艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ
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ここからしばらく加賀さん視点
加賀さん奮闘記のお時間です。


第三十一話「MISSION05_AC特別演習-01」

―――時刻は0600

 

 何時もなら私もマギーも目を覚まし、今日の準備を行う時間だが……案の定マギーはまだ布団の中から出てこない。

 

「おはよう、マギー。……大丈夫?」

 

 一応目は覚ましていたのかマギーは布団から顔を覗かせた。度数93%なんてふざけた酒を一気飲みしたせいか喉が完全にやられており、その声はガラガラだ。

 

「……あまり、大丈夫とは言えないわね」

 

「今日は出撃もないし、溜まっている書類もないわ。最近色々あったし、今日は休んだら?」

 

「……そうさせてもらうわ」

 

 そう言うとマギーは再び布団の中に顔を埋めた。この調子では今日一日は駄目そうだ。

 

「お水、机に置いておくから。後でお粥か何か持ってくるわね」

 

 自分の身支度を整えながらマギーに伝える。外に出ようとした時になって、布団の中から「……ごめん、加賀」と小さな声がした。

 

「気にしないで。今日の貴女の仕事はゆっくり休むことよ。……じゃあ、行ってくるわ」

 

 自室のドアを閉め朝食を取りに食堂へと向かう。

 食堂に着くと自分用の日替り定食、本日は鮭だったが、それの大盛りとマギー用のお粥を頼んだ。お粥は献立に無いので当然作り置きなんてなく、お盆に料理が置かれるまでしばしば時間がかかる。これは仕方ない。一応「そんなにはかかりませんよ」と間宮に言われたのでカウンターで待つことにした。

 

「おはようございます!加賀さん」

 

 横から元気な挨拶が飛んでくる。振り向くと前の鎮守府からの長い付き合いになる彼女がいた。

 

「あら、吹雪。おはよう。もう体は大丈夫なの?」

 

「元々ただの疲労でしたから。早朝の検査も問題なかったですし、もうバッチリです」

 

「そう、よかったわ」

 

 挨拶のやり取りをしている間に土鍋に入ったお粥が私の盆に置かれた。卵と出汁も入っているのか美味しそうな臭いが蓋越しでも漂っている。

 

「お粥……ですか?そういえば……」

 

 吹雪は辺りをキョロキョロ見渡した。きっとマギーを探しているのだろう。

 

「彼女は体調不良で今日は休みなの……」

 

「体調不良……ですか……」

 

 なぜだか吹雪は申し訳なさそうにうつむく。そういえばマギーは昨日吹雪の様子を見に行っていたはずだ。そこでなにかあったのだろうか……いや、あったに違いない。あのマギーが"本物に成った黒い鳥"と会って何も無いわけがない。

 そこでの出来事が彼女のおかしさに拍車を掛け、酔い潰れてしまうような失態を犯してしまったのだろう。

 

「吹雪、今日は空いてる時間あるかしら?」

 

「私は休みなので何時でも空いてますよ。やることといえばACの微調整とシミュレーターでの訓練だけですから」

 

「そう、なら夕食あと……20時あたりにお話できないかしら?場所はここで。……どうしても聞きたいことがあるの」

 

 昨日マギーと何があったか……そしてマギーと『黒い鳥』はどんな関係だったのか、吹雪ならきっとわかるだろう。誓いを果たす為にはもっとマギーのことを、―――『前世』の時の事も含めて―――知らなければならない。

 

「わかりました。……私も加賀さんに話したい事があります。きっと加賀さんが私に聞きたいことと被ってる事が多いと思いますけど……」

 

 どうやら吹雪も察してくれているみたいだ。そしてこの子が協力的でいてくれて非常に有難い。この子は鍵だ。マギーの中の『恐ろしい何か』、それを殺すにはどんな形であれ吹雪の存在は必要だろう。

 

「有難う、吹雪。じゃあ、また後で……」

 

「はい、それではまた」

 

 自分の鮭定食とマギーのお粥が冷めない内に、私は自室へそれを運んでいった。

 

 ちなみにマギーは食欲はあったようで、気だるそうにしながらもお粥を完食してくれた。しかし食べた後すぐに布団にくるまってしまい、やはり今日は駄目な事は変わりないようだった。

 

◇ ◇ ◇

 

「ん?マギーの奴はどうした?」

 

 執務室に入ると提督が新聞紙を広げながら訊ねてきた。相変わらず机の上の書類に手はついていない。私達が監視しないとこの人はとことん仕事をしてくれない。

 

「おはようございます、提督。彼女は体調不良で今日はお休みです」

 

「そうか……大丈夫なのか?マギーの奴」

 

「……ただの二日酔いです。問題ありません」

 

「んだよ、心配して損しちまった。しかし珍しいこともあるもんだな。あいつ、体調管理はしっかりしてるほうだろうに」

 

「彼女にだってこんな時はあります」

 

「それもそうか。ま、お前らの出撃は今日無いしな。加賀、口うるさいのもいないことだし俺も休んで良いかね?」

 

「……ええどうぞ。これを片付けてくれたらですが」

 

 いつもの他愛ないやり取りをしながら、いつものように書類をまとめ提督に突き出す。しかしマギーがいないこともありいつもより時間が掛かってしまった。ああ、今日は一人なのか、と実感し憂鬱になってしまう。

 

「相変わらずの量だな。無駄な書類も多い癖に改善しないのは軍の怠慢だな、まったく……。ああ、マギーが恋しいぜ」

 

 さっきまで口うるさいと言っていたのに……提督の掌返しはもはや名物だ。分かって言ってる上にこちらからの指摘を待っているのだから質が悪い。まったく、もう良い年だというのに変な所が子供っぽいのだ、この人は……。それでも不思議と許せてしまう人徳が、この人を提督たらしめているのだが。

 

 マギーも最初に砕けた会話をするようになったのは提督だった気がする。彼女の秘書艦補佐業務の初日に驚いたのは、まるで昔からの知り合いの様なやり取りをマギーと提督がしていたことだった。提督のあしらい方、からかわれた時の反応、そういうものが私よりも馴染んでいるように見えたのだ。マギーいわく「知り合いに似ているから」とのことらしいが、会って数日の人間のやり取りではなかった。

 おかげで一部の艦娘からは変な誤解をされていたりするが……

 

 ともかく、そんなこともあってか提督も"いつものお転婆娘"がいないことにちょっぴり寂しさを感じているようだ。

 

「提督、今日はマギーがいないのですからあまりサボられますと終わるものも終わりませんよ」

 

「へいへい、分かった分かった。やはり今日は運が悪いらしい」

 

 提督は手に持っていた新聞紙を私に差し出した。紙面はいつもの占いコーナーだ。

 

「……仕事運、星一つ。面倒事が舞い込んでくるかも……」

 

「だとさ。はぁ、憂鬱だぜ」

 

「提督、新聞紙の占いなんかに狼狽えないでちょうだい……」

 

 たかだか新聞紙の占いで馬鹿らしい……。だが私は忘れていた。この占いはマギーとの出会いを予見していた、妙に当たるものだということを……。

 

◇ ◇ ◇

 

 時刻が1400をまわった辺りだった。執務室の通信機から着信音が鳴り響く。提督がそれを取り、大淀から通信相手を聞いたのだろうか……表情が険しいものに変わる。そして私をちらりと見た後、ハンズフリーのボタンを押した。どうやら私にも通信を聞けということらしい。通信機から男の声が聞こえてくる。

 

「御苦労。また随分と活躍しているようだな、白鳥」

 

「よくもまあ、いけしゃあしゃあと電話してこれるな、倉井」

 

―――倉井元帥

 どうやら電話の相手はあの人のようだ。吹雪のACを龍驤が運んできた時、UNACに手を加え関係者を抹殺しようとした人物。謎のACを引き連れ、深海棲艦の支配を目論んでいる男……。正直、私はこの人に良い印象を持っていない。提督も、倉井元帥は一応上司にあたるはずであるのに嫌悪感を隠そうとしていなかった。

 

「なんのことだ?」

 

「惚けるなよ、UNAC暴走の事だ」

 

「ああ、あれは不幸だったな。『深海鉄騎の再解析をそちらに頼んでの移送中で、まさ龍驤の整備不良による暴走が起こる』とはな」

 

「……ふざけてんのか」

 

「"そういう話になった"はずだろう、赤羽から聞いてないのか?」

 

「チッ」

 

 どうやら事実とは大部違うが、上でそのような話にまとまったらしい。このあたりのやり取りについては艦娘が関与できるような次元ではなく、私達は言われたことを飲み込むしかない。それが事実と違っていても、言われたことが軍では事実となる。

 

「それで!?いったいウチに何の用だってんだ」

 

「……先日のレポートを読ませてもらった。元深海鉄騎……今は『吹雪弐式』だったか。そのパイロット、なかなかやるようじゃないか。まさか"アイザック"の部隊を退けるとはな」

 

「アイザック?」

 

「ああ、アイツは今『財団』と名乗っているのだったか」

 

「……てめぇ、いったいなにをどこまで知ってやがる」

 

「先日の件についてはレポート以上の事は知らんよ。あれは完全にイレギュラーだったからな。ただ奴とは顔見知りなだけだ」

 

 マギーが言っていた。「倉井元帥は私と"同じ"かもしれない」と。今の発言によりその可能性が増す。

 マギーと同じ時代から、タワーのAIかなにかにより復元された人間。『財団』を知っているとはそういうことだ。いや、マギーさえも知らなかった『財団』の人間の頃と思われる名前を知っているということは、彼女よりも前の時代の人間なのかもしれない……。いったい何者なのだろうか、この人は。

 

「話を戻すぞ。それで、その例のパイロットの力を知りたくてな。そちらのAC同士の模擬戦を組んでもらい、その力を見せてほしい」

 

「ふざけんな!なんでそんなことまでやる必要がある!?」

 

「今後の為だ。貴様等には『沈黙海域(サイレントライン)』攻略の手伝いをしてもらう予定だが……未だにそれを渋る老人共がいてな。そちらの力を見せつけて納得させてもらいたい。因みにこれはその老人どもの発案だ。私は関係無いからな」

 

「ふざけやがって、あの妖怪ジジイ共……」

 

 白鳥提督もその同期である倉井元帥も大概な歳で在る筈なのだが……どうやら大本営の上層部には妖怪が住んでいるようだ。「まともに各鎮守府の管理もできないクセして一方的な要求ばかりしてくる奴等がいる」と提督は以前毒を吐いていたことがあったが、きっとその妖怪達がそれなのだろう。確かに余計なことをしてくれる……。

 

 マギーと吹雪で戦えとの事だが、果たして今のマギーであの吹雪に勝てるのだろうか?シミュレータではマギーが全勝しているらしいが、その情報はあまりあてにならないだろう。素人目で見ても『死神部隊』と戦っていた時の吹雪の強さが"異質"であったことぐらいは分かる。……恐らく万全のマギーでも勝つことは難しいだろう、贔屓目に見てもだ……。

 しかも見せろ、ということはシミュレーターではなく現実の模擬戦ということだ。軍での演習結果は全て記録される。もし負けてしまえばその記録もしっかりと残る。普通はならそれは大したことでは無いが、今のマギーにとって"残る傷"は致命的になりかねない。もし本当にそうなれば彼女の決定的な何かが壊れてしまう、そんな気がする。……不味い、今は非常に不味い話だ。

 

「まあ、私としては調度良い話だったが。貴様らの力、測らせてもらおう」

 

「抜かせ」

 

 このままでは不味い。私は通信機に近づき会話に割り込む。

 

「会話中失礼します。白鳥提督秘書艦の加賀と申します。……倉井元帥、その演習は行わなければならないのでしょうか?」

 

「ん、例の空母か……。当然だ、これは決定事項だ」

 

「こちらにも予定や準備があります。せめて延期は――」

 

「ならんな。老人達にも予定はある。演習は一週間後だ。それは動かん」

 

「……そう、ですか……」

 

「もういいか?なら下がれ」

 

「……失礼しました」

 

 おずおずと通信機から一歩下がった。結局なにも変えることはできない。たった一週間、それでどれだけのことができるだろうか……。

 そんな私を提督がじっと見つめる。その目は事情は理解していないだろうが、何かを感じ取ってくれているようだった。

 

「なあ、倉井。形式はどうなんだ?」

 

「AC同士、一対一の予定だが?」

 

「それ、こっちで変えさせてもらってもいいか?」

 

「ACの力を証明できれば形式は問わん。好きにしろ」

 

「ならそうさせてもらうさ」

 

「……そうか、では頼んだぞ。私も楽しみにしている」

 

 その言葉を最後に倉井元帥からの通信は途絶える。

 

「だとさ、加賀。演習の形式はお前に任せる。三日後までに内容を纏めて提出してくれ」

 

「……はい、有難うごさいます」

 

「なんにこだわってるかは知らんが、まあ、頼んだぞ」

 

 提督の配慮にはいつも救われる。この助け船を活用しない理由はない。この少ない期間で、どうにかしてマギーが『吹雪弐式(黒い鳥)』に勝つ方法を模索しなければならない。とすれば、頼れるのはやはりあの子か……。

 

(自分を倒す方法を教えてくれ、なんて聞いたら流石に困惑するかしら……)

 

 吹雪に聞かなければならないことが一つ増えてしまった……。

 

 



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