なかったでしょうね。だから『財団』は彼を殺したかった。彼を抹殺して、人間に可能性なんてないことを証明したかった。

 でも突如として別の邪魔者が現れた。私たちの敵、深海棲艦のオリジナルである『パルヴァライザー』と、それを産み出す統轄機構『インターネサイン』。『インターネサイン』が『大破壊』を引き起こしたせいで人類は衰退し、残った戦力を『インターネサイン』も含めて『黒い鳥』が止めてくれたから人類は滅びずにいられたの。

 ……そして今、『インターネサイン』は復活し深海棲艦を産み出している。人類が自らを滅ぼすことを証明したい『財団』にしてみれば、深海棲艦は邪魔で仕方なかった。だから艦娘のシステムを利用して私をここに送り込み、『インターネサイン』を破壊させようとしてるわけ。

 深海棲艦さえいなくなれば、今度は人間同士の"本当の戦争"が始まる。深海棲艦に対抗するためだった力を人に向け、深海棲艦から受けた傷を癒すために領地を奪い合う……『財団』はそうなると信じてるのよ。

 そして、その"本当の戦争"の時に邪魔になる可能性、『黒い鳥』。彼のACを引き継ぎ、彼と同じ素養を持つ吹雪を見つけたから、『財団』は今になってしゃしゃり出てきたんだと思う。吹雪が"本物"か確かめ、そして抹殺するために……。

 

◇ ◇ ◇

 

 私が昔話を終えると、会議室内が重苦しい沈黙に包まれていた。「何と言えばいいか分からない」といった雰囲気だ。確かに仕方ないことかもしれない。

 私の話した内容は『深海棲艦の大元の破壊』という世界の命運を握るような任務が待ち受けていることや、『タワーの AI 』という途方もない相手に目をつけられたことを示唆している。

 艦娘ならば深海棲艦の撲滅が使命であることは重々承知だろうけど、流石に自分達がその中心に近い位置にいるとは、以前から話を聞いていた提督や加賀を除いて、誰も思っていなかっただろう。

 

「……なんだか私たち、 very hard な event に巻き込まれてマスネー。特にブッキーなんか bad luck デスヨ」

 

 金剛が沈黙をやぶり、私の隣に立っている吹雪を心配そうに見る。皆も釣られて吹雪に視線を集めた。急に皆から注目されたものだから、吹雪は慌てふためいて苦笑いを浮かべている。

 

「え、いや……、ホントその通りですね、アハハハ……。でも『深海棲艦』だろうと『財団』であろうと、怖いものはみんな消しちゃえばいいだけです。だからその…大丈夫ですよ!…………それに " あの男 " を許すわけにはいかないから丁度良い……です」

 

「ブッキー… ? 」

 

 表面上はいつもの吹雪のようであったが、何人かは吹雪の様子がおかしいことに気づいていた。確かにいつもの彼女だったら「消す」なんて物騒なことは言わないし、なにより『財団』を " あの男 " と言っていた時の吹雪の眼光は別人のようだった。

 その様子を見て確信する。

 

( やっぱり『財団』に反応しているのは間違いない…… )

 

 吹雪は『黒い鳥』の戦闘記録を持っている。だから彼と長い間争い続けた『財団』が自分の敵であると本能的に感じているのかもしれない。そのせいか『財団』との戦いに吹雪は積極的な態度を見せていた。

 

「……吹雪の言う通りよ。ある意味皆を面倒事に巻き込んだ私が言うことじゃないかもしれないけど、振りかかる火の粉は払うだけ。とりあえず『財団』の目的についてはもういいわね?だったら『死神艦隊』を倒す話をしましょう」

 

「そうですネ……」

 

 吹雪の様子がおかしいことや『財団』の目的が全く共感できないようなもののせいか、金剛を含めまだ何人かは釈然としていない様子だった。

 しかし明日の1400には現地に着いていなければならず、あまり時間がないのも事実だったので、少々強引かもしれないが話を進めることにした。まだ皆の前に立ったままの那智へ話しかける。

 

「那智、もう一度敵の戦力について説明してくれないかしら?」

 

「ああ、構わん。敵……『死神艦隊』と名乗るやつらの編成だが、旗艦が空母棲鬼、それから順に軽巡棲鬼、軽巡棲姫、駆逐棲姫の四隻だ。どれも我々との戦闘情報から作られたと言われている模倣型の深海棲艦だな。ただ『死神艦隊』の特徴は他の深海棲艦と違って確かな知性があることだ。有象無象の深海棲艦と違って、まるで艦娘みたく連携を使ってくる。今回は龍驤のUNACで敵の爆撃を無効化できたことや、数で勝っていたから艦隊戦は優位に進めることが出来たが……深海棲艦の弱点である知性を克服している厄介な相手だ。まあ、それでもこいつらだけならどうにかなるのだが……」

 

 那智の顔が苦々しいものに変わっていく。圧倒的に蹂躙された敗北の記憶、それを思い返すことに抵抗がないわけがない。だがそれでも仲間の勝利のために那智は話を続けてくれた。

 

「……問題は敵のAC二機だ。一機は『V』と呼ばれる戦車のキャタピラを履いたようなタイプのACで、戦艦の主砲にも耐えるような硬い装甲と、軽巡の主砲並の威力を持つ砲門を四つ付けた機関砲……自分で言ってても馬鹿らしくなるようなふざけたモノを両手に持っている。もう一機は『M』と呼ばれる、重量二脚というんだったか?そのタイプのACで、長距離射程のライフルで先程の『V』を援護するような戦い方をしていた。ただそのライフルの一発一発が非常に強力な上、重巡の主砲並の大砲も二丁持っている。そして戦艦すら一撃で大破させるほどの威力の " 空飛ぶ魚雷"までもだ。どちらも龍驤のUNACと比べたら、速度は遅めだが化け物じみた火力を秘めている。接近を許したら私達の二の舞になるぞ。……マギー、吹雪、対抗できるのは恐らくお前達だけだ。やれるか?」

 

 那智の話から察するに、『死神部隊』は両手オートキャノンのタンクが突っ込んできて、スナイパーライフルとバトルライフル、そして大型ミサイルを積んだ重二がその援護をする、といった編成らしい。随分と正面火力偏重だが、障害物の無い海上ではなかなかの脅威だ。

 直にその火力を味わった那智が私たちを心配するのも頷ける。

 

「説明ありがとう、那智。大丈夫よ、私達ならやれるわ。敵のアセンを知ることが出来たのは大きい。……結局、敵のACを打ち破って敵艦隊に接近。そのままACでスポットして艦隊の長距離砲撃で残りを仕留めるって流れに変更はなさそうね」

 

――――私と吹雪の勝敗がそのまま艦隊の勝敗に直結する。

 だから那智や一緒に出撃する仲間達の不安を払拭するように自信を込めて話した。そもそもAC戦という領域において負けるつもりはない。

 話を終えて壁に寄りかかると、隣の吹雪から回りに聴こえない程度の小声で話しかけられた。

 

「マギーさん、『財団』の艦隊がこれだけで終わるでしょうか……?」

 

 かつて『財団』から散々だまし討ちを受けた記録を持っているからか、彼女自身の生来の危機察知能力からか、吹雪は私に不安を打ち明けた。

 

「確かにあの男のことだから他に何か仕込んでる可能性は高いわ。でも例のAC達がいる以上、私達が前に出て戦うことは変えられない。それが深海棲艦のタイプだったら後で、 AC のタイプだったら例のAC達と同時に戦うだけ。大丈夫、あなたと私ならやれるわ。あなたが言ったんでしょ?なにが来ても”消せばいい“だけよ」

 

 私もそのことは予想していないわけではなかった。だけど今回は吹雪もいる。

 艦隊との連携は自分が担当すればいいし、純粋な AC 戦であれば吹雪はすでに『死神部隊』のメンバー並の実力を持っている。それに加え、今の吹雪の目には私との模擬戦の時にはなかった『殺意』が確かに宿っていた。その状態での実力は未知数だが少なくとも弱くなることはないだろうし、上手くいけば乗り越えられなかった壁を乗り越え"化ける"かもしれない。

 だからそんな吹雪と一緒であれば大抵の敵には対応できると私は考えていた。

 

「……そう、ですね。そうでしたね」

 

 そういって吹雪は微笑んだ。まるで想定外のことが想定内である、非常事態が当たり前である、それを思い出したかのように……。

 その笑みに『傭兵』の面影を感じてしまう。

 

(これも彼の影響なのかしら……)

 

 『黒い鳥の傭兵』に依頼される任務にはイレギュラーな事態が起こるものが多かった。その頻度は相方であるファットマンが「もう馴れただろう」なんてこぼすほどだ。

 『傭兵』もそれに適応し、大抵の事には動じなくなるどころか冗談を言って笑い飛ばしていたりしたのだが、その時の彼の笑みと吹雪が今見せた笑みが重なって見えていた。

 

(『財団』の目論見が本当に『傭兵』の再現なら……きっと今の状態は思惑通りなんでしょうね……)

 

 左腕が強く疼き始め、右腕でそれを握りしめる。それでも疼きは止まらない……。

 

(私の"これ"もあいつの思惑通りなの?だとしたら………面白くない)

 

 更に左腕を強く握りしめる。吹雪が彼の面影を見せる度に自分の中で"恐ろしい何か"が膨れ上がっていくのを私は感じていた。

 

「マギー、他に説明は無いかしら?」

 

 加賀に声をかけられ、ハッと視線を吹雪から加賀へ移す。私を見る加賀の表情には若干私を咎めているような険しさが含まれていた。

 ……もしかしたら彼女は、私の今の状態を見透かしていて、声をかけたのかもしれない。

 

「え、ええ……。私からは以上よ」

 

「……そう。では具体的な作戦の確認に移るわ」

 

 加賀は少しだけ溜め息をつくと映写機のスイッチを入れた。会議室のホワイトボードに作戦領域の海図が写し出される。

 

「作戦領域は鎮守府近海、当鎮守府警備担当海域のエリアE-1よ。作戦開始は1400」

 

 ホワイトボードに映る画面に味方艦隊を表すマーカーが現れる。加賀は那智と入れ替わって皆の前に立ち、指揮棒で画面を指しながら説明を再開した。

 

「まず私と瑞鶴で事前に偵察機を飛ばしておき、敵艦隊及び敵ACを補足。敵ACへ『ブルーマグノリア』『吹雪弐式』を誘導するわ。大井も甲標的を敵艦隊に向けて発艦しておいて。艦隊は敵艦隊との距離を保つように移動します。……マギー、敵ACと交戦を開始してからの予想戦闘時間は?」

 

「三分かからないでしょうね。それまでに決着は着く」

 

「なら問題無いわ。ではマギー達は敵AC を撃破後、そのまま敵艦隊を襲撃して。その際マギーはいつも通り私にスキャン情報の送信をお願い。そして……」

 

 加賀は瑞鶴へと視線を移す。

 

「瑞鶴、今回はACに対空戦闘をやる余裕が無いと予想されるわ。だから私と貴女で戦闘機偏重の航空戦隊を組みます。味方艦隊への爆撃は勿論、AC達の戦闘に横槍が入るのを防ぐわ。やれるわね?」

 

 暗に「やれ」という加賀の威圧に緊張してながらも、瑞鶴は威勢良く「ハイ!」と返事をした。加賀は納得したのか「…そう」とだけ呟くと、今度は大井へと視線を移す。

 

「……なので敵艦隊への先制攻撃の要は大井、貴女の甲標的による雷撃になるわ。ACのスポットを頼りに確実に命中させて。砲撃戦を優位に運ぶのに重要な役割よ、注意して」

 

 瑞鶴に向けたのと同じような視線を加賀は大井に向ける。大井はたじろぎながらも「だ、大丈夫です」と答えようとしていた、その時だった。

 

「あのさー、ちょっとい~い?」

 

 北上が手を挙げながら横槍を入れる。

 

「……どうしました?北上」

 

「いや~加賀さんさァ。今更って思うかもだけど、やっぱり大井っちには今回の任務、荷が重いよー。雷巡に改装したのこの前だよ?他の人に替えない?」

 

 北上からの横槍は大井を艦隊から外す提案だった。どうやら大井の練度に不満があるらしい。

 

 瑞鶴もそうなのだか、大井はこの鎮守府生まれの『建造組』であり、所謂新人だ。

 最前線へはいつも『MI 生き残り組』と呼ばれる過去の敗戦を生き残った精鋭達が駆り出されており、今回『建造組』の二人が駆り出されるのは異例と言えば異例だった。

 とはいえ、少なくとも瑞鶴に関して私は異論はない。龍驤が修理中である今、空母として次に練度が高いのは瑞鶴だからだ。

 この前『生き残り組』の千歳と千代田が軽空母へ改造されたものの、艦載機の操作に関しては馴れていない彼女たちより瑞鶴の方が上手だ。

 何より瑞鶴を推薦して編成に加えたのは、彼女の師事をしている加賀である。加賀が十分だと判断したなら問題は無いだろう。

 

 大井も、雷巡が今回の編成に欲しかったのと日々の戦果から問題無しと判断され加えられたのだが……彼女の師事を任されている北上が、加賀とは逆に不十分だと考えているようだ。

 そんな北上の意見を提督は却下していた。

 

「北上、お前らの扱う甲標的とACのスポットの相性が抜群なのはお前自身が一番分かっているだろ。その威力もな。それにお前と比べたら確かに大井の腕は劣るかもしれんが、日頃の成績からしたら問題無いと思うがね」

 

「でもさ~……」 

 

「あのなぁ、北上……だいたい、千歳と千代田を軽空母に改造しちまった以上、甲標的を扱えるのはウチじゃお前らしかいないじゃないか。大井が心配なのはわかるが、外す理由にはならんな」

 

 ……なんだ。ただ大井が心配で北上は外そうとしていたのか。確かに今回の敵は今までで一番の驚異だが、それじゃあ確かに大井を外す理由にはならない。

 どうも北上は大井のことになると何時もの冷静さを欠くらしい。提督に諭されてもいまだに食いついている。仕方ないので私も北上を説得することにした。

 

「北上、確かに今回の相手は今までと比べて危険だけど、作戦通りに進めばいつも通り一方的な展開で終わるわ。それとも私達が信用できない?」

 

「いや、そう言うわけじゃないけどさ~……」

 

「じゃあ問題ないわね。大井自身がそれでもっていうなら考えるけど……どうなの?大井」

 

「や、やります!やらせてください!!」

 

「だそうよ、北上」

 

「………大井っちがそこまでいうならさ……わかったよ」

 

 いまだに渋い顔を浮かべながらもやっと北上は引き下がる。

 加賀が咳払いをしてミーティングを再開した。

 

「んっ…では……、金剛、榛名、妙高の三名はACのスキャンデータを受信後、スポットしている敵艦隊へ長距離砲撃を行ってちょうだい。妙高はスポット砲撃が今回初めてだから、後程金剛より指導をお願い」

 

「OKネー!妙高ならvery easyデース!」

 

「よろしくお願いしますね、金剛さん」

 

 妙高が金剛に軽く会釈する。正直、妙高ほどの練度があればぶっつけ本番でも余裕で対応できるだろうが、あくまで万全を期するようだ。

 

「では最後に……『吹雪弐式』ですが、リスクと負担の分散のために瑞鶴、貴女に艦載して運用してもらいます。会議終了後、オペレーティングシステムのリンクを行うからそのつもりで……以上、作戦に何か質問のあるひ…」

 

「いやいやいや、加賀さん!?」

 

 加賀が言い終えるより先に瑞鶴が席を立ち質問する。まあ内容は大体想像つくけれど……。

 

「吹雪は加賀さんに艦載するんじゃないんですか?」

 

「さっき言ったでしょう、リスクと負担の分散だと。別々で運用すれば最悪私に何かあっても貴女がオペレータの代理を務めることができるし、何かの際に別行動も取れるわ。それに情けない話ではあるけれど……ACのスキャン情報量は膨大で、二機同時に送信されてきた場合処理しきれないの。だから『吹雪弐式』は貴女が運用しなさい。分かったわね……」

 

 瑞鶴はおずおずとしながら「はい……」と返事をし、席に座る。やはり初めてのAC運用なので不安なのかそこに先程までの威勢はなかった。

 そんな彼女を励ますつもりか、吹雪が瑞鶴に声をかける。

 

「大丈夫ですよ、瑞鶴さん。前に言ったじゃないですか、加賀さんはできると思ったことしか言わないって。だから大丈夫です、一緒に頑張りましょう!」

 

「吹雪……」

 

「じゃあ良いわね。他に質問のある人は………いないみたいだから会議はこれで終了します。抜錨は明日の0700、各員それまでに準備を整えておいて。……提督、あなたからは何か?」

 

 二人の友情溢れるやり取りをバッサリと切り、加賀は話を続けた。吹雪から暗に瑞鶴に期待していることを暴露されたのが恥ずかしいのか、その加賀の口調は若干早口だった。提督もそれに気付いているのか口角が少し上がっている。

 

「はっはっは、俺からはなにもないさ。まあ、強いて言えばいつも通りか。"生きて帰ってこい"、それだけ守ってくれりゃあいい。以上だ。」

 

「「了解」」

 

 提督の締めにより『死神艦隊』の対策会議は終了し、各々が準備をするため散々になっていく。私も吹雪のACを瑞鶴にリンクさせるため工廠へと向かおうとした時だった。

 加賀に袖を掴まれ止められる。

 

「……どうしたの加賀」

 

「マギー、貴女が『黒い鳥』に思うところがあるのは知っています。吹雪に『例の傭兵』の面影を見ていることも……。でも今は目の前の敵を見て」

 

「見てるわよ」

 

「いいえ、見ていないわ。自分で気付いていないの?さっきの吹雪を見ていた貴女の目は仲間に向けるようなものではなかったわ……」

 

「………」

 

「マギー、例え吹雪の様子がおかしくても吹雪は吹雪よ。『傭兵』じゃない。そして今の貴女は"私の艦載機"『ブルーマグノリア』よ。それを忘れないで……」

 

「……わかってるわよ」

 

 私は加賀の手を振りほどき工廠へと歩き出した。加賀も瑞鶴の調整があるため私の隣に並んで一緒に工廠へ向かうが、結局あっちに着くまで一言も彼女と言葉を交わすことはなかった。

 

 




次回戦闘へ移ります。こんなに長くなる予定はなかったんですけどねw

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