艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ
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いろいろ迷いながらも新しい力を手に入れる加賀さんの話。


第三十五話「MISSION05_AC特別演習-05」

工廠の兵器試験場にけたたましいプロペラ音が響き渡っていた。その音源である装甲ヘリの操縦席に人影が二つ見える。

 

「まさか私が他人にヘリの操縦を教える時が来るなんて夢にも思わなかったわ」

 

 装甲ヘリ『ファットマン』の操縦席の中でマギーはポツリと呟いた。その横で額に汗かきながら加賀が操縦幹を握りしめている。

 

 

 私は陸軍から受領したヘリの操縦方法をマギーから教わっている最中だった。どんな動きが出来るのか知らなければ、たとえ他の艦載機と同じようにAIを積んでも満足に扱えないからだ。そのため私は鎮守府に戻って早々にマギーに師事を頼み込んでいた。

 ちなみに陸軍にあったヘリを含むACのパーツ類はやはり『傭兵』のものだったらしい。彼の隠れ家に安置してあったものが今になって見つかったようだ。マギーは「まるでタイムカプセルね」と言いながら鎮守府に届いたこのヘリを懐かしそうに眺めていた。私に操作を教えてくれている横顔もなんだかいつもより柔らかい表情をしている。それを見てやはりこれを選んで正解だったと私は確信した。

 実際、性能面においても装甲ヘリ『ファットマン』は予想以上のものだった。速度こそ従来の艦載機に及ばないものの、高い旋回性、軍艦に匹敵する装甲は隔絶したものとなっている。火力に関しても吹雪が上手く交渉してくれたみたいで、死神部隊の『V』が持っていたようなオートキャノンを搭載しており、鎮守府近海に出没する弱い深海棲艦の艦隊程度ならこのヘリ一つで壊滅出来るかもしれない程の力を秘めていた。

 マギーからも相性によるが並のACには勝てると太鼓判が押されているほどで、本当に良いものを手に入れたと思う。

 だがしかし、贅沢な注文だとは分かっているが……私が望む力にあと一歩及ばないのも事実だった。"並のAC"に通用する程度では足りないのだ。それはいずれ行うであろうマギーと『黒い鳥』との再戦を見据えてのこともあるが、目下の問題として私も特別演習に参加することになったからだ。

 

 私がヘリと共に鎮守府に戻ってきた時には特別演習についての回答が既に来ていた。以外にも倉井元帥が二つ返事で了承したらしく、演習は元帥側のACとの戦闘となった……のだが、それには一つ条件が付いていた。

 

『私も参加させろ』

 

 なんと倉井元帥自らもACに乗って演習に参加すると言ってきたのだ。今までのやり取りから元帥もACの操縦が出来るとは予想していたが、まさか表舞台に出てくるとは予想していなかった。

 そしてこれにより問題が発生する。演習において私たちの方が圧倒的に不利になってしまったのだ。相手は『元帥のAC』『No. 2』『No. 8』の三機だが、こちらは『ブルーマグノリア』『吹雪弐式』の二機しかいない。一応龍驤の操る『UNACちゃん』もいるのだが、生憎演習当日に任務が入ってしまっていた。

 当然ながら任務を調整して『UNACちゃん』を加えようとしたのだが、マギーから「連携の取りやすい分、装甲ヘリの方がマシ」との意見が上がり私が演習に参加するに至る。

 一応それでも戦力差があるため調整を本営に願ったのだが試合形式がリーダーを倒せばよいフラッグ戦になっただけだった。あくまで本営側が知りたいのは公平な試合結果などではなく、万が一の場合に私たちが倉井元帥を止める力を持っているかだ。当然と言えば当然ではある。

 マギーは「それでも十分勝機はある。やれるわ、私たちなら」と言ってくれてはいたが、きっとその「私たち」はあくまでマギーと吹雪であり私は含まれていないだろう。私にはそれが歯痒くて仕方なかった。

 

「加賀、旋回が甘いわよ。ちゃんと集中してる!?」

 

 マギーに軽く頭を小突かれる。どうも今は余計なことを考える余裕は無さそうだ。まずはヘリを扱えるようにならなければ力になるならない以前の問題だ。

 艦載機に実際に乗り込むのは今回が初めてなのだから少しは多目に見て欲しいと一瞬思ってしまうが、演習は数日後に迫っており猶予はない。

 久々に師事を受ける側であることを楽しむ余裕も無く、私はマギーの厳しい指導をなんとかこなしていった。

 

◇ ◇ ◇

 

 マギーの指導によりヘリへの理解を深めることができた私は次の段階へと進む。これから補助AIを構築しヘリに載せることでAMSによる遠隔操作を可能にする作業に取りかかるところだ。

 明石と夕張に手伝ってもらい、私がAIのロジックを組む傍らで二人はヘリにAMS用の受信機や自動操縦装置の取り付けを行っている。本当は作業場所は別々でも良いのだが二人がセットになるとたまにとんでもないことをしでかすことがあるため、私は目の届く二人の横で作業していた。

 

「う~ん、まだ積載量にだいぶ余力あるな~……。ねえ明石、なんか載せない?」

 

「なんかって……なに載せる気?」

 

「ほら、一緒に持ち帰ってきた例のやつ。"おーばーどうえぽん"だっけ?あれ載せましょうよ!」

 

「ダメッ!!あれは絶体ダメ!!」

 

 さっそく夕張が悪ノリを始めるが珍しく明石が止める。普段なら明石も夕張の提案に乗っかり暴走するのだが……珍しいこともあるものだ。余程吹雪がヘリと一緒に引き取ってきたOWというのは危険な代物らしい。逆に興味が湧いてしまう。

 

「……ねえ、明石。それはどんな兵器なのかしら?」

 

「加賀さんまで……。いいですか、OWというのはその名の通り規格外の超兵器なんです。ACのメインコンピューターにハッキングして規格に合わない装備を無理矢理リンクさせて使用するんですよ。その威力は凄まじいですが、扱いづらいし、反動で使用後の機体はオーバーヒート起こして使い物にならなくなるし、ろくなもんじゃないです。核まで使って……いったい何を倒そうとしたのやら……。造った人は頭のネジをフルパージしてるとしか思えません。そんな兵器です」

 

「……えと、つまり駆逐艦に戦艦の主砲を取り付けようとするのと同じ行為……と考えればいいの?」

 

「そうですね。ヘリにOWなんて積んだら自壊する恐れもあります」

 

 確かにそんなものをヘリに積む気はない。なるほど、吹雪が「危険だからこちらで管理する」と言って陸軍から引き取ってきたのは本当のことのようだ。一緒に話を聞いていた夕張が口をとがらす。

 

「チェッ、なんか勿体無いなぁ~。あ、そうだ!OWのシステムを利用してハッキング機能で相手のACを操っちゃう兵器とか造れないかな?」

 

「相手がご親切にチャンネル合わせてくれればね。流石に外部アクセスでそれは無理よ。可能なら多分造られてるだろうし」

 

 明石の言うこともごもっともだ。そんな便利な兵器があれば私だって使いたいが、ここにあるOWを含め数多くのパーツを持っていた『傭兵』ですら持っていないのだ。きっとそれは無理で存在しないものなのだろう。……それがあればマギーの隣に並び立てるのに……と思ったところでふと、閃きにも近い疑問を口からこぼす。

 後々になってなんでそんな発想が出てきたのか皆目不明だが、この時はとにかく思い付いてしまったとしか言いようがなかった。

 

「……ねえ、明石。それ『ブルーマグノリア』には可能なのかしら?」

 

「え、加賀さんがマギーさんのACをハッキングするってことですか!?うーん……オペレーションシステムでリンクしてるので、もしかしたら可能かもですが……どうするんです?」

 

「なにか、なんでもいいからマギーの負担を軽くしたいの」

 

「といわれましても……」

 

 明石が右手の人差し指で頬を軽く掻きながら答える。やはり出来ることはないか……と諦めかけた時だった。

 

「あー、私閃いちゃった……」

 

 夕張が意見がある、というように挙手をしていた。ただその顔は苦笑いを浮かべており挙手した手も肘を曲げて頭より上には上がっていない。

 

「夕張……それ、絶体にロクでもないことじゃない?あなたがそんな顔するときはいっつもそうなんだから」

 

「いや~、うん、まあ……。やっぱ無かったことに…」

 

「話してちょうだい」

 

 ガチリと夕張の両肩をつかんで睨み付けてしまう。どうしても私は力が欲しかった、マギーを助けられる力が。それが全うな方法ではないとしても、覚悟はとっくに完了済みだ。

 

「わかりました!わかりましたから睨み付けないでくださいよ~」

 

「……ごめんなさい」

 

 私は夕張の肩から手を離す。夕張は落ち着くためかわざとらしくコホンと咳払いしてからゆっくりと話し出した。

 

「OWのシステムで『ブルーマグノリア』にハッキングして、加賀さんが生体コンピューターになればいいんですよ」

 

「???」

 

「やっぱりロクでもない……」

 

 私が頭に疑問符を浮かべている横で理解しているであろう明石が目頭を押さえながら項垂れている。まともな案ではないことだけはひしひしと伝わるがやはり内容が分からない。

 

「夕張、理解が悪くて申し訳ないけれど私にも分かるように説明してくれない?」

 

「いえ、これはACいじったことがないと分かりにくいことですから…」

 

 そう言うと夕張はどこからともなくホワイトボードを引っ張り出してきて長短二本の棒グラフを書く。そして長い棒にはジェネレータ出力、 短い 棒には消費エネルギーと書き加えた。

 

「いいですか、加賀さん。ACは武器や機体を動かす他に、FCSや姿勢制御の演算にもかなりのエネルギーを消費しています。それらの消費エネルギーの総量をジェネレータが生み出すエネルギー量から引いた余剰エネルギーが実際に戦闘で使えるエネルギー量となります」

 

 夕張はそう言いながらホワイトボードに書いた二本の棒グラフの高低さを表している空間を丸で囲む。

 

「当然この量が多いほど戦闘は有利です。ですからハッキングしてACの演算能力に使っているエネルギーをカット。代わりにAMSでACのコンピューターの肩代わりをするんです。そうすればACは余剰エネルギーが増えてパワーアップ!!ヘリには元々高性能な通信機能がありますからアンテナ代わりには十分です、やれます!」

 

 夕張は自信満々といった様子で語る。この部分だけ聞けば良いことずくめだが、さて……と視線をずらすと明石が目を細めながら微妙に唸っている。

 

「……明石、これの問題点は?」

 

「加賀さんが非常に危険です。冗談抜きで命に関わります。UNACに指示出すのとは訳が違うんですよ!扱う情報量の桁が違うんです、下手したら脳が焼ききれちゃいますよ!!」

 

「それだけ?」

 

「それだけって……」

 

「私の命を懸ける"だけ"かと聞いているの」

 

 それだけでマギーの隣に立てるのなら、彼女の"翼"に成れるのなら……この程度リスクの内に入らない。元より戦場はいつも命懸けだ。それにいつも戦場の最前線にいるマギーと比べればきっとまだ安全な方だろう。

 

「夕張、そのシステムの構築にはどれくらい掛かるかしら?」

 

「え!?えと、基本的に既存のプログラム組み換えだけでいけるから……やない整備長に手伝ってもらえれば三日後には多分……、でも正気ですか?」

 

「ええ、正気よ。三日後……演習前に起動テストもできそうね。明石はこのままシステムの組み込みまで手伝って貰えないかしら?必要な申請は私がしておくわ」

 

 明石が夕張の横から私に近づき睨み付けくる。

 

「駄目です!使用者を危険に晒すものなんて造れません!提督だって許可しませんよ!」

 

 その目には強い否定の意思が込められていた。それもそうか。彼女は……夕張もだが、たまにとんでもない物を造ったりもするがその根底には「仲間のため」という思いがある。半分以上趣味ではあっても造るものは「役に立ちたい」という彼女達なりの善意の形なのだ。だから私を害するものは造れないということなのだろう。

 だけれど、それでも――

 

「これは譲れません。私たちの戦場は近い内に激化するでしょう。だから抗える力が必要なの。少なくとも次の特別演習を越えられる程度には。たから……お願い」

 

 強い決意を持って明石を睨み返す。彼女も負けじと視線を合わせていたが、数秒後に折れたようにそれを反らした。

 

「……わかりました。造りますよ。ただし!リミッターは着けさせてもらいますからね!!それが条件です」

 

「ありがとう。宜しく頼むわ」

 

「もう!こんなのこれっきりですからね!夕張~、やない整備長呼んできて~。多分また"仮暮らし"してるから」

 

「わかった~」

 

 夕張はやない整備長が仮眠しているだろうテントへと向かっていく。やない整備長が過労で倒れたりしないか少々不安だけれど、何だかんだいつもこの二人の無茶に付き合ってくれているのだからまぁ大丈夫だろう。

 それよりも私は私でやることが増えたのだ、しっかりしなけば。そう早る気持ちを押さえながら残っているAIのロジックを組み上げていった。

 

◇ ◇ ◇

 

――三日後

 

 工廠裏の試験場に『ブルーマグノリア』と、そのすぐ傍を飛ぶ装甲ヘリ『ファットマン』の姿があった。加賀が明石達に頼み込んで作り出したシステムのテストをこれから行う為である。

 

「メインシステム起動。加賀、こっちはいいわよ」

 

「了解。“リンクスシステム”を起動するわ」

 

 『ファットマン』に備え付けられている二つの大きなコンテナから鈍い起動音が発せられる。それと同時に『ブルーマグノリア』のコックピットのディスプレイにサブコンピュータの影響下に入った時と同じ小さな銃のアイコンが浮かび上がった。

 

「……FCSの性能上昇を確認。いい感じよ。そっちはどう?」

 

「少し頭が重い感じがするけれど……大丈夫よ。ヘリの操作も十分行えるわ」

 

「テスト成功ですね、お二人共戻って来てください」

 

 二人のコックピットに明石の声が響く。それを聞いて二人は各々の機体から降り整備班の元へと向かっていった。

 

「なかなか良いもの造るわね。『前世』でも欲しかったくらいよ」

 

 整備班の元に着いたマギーは上機嫌で整備班に賛辞を贈る。彼女からしてみればノーリスクでサブコンピュータに似た恩恵が得られる今回のシステムは本当にありがたいものだった。レーザーライフルを高起動戦闘のさなかで命中させなければならないマギーにとって射程やロック速度は非常に重要なパラメーターである。それが上昇することはマギーにとって願ってもないことである。実は今回のシステムの話を聞いた際にあまり期待していなかったこともあり、その驚きはひときわであった。

 しかしそんなマギーとは対照的に、同じく整備班の元に来ていた加賀はどこか不機嫌そうな顔をしていた。

 

「明石……私はまだ余裕あるわ」

 

「駄目です。実際は戦闘をこなしながらになるんですから負担はもっとかかります。今のでも安全圏ギリギリなんですよ。これ以上は許可できません」

 

 明石たちの手によってリミッターを付けられた"リンクスシステム"では、当初夕張が言っていた程の性能が発揮できずFCSのサポートが限界であった。なのでその話を知らないマギーと違い、加賀からしたら現状の性能は拍子抜けもいいところである。「もう少しどうにかならないかしら」とでも言うようにじっとりとした視線を明石に向け続けている。

 そんな加賀を見かねてマギーは彼女の肩を叩く。

 

「加賀、無理しないで。今のでも十分よ。貴女がパートナーで本当に良かったって思えるくらいにはね。それに貴女が無理して倒れたりしたら私はどこに帰艦すればいいの?」

 

「マギー……」

 

 彼女に認められている事が嬉しくて簡単に機嫌が直るあたり、なんとも自分は単純か……と加賀は自身を皮肉りながら肩に置かれている手に自分の手を軽く重ねる。

 

「……ごめんなさい。演習を前にして少々焦っていたみたい」

 

「大丈夫よ。言ったでしょ?私たちならやれるって」

 

 マギーは加賀の肩から手を離し、ACの調整について話すべくやない整備長の元へと歩んでいく。

 

(マギー、その「私たち」に私は本当に入っているの?)

 

 マギーの手が離れた肩に加賀は物寂しさを感じていた。そして不安も……。倉井元帥との演習の話が出た時から何かを予感しているのか、加賀の胸の奥に言い表せない不安がくすぶり続けている。

 

(もしも……何かがあれば……その時は)

 

 加賀は遠くに待機している"コウノトリ"を見る。

 

(力を貸して、ファットマン……)

 

 無言のままの新しい相棒を眺めながら、加賀はそっと自身の左薬指に付いている指輪を撫でた。

 




実はこのエピソード、当初予定していなかったために私自身どうしようどうしようと迷いながら書いてました。でもなんとか次回から戦闘パートに移れそう!
やったね加賀さん、出番が増えるよ!


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