艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ
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第三話「歓迎会をしよう、盛大にな」

 秘書艦からの報告を受け、白鳥提督は頭を抱えていた。

 

「にわかに信じられんな…」

 

 最初、加賀がマギーという女性を連れてきたとき、『開発』と『建造』を間違えて行っちまったのか?と思ったが、どうやらそうではないらしい。加賀からの報告はこうだった。

 

――うまくいけば空母一隻分の艦載機が開発できるだけの資材を消費し、“たった一機の艦載機”と“そのパイロット”が“遠隔操作により”開発された―

 なるほど、加賀も混乱するはずだ。本来艦載機は補助AIを搭載し、空母の艦娘の指示で自立飛行をする兵器だ。ところがこの艦載機はパイロットが存在し、しかもその形状は7mほどの鉄の巨人だという。これはもしかして夢か?と思い、手の甲をつねってみたがちゃんとした痛みがあった。

 どうやらこれは現実らしい。

 

「まあ、うなだれていても何も始まらん……。マギーといったな…改めて自己紹介させてもらおう。俺は白鳥太志…この鎮守府の提督だ。色々聞きたいことがあるようだが…まずこちらの質問に答えてはくれんかね」

 

「ええ、構わないわ」

 

「……まず一つ。おまえさんと艦載機を作った装置、それを“遠隔操作”した存在…一体なにものだ?情けない話だが我々はアレを使いこなせているわけではなくてね。直接操作しても、造るモノの指定すらできん。はっきり言って脅威だ…そいつは。そいつに作られたキミも含め…少なくとも敵か味方かは知りたいところだな」

 

「……あいつは傍観者よ…多分これ以降しゃしゃりでてくることはないわ。で、そこの秘書にも言ったけど、わたしは味方……。少なくとも『インターネサイン』を破壊するまではね」

 

「インターネサイン?なんだそりゃ?」

 

「話すと長くなるんだけど…そうね、昔話をしてあげるわ」

 

 マギーは語った。『財団』がタワーのAIであること、その『財団』が引き起こしたタワーを巡る三大勢力の争いが過去にあったことを。そしてその最中、突如として目覚めたインターネサインとパルヴァライザーという兵器のことを――。

 

「――以上があらまし……。で、『財団』の“趣味の問題”で私がここに送られてきたというわけ」

 

「なるほど…余計に頭が痛くなってきやがった…」

 

 衝撃の事実の連続に白鳥提督は再び頭を抱える。得た情報と“彼女”をどう扱ったものか…?執務室が沈黙に包まれる。口火を切ったのは加賀だった。

 

「提督…もし彼女の話が本当だとしたら……。深海棲艦の正体が戦えば戦うほど成長する兵器だとしたら…私たちは…一体どうしたら……」

 

 その声には不安がこめられていた。自分たちが頑張れば頑張るほど敵は強くなり、いずれ確実に自分たちが敵わない敵が現れる。マギー情報が確かであれば、真綿で首を絞められているようなものだった。

 

「加賀……」

 

 白鳥提督は腹をくくることにした。落ち着きを取り戻すために軽く一呼吸吐き、いつもの陽気な口調で喋りだす。

 

「なあに、やることは変わらんさ。仮に彼女の話が本当だとしても、戦わない理由にはならんしな。むしろこの戦争の終わりが見えたんだ、僥倖じゃあないか。予定通りやつらから制海権を取り戻す。そのついでにインターネサインを探し出すってのが増えただけだ。……このことはとりあえず俺たちだけの秘密にしておこう。下手に報告しても混乱を招くだけだしな。なにより本営の頭でっかちどもに説明できる口上を俺は持ち合わせてない」

 

ハハハ、と白鳥提督は笑い、マギーのほうを見やる。

 

「おまえさんは味方だったな。ようこそ、我が鎮守府へ。『財団』とやらの秘密兵器なんだろう?こちらとしても多くの資材をぶっこむハメになったんだ、その分の戦果、期待させてもらっていいんだよな?」

 

「そうね……正直言うと、私はパルヴァライザー…もとい深海棲艦と戦ったことがないからどんなやつらか全く知らない。あなたたちの戦力も良くわかってない…。だからあなたの期待に沿えるかは、今はまだ答えられないわ」

 

 

「ただ……」

 

 

 折角もらった新しい魂、新しい戦場。マギーは『財団』から話を聞いたときから、こころの奥底から湧いていた想いを口にした。

 

 

 

「――負けないわ、何にも、誰にも」

 

 

 

 

 白鳥提督はぞくりとした。なるほど、話を聞く限りイカれてる『財団』とかいうのが送ってきただけある。

 

「それだけ聞ければ十分だ。頼もしい限りだよ…」

 

――そして恐ろしい何かを感じる。

 

 これは見極める必要があるな、彼女のことを…早急に……。白鳥提督は一つ案を出すことにした。

 

 

「よし、マギー、俺たちはまずお互いを良く知る必要があると思う。そこで『歓迎会』をしよう、盛大にな」

 

「歓迎会?」

 

「ああ」

 

 いつの間にか不安の表情が晴れ、いつもの無愛想な顔へ戻っていた秘書艦に白鳥提督は声をかけた。

 

「加賀、明日予定の演習、今からやるぞ!準備しろ!」

 

「今からですか…!?確かに参加者は全員待機中ですから構いませんが……しかしあれは瑞鶴の艦載機運用試験を兼ねていた筈です。彼女の分の艦載機が足りませんが…いかがなさるおつもりで?」

 

「おまえのを渡せばいいだろう?なあに、偵察機ぐらいは少し残してやるよ」

 

「私の艦載機を!!?…五航戦の子なんかに譲れません」

 

 キッと加賀は白鳥提督を睨んだ。加賀にとって、AIの調整を繰り返し一緒に戦ってきた愛機達は誇りだったのだ。しかし、白鳥提督は加賀の睨みにひるむことはなかった。

 

「まあそう言うなって。代わりにおまえには最新機を配備してやるから……なあ、マギー」

 

「私?」

 

「どんなナリをしてても、『艦載機』なんだろう?だったら空母に載せなきゃな、ハハハハハ」

 

 ひとしきり笑い声を上げた後、白鳥提督の口調は急に真面目になる。

 

「……これはおまえさんの試験も兼ねてる。さっきも言ったが、おまえさんには相当の資源をぶっこんでいてな。相応の働きが期待できないようであれば、おまえさんの仕事はパイロットでなく皿洗いになる。艦載機も溶鉱炉行きだ、うちは資材がないんでね」

 

 これは半分本当だった。イレギュラーな存在がわざわざ送ってきた艦載機、きっと弱いはずは無い。ただ、もし自分の艦隊の害になるようなモノであれば、そんなものを運用する気は無かった。

 

「なるほどね。いい歓迎会だわ、嫌いじゃない」

 

 そんな提督の思いを知ってかしらずか、マギーの眼は生き生きしだす。その眼は『黒い鳥の傭兵』と対峙していた時の…“傭兵の眼”に完全に戻っていた。マギーは、まだ提督を恨めしそうに睨んでいる加賀のほうへ振り向き、手を差し伸べる。

 

「加賀…だったわよね?私は“指示を受ける側”で戦うのは久しぶりなの……。あなたのオペレーション、期待してるわ」

 

「……私も、あなたにはそれなりに期待しているわ」

 

 むすっとした表情のまま、加賀はマギーと握手を交わす。

 

「よろしくね、加賀」

 

「ええ、よろしく」

 

最初の彼女たちの戦場は『演習』に決まった。



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