艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ

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ある要塞のスペックをちょっと低めに書いてるのは劣化してるから、と考えてください。


第四十一話「MISSION06_沈黙海域攻略-01」

鎮守府のドックに張りつめた空気が漂っていた。それは白鳥提督が珍しく正装して佇んでいるから……ではなく、そうしなければならない相手が来るからである。

 

 しばらくすると提督とその秘書艦達のいるドッグに一隻の空母が入港してきた。

 

――装甲空母『翔鶴』

 

 それは派遣などにより現地で戦力を募る倉井元帥唯一の直属艦である。

 『翔鶴』の停泊が済むと、空母からパイロットスーツを身に纏った男性と銀髪の少女がドッグに降り立った。

 

「これはこれは倉井元帥殿。遠路遥々ご苦労なこって。腹が減ってるなら飯でも用意してやるが?」

 

「結構だ。それよりも直ぐにブリーフィングを始めたい。出撃する人員は集めてあるのだろうな?」

 

「はんっ、ちゃんと集めてるよ。加賀、マギー、案内してやれ」

 

 提督に呼ばれ加賀とマギーは倉井元帥の前に立つ。特別演習で言葉を交えたことはあるが、直接相対するのはこれが初めてだった。

 

(この人が倉井元帥?……若い。確か提督と同期だったはずよね……?)

 

 加賀は倉井元帥の見た目に驚きを隠せなかった。提督と同期であれば少なくとも50代後半である。だが目の前の男はどう見積もっても30代前半程度にしか見えない。それが倉井元帥から感じる不気味さに拍車をかけていた。

 

「大したことではない。貴様らよりも“強化”されているだけだ」

 

「ッ!?」

 

 加賀のいぶかしむ様子から考えを見透かしたのか、倉井元帥はその疑問の答えを口にする。そのまま加賀とマギーを一瞥した。

 

「なるほど、お前達があの演習の時の……。今回の作戦、活躍を期待している」

 

「言われなくても。……こっちよ、付いてきて」

 

 マギーは強気に言い放つと、倉井元帥達を出撃メンバーのいる会議室まで案内していった。

 

 マギーたちが会議室に入ると、中で吹雪、瑞鶴、金剛、摩耶、夕立たちが椅子に座って待機していた。マギーたちに連れられ入室した倉井元帥を当人だと把握するやいなや加賀と同じように驚きざわつきだすが、倉井元帥は無視して翔鶴にブリーフィングの準備を指示をする。マギーと加賀はそれの手伝いを終えると吹雪たちの隣に着席した。倉井元帥はホワイトボードに投影された作戦海域の前に立つ。

 

「ではこれより本作戦概要の説明を始める。なお本作戦の指揮は私、倉井が務めさせてもらう」

 

 艦娘達は一様に席から立ち、倉井元帥に敬礼をした。

 倉井元帥は着席の許可を出しながら投影された海図に目標の場所の印と、そして『沈黙海域(サイレントライン)』の境界線を書き込む。

 

「本作戦の目標はここに存在している要塞型深海棲艦……スピリット級要塞の撃破だ」

 

 『スピリット級要塞』という名称に皆が頭に疑問符を浮かべる。それがどの様なものかを知っているのはマギーと『傭兵』の記憶を持つ吹雪だけだった。

 マギーは倉井元帥の話の真偽を確かめるため隣にいる吹雪に小声で訊ねる。

 

「吹雪、“彼”がインターネサインを破壊しにいった時もあれはあったの?」

 

「いいえ、“あの人”の記録にはありませんでした。でも待ち構えているのはスピリット級要塞で間違いないと思います。話に聞く攻撃方法が非常によく似てますから……」

 

「似てる…ね」

 

 『スピリット級要塞』の存在は知っていても直接相対したことのないマギーは、その脅威を確認すべく倉井元帥の話に再び耳を傾けた。

 

「スピリット級要塞とは旧世界……そこのマグノリア・カーチスの『前世』よりも前の時代に造られた全長2キロにわたる超弩級要塞だ。射程40~50キロのミサイルを武装に有しており、この境界線に入った途端にそれを放ってくる。またこいつは移動機能がオミットされ代わりに機雷をばら撒く機能が備わっている海上防衛型だ。よって海中から近づくことは不可能となっている」

 

 話を聞いていた艦娘達が顔を見合わせる。改めて聞く『沈黙海域(サイレントライン)』の不可侵さに、たった一艦隊でいったい何ができるのか?といった様子である。だが倉井元帥は艦娘たちに告げる。

 

「貴様らが心配する必要はない。空母以外の役割は行きと帰りの護衛だけだ。要塞はACだけで叩く」

 

「ちょっと!いくらACでもそんな大きいのは無理よ!」

 

 倉井元帥の一見荒唐無稽な話に瑞鶴が噛みつく。自分の艦載機でもあり大切な仲間でもある吹雪の身を案じてのことだった。

 

「口を慎みなさい。倉井様の話の途中よ」

 

 だがそれを倉井元帥の秘書艦である翔鶴が注意する。

 

「でも翔鶴姉…」

 

「私は貴女の姉ではないわ」

 

「う…ッ」

 

「大丈夫ですよ瑞鶴さん。勝機は十分ありますから……」

 

 吹雪が瑞鶴の裾を軽く引きながらここは押さえるよう促した。それを聞いて倉井元帥は目を細める。

 

「ほう、どうやら貴様はスピリット級要塞の弱点を知っているようだな?答えてみろ」

 

「…はい。スピリット級要塞は砲台のダメージが本体に伝搬してしまうという構造上の欠点を抱えています。そこを突けばACでも撃破することが可能です。……そこまで接近出来れば、ですが」

 

 吹雪にインストールされている『傭兵』はスピリット級要塞を撃破した経験があった。その戦闘記録から吹雪はスピリット級要塞の弱点を把握していたものの、それは陸上での記録でしかない。吹雪達のACは工廠で建造されたり深海棲艦に弄られたためか水上適正が上昇している。しかしそれでも地上と比べ水上の移動は見劣りしてしまうので、吹雪はミサイル群をかわしきれるかに一抹の不安があった。

 だがそれは当然、倉井元帥も考えていたことである。

 

「接近に関しては問題ない。そのための空母だ。ACの出撃前に全艦載機を発艦。AC出撃後はACに並列して海域内に突入、ミサイルのデコイにする。これならばACの回避行動は最小限で済む」

 

「艦載機をデコイに、ですか。随分と豪勢なデコイですね」

 

「スピリット級要塞と引き換えなら安いものだ」

 

 倉井元帥と吹雪のやり取りを聞いて加賀は頭を痛めた。恐らく艦載機は全損するであろう作戦の出費を秘書艦として考えてしまったためだ。後でポーキサイトを集める手配もしておかなければ、と頭の中で追加業務の段取りをする。

 同じ秘書艦として察したのかマギーは加賀の肩に手を添え「仕方ない」と無言で諭した。

 

「では改めて作戦内容を伝える。まず空母以外の艦は『沈黙海域(サイレントライン)』まで空母の護衛。『沈黙海域(サイレントライン)』到着後、各空母は艦載機、そしてACを発艦。艦載機をデコイにしながらACはスピリット級要塞に接近、これを撃破する。以上だ」

 

「ずいぶん雑だな、それ作戦って言えるか?」

 

 ストレートに物を言ってしまう摩耶が愚痴をこぼす。しかし倉井元帥はそれを鼻で笑った。

 

AC乗り(私たち)の任務などこんなものだ。だろう、マグノリア・カーチス?」

 

「否定はしないわ」

 

「フッ……では健闘を祈る。各員出撃準備に移れ」

 

 そう告げると倉井元帥は早々と会議室を出ていく。翔鶴も艦隊のメンバーに軽く会釈すると倉井元帥に続いて会議室を後にした。

 

「じゃあ私たちも行きましょうか」

 

「マギー、今回の任務は装甲ヘリを使えないわ。だから『リンクスシステム』も使用できない。……気を付けて」

 

「大丈夫よ。言いたくないけどあっちの実力も折り紙付き。陸軍の『レイヴンズ』とは比べ物にならない最強のAC部隊よ。負けはない」

 

「……なら、いいけれど」

 

 二人の青を筆頭に、白鳥鎮守府のメンバーも会議室を後にした。

 

 


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