艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ
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AC同士の戦いにより艦これ要素が薄い!
ナンテコッタイ


第三十七話「MISSION05_AC特別演習-07」

「私達は負けてなんかいない!」

 

 私はマギーの言葉を断ち切る様に叫んだ。

 その先の言葉を彼女に言って欲しくなかったから。言わせたくなかったから……。彼女がそれを認めたら、何かが壊れてしまう……そんな気がした。

 

 演習前に感じていた私の不安、それが最悪の形で現れていた。まさか倉井元帥も吹雪と同じ素養を持っていたなんて思いもしなかった。……いや、力を使いこなせていない吹雪よりも完成されている力だ。一交差で『ブルーマグノリア』をあそこまで追い込んだ力、目の前にいるのは紛れもなく本物の『黒い鳥』だった。

 

――だからなんだ。それがどうした。

 

 そう自分に言い聞かせる。いつか挑む運命、それが今来ただけだ。この時のために私は力を模索してきたんじゃないのか?そう自分を奮い立たせる。

 ここでマギーが『黒い鳥』に負けたら、それは彼女に致命的な暗い影を落とすだろう。吹雪から聞いた彼女の『前世』、何もかもを捨ててまで戦い続けようとする執念、それに飲まれ本当に“何もかも”を捨ててしまうかもしれない。そんなのは嫌だ、させたくない。彼女と出会ってまだ半年も経っていないが、もう彼女が隣にいてくれるこの日々は何よりも大切なものになっているのだから。

――それを守るためなら命を懸けたっていい。

 

(頼むわよ、『ファットマン』)

 

 私は操作パネルに“指輪”をかざした。

 

 私達艦娘には錬度指数というものが定められている。戦果を元にその指数は決められ、“どれ程AMSシステムに順応しているか”の目安となっているものだ。武装の増設をするとその分脳への負担が増すのだが、身の丈に合わない改装をして自滅しないために定められた制度である。

 そしてその指数が九十九、すなわち完全にAMSシステムに順応していることを示す値に達すると、特別な申請することで『指輪型AMSリミッターアンロックキー』を受領することができる。原理はいまいち分からないが、これによりリミッターを開放し制限されている脳を行き交う情報を増やすことでより多彩な艦の操作が可能となる。

 ただ当然、無理矢理安全弁を外して行うものなので通常の操作よりも危険度はハネ上がり使用者は自らの限界を越えないよう注意を払わなければならない。だからこそ特別な申請の中には自身だけでなく提督の許可も含まれている。「お前なら大丈夫だ」と認められていなければならないのだ。

 

――だからこれから私が行うことは誤った使い方であり、提督の信頼をきっと損なうだろう。その罪悪感だけは拭えなかった。でも、それでも、やめることはできない。

 

 私はその“指輪”の機能を使い『リンクスシステム』のリミッターを開放させる。『ファットマン』はコンテナに搭載されているシステムをフル稼働させ、重低音を唸らせ始めた。

 同時に頭の中が情報の激流に飲まれる。頭を万力で絞められた上に滅茶苦茶に揺らされている様な感覚に襲われ、痛みと気持ち悪さでその場に崩れ落ちそうになる。当たり前だ。本当ならACのスキャン情報を捌くのですら結構な負担なのにACの物理演算やFCSの肩代わりをすればこうなるのは当然の帰結だった。

 苦しい、気持ち悪い、意識を手放したい……。全身から嫌な汗が吹き出し、顔からは涙やらなにやら流れ出ている。きっと人様には見せられない状態になっているだろう。意識を繋ぎ止めるのに精一杯だった。

 

(全く、なにがそんなにお前さんを駆り立てるんだ?)

 

(提督……?)

 

 あまりの辛さに幻覚が生じ始めたのか、提督の姿が見える。……いや、提督ではない。似ているが違う人だ。提督に似ている人が再び問いかけてきた。

 

(お前さんがそこまでする義務なんてないだろう?)

 

(義務とか義理とかではないんです。私がしたいからしているだけ。マギーの手を取りたいから、ただそれだけよ。それの何が悪いの!)

 

(……なるほどな。それがお前さんの『好きな生き方』ってやつか。あいつの手をとるのに、俺にはその我儘さが足りなかったのかもしれん……。ようし、だったら気張れよ。おっさんは応援してやることしかできんがね、はははっ!)

 

(言われなくても……こんなの鎧袖一触よ)

 

 気づくと男性の姿は無くなっていた。依然苦しさは変わらないが、しかし足には力が入り、心に活力が戻っている気がする。あの男の言葉で負けん気が復活したからかもしれない。

 

「彼女はもう“私の一航戦”よ、ファットマン……」

 

 彼がいた空間に向けて私は呟いた。

 

◇ ◇ ◇

 

 『ブルーマグノリア』のモニターに警告が浮かび上がる。

 

<不明なユニットが接続されました。システムに深刻な障害がガガgagaggggg……>

 

 警告の読み上げが最後まで発されることなくブツリと途切れ、モニターの画面がもとに戻る。いや、正確には軽いノイズが残っており、マギーがACのステータスを確認すると軒並みの表示が文字化けしている。そしてジェネレータのエネルギーゲージが倍近くまで増えていた。

 

「加賀!?いったいなにをッ!?」

 

「マギー、覚えて……いる?最初の任務の、後に、交わした……約束を……」

 

 加賀の声は震えていた。嫌でも何か無理をしている事を感じとれるほどに。しかしそんな状態でも加賀は話を止めなかった。

 

「私が、貴女を、『黒い鳥』にして……みせるって。あの時、貴女は私の、希望になってくれた。だから……今度は、私の番よ……」

 

「加賀……」

 

 

「だから………勝って!…マギー!!貴女が貴女でいるためにも!!」

 

 

 

<Over System『Next』Setup>

 

 

 コックピットのモニターに文字が浮かぶ。それは加賀の願いそのものであった。

 

 マギーに出会って自分は“次”に進むことができた。『MI作戦』で仲間を失ってから何かを失うのが怖くてたまらなかった。その恐怖をマギーという“一航戦(最強)”が打ち砕いてくれた。ポッカリ空いた自分の穴を彼女が埋めてくれた。だから、今度は自分が彼女を“次”へと押し進める番だ。彼女を堕としなんかさせない、自分こそが彼女の翼になるのだ。

 

 その願いが『ブルーマグノリア』を“次のステージ”へと押し上げる。演算機能に使われていたエネルギーは全て駆動系に割り振られ、何十機もの艦載機を同時に操れる脳が演算処理を肩代わりする。ACの鼓動から、マギーはACに力が満ちていくのを感じ取った。

 

(これなら……まだ戦える!)

 

――初めて“自由な世界(戦場)”を飛び回った時のようだ。

 

 期待感がマギーの心に溢れてくる。先程まで彼女に落ちていた影が引いていく。

 

「……加賀、どれくらいもつ?」

 

「……3分が限界かしら」

 

「ッ、上等ォッ!!」

 

 マギーはフットペダルを踏みしめる。『ブルーマグノリア』のブースターにグライドブーストの火が灯り、弾き飛ばすように機体を前に加速させた。

 

(いつもより安定してる)

 

 急加速による僅かな機体のブレ、それが今は感じない。明らかに機体の安定感が違う。大出力のブースターを吹かしているにも関わらずエネルギーの減りも遅い。このままレーザーライフルのチャージが出来るほどだ。なるほど、“Over System”とはよく言ったものだ。『ブルーマグノリア』はACを“越えたもの”となっていた。

 マギーの魂に灯っている火が大きくなっていく。その火は強く、それ故に彼女自身を焦がしていた。だが今、それを受け止めきれる躯が彼女の手にある。ならば魂のままに、好きなように戦える。操縦幹を握り締め、スキャンに映る機影を睨み付けながらマギーは言う。目の前の敵に、そして自分を縛っているものに向けて。

 

「倒すわ、『黒い鳥(あなた)』を!!」

 

 

◇ ◇ ◇

 

「さて、どうしたものか……」

 

 倉井元帥は思案を巡らせていた。目の前のヘリはこちらの射程外に滞空したまま動く気配がない。一応、落とそうとすれば落とすことはできる。隣の崖を蹴り上がり、射程内にヘリを捉えればいい。もしくは無視して建物の中にいるACに止めを刺しに行くか……?

 だが幾度の戦場を渡り歩き養われた勘がそのどちらの選択肢も否定していた。何度か味わったことのある感覚……今、目の前で何かが生まれようとしているのを感じ取っていたからだ。……“恐ろしい何か”が。

 きっとそれにあのヘリが関わっているのだろう。その誕生を阻止するのは容易い。だが元々この演習の目的は彼女達の実力を見極めるのが目的であり、その実力の奥の奥を見せてくれるというならば願ったり叶ったりだ。だから暫しの時を待とう。

 そう決めた倉井元帥は自分が笑みを浮かべていることに気付き、自嘲した。

 

「結局、傭兵はどこまでいっても傭兵か……」

 

 何だかんだ理由を付けながらも、本当は久々の強敵にうち震えているだけだった。

 どんなに提督として長年取り繕ってきても、ACに乗ってしまえばそのメッキは剥がれ『傭兵レオス・クライン』に戻ってしまう。主義も主張もなく、ただ戦うことでしか生きる術を知らなかった。だから流れのままに戦い続け……その果てに贖罪が必要になったというのにも関わらず、まるで反省していないように戦いを求めてしまう。どんなになってもその本質は変わらなかった。

 

(……今さらか)

 

 人間の本質は変わらない。分かっていたことだ。だからこそ贖罪を、秩序を復活させようとしているのだから。

 

 『フォール・レイヴン』のスキャンが敵ACの動きを捉える。

 

「……来たか」

 

 ごちゃごちゃ考えるのは終わりだ。その様な思考はこの場では不純物でしかない。

 

「今、この瞬間は力こそが全てだ。見せてみろ、貴様の力を」

 

 倉井元帥はACのスキャンモードを解き、敵が向かってくる方向に注意を向ける。すると高速でこちらに接近してくる『ブルーマグノリア』が視界に映った。そしておかしな点に気付く。『ブルーマグノリア』から青白い発光が見えているのだ。それはレーザーライフルのチャージ光であり、それ自体はおかしくはない。問題はその距離である。先程の攻防で掴んだ相手の射程範囲、それよりもまだ大分離れているからだ。いつでも発射できるように事前チャージしているにしてもあまり適切な距離とは言えない。

 

(そんな無駄な事をする相手ではなかったはずだが……)

 

 だが直ぐに倉井元帥の疑問は解消される。『ブルーマグノリア』の両肩からフルロックされたCEミサイルが発射されたからだ。予想外のことに驚きつつも倉井元帥は岩場を蹴り急転換することでミサイルを難なくかわす。しかしすぐにそれは悪手であることを把握した。ミサイルにロックされるということは、離れていると思っていたこの距離は『ブルーマグノリア』の有効射程を示していたからだ。

 

「ちぃッ」

 

 倉井元帥は舌打ちしながらも空中でブースターをカットし、同時にハイブーストを吹かす。機体を浮かすためのブーストをカットすることで機体にかかる余計な慣性は消え去り、『フォール・レイヴン』は地面に向けて急加速した。しかし『ブルーマグノリア』から放たれていた閃光がギリギリ『フォール・レイヴン』の右足を穿つ。これ以上の追撃は食らうまいと倉井元帥は勢いそのままACを近くの瓦礫に滑り込むように隠した。

 

(……有効射程を隠していた?いや、それはないな。有効射程が伸びた、と考えるのが妥当か)

 

 数少ない情報と自身の経験から倉井元帥は直ぐ様答えを導き出す。先程の勘はやはり正しく、あれは先程まで戦っていたACとは別物だと認識を改めた。

 その束の間『ブルーマグノリア』は建物の残骸や岩場を蹴り、連続したブーストドライブで一気に間合いを詰めていく。崖肌を駆け上がり上空から強襲する様はまるで獲物を捉えた鴉のであった。鴉が啄む様に『ブルーマグノリア』は倉井元帥のACの上空を舞いながら持ちうる武装の弾丸を浴びせる。

 いくら倉井元帥でも高出力のブーストで上空を跳び回るACの攻撃を全て躱しきるのは不可能であり、演習用の仮想APが着実に減らされていく。しかもその攻撃は従来のACのエネルギーではあり得ないほど持続していた。

 

(まるでRDのAC……いや、それ以上だな)

 

 『前世』で相対した、OW『グラインドブレード』の外付けジェネレータにより反則的な機動力で襲いかかってきたACを思い出す。しかもRDと違い、その暴力的ともいえる力に振り回されず目の前のACは、マグノリア・カーチスは完全にそれを従えている。

 

――確定だ。やはり貴様は、貴様らはイレギュラーだ。

 

 再び倉井元帥の顔に笑みが宿る。笑みとは本来威嚇行為であり、彼の中で彼女たちは“いずれ倒すべき敵”と決定された。

 

「十分だ」

 

 もう遠慮はしないとでも言うように『フォール・レイヴン』はレーザーライフルを投げ捨て右肩に備えていたショットガンを手にする。左腕もバトルライフルからシールドへと切り替え、垂直ミサイルを放つと同時に地面を蹴った。

 『ブルーマグノリア』は迫るミサイルを空中のハイブーストで軽く躱す。しかしそれは倉井元帥の想定通りの動きであり、『ブルーマグノリア』の移動した先に『フォール・レイヴン』が待ち構えていた。

 

「クソッ!」

 

 倉井元帥の思惑通りであったことを直感的に悟ったマギーはそれが面白くなく声を溢す。そしてその鬱憤を晴らすように目の前の敵に『ブルーマグノリア』のミサイルとヒートマシンガン、そしてレーザーライフルを放った。

 その全てが直撃し、マギーはほんの一瞬だけ「勝った」と気を緩めてしまう。しかし直前に捉えていた敵ACの武装を思い出し、それが誤りだと改めた。その気の緩みは時間にして瞬き以下程度の間であったが、倉井元帥はその刹那を見逃さなかった。

 演習用ミサイルの粉煙の中から散弾が放たれ『ブルーマグノリア』に直撃する。その威力は装甲を抜くほどではなかったが、同時に加わる強い衝撃力により機体がぐらつく。その隙に倉井元帥は機体を崖面へ近づけブーストドライブで上へとあがった。今度は『フォール・レイヴン』が『ブルーマグノリア』の上を押さえる。上をとった『フォール・レイヴン』は既に盾をパージしており、左腕に再びバトルライフルを構えていた。そして今までのお返しの様にショットガンとバトルライフルを『ブルーマグノリア』に浴びせる。

 マギーは反撃しようと試みるが、倉井元帥は旋回性の高い自身の機体性能を生かし『ブルーマグノリア』の上空を張り付いて離れない。しかも恐ろしい精度でショットガンを命中させ、その衝撃で機動力を殺してくる。それにミサイルとバトルライフルを被せてくる戦法に反撃どころではなかった。加賀の力でACの安定性まで向上していなければこのまま固め殺されていたかもしれない。その“もしも”が頭を過りマギーは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるが、しかしそれは“もしも”の事であり今の私の事ではないと直ぐさま思考を切り替えた。まだ戦うことはできるのだ。

 マギーは先程倉井元帥がしたのと同じようにブースターをカットしハイブーストを吹かして地面に急降下した。そして着地した瞬間にブースターをオンにしてグライドブーストで障害物の間を縫うように駆け抜けていく。そうして『フォール・レイヴン』の射程外へ逃れ、マギーは体勢を立て直した。

 倉井元帥もACを地面に着地させ、スキャンモードで『ブルーマグノリア』を観察する。互いのAPと相手のAPを見比べ、奇しくも両者は同じ考えに至っていた。

 

――次の一交差で終わりだ。

 

 両者が同時にブーストを点火する。グライドブーストで地表を駆け相対距離を詰めていく。互いが牽制で放ったヒートマシンガンとショットガンは互いが身を隠した障害物の一角を削り飛ばした。それにより生じた煙を掻き分け、『ブルーマグノリア』が上空から『フォール・レイヴン』に襲いかかる。

 

「私の勝ちだな」

 

 倉井元帥はグライドブーストにハイブーストを重ね吹かし『ブルーマグノリア』の下を高速で駆け抜けブーストを切った。そして右足に重心を置いて軸とし、機体にかかる慣性を活かしてドリフトターンをする。その眼前には『ブルーマグノリア』の背面が写っていた。後は引き金を引くだけだ。

 

「勝つのは私よ!」

 

 叫ぶのよりも早くマギーはフットペダルを踏み込んでいた。加賀のAMSによるサポートにより高度な姿勢制御が可能となっていた『ブルーマグノリア』は空中でブーストによる急旋回を行う。『Next』により従来のACを超え、『世界を破滅させた力』に近づいたからこそできる挙動により『フォール・レイヴン』を正面にとらえていた。

 

 

 

 

 二つの銃声と共に、演習終了のブザーが各ACのコックピット内に鳴り響く。

 



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