艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ
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第四話「作戦会議」

「う~眠いっぽい~」

 

「まったくだぜ、クソが!大体、演習は明日だったはずだろ…」

 

 夕立、摩耶はぶつくさと文句を垂れながら会議室へ向かっていた。休日をいいことにグースカ寝ていたところを目の前を歩いている霧島にたたき起こされ、二人はとても不機嫌だった。

 

「休日とはいえこんな時間まで惰眠を貪っているのが悪いのですよ。もしこれが演習ではなくて緊急事態だったらどうするんですか、まったく…」

 

 そう言ってはいるものの、霧島も二人の気持ちはわからなくも無かった。いくらなんでも急すぎる。なぜ予定を早めたのか自分も良くわかっていないのが現状だった。

 

 そもそも今回の演習は新入りの瑞鶴、秋月の練度を高めるための、航空戦が主軸の演習だったはずだ。特に空母が加賀さんしかいないうちの鎮守府では瑞鶴の育成は急務であり、それゆえ足りない艦載機を今日作れるだけ作って搭載し、明日その演習をする予定だったはず…。だから今日演習を行うのはなにかおかしい…。

 

「提督のことですから、なにか考えがあるのでしょうが…」

 

 そう呟きながら、霧島は会議室のドアを開ける。

 

「失礼します。戦艦霧島、および重巡摩耶、駆逐艦夕立、到着しました」

 

 先に来ていた加賀に軽く敬礼をすると、彼女の横に見慣れない女性がいることに気がつく。初めて見る顔だ…新しい艦娘だろうか?もしかしたら彼女が今日の演習となにか関係しているのかもしれない。

 

(これは早速確認せねば…とはいえ初対面の方ですしここは――)

 

 どう声をかけるか計算しているうちに、同じくその女性に気づいた摩耶に先手を取られてしまう。

 

「お、もしかしてあんた新入りかい?アタシ、摩耶ってんだ、よろしくな。艦種は重巡洋艦だ、対空ならまかせとけ」

 

 さっきまでの不機嫌な顔はどこへいったのやら、自分が先輩だぞ、とでも言いたげな顔をして胸を張っている。しまった、と霧島がたじろいでいるのも束の間に、いつのまにか夕立も興味津々といった面持ちでその女性に近づいていた。

 

「こんにちは、白露型駆逐艦夕立よ。よろしくね!おねえさん、新しい艦娘っぽい!?いっしょにがんばるっぽい!!」

 

――完全に出遅れた。

 いや、むしろ主役は遅れてやってくるものだ…。私の計算に狂いはありません!ここは戦艦としての威厳を見せつけなければッ!霧島もマイクチェックをするときのようにノドを鳴らし自己紹介をはじめた。

 

「ンンッ あー、はじめまして、私は霧島といいます。艦種は金剛型戦艦、頭脳戦なら誰にも負けません!」

 

 こういうのは第一印象が大事、とメガネをクイっとあげる。

 

(きまりました、このまま相手の情報を聞き出す追撃開始です!)

 

 そう言わんばかりに霧島は話を続けようとした。しかし、それは加賀の手を叩く音にあえなく遮られてしまう。

 

「みなさん、自己紹介は済んだわね。色々聞きたいことはあると思うけど、演習まで時間がありません。彼女のことは作戦会議内で紹介するので、とりあえずは席に座ってちょうだい」

 

 うう、これからだったのに……。やはり最初に出遅れてしまったのが痛かったか?などと思いながら霧島は新入りの女性を見る。加賀さんと似たような服装からして空母の艦娘だろうか?でもそうすると余計に今日の演習のつじつまが合わない…。とはいえ、これ以上考えても答えは見つからなさそうだ…彼女の紹介まで待つしかない。

 霧島は胸にもやもやを抱えたまま、しぶしぶ着席した。

 

◇ ◇ ◇

 

 マギーは、さっき白鳥提督に啖呵を切った態度はどこへいったのやら、といったように意気消沈していた。

 

 理由は二つ。一つは、さっきの彼女たちの自己紹介で毒気が抜かれてしまったことだった。

 

――どうも今まで会ったことのある傭兵と彼女たちはベクトルが違う。

 

 傭兵の中には変わった者も沢山いた。女性だって普通にいたし、夕立と名乗る子と同じぐらいの少年兵だって珍しくはなかった。実際、自分もあの子ぐらいの歳には戦場に赴いていたほどだ。

 

「クソ傭兵が!ブッ殺してやる!!」とすさまじく口汚い女もいたし、「世に平穏のあらんことを」なんてのたまう新興宗教風情もいた。

 

 だが、そのどれとも違う。緊張感がないというか、殺気がないというか…。とにかく今まで経験したことのない雰囲気に当てられていた。

 これが私の味方か…馴染めるだろうか?マギーの心情を推し量ってか、加賀はマギーに小声で呟く。

 

「気持ちはわかるけど、一応こう見えても彼女たちは激戦を潜り抜けた猛者たちよ。やるときはやってくれるわ、一応……」

 

「……一応が余計よ」

 

 軽くうなだれているマギーを尻目に、加賀は演習の説明を始めた。

 

「今作戦は空母を旗艦とした敵艦隊を想定した演習よ。こちらの戦力は私、正規空母『加賀』を旗艦とし、戦艦『霧島』、重巡洋艦『摩耶』、駆逐艦『夕立』。――対する敵艦隊は旗艦を正規空母『瑞鶴』とし、戦艦『金剛』、重巡洋艦『愛宕』、駆逐艦『吹雪』、駆逐艦『秋月』の編成。なお、私の艦載機はほとんど瑞鶴に艦載、私に艦載されるのは瑞鶴に乗り切らなかった十数機と……新兵器、『艦載機ブルーマグノリア』一機のみ。……作戦成功の要はこの『ブルーマグノリア』にかかっているわ」

 

「ちょっとよろしいでしょうか?」

 

「なにかしら、霧島」

 

「その…今回の演習はあまりにも航空戦力差が酷過ぎます。いくら瑞鶴さんの錬度が低いとはいえ、たった一機の新兵器でこの差を埋めるのは難しいと思いますが……」

 

 霧島の疑問は当然のものだった。空母の強みは航空機による大火力の先制攻撃と、制空権を確保し戦況を有利にすることができることであるが、それは大規模の航空隊がいることが前提である。

 しかも相手に“防空駆逐艦秋月”までいるとなると、もはや現在の加賀の艦載機量では戦力が無いに等しい。横に居た摩耶と夕立も同じ考えなのか、うんうんと頷いている。

 

 無論、そんなことは加賀も百も承知だった。

 

「わかっているわ、そんなこと。でも“やってもらわなければ”困るのよ……。というわけでマギー、自己紹介とブルーマグノリアの性能を教えてくれないかしら?」

 

――ここでお鉢が回ってくるのか。

 説明を聞いていた3人を見ると、「どういうことだ?」といったように色めき立っている。あまりこういう空気で自己紹介をするのは好きじゃないが、時間もないしそうもいってられない。加賀も、ちょっと流れは強引だが…、それを配慮して自己紹介を兼ねつつACの性能を話す場を設けたのだろう。

 マギーは立ち上がり、口を開いた。

 

「申し遅れたわね。はじめまして、私はその新兵器のパイロットを務めるマグノリア・カーチスよ、マギーでいいわ」

 

 ここまで言ったところでさっそく横槍が入る。入れたのは摩耶だった。

 

「艦載機のパイロットって……マジかよ?正気か?」

 

 彼女たちの戦闘において艦載機は弾と同じ消耗品だった。空母の命令に従いAIによって自立飛行する航空機……戦闘をすれば必ず何機かは失ってしまう。だからこそ、特に対空を得意とする摩耶にとってそれに乗るというのは自殺行為に見えたのだ。

 

 無論、この見解は間違っている。それを正すためにマギーは説明を続けた。

 

「私は正気よ。あなたの言ってる艦載機っていうのは格納庫にあったプロペラ機のことを言ってるのでしょう?。『ブルーマグノリア』は全くの別物。AC(アーマード・コア)といって、強固な装甲と高い火力を備えた7~8m大の人型兵器よ」

 

「人型ァ~?」

 

「あっ、夕立知ってるよ!娯楽室のマンガにあったっぽい。ロボットっていうんでしょ!?街中でガシィィンガシィィンって戦って……海の上で戦えるの?」

 

「人型ということは地上戦を想定しているように見受けますが…」

 

 マギーの説明を受け、三人は余計に疑問符を浮かべる。三人と違い直にACを見ていた加賀も、プロペラも羽もないその姿に実は同様の疑問を抱えていた。

 説明を急かすように四人はマギーに視線を送る。

 

「…まあ、確かにACは本来地上戦用を想定したものよ。でも海上でも戦えなくはないわ。プロペラ機のように空を飛び回ることはできないけど、最大約330Km/h(180ノット)で海面を滑空することぐらいならできる」

 

 その性能を聞き、夕立は目をキラキラさせる。

 

「すごい速いっぽい!!」

 

だが、すかさず霧島から指摘が入った。

 

「いや…しかし零戦の最高速度は500Km/hを超えます…艦載機とすると少し遅いかも……。肝心の武装はどうなのですか?」

 

「そのことなんだけれど……」

 

 途端、マギーは顔を曇らせる。苦虫を噛み潰したような表情をしながら彼女は答えた。

 

「模擬弾の関係で一部の兵装しか使用できないのよ……」

 

 そう、コレがマギーが最初に意気消沈していたもう一つの理由だった。

 

 マギーのAC『R.I.P.3/M』――ここでは艦載機『ブルーマグノリア』――の兵装は三つ。

 

レーザーライフル:Au-L-K29

ヒートマシンガン:Au-V-G39

CEミサイル:Su-J-A28

 

 レーザーライフルはまあ、わかる。実弾を使用しない銃に模擬弾が装填できるわけないし、それは予想がついていた。問題はミサイルだ。演習の準備をするために明石とかいう艦娘に兵装の説明をしていた時だが、

 

「申し上げにくいのですが、マギーさん。このミサイル…とかいう兵器ですか?これに相当する弾はウチでは扱っていないんです……。工廠の装置で解析して登録すれば生産は可能になると思うのですが、生憎…その、演習までには間に合いません。幸いヒートマシンガン?には12.7cm連装砲の模擬弾が入りましたので、それだけでガンバってください!」

 

 などと言われてしまっていた。実戦だったらそれでもブーストチャージで戦えなくはなかったかもしれないが……艦体を破損させないために模擬弾を使用するのに、蹴るなんてもってのほかだ。

 つまりヒートマシンガン一丁しか使える火力はない。

 

 この手の兵器は装甲の弱い相手ならあっという間に屠ることは出来るが、装甲の厚い相手となると途端に効果が薄くなる。マギーのいた時代とイメージがかけ離れていなければ、恐らく戦艦、重巡洋艦には弾が弾かれてしまうだろう…。

 明らかな火力不足……敵艦隊を倒しきることができない。どうあがいても詰んでいる状況であったため、マギーは意気消沈していたのだ。

 

「――そういうわけで、今回私が出来そうなことは駆逐艦を倒すことと、空母の甲板をつぶすことぐらいしかないわ……。あとは…残弾によるけど戦艦、重巡洋艦の副砲をいくつかつぶせるかどうかってぐらいか……。悔しいけど…敵を全滅させることはできないわね……」

 

 周囲が沈黙に包まれる。ああ、これは呆れられたか。期待の新兵器がこれでは…なんて思われてるに違いない。

 しかし返ってきた反応は想像とは真逆のものだった。

 

「いやいやいやいや、そこまで出来れば十分だろ!?つか、なに一人で戦うこと前提にしてんだよ?」

 

「そんなに活躍されたら夕立の出番ないっぽい!!」

 

「私の計算では十分に勝算はあります、みなさん作戦を練りましょう!」

 

 マギーは一瞬理解が追いつかなかった。自分に課せられたミッションは“圧倒的な戦力差を覆せ”だと思っていた。だからこんな反応は想定していなかったのだ。

 反応に困っているマギーに加賀は声をかける。

 

「マギー、確かにあなたが要になるとは言ったけど、一人でどうにかしろという意味ではないわよ。私たちは艦隊、お互い足りない部分を補って戦うもの。制空権は譲ることになるだろうけど、あなたにはそれを補えるだけの可能性がある。それだけで十分よ…ほら」

 

 加賀が指を刺し視線を促した先には、三人がすでに作戦会議をはじめていた。

 やれ、三式弾で対空を補うだの、そうすると砲撃戦がだの、駆逐艦を優先撃破してもらって夜戦にもつれ込むだの、さまざまな意見を言い合っている。

 

「やるときはやってくれると言ったでしょ?」

 

 加賀は無表情な口元を少し緩ませ、このままでは口論が終わらないであろう会議をまとめるためにその輪へ加わっていった。

 

――なるほど、やっぱりベクトルが違う。

 

 彼女たちへの認識を改めねば…とマギーは思う。

 

 自分がまだ傭兵だったころ、その強さゆえに一部の例外を除いて単独行動が多かった。依頼主も傭兵を使い捨てとしか思っておらず、与えられる情報も適当なものばかり……。それゆえ顔も知らない味方勢力は弾除け程度にしか思えず、信じられるのは自身の力のみだった。

 気づけば加賀の言っていた“仲間を信頼する”という思考をいつの間にか失っていたようだ。……すぐに思考を矯正できるとは思っていない。それでも…。

 

 マギーは彼女たちを見る。

 

(三大勢力の奴らや財団よりは信頼できそうだ、悪くない…)

「悪くない…か……」

 

 いまさらそんなことを思うなんて……と自嘲しながら、マギーは加賀の後を追うようにその輪の中へ歩み寄っていった。






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