艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ
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色々忙しかったり、ニーア的なものに浮気していたりしてだいぶ更新が遅れてしまいました。申し訳ありません。ジャイアントキリング再開です。

17/04/08 脱字修正



第四十二話「MISSION06_沈黙海域攻略-02」

――現在 1400

 

 空は青く清み渡りいかにも快晴という天気のなか、『沈黙海域(サイレントライン)』の数キロ前にまで倉井元帥率いる白鳥鎮守府の艦隊はたどり着いていた。

 三ヶ月におよぶ執拗な敵戦力の間引きもあってか辿り着くまで大した戦闘もなく、空母の艦載機も十分温存できている。護衛艦である金剛、摩耶、夕立達からすれば自らに課せられた任務は一旦成功といっていい。しかし誰しもそれに浮かれる者はいなかった。

 これが嵐の前の静けさだということに皆が気付いていた。

 

 金剛は操縦席に腰を預けながら親指の爪を噛む。

 

( 歯痒いですネ…… )

 

 鎮守府でACの運用が開始されてからも自分達が操舵する戦艦は攻撃の要だった。マギーや吹雪が敵をスポットし、その情報を便りに敵を砲撃する。単純な火力だけならACを凌駕する大砲で敵を粉砕する。それが戦う艦としての誇りだった。

 それがどうだ。今回に関して『スピリット級要塞』は射程外、自分はすでに役立たず。後は戦艦ですら近づく事が許されないミサイルの雨の中に仲間が突撃するのをただ見守るだけ。それが悔しくて淑女らしかぬ行為をしてしまう。

 

「金剛、聞こえる?」

 

 それを察したのか偶然か、マギーがオープンチャンネルで金剛に話しかけた。

 

「この前貰った紅茶、なかなか良かったわ。あれ、まだあったかしら?」

 

「……ええ!もちろんデース!!この任務が終わったら皆でティータイムにしまショ!」

 

 緊張をほぐすための当たり障りのない会話。きっと吹雪や空母達の為なのだろうが、それでも金剛はありがたいと感じた。それは艦隊全体に伝わっていたようで、先程までの重苦しい雰囲気が若干和らぐ。

 

「吹雪ちゃん、気を付けるっぽい」

 

「帰り道もあたしらがしっかり護衛してやっから、全力ぶちかましてやれ ! 」

 

「夕立ちゃん、摩耶さん、ありがとうございます!」

 

「……もういいか?ではこれより『スピリット級要塞』の攻略を開始する」

 

 倉井元帥の合図により空母達は甲板から次々に艦載機を発艦させていく。誘爆を防ぐため魚雷を外し、あくまでACの盾となる為だけに空へと舞っていくそれは各空母の周りを飛びながら特異な編隊を組んでいく。

 通常の爆撃ならまず組まないであろう艦載機を前後ではなく上下に並ばせ、まるで多層装甲のように展開していた。

 

「瑞鶴、間隔は離れすぎても近すぎても駄目よ。注意して」

 

「言われなくても!」

 

 上層に並んだ艦載機でミサイルを受け止め、その誘爆で他の艦載機を狙って迫るミサイルも破壊する。離れすぎていてはミサイルを誘爆に巻き込めないし、近すぎれば逆に余分な艦載機が巻き込まれてしまう。その絶妙な間隔を加賀は、そして翔鶴も軽々と維持して編隊を組んでいく。瑞鶴も二人を見倣いながら編隊を組み上げた。

 

「ACは発艦準備を」

 

「「了解」」

 

『ブルーマグノリア』と『吹雪弐式』が各々のパートナーである空母の甲板上で身構える。

 

「『吹雪弐式』発艦します ! 」

 

 吹雪のACがグライドブーストの火を噴かして『瑞鶴』から飛び出した。続けて『ブルーマグノリア』『No.8』『フォール・レイヴン』『No.2』が発艦し、まるで単縦陣のように並んで海面を突き抜けていく。

 最高速度でいえば『ブルーマグノリア』が一番であるが、『吹雪弐式』の方が速度と持続性のバランスがとれていたため先頭を務めていた。そして重量二脚の巨体を生かし、叩きつけてくる風から後続のACを守りつつ引っ張りあげていく。

 その隊列の上空に加賀、翔鶴、瑞鶴が先程組み上げた艦載機の編隊を並列させてゆく。まるで積乱雲が発生しているような様相となったそれは、ACをミサイルの雨から守る“盾”である。

 

 そうして攻略の準備が整うとAC編隊は勢いそのままコックピットのモニター画面に擬似的に表示されている“(ライン)”の内側へ突入していった。

 

「こちら吹雪、『沈黙海域』に侵入しました。……もう敵の第一波が近づいてきます」

 

 吹雪は境界線を越えたと同時に自分の中で膨らんでくる恐怖心を仲間に伝えた。無機質な殺意が確かに近づいて来ていると。

 

「こちら加賀、敵ミサイルを視認しました。各員迎撃を開始」

 

「「了解」」

 

 吹雪の通信から数秒経たずして空に点のような影が並んでいるのを捉えた加賀は合図を出す。それと共に各空母の艦載機は機銃を放ち始めた。段々に並ぶ編隊から放たれる銃弾はまるで巨大な散弾のように広範囲に弾幕を形成し、その対空弾幕によりいくつかのミサイルはこちらに届くことなく爆発していく。しかしFCSが付いているわけでもない機銃ではどうしても限界があった。

 

「くっ、やはり落としきれない……。敵ミサイル第一波、艦載機に被弾。損害は3。二人とも被害状況を」

 

「こちら翔鶴、同じく3機損失」

 

「こちら瑞鶴、こっちは2機」

 

( 計8機……。まだ入り口に立ったばかりだというのに、辛いわね…… )

 

AC達と『スピリット級要塞』までの推定距離は45㎞。滞りなく進めればおよそ 9 分程度でたどり着く。普段であれば大したこともない時間だが、今の加賀には途方もない時間に感じた。

 

(“盾”が持ってくれればいいけれど…… )

 

 正規空母『加賀』に艦載されていた戦闘機は97 。『瑞鶴』は92機、『翔鶴』には73機の計262機。ミサイルの発射間隔は過去の侵攻記録からおよそ15~20秒程度。過去に“これ”と戦ったことのある『傭兵』の記録を持っている吹雪からすると発射間隔はこれでも大分長くなっているらしい。しかし、それでも艦載機の数は単純計算上ではギリギリだった。いや、数が減っていけば当然撃ち落とせるミサイルも減ってくるので足りない可能性が高いといえる。

 だが、それでも賽は投げられた。自分たちの持つ“最強戦力”を何としても万全の状態で送り届けること、それに注力するしかないのだ。

 

 そんなことを加賀が考えていた束の間に艦載機に備え付けられているカメラがある影を捉える。

「あれが『スピリット級要塞』……」

 思わず瑞鶴が言葉をこぼす。自分たちの空母の何倍もあろう甲板と思わしきものを6枚も広げ、圧倒的な存在感を持って海面に佇んでいる。もはや一種の神秘性すら感じられるそれは、その羽から何本もの煙を打ち立てた。

「第二波が来るわ」

 目的地から噴出した煙はその一本一本がミサイルの噴出口から出ているもので、改めてその数を確認してしまった加賀は頭痛を覚えた。「あれを何度も防がなければならないのか」と気を重くしながら機銃による弾幕で段々と近づいてくるミサイルを撃ち落としていく。

「敵第二波被弾。艦載機損失は5。二人は?」

「こちら翔鶴、損失4」

「瑞鶴、損失5」

 距離が近づいて被弾するまでの時間が減っていること、また艦載機が減って弾幕も薄くなっていること。それらがじわじわと空母たちを苦しめていく。ミサイルが被弾するたびに失う艦載機が徐々に増えていく。

 

「第三波接近」

 

「ああっもう!早すぎるっての!!」

 

「瑞鶴、精細を欠いては駄目よ」

 

「被弾、艦載機の損害は6。……この調子では拙いですね」

 

 怒濤の攻撃は続き、気付けば半分も距離を詰めていないにも関わらず艦載機の半分近くを失っていた。しかもある光景がさらに絶望を駆り立てる。

 

「嘘でしょ……。あれ全部イ級!?」

 

瑞鶴の艦載機が『スピリット級要塞』の周囲に固定砲台とでも言わんばかりに――実際にそのような役割を与えられているのであろう――びっしりと駆逐イ級が海面に覆っているのを確認した。今までの偵察記録では報告の無かった光景が戦闘機のカメラに映る。恐らく今までの偵察で航空戦力であれば近づかれる可能性があると学んだ深海棲艦――統括機構――が用意したカウンターなのだろう。ここまで辿り着いた航空戦力を全て叩き落すため配置されているそれらは瑞鶴たちの編隊に向けて砲を構えている。

「このままじゃ全部撃ち落とされちゃうわ!艦載機を散らさないと!」

 

「駄目よ瑞鶴。それではAC達を守れない」

「でも加賀さん!これじゃあ目的地まで艦載機が持たないわよ!!」

「――問題は無い。艦載機は防御編隊をそのまま維持。次のミサイルを防いでくれればそれでいい、それで貴様らの仕事は終わりだ」

 二人の通信に倉井元帥が割り込む。まだ目的地まで20㎞近くあるがそれでも構わないと告げた。

「よろしいのですか、倉井様?」

 

「ああ、構わん。あれだけ“足場”があれば十分だ。――AC各機、聞こえているな?次で“盾”無しだ。駆逐イ級の群れに突入後は各機散開。後は分かるだろう?」

 

「当たり前よ」

 

「こちら吹雪、問題ありません」

 

「No.2、了解」

 

「No.8 了解した」

 

 通信の終わりとほぼ同時に次波の攻撃が彼らに降り注ぐ。駆逐イ級からも空を覆うような機銃の掃射が行われ、AC達の直上で何機もの艦載機が爆発四散し海中へと沈んでいった。辛うじてミサイルがACに届くことだけは防いだものの、もはや“盾”は存在しない。

 

「艦載機残数1、『ブルーマグノリア』のみです……」

 

 加賀は砂嵐しか表示されなくなった戦闘機のカメラのチャンネルを閉じ、ACのモニターを注視した。もはや残っている艦載機は各空母の“一航戦”のみだった。

 

 AC達は艦載機の破片を浴びながら単縦陣で駆逐イ級の群れに突撃していく。もはや存在しない艦載機と同じようにその身に機関銃が浴びせられるが、速く飛ぶために極限までに装甲を薄くしている戦闘機と違い戦艦に匹敵する装甲を持っているACにとってその程度の攻撃は攻撃足りえない。どこ吹く風というようにAC達は無視して前進を続ける。その時だった

 

「ッ、きます!!」

 

 吹雪の勘がミサイルとは違う恐怖を捉える。その通信を聞いたAC達は瞬時に散り散りになり近くのイ級へ足を掛けその場から跳躍した、その直後。ACのいた空間に一筋の光線が走り、足場となったイ級に大穴が開く。

 

「当たると痛そうね」

 

 マギーがつぶやく。それは『スピリット級要塞』のレーザーキャノンだった。駆逐艦とはいえ十数㎞も離れた個所から一撃で屠るそれの威力は察して知るべしである。

 遠くに見える『スピリット級要塞』の甲板の下がチカリと発光するたびに当たってはならない光弾が発射されてくる。当然、ミサイルもその手を休めることはない。駆逐イ級も『スピリット級要塞』の攻撃が自分たちに当たろうが、自分たちの攻撃が仲間を撃ち抜こうが構うことはなくACに向けて砲撃を繰り返す。海面はさながら地獄であった。

 しかし、それでもAC達は極めて冷静に――他の者からしたら恐怖心が麻痺でもしているかと思われるくらいに――その地獄の中を八艘飛びさながらの跳躍で前進していく。それは彼らにとってこの程度の地獄は想定内のものであるからだ。吹雪は『傭兵』の記憶からこれがどんなものであるか、そして倒せることを知っている。倉井元帥はその人生で幾度となく似た異形を屠ってきた。マギーも、No.2も、No.8も、これより恐ろしい『死を告げるもの』と対峙したことがある。ゆえに彼らにとってこの程度の地獄は地獄ではなく、ひるまずにただただ前進を続ける。

 『怖い物』が迫ってくる感覚、己が戦闘経験、反射神経、ありとあらゆるものを生かし、駆逐イ級を足場に、時には盾にして死を躱してく。もし戦闘機で俯瞰してその様子を見ることができれば、10mにも満たない存在を全長2㎞に近い巨体が必死で追い払おうとしているようにも見えるかもしれない。だがそれはあながち間違いではない。ここにいるACはその一体一体が有象無象とは隔絶した実力を持っている『巨神殺し(ジャイアントキリング)』である。

 そのうちの一体、『ブルーマグノリア』がついに『スピリット級要塞』の体躯へと足を掛けた。そのまま何度も跳躍を繰り返し、巨神の懐の隙間にACを滑り込ませる。ドリフトターンして『スピリット級要塞』の甲板にメインカメラを向けると、リコンを飛ばして解析を始めた。

 

「さて、どこからそぎ落とせばいいのかしら」

 

 スキャン情報を読み取るマギーの目は狩人そのものであった。巨体にひるまず懐に入り込み、致命の一撃で相手を嬲る獣よりも血に飢えた狩人。彼女は、そして遅れて到着してきたAC達もそれと同質の殺気を放つ。

 

――『巨神殺し』が開始された。

 




ほんとに更新遅れてしまってすいません。年内には完結できるよう努めます。





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