艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ

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久々に挿絵描きました。といってもほとんどコラなんですけどねw


第三十六話「MISSION05_AC特別演習-06」

鎮守府近海の演習等に使用する海域、そこに存在する小島群の中でも一際大きい離島の近くに一隻の空母の姿があった。その空母から大型のヘリと吊られた蒼いAC、そしてそれを追うように白いACが大きな火を吹かして発艦する。

 

「目的地点に到達、これより『ブルーマグノリア』を投下するわ」

 

「了解、メインシステム起動。システム戦闘モードに移行する」

 

 元々深海棲艦に占領されていたのか、基地型深海棲艦の跡地と思われる廃墟に『ブルーマグノリア』が投下される。運搬を終えた艦載機『ファットマン』はラックを折り畳み収納し備え付けられたヒートキャノンを展開して『ブルーマグノリア』のすぐ上空に待機した。

 もれなく追随してきた白いAC『吹雪弐式』もその場に到着し、白鳥提督の陣営が揃う。

 加賀が時計を見ながら不機嫌そうに呟いた。

 

「もうそろそろ時間だけれど……来ないわね。遅刻してこちらを苛立たせるつもりかしら」

 

「いえ、もう来ますよ。『すごく恐い物』が近づいてきてます」

 

【挿絵表示】

 

 『吹雪弐式』がメインカメラを上空に向ける。その方角から徐々にヘリの重低音が大きく聞こえ、倉井元帥の陣営がこちらに近づいて来るのがわかる。マギーは吹雪に通信を繋げる。

 

「吹雪、貴女の見立てだと相手はどれくらい?」

 

「……これが演習でよかったと思うぐらいです。今までで一番の"圧"を感じます」

 

(なるほど、少なくとも死神部隊以上……か)

 

 マギーからしてもそのクラスの相手は『前世』を含めても数度しか経験がない。自分の中にある『何か』に火が着いたように体が火照っていくのがわかる。明らかに気分が昂っていた。

 

 もれなく鶴のエンブレムが刻まれたヘリが三機のACを投下する。白い中量二脚のAC『No. 8』の『レオ』、白い逆間接のAC『No. 2』の『アクアリウス』、そして奇しくも吹雪のACと非常に似たシルエットを持つ倉井元帥の重量二脚の青いACが地面に降り立った。

 マギーは『ブルーマグノリア』のスピーカーを元帥達に向ける。

 

「さすが"傭兵"、時間にはピッタリね」

 

 マギーは元帥相手にあえて「傭兵」と言い放つ。普通であればあり得ない程の侮辱であるが――

 

「否定はせんよ」

 

 感情の抑揚なく倉井元帥は一言答える。ただそれだけでこの男が生粋の傭兵だと――少なくとも今この場では――マギーは感じ取った。

 

「……貴方達を運んできたヘリ、まだ上空にいるみたいだけど……あれも戦闘に参加するの?」

 

「あれは戦闘を撮影するだけだ。"上"が見学できるようにな」

 

「加賀の邪魔にならないでよ」

 

「問題無い、うちの翔鶴は優秀だ。それにこの演習に余計な小細工を入れるつもりはない」

 

 そう言うと倉井元帥は自身のACの右腕に持っているレーザーライフル、『吹雪弐式』の装備と同じ「Au-L-K37」を味方の『No. 2』に向けて放つ。普段の大出力であれば無事では済まないが、『No. 2』は装甲の表面に熱を持っただけであった。演習用に調整してあるというアピールだ。

 

「これで少しは信用してもらえたか?」

 

「……なるほどね。いいわ、始めましょう」

 

 マギーの言葉を最後に沈黙が場を支配する。時間にして数秒だったが、あまりこのような戦闘に馴れていない加賀は息が詰まるほど長く感じていた。そして演習開始の時刻になった瞬間、はぜるように『No. 8』が突撃してきた。

 グライドブーストにハイブーストを重ね、『ブルーマグノリア』と『吹雪弐式』がレーザーライフルのチャージもミサイルのロックをする間も与えず瞬間的に距離を詰める。そして『No. 8』は居合いのようにレーザーブレード「MOONLIGHT」の一閃を空間に走らせた。

 無論それを喰らうわけにもいかず、『ブルーマグノリア』と『吹雪弐式』はその場から跳躍する。しかしそれを狙いすましていたかのように『No. 2』の放つレーザーライフル「KARASAWA」が『吹雪弐式』を襲った。

 自身の持つ直感からそれを予期していた吹雪はハイブーストを吹かしてなんとかかわすものの、時差を持って放たれた『No. 2』のライフル「Au-B-A17」に狙撃される。

 

「くっ!」

 

「大丈夫!?吹雪!」

 

「よそ見している場合か?」

 

 倉井元帥の注意の直後、『ブルーマグノリア』の眼前に「Au-C-H22」の三発のバーストCE弾が迫る。急ぎ『ブルーマグノリア』は回避行動をとり右肩に一発被弾してしまうも直撃は避けた。しかしこれにより『吹雪弐式』との距離が致命的に開いてしまう。『No. 8』と『No. 2』は完全に『吹雪弐式』を狙い撃ちしており、防戦一方の『吹雪弐式』は更に『ブルーマグノリア』との距離を離していく。

 

(最初から分断が狙いか)

 

 マギーがそれに気付いた時には既に遅く、ゾデイアックの二機対『吹雪弐式』、倉井元帥のAC対『ブルーマグノリア』の図式が出来上がっていた。

 『ブルーマグノリア』がヒートマシンガンで牽制しながらオープンチャンネルで元帥に話しかける。

 

「吹雪のほうに興味があったんじゃないの?」

 

「あれは二人に任せる。それに貴様にも興味はあったからな、マグノリア・"カーチス"」

 

 「カーチス」という性を若干強調して倉井元帥は答えた。

 

 

 加賀は焦っていた。目の前で繰り広げられていた攻防に付いていけず完全に出遅れてしまっていたからだ。

 

 これは仕方のないことであった。艦隊戦であればここまで展開の早い戦いは存在しないからだ。制空権を得るためにドックファイトを繰り広げることもあったが、それとくらべても瞬間的に加速できるACの三次元機動の体感速度は圧倒的に速い。それに馴れていない加賀が付いていけないのは当然であった。

 

 しかし、だからといって甘えていられない。加賀は自分を戒めると気持ちを切り替え倉井元帥のACに照準を定めた。そしてヘリに備え付けられているオートキャノンを倉井元帥のACに向けて放つ。

 

「ああ、貴様もいたな」

 

 だが倉井元帥は加賀の攻撃と『ブルーマグノリア』の猛攻を岩肌を蹴りながら軽々とかわしていく。加賀は驚きを隠せなかった。

 

(これでも十字砲火を心がけている筈なのに……)

 

 自身の攻撃が当たる気がしなかった。まるで全てがスローモーションで見えているかのごとく倉井元帥は最小限の動きで二人の攻撃を捌いていく。

 そして倉井元帥のACがジェネレータのエネルギーを回復するためか基地型深海棲艦の残骸である建物の中に身を隠した時だった。

 

「素晴らしい力だ」

 

 倉井元帥からオープンチャンネルでマギーと加賀に通信が繋がる。

 

「この力、貴様達はなにに使う?」

 

「馬鹿馬鹿しい!そんな問答して、時間稼ぎのつもり!?」

 

 マギーは苛立ちを隠さずに怒鳴り付ける。そしてリコンにより捉えたACの影を追った。しかし完全に逃げの姿勢に入った倉井元帥のACは一向に『ブルーマグノリア』の眼前に姿をさらけ出さない。そして倉井元帥は淡々と会話を続ける。

 

「それもある。が、貴様達と話をしたかったのも事実だ。……深海棲艦を破壊すること、それが本当に正しいと思っているのか?」

 

「当たり前です!その為に私達は戦っているんですから!」

 

 いつ倉井元帥が建物の中から出てきても銃撃できるようヘリを待機させながら、加賀は返答する。それが自身が造られた理由であり、散っていった仲間たちとの約束でもあるから。

 

「例えその先に待っているのが人同士の闘争と破滅だとしてもか?人間は人間だけで生きるべきではないのだ。人間には管理するものが必要だ」

 

 「管理」という言葉にマギーが反応する。

 

「深海棲艦を使って『神さま』にでもなるつもり?到底できるとは思えないけど」

 

「そうではない……が、管理するという点では同じか。できることなら貴様らにはその手伝いをしてもらいたいものだが……」

 

「お断りよ!そんな不自由そうな世界にする手助けなんてまっぴらごめんだわ!」

 

「……そうか。やはり似ている。……何を犠牲にしても自らの道を歩み続けることを止められない……。やはり貴様は『フランシス』の末裔なのだな」

 

 その名を聞いてマギーは思わずACを止めてしまう。

 

『フランシス・バッティ・カーチス』

 

 EGFの祖にしてマギーの何代も前の祖母に当たる人物。そして"最初の黒い鳥が生まれるのを目撃した人"。

 マギーの中で点が線になっていく。『フランシス』をまるで知人の様に語る言葉、『財団』の本名を知っていたこと、卓越したAC操作技術……。マギーは一つの答えに辿り着く。

 

「まさかお前!?……お前は!?」

 

「……『黒い鳥』、そう呼ばれていた時もあった。エンブレムはその時の名残だ」

 

 倉井元帥のACにある、まるで逆さ吊りになっているように堕ちたカラスのエンブレム。倉井元帥が『ある神さま』に第二の生を与えられた時に渡されたACに刻まれていたもの。『前世』の時のエンブレムに『ある神さま』の趣味が反映されたそれは、そのまま彼のACの名前になっていた。

 

 倉井元帥は『フォール・レイヴン』を戦闘モードに切り替える。

 

「分かり合えぬのなら、もう言葉は不用だ」

 

 瞬間、吹雪でなくとも感じ取れるほどの殺気が場に溢れた。『ブルーマグノリア』のスキャンに建物内を蹴りながら重量二脚とは思えない速度で迫る機影が映る。

 

「アアアァァァァァァッ!!」

 

 マギーは頭を巡る様々な思惑を断ち切る様に叫んだ。今やらなけれならない事は"あの敵"を倒すことだ、と言い聞かせるように。

 急ぎ『ブルーマグノリア』を戦闘モードに切り替え右腕のレーザーライフルのチャージを開始する。そして『フォール・レイヴン』をFCSに捉えた瞬間、左腕のヒートマシンガンを放つ。しかしその弾は敵ACに当たることはなかった。まだ相手の軌道を予測する二次ロックが完了していなかったこともあったが、何よりも建物内であるにも関わらず『フォール・レイヴン』がグライドブーストで急加速してきたからだ。

 その加速の勢いを加えた『フォール・レイヴン』のレーザーと三連バーストのCE弾が『ブルーマグノリア』を襲う。

 その直撃による強い衝撃でACが硬直するよりも先にマギーもレーザーライフルで反撃をしていたが、それは攻撃と同時に放たれていた『フォール・レイヴン』の垂直ミサイルによって崩れ落ちた建物の瓦礫が防いでいた。

 そして硬直している『ブルーマグノリア』の"すぐ横"を『フォール・レイヴン』は通り抜け、そのまま建物の外へと駆けていく。勢いそのままにライフルを向けた先は加賀のヘリだった。しかしその弾が放たれることはない。

 

「なかなか良い判断だ」

 

 このままではACと一対一になってしまうと判断した加賀は、ライフルを向けられるよりも先にヘリを『フォール・レイヴン』の射程外まで急上昇させていた。その距離ではヘリも満足に攻撃はできないが、単体で攻撃したところで当たるわけがないと考えてのことだった。

 加賀は急ぎマギーに通信を繋ぐ。

 

「マギー!大丈夫!?」

 

 リンクしているため見ることができる『ブルーマグノリア』のAPを確認すると、既に三分の一が減っていた。たった一交差でそれを成した倉井元帥に加賀は戦慄する。

――だが本当はそれ以上だった。

 

「大丈夫……じゃないわ。私は、死んでいた……。これが演習でなかったら、私はあの時、殺されていた!!」

 

 加賀の通信機が何かを叩く音を拾う。マギーは気づいていた。倉井元帥がすぐ横を通りすぎた時、その気であれば止めを刺せていたことを。演習のためブーストチャージが禁止されていたからこそ無事であっただけだと。

 

「クソッ!クソッ!!私じゃ……やっぱり無理なの!?私じゃ『黒い鳥』には――」

 

「違うわッ!!マギーはまだ負けてない!!私達はまだ負けてなんかいない!!」

 

 マギーの言葉の先を言わせまいとするように、加賀の叫びが『ブルーマグノリア』のコックピットに響いた。

 


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