艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ
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夏コミの原稿してたら更新遅れちゃいました。



第三十三話「MISSION05_AC特別演習-03」

「おい、見ろよ加賀。今日の運勢は『吉報あり』だとよ』

 

 提督が執務室の椅子にふんぞり返りながら新聞紙を指差し私にも見るようにせがんでくる。すると私ではなくマギーが「はい、その吉報よ」と私たちが纏めた書類の束を提督の机の上に置いた。

 

「マギー、この書類もう終わってるなんてことないよな?」

 

「当たり前でしょ、さっさとやって」

 

 なんてことのない、日常の一場面。ただ今は何事もなくここまで迎えられたことに私は少しばかり胸を撫で下ろしていた。

 

 昨日は結局、特別演習のことをマギーに話せなかったため今日の朝食時にその事を話したのだが、思っていたよりもマギーの反応は薄かった。

 

「……そう、わかったわ」

 

 その一言のみである。一日休んで冷静になれたからか、演習だから吹雪が底力を発揮できないことを知っているからか、あるいはその両方か……。とはいえ何も思うところが無いわけでもなさそうだったので「不機嫌そうね」と問いかけてみたら「老害の見世物って言うのが気にくわないだけ。あと一方的に実力を計られるのも」と、いつものマギーが言いそうな不満が返ってきた。

 そして先程の提督とのやり取りから彼女が本調子に戻っているのを確信する。

 

「ところで提督、あの件はどうなったの?統轄機構の場所の話」

 

 書類の整備を再び行いながらマギーは提督に尋ねた。『吹雪弐式』から解析して発覚した深海棲艦統轄機構(インターネサイン)の場所のことだ。

 

「あれか。勿論本営に報告したさ。倉井が情報を隠してたことも含めてな。しかし……」

 

「それで加賀が言ってた『こっちが解析を受け持った』って話になった訳ね」

 

「ああ、あくまで倉井でも解析しきれなかったから統轄機構の座標は知らなかったし、UNACの暴走は事故って扱いだ」

 

「きっちり深海鉄騎のパイロットデータまで消しておいて白々しい。上手く事が運べば倉井元帥の動きを封じれるかもと思ったけど、そう上手くはいかないか……」

 

 倉井元帥は統轄機構を使って深海棲艦を支配しようと目論んでいる派閥の実質的な実行者であり、その点で統轄機構を破壊しようとしている私たちと対立しているともいえる。マギー自身、深海鉄騎討伐の時に横槍を入られたことを根に持っているようだ。

 なのでマギーとしては故意に情報を隠していたことやUNACの暴走を引き起こしたことを名目に倉井元帥の行動を制限したかったのだろう。しかしこちらも勝手にACを持ち出した負い目もあるからか、先のような話になってしまったらしい。結果としてはあちらだけが統轄機構の場所を知っているというアドバンテージが無くなっただけにすぎない。

 

「そんなしかめっ面するなよマギー。加賀もな。まるっきり無駄だった訳でもない」

 

「どういうこと?」

 

「どうやら倉井のやつ、自陣の連中にも情報を開示してなかったらしい。理由はわからんがな。だからあちらにも倉井のことを不信しだしたのがいるのさ。……どうも今回の演習はそこらへんのやつが提案したらしい」

 

「つまり……私たちが保険になるかどうかってこと?」

 

「そういうことだ。だから結果によっちゃそいつらからも情報が提供されるようになるかもしれん」

 

 本当にそうなれば確かに助かる。倉井元帥は私たちにある任務を任せようとしているらしいが、それの裏がとれるからだ。UNAC暴走の時のように何かに見せかけて危害を加えられたらたまったものではない。

 

「ふむ……」

 

 マギーはその話を聞いて何か考えているような素振りをしていた。そして予想外の提案をする。

 

「ねえ、提督。特別演習のことだけど、私と吹雪じゃなくて倉井元帥のAC達との対決にできない?」

 

「ちょっと待って、マギー。正気で言ってるの!?相手は事故に見せかけて龍驤たちを抹殺しようとした相手よ、何をされるか……」

 

「違うわ、加賀。だからこそよ。アイツは私たちに『沈黙海域攻略を手伝ってもらう』って言ってたんでしょ?なら今は必要な私たちに危害は加えてこないはず。むしろ相手の力量を測るにはこの機会しかない。じゃないといざ統轄機構を目前に対立することになった時、不利になるのはこっちよ」

 

「……ふむ、一理あるな。演習を提案した連中の知りたいことでもある。確実とは言えんが実現性は高そうだ」

 

「提督まで!」

 

「そう怒鳴るなよ、加賀。まだお前も演習案を決めてないんだろ?ちょうど良いじゃないか」

 

「確かにそうですが……」

 

 マギーの提案にどうしても不安が拭いきれなかった。しかし具体的な演習案も無い私には後に続く言葉を紡ぎだすことはできない。

 

「一応確認するがマギー、もし負けたら演習を提案してきた連中に見限られるのは想定済みだな?」

 

「当然でしょ。でも演習で負けるようならこの先やっていけないわ。……勝ってみせる」

 

「……よし、じゃあマギーの案を本営に連絡してみるか」

 

 提督が裁判官の木槌のように自身の膝を軽く叩く。判決は下されてしまった。い言えぬ不安がまだあるが仕方ない。マギーの提案も利にかなったものではある。何よりマギーと吹雪が公式の場で争わなくて済むのだ、これでいい。そう自分に言い聞かせ、この提案を渋々飲み込むことにした。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 演習の話も終わり再び三人で書類業務をこなしていると、今度は提督の机の受話器が鳴り響く。

 

「ん、ああ、もうこんな時間か」

 

 提督が受話器を取り、誰かを執務室まで連れてくるよう指示を伝えていた。どうやらその相手は鎮守府外の人間のようだ。

 

「提督、来客ですか?予定には記載がなかったけれど?」

 

「ん?まあ急だったし非公式のもんだからな。履歴もできたら残したくないんだ」

 

 履歴を残したくない相手とは何者のだろうか?まさか非合法な相手ではないかと一瞬不安がよぎるが、提督に限ってそんな輩と付き合いがあるとは思えないし、だからこそ想像がつかない。

 暫くすると「連れてきたぜ、提督」と言いながら天龍が執務室の扉から現れ、その後ろから恰幅のよい男性が入ってきた。

 

「久しいな、白鳥」

 

「久しぶりだな、銀爺」

 

 『銀爺』と呼ばれる男性は提督の服とは違う制服を身に纏い、入室した際にしていた軽い敬礼は海軍式のよりも肘を外側に向けていた。要は陸軍の人間だ。おまけに身に付けている階級章を見ると提督と同じ大将と位の高い人物であることが伺える。

 

「驚いたぜ銀爺。まさかうちの艦の通信機から野太い声が聞こえてきたんだからな。なんの冗談かと思ったぜ」

 

「済まんのう。ほぅら、なにせ基地の通信機では流石にバレる。お互い老害どもの小言は聞きたくないだろう」

 

 どうやらこの人物は、陸軍に支援物資を送りにいっていた天龍を介してこちらに連絡を取っていたらしい。遠征から帰ってきた彼女に案内されてきたということは、きっとそのまま彼女の艦に乗員して来たのだろう。とても大将の行動とは思えない。とはいえ仕方の無いことかもしれないが……。

 

 嫌な話だが、この国の海軍と陸軍の上層部は私たち艦娘に刻まれている戦闘オペレーションの時代の海軍と陸軍と同じぐらい仲が悪い。

 どうも主な戦場や戦果が海軍に寄っていることが軋轢を生んでいるらしい。しかも一人で、つまり圧倒的な低コストで軍艦を運用できる私たちの登場でその軋轢が加速しているのだとか。同じ志を持ち、同じものを守る仲間であるはずなのに権力などが絡んでくるとどの時代の人間も同じ過ちを犯してしまうようだ。

 

 銀爺大将もそんな事情があるため内密にここまで来たのだろう。しかしそこまでしていったいうちに何用なのだろうか?

 

「……粗茶ですが」

 

「ああ、かたじけない」

 

 来客用の最高級の茶をお出ししつつ様子をうかがう。内密の話であるはずなのに提督が私たちを追い出す様子はなかった。提督は一緒に私から受け取ったお茶をすすり喉を潤す。

 

「それで、銀爺。ACのことをどこで知った?一応あれは秘密兵器の扱いの筈だが?」

 

 ACという言葉に我関せずを決めていたマギーが反応する。なるほど、どうやら私たちも関係する話のようだ。銀爺大将も私たちを一瞥して察してくれたようで、そのまま話し出す。

 

「人の口に戸は立てられんものさ。それにガダルカナル島で深海鉄騎に全滅させられたのは私の部下だ。情報を追いもする。……とはいえ、ついこの間まではACを所有していたのは倉井だけだと思っていたがな。だが……」

 

「演習の話か?」

 

「ああ、その噂からお前さんのとこにたどり着いたよ。先程の軽巡洋艦の娘にも確認したら、普通に答えてくれたさ。まさかあの可愛らしい駆逐艦の娘ッ子が深海鉄騎を乗り回していると聞いたときにはたまげたよ」

 

「天龍め、べらべらと……。まあいい。知ってる理由は分かった。だがそれでいったいなんの用だ?」

 

「……陸軍と海軍の不仲は嘆かわしいことだ、本当にのう。深海鉄騎の情報もまともに海軍から提供されなかったんだぞ。そうやって"互いに"情報を隠すから現場が苦労するはめになる」

 

「回りくどいな、もったいつけるなよ」

 

「……なあ、白鳥。お前さん、陸軍もACを持っていると言ったら信じるか?」

 

「なんだと?」

 

「ある箇所からかなり品質のよい状態で発掘されてのう。5機の完成体と複数体分のパーツ、あとはよくわからん代物とカ号みたいなやつが見つかって保存されている」

 

「そんなにか!?噂も聞いたこと無いぞ、本当かよ?」

 

「仕方あるまい。そちらと違ってこっちは倉庫で埃を被ったままだからな。なにせ全く使い方がわからん」

 

 銀爺大将の話を聞いて何となくその苦労を察してしまう。実は私も以前好奇心に負けて『ブルーマグノリア』に乗せてもらったことがあったのだ。しかしシミュレーションモードでマギーから懇切丁寧に説明を受けながら動かしてみたのだが、結果は散々だった。はっきり言って操作が複雑過ぎる。単純な複雑さだけでなくフットペダルの踏み加減で全く違う動作をしたりするものだから余計に質が悪い。「慣れれば簡単よ」なんてマギーは言っていたが、どうもそうは思えない。やない整備長や夕張もUNACの調整でシミュレーションを利用するらしいが、未だにまともに戦うことはできないらしい。

 そんなACを指導者も無しに操縦しようなど土台無理な話だろう。そもそもどんな動きができるかも想像つかないだろうし……と、ここで銀爺大将がこちらに求めているものの予想がついた。

 

「こちらの上陸部隊の死傷率の高さは知っているだろう?だからこのままACに埃を被せておくわけにはいかんのだ。……白鳥よ、一時的で構わん。お前さんのとこのパイロットを指導教官として迎い入れさせてはくれんか」

 

 座ったままではあるが、銀爺大将は深々と頭を下げた。

 確かに上陸部隊の人達の死傷率は高い。私達では泊地に巣食う基地型深海棲艦の撃破はできても、その地に侵攻することは出来ない。陸上型の深海棲艦を駆逐し、その土地を領土として確保するのは陸軍の方々の仕事である。そしてその人達の主な主戦力は『大発動艇』に乗せた戦車や歩兵なのだ。死傷率が高いのは当然と言える。もしそこへACを導入できれば革命的な戦果をあげることができるだろう。死者の数もぐっと減らせるに違いない。だからこそ大将の位の方がここまで来て、こうして頭を下げているのだ。

 私としても犠牲になる人が減るのであればそれに越したことはない。そこに海軍陸軍は関係ないし、そもそも艦娘は、少なくとも私は人を守るために戦っているのだから。

 とはいえ、この件に関して私の出来ることは無い。私は、そして提督もマギーに視線を向ける。マギーは「やれやれ」といった様子だった。

 

「銀爺大将。無論、こちらにも何らかのメリットをご提示していただけるのですよね?」

 

 マギーが珍しく敬語を使いながら条件を伝える。

 

「当然だ。出来る限りのものは用意しよう」

 

「でしたら発掘したものを幾つか頂けませんか?ACのパーツ等はこちらの装置でも『開発』できないものですから」

 

「構わんよ。といっても何が必要で何が不要かもわからんからのう。どれ程そちらに融通出来るかはこの場では言えんが……」

 

「それで結構です。どうせ現地で色々調整が必要になるでしょうから」

 

 マギーは態度を崩しながら提督へ体を向けた。

 

「で、提督。いつから指導を行えばいいの?演習が終わってからでもいいけど、いつ『沈黙海域攻略』に呼ばれるかわからない以上、今すぐって手もあるわよ」

 

「それもありだが……マギー、お前はいいのか?」

 

「なに言ってるの?行くのは私じゃないわ、吹雪よ」

 

 マギーの発言に思わず私と提督は「そっちこそなに言ってるんだ?」といった顔を彼女に向けてしまう。しかしマギーはそれを予想していたのか、淡々とした口調で説明を始めた。

 

「陸軍のACがどんなタイプかわからない以上、吹雪の方が適任なのよ。ACは脚部が違うと操作感覚が全く別物なの。だけど吹雪に“入ってる”『傭兵』は一通りどんな脚部でも平均以上に扱えていたわ。だからあの子の方がいい。それに人に教えるのもいい経験になるわ」

 

「ふむ、そういうものなのか。その通りなら確かに吹雪の方がいいかもしれん……」

 

 提督が顎を擦りながら納得したように頷く。そして意地悪そうな笑みを浮かべた。

 

「それにお前だと厳しすぎて逃げ出す奴が出てきそうだ、はっはっはっ」

 

「それ、どういうこと?」

 

「マギー、提督は吹雪への指導のことを言ってるのよ」

 

 この点については提督と同意見だった。マギーはひたすらシミュレーションで吹雪を懲らしめるような指導をしていたが、それに耐えられたのは素養のある吹雪だからであり常人ならきっとトラウマをこさえてACに乗れなくなってしまうだろう。泣いたり笑ったりできなくなってしまうかもしれない。

 

「流石に私でも節度はわかってるわ」

 

「はは、そう怒るな怒るな。とにかく吹雪にも聞いてみないと予定は決められんな」

 

 提督は笑っていた顔を少しばかり引き締め銀爺大将へ顔を向ける。

 

「銀爺、吹雪は工廠で演習に向けての調整を行っている。……深海鉄騎、今は『吹雪弐式』と名前を変えたが……それに乗ってな。どうする?挨拶がてら見学に行くか?」

 

 銀爺大将は少々思い悩む素振りをしたが、軽く息を吐き答えた。

 

「そうだな、よろしく頼む」

 

 私たち一同は銀爺大将をお連れして工廠へと向かっていった。

 

◇ ◇ ◇

 

 鎮守府の工廠裏には海に隣接した兵器の試射ができる程度の広場がある。そこに二機のACの姿があった。『吹雪弐式』と『UNACちゃん』である。

 

「こちら吹雪、目標までの距離300を確保しました。これより射撃を行います」

 

 『吹雪弐式』の左腕に装備されているレーザーライフルにエネルギーが充填されていく。そしてそれの完了と同時に対面に佇んでいる『UNACちゃん』へレーザーが放たれた。

 リュウジョウの『UNACちゃん』は逆間接型のACであり、タダでさえTEタイプの攻撃に弱い。それに威力特化にチューンされたレーザーライフルが直撃すれば深刻な損傷は間逃れない。しかし、その直撃をくらった『UNACちゃん』はかすり傷も負わずにその場に佇んだままであった。精々レーザーが直撃した箇所から軽く煙があがっている程度である。

 

「……よし、仮想APもちゃんと想定値減ってる。吹雪ちゃん、レーザーライフルの調整は完了よ」

 

 『UNACちゃん』とリンクされているPCを見ながら、特徴的なピンクの長髪と鉢巻きをした女性、明石が近くに置いてあるマイクから吹雪に呼び掛けていた。その後ろで夕張とやない整備長が別のPCで黙々と何かのデータを打ち込んでいる。

 彼女たちはACの特別演習に向けてレーザーライフルの威力調整を行っていた。というのもレーザーライフルだけは模擬弾が使用できないからである。

 以前そのせいでマギーが実力を発揮できなかったこともあり、演習が決まってからすぐ明石達に対策を取るように提督から指令が出されていた。そして時間が無い中で考え出された案が、レーザーライフルの出力をギリギリまで落とし、シミュレーターのシステムを利用してレーザーが当たった場合に仮想ダメージが入るようにする、というものであった。吹雪の協力もあり、その案が無事上手くいったところである。

 

 ACから降りてきた吹雪と明石が話している後ろで、夕張とやない整備長は『ブルーマグノリア』へフィードバックするためのデータを打ち込んでいた。指を動かしながら夕張が整備長に愚痴を溢す。

 

「やっぱりレーザー兵器もいいわねー。ああ、『UNACちゃん』にも積みたいな~。ねえ、やないさん」

 

「いや、僕に振られても……。うちはACパーツに余裕無いからどうしようもないよ。流石にレーザー兵器は造れないし……」

 

「噂じゃ倉井元帥って人がACパーツを沢山持ってるらしいじゃない?ちょっと分けてくれたらいいのに……」

 

「ある意味それが『UNACちゃん』と『吹雪弐式』なんだけどね……」

 

「あ、じゃあ龍驤さんに頼んでもう一度盗ってきてもらいましょうよ!」

 

「何言ってやがる、このバカタレが!」

 

 夕張の頭に先程のレポートが挟まれたバインダーが振り落とされる。

 「イタタタ」と頭を擦りながら夕張が後ろを振り返ると、提督と秘書艦二人、そして見慣れない軍人が立っていた。鎮守府のトップ達に宜しくない発言を聞かれ夕張は固まる。

 

「あー、銀爺大将殿。この馬鹿の発言は聞かなかったことにしてくれると助かる」

 

「聞くも何も、私はここに居ないことになってる人間だ。何のことだかわからんのう」

 

「ありがたい、はははは」

 

 二人のやり取りに夕張は困惑していた。提督の言葉通りであれば目の前の来客は大将と位の高い人物である。提督とのやり取りから察するにきっと本当なのだろう。しかしそんな人物がこんなところへ何の用なのか見当がつかない。

 

「あの提督。こちらのかたは?」

 

「ん、ああ紹介が遅れたな。こいつは陸軍の大将、銀爺という」

 

 それを聞いて夕張含め横にいたやない整備長や後ろの明石、吹雪が敬礼を銀爺大将に向ける。やない整備長も含め腐っても彼女たちは軍人であるため、その敬礼は綺麗なものであった。

 

「紹介にあずかった銀爺という。姿勢は崩してくれて構わん。私がここにいるのは非公式だ。居ないものとして楽に振る舞ってくれ」

 

 それを聞いて一同は立ったままではあるが敬礼を下げる。すると銀爺大将は吹雪へと近づいていく。

 

「元駆逐艦の吹雪だな。私はお前さんに用があってね」

 

「は、初めまして!」

 

「実は初めましてでは無いのだが……仕方あるまい。あれは泊地の査察の時だったか。ドラム缶をせっせと運んでいたお前さんの姿はよく覚えているよ。白鳥の遠征部隊は評判が良い。だからこちらの覚えも良いのさ」

 

 白鳥提督の遠征部隊、天龍や龍田を旗艦とした第四艦隊はよく陸軍の部隊への支援物資運搬なども行っていた。そしてその際に天龍の方針で荷下ろしや配給の手伝いを行っているのだが、それが陸軍の兵士達に好印象を与えていたのだった。実際、第四艦隊には暁型の駆逐艦四姉妹も所属しているが、そんな可愛らしい娘達が汚れも気にせず「配給なのです」と物資を懸命に配っている姿を見て好感を持たない人間などいるわけがない。密かにファンクラブ的なものができていても仕方ないのである。

 ともかくそんなこともあり、第四艦隊に所属していた吹雪も好印象で覚えられていたのだった。

 

「よちよち物資を運んでいたお前さんが深海鉄騎の……いや、今は『吹雪弐式』だったか。この兵器のパイロットを務めているとは……不思議な縁があるものだ」

 

 銀爺大将は近くに待機している『吹雪弐式』に顔を向けた。

 

「私の部下を殺した兵器のはずなのに……やはり、もう別物なのだな。お前さんがパイロットでよかった。心からそう思うよ」

 

「あ、ありがとうございます!……あの、それで私にどのようなご用件で?」

 

「おお、そうだな、本題に入ろう。単刀直入に言うが、実は陸軍も何体かACを所有していてな。ただ使い方がわからなくてのう。そこでお前さんに指導教官をしてもらいたい」

 

「え、ええ!?マギーさんじゃなくて私がですか!?」

 

「その秘書艦から君が推薦されたのだが?」

 

 吹雪がマギーをみると、彼女はさも「当然でしょ?」とでもいうような視線を向けていた。

 

「今の貴女なら色々なのに乗れるでしょ。それに教えるのもいい経験にもなる。だから貴女がやりなさい」

 

「は、はあ、……わかりました」

 

「ああ、そうそう。この任務の報酬はAC用パーツよ。あちらの部隊のアセンを終えたら、ついでに余ったパーツから使えそうなのチョイスして来て」

 

 報酬を聞き、吹雪の眼の色が変わる。「もしかしたら……」とぶつぶつ呟いた後、銀爺大将に吹雪は尋ねた。

 

「あの、その話はいつからでしょうか?」

 

「おお、やる気になってくれたか。君が大丈夫であれば今日からでも構わんよ」

 

「それでしたらそちらが何を所有しているか下見させてください。できたら本日にでもっ」

 

「いいとも。このあと私の部下が迎えに来る手配になっている。それに一緒に乗ればいい。構わんな?白鳥よ」

 

「吹雪がいいならそれでいいさ。調整も済んでるみたいだし、演習まで任務も入れてないからな。あ、あーただ……」

 

 提督は今さらになって気づいたように不安を顕にする。それは任務がどうのというよりも、陸軍には男しかいないことを思い出したからだった。変な虫が着かないか、提督の父性が要らぬ警告を発していたのだ。提督はある意味そういう心配の無いもう一人の愛娘を見る。

 

「加賀、悪いがお前も一緒に行ってやってくれ。念のためあちらの様子を確認してきて欲しい」

 

 加賀は吹雪が見た目以上にしっかりしているのを知っているため「必要ですか?」と尋ねようとしていた。しかし吹雪が加賀にも来てほしそうな視線を向けていることに気づき、それを飲み込む。

 

「……わかりました。私がいなくてもお仕事サボらないでくださいね、提督」

 

「大丈夫よ、そこは私がしっかり見ておくから」

 

 マギーが先程皮肉を言われたことへの仕返しとばかりに「しっかり」をやたらと強調して答えた。この後提督は苦労することを悟った加賀は微笑を浮かべる。

 

「頼むわね、マギー。済みません銀爺大将、私もお願いします」

 

「構わんよ。これは道中が華やかになるのう」

 

 こうして加賀と吹雪は銀爺大将と共にACの保管されている基地へと向かうことになった。

 

◇ ◇ ◇

 

『Hi,you say “how low?”……Hi,you say “how low?……』

 

 薄暗い倉庫の中、ノイズ混じりの歌が微かに響き渡る。

 

「なんだこの音?」

 

「ああ、“あれ”だよ“あれ”。調べる為に電源繋いでから勝手に鳴り出すんだ」

 

「止め方もわかんないんだっけか?」

 

「ああ、つっても特に害もないから放置してんのさ」

 

 これから日の出を浴びるであろう眠っていた兵器たちの埃を払いながら、二人の整備兵は歌を流している物体を見た。

 カ号観測機に着いているような羽を二つ携え、軍艦にも負けない装甲を纏った“それ”はパイロット席のスピーカーから"鼻歌"を奏でている。

 

『Hi,you say “how low?”……Hi,you say “how low?……』

 

 音だけ聞くと掠れていて不気味なはずなのに、それに描かれているものを見ると不思議と陽気に歌っているように聞こえた。

 

「下手くそな鳴き声だ。きっとこいつのご主人様は相当な音痴だったに違いない」

 

「ははっ、ちげーねー」

 

 二人の整備兵に笑われながら、その“コウノトリ”は今日も気ままに鼻歌を鳴らしていた。

 






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