艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ

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タイトルはあるガンダム小隊の劇場版タイトルのパロディです。

最近リアルが忙しくなってきて更新速度が遅くなってしまいました。
でもちゃんと完結するようがんばるぞい!




第三十九話_番外編「アオバ・リポート」

「あん時はもう駄目かと思ったぜ。でもよ、そこに吹雪が来たんだ!」

 

「ほうほう、それで?」

 

「凄かったぜ~。俺の船の上にいた奴をさ、ズバッと一刀両断しちまったんだ!」

 

「おお、それは凄いですねぇ」

 

「だろぅ~、それでさ……」

 

 軽巡洋艦『天龍』の操縦席にて、それを操縦する者とカメラを首に掛けた女性が会話に花を咲かせていた。一応今は陸軍への物資補給任務の帰路でありその様な行為は慎むべきものなのだが、生憎それを咎める立場にいる旗艦がその天龍である。しかも普段であればそれを止める龍田もその会話を聞き入ってる上、「警戒は電達に任せて欲しいのです」と仲間からのありがたい言葉もあったものだから会話を止める者は皆無という状況だ。

 天龍と会話している女性――アオバ――は、その内容をこまめにメモに取っていた。

 

 

(ワレアオバ、有力な情報提供者と接触せり、引き続き取材をする、と。……にしても、まさかアレを追っていたら天龍さん達にたどり着くとは、妙な縁があるものですねぇ)

 

 わたくしアオバは元艦娘"青葉"でして、生まれは天龍さんたちと同じ鎮守府です。『MI作戦』の際にアオバ達の鎮守府は敵の襲撃を受けて壊滅し、その時に自分の船を失ってしまいました。天龍さんと龍田さんは遠征任務で鎮守府を離れていたため無事だったみたいですが、アオバと保護されたタイミングが違っていたようでそのままお別れに……。そして数刻前に感動の再会を果たせたというわけです。

 

 それまでアオバはあるモノを追い続けていました。それはアオバたちの鎮守府を壊滅にまで追い込んだ存在――最近なって『深海鉄騎』と名付けられたもの――、それを追い続けていたんです。たった一体で鎮守府を滅ぼせる圧倒的な力を持つ新種の深海棲艦。アオバがそれの報告をした時はあまりの内容に「どうやら錯乱しているようだ」として片付けられてしまい取り合って貰えませんでした。その時はたった一枚でも写真を撮れてさえいれば、物的証拠があればと後悔の念に駆られたものです。それが悔しくてか、仲間の死を無駄にしたくないからか、その新種の深海棲艦を探り存在を知らしめ私たちの鎮守府のような被害を未然に防ぐことが残されたアオバの使命だと思ったのが『深海鉄騎』を追うようになった切っ掛けです。

 そして船を失った“青葉”は“アオバ”となって陸軍に転属したわけですが、それがたまたま銀爺大将の目に止まったようでして……突然、大将自らある倉庫に呼びだされることに。

 

「きょっきょきょ、きょーしゅくです!自分なんぞに大将自らどのような御用件でありましょうか!?」

 

「おお、よく来たな。まあ楽にしてくれ。是非お前さんに見てもらいたいものがあってのう」

 

「は、はぁ?」

 

「……お前さん、確か“あるモノ”の行方を探っているようじゃないか。それが“コレ”と同じものか見てもらいたいのだ」

 

 銀爺大将のおっしゃる内容を理解しきれぬまま倉庫の中に案内されると、そこにはアオバの鎮守府を壊滅させた鉄の巨人と同じものが――しかも5体も――存在していました。脚の形状や兵装は違っているものの確かにアオバが見たものと同種であることは一目瞭然で、その時は思わず襲撃された時の恐怖が蘇り腰を抜かしてしまいました。

 

「な、なんでアレがここに!?まさか鹵獲できたのですか!?アレを?」

 

「やはりこれらはお前さんの鎮守府を襲撃したものと同じもののようだのう。……これらは鹵獲ではなく陸軍が発掘したものだ。使い方も、その力も分からなくてここに放置されている」

 

「放置って……そんな、危ないですよぅ!動き出したらどうするんですか!?」

 

「動きださんよ、少なくともこれらは。どうも有人兵器のようらしい」

 

「有人兵器って……でも鎮守府を襲ったのは……」

 

「わからん。深海棲艦が乗っ取って動かしていた可能性もある。なんせ奴らは戦艦すら模倣して運用するような奴らだからのう。……まあとにかくお前さんのおかげでこれがどんな存在か、そしてその有用性の確認は取れた。そこでもう一つ、頼みたいことがある」

 

「は、はい!!」

 

「どうも海軍の上層部はこれがどういうものであるか知っている……どころか運用までしているらしい」

 

「え?」

 

「噂程度の話だがね。だがお前さんへの聴取の対応などを鑑みるに、あながちホラではなさそうだ。……だからその真相を探ってもらいたい」

 

「それってつまり……」

 

「ああ、海軍への偵察を頼みたいのだ。そしてこの兵器の運用に関する情報を探って欲しい」

 

 こうしてアオバは後に『深海鉄騎』と呼ばれる存在を探るスパイとして海軍に潜り込むことになりました。一応言っておきますとスパイ行為への罪悪感もあったので倉庫にあるものを見せつけて海軍を問いただしてみては?とお伺いもしましたが、「理由をつけて徴収されるのがオチだ」と言われてそれきり。まあ情報が共有されていなかった時点である程度の察しはついていましたが……陸軍と海軍の上層部の不仲は相当深刻なようです。ただアオバとしても「存在を知っていたのになぜ?」という思いもあったので最終的にこの任務を引き受けることに。(そもそも大将直々の命令なので断るという選択肢は実際ないのですが……)

 

 そしてどうやら銀爺大将の慧眼は正しかったようで、アオバはこの任務にまさにうってつけでした。本営などに入ること自体は同じ帝国軍として正規の手順で入ることができますし、中で艦娘“青葉”に変装してしまえば大手をふるって海軍管轄に入り込むことも可能でした。まあ艦娘はみなクローンですし、艦種判別のため建造時の制服が正装として定められているのでわからないのは当然ですが。提督の中には自分の部下の判別がちゃんとつく方もいらっしゃいますが、だとしてもアオバを見かけたところで「ああ、他の鎮守府の娘か」が関の山。しかも艦娘“青葉”はどういうわけだか無類のカメラ好きであることが多く、ほとんどの“青葉”が(アオバも類にもれず)マイカメラを持っていたりするものですからカメラやメモを持っていても不審がられません。ですので情報は探り放題撮り放題。万が一怪しまれ持ち物を検査されても女の体ですゆえフィルム程度なら隠しようはあります(どことは恥ずかしくて言えませんが)。

 

 こうして海軍を探っていった結果、『深海鉄騎』と深い関わりがあると思われる人物が浮かび上がってきました。――倉井元帥。深海棲艦との戦争の前はどうやら海軍上層部お抱えの便利屋のような仕事をされていたようで、様々な戦場で圧倒的な戦果を上げてきた“首輪付きの獣”。上層部の老人たちが最も頼りにしており、そして最も噛みつかれることを恐れている人物。深海棲艦との戦争においてもこの人が自ら前線に赴いた戦いにおいて負けは無し、という化け物。

 どうも海軍とは別支援の元に私兵を持っているらしく、その正体不明の私兵が件の戦果の正体と噂されているようです。……もしそれがアオバの探しているものと同じものであれば、あの圧倒的な暴力でアオバの全てを壊した兵器を抱えているのであれば……その戦果の全部に説明がつきます。

 しかしそこまで調べがついたものはいいものの、肝心の倉井元帥の元にまでたどり着くことができませんでした。どうもこの提督は鎮守府を持たず任地を転々としているようで、近くの鎮守府を間借りしたり仮設の基地を設けて各地で任務を遂行するというまるで傭兵のような行動をしているからです。艦娘も秘書艦である翔鶴さん以外は全て派遣で補い、任務を完了したら解散し次の戦地に赴くというあまりにも元帥という肩書とはかけ離れた腰の軽さ。アオバがまだ船を持っていれば派遣として潜り込めたかもしれませんが、今は陸軍の身でそれも叶わず近づくことはできませんでした。

 そうして偵察がどん詰まりしていた時に一筋の光明ともいえる“悲報”が。

 

『ガダルカナル島上陸作戦において新型の深海棲艦と遭遇。上陸部隊全滅。』

 

 その報告と共に辛うじて撮影したのであろう画像が銀爺大将の元へ上がってきたのです。もちろんアオバもその画像を確認させてもらうと、ピントもあっていなくシルエットしかわかりませんでしたが、それには紛れなくアオバの鎮守府を襲ったモノが写ってました。

 

「アオバ、わしはコレをあえて海軍に流そうと思う。……倉井は動くと思うか?」

 

「もし倉井元帥が同じものを運用しているのであれば間違いなく。……きっと、コレを倒せるのは同じ存在だけですから」

 

 そして『深海鉄騎』と名付けられた敵新型の情報を海軍に流すと、やはりというべきか倉井元帥はすぐに行動に移りました。アオバはその行動を逃さぬよう再び本営に潜り込み、逐次倉井元帥に絡む情報を探っていくことに。そこで得られる情報は断片的なものでしかなく、とにかく倉井元帥に絡むものならなんでも拾っていきました。『深海鉄騎の撃破』、『赤羽元帥と倉井元帥の取引』、『鎮守府近海に新たな深海鉄騎が出現』、そして『白鳥鎮守府との特別演習』。

 

(白鳥大将って確か……天龍さんと龍田さんが今所属しているところの提督さんですよねぇ。なんでこの人と倉井元帥が演習を?)

 

 海軍を探っていた時に偶然知った同郷の仲間の現在の上官。気になって銀爺大将に報告したところ、なんと旧知の仲だとか。どうも前線の仲間が物資補給で大変お世話になるなど懇意にしてもらっているみたいです。

 

「というわけで、早速会いに行くことにするか。アオバ、お前さんはわしの護衛としてついてこい」

 

「はい?……ええッ、大将自ら動かれるんですかぁ!?」

 

「当然だ。それだけの重要性がこの情報にはある」

 

 こうして銀爺大将と共に天龍さんたちの遠征部隊をお迎えすることに。さすがの天龍さんも大将にお出迎えされるのは初めてで、その衝撃のせいで感動の再開の雰囲気はぶち壊しでした。まあ、あまり湿っぽいのはアオバも好きではないのでよかったのかもしれませんが……。

 そしてガールズトークに花を咲かせつつ探りを入れてみると、まあ出るわ出るわ『深海鉄騎』の情報が。……アオバはこれでも一年間ぐらいずっとこの情報を追っていたのですが、それが悲しくなってくるほどの情報が天龍さんの口からポロポロと零れてきたのです。挙句、『深海鉄騎』は現在『吹雪弐式』と名前を変えて白鳥鎮守府で運用されているのだとか。それを聞かされた時は『特別演習』が組まれたことに合点がいきつつ、なんとも複雑な気分になりました。そういえばお二人は私たちの鎮守府を壊滅させたのが、その『深海鉄騎』もとい『吹雪弐式』だとは知らないのでしたねぇ。

 

 ともあれアオバの承っていた任務はなんとも意外な形で終焉し、今はACの運用方法をご教授願うため白鳥提督の鎮守府に向かっている最中です。

 

「そういえばアオバ、お前陸軍になんか転属して何やってたんだ?」

 

「あー、実は秘密の任務に就いていたんですがぁ……先ほど完了しちゃいました」

 

「ふ~ん?じゃあこの後どうすんだ。まだ陸軍にいるのか?」

 

「……なんだかいてほしくなさそうに聞こえますねぇ」

 

「そりゃそうだろ。所属は変わっちまったが俺たちは同郷の仲間なんだぜ?安全な道があるならそっちに行ってもらいたいさ」

 

「フフッ、天龍さんは相変わらずですねぇ。駆逐艦の子たちに好かれる訳です。ですが……そうですねぇ、やっぱり陸軍に居続けますよ」

 

「そりゃどうして?」

 

「撮りたいんですよ、勝利を刻んだ暁の水平線を……。それをアオバが撮るにはACに乗るのが一番だと思うからです。前線にいればお二人にもまた会えますしねぇ」

 

「へっ、そういうことかよ。……どうして俺の知り合いはみんな戦場に魂を置いてきちまうんだ、全く」

 

「いやーすいませんねー。ついでに教官になられる方にアオバを推薦してもらえると助かります」

 

「まだその話決まったわけじゃねーだろ!ほんと調子いいよな、お前」

 

「えへへー」

 

 ちなみにその日のうちに決まった教官――話に出ていた吹雪さん――指導の元、アオバは陸軍初のAC部隊「レイヴンズ」の隊長として活躍することになるのですが、それはまた別のお話です。

 

 

―――アオバ・リポートより抜粋

 


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