艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ
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第四十三話「MISSION06_沈黙海域攻略-03」

 スピリット級要塞の装甲の隙間から赤いグローが見えていた。それは『ブルーマグノリア』が獲物を探している光である。

 

 ブリーフィングでの情報が確かなら、敵の弱点は巨大な甲板に備え付けられている砲台だったはず。『傭兵』の記憶を持つ吹雪が言っていたのだから確実な情報だ。

 身を隠している要塞の装甲越しから『加賀』を越える大きさの甲板をスキャンで覗き見ると、巨大な砲台の影が映っている。今確認できているのは二台だけだが、恐らくスキャンの範囲外、甲板の先端部にも備え付けられているだろう。

 そしてその砲台は筒先をこちらに向けていた。

 

(外装には自信ありってわけね)

 

 こちらがいる場所は敵要塞の本体側である。にも関わらず自身に砲頭を向けるとは、すなわちそういうことだ。砲台という弱点があるがそれ以外には絶対の自信あり、か……。ここまでたどり着いた所で楽はさせてくれないらしい。

 

「なら楽しませてもらうわッ!!」

 

 

 盾にしていた装甲板を蹴り、『ブルーマグノリア』は狙いを定めていた砲台へと襲撃を開始する。マギーはヒートマシンガンと夕張に造ってもらったAC用単装砲『秋霧』を砲台へと放ちながら目標の砲台へと接近していきブーストチャージで止めを刺そうとした。しかしその瞬間、マギーは悪寒を感じて反射的に横へハイブーストを吹かす。『ブルーマグノリア』の横を巨大な光刃が走った。

 

「あんなものまであるとはね」

 

 それはマギーの狙っていた砲台の後方から放たれたものだった。甲板上の敵を迎撃することに特化し、点ではなく線を放ってくる射出兵器。勘づくのが遅れていたらその刃先はACに食い込んでいただろう。

 休む暇を与えないかのように降ってくるミサイルも躱しつつマギーは狙っていた砲台への銃撃を再開した。しかしACよりも巨大な砲台の装甲はなかなか厚く、ヒートマシンガンとハンドガンではまだ破壊には至らない。

 

(さっきの蹴りが決まっていれば……ッ)

 

 だが近づくことは容易ではなく……。マギーが心の中で舌打ちをした時だった。『ブルーマグノリア』の横を覚えのある光弾が過ぎ去り、そのまま攻撃をしていた砲台へと直撃する。それは『ブルーマグノリア』が持っているレーザーライフルの数倍の威力を持っており、その威力に耐え切れず直撃した砲台は爆発四散した。

 

「手こずっているようだな、手を貸そう」

 

「……別に苦戦なんかしてないわ」

 

「だとしても協力した方が効率はいい、それは事実だ」

 

『ブルーマグノリア』に2機の機影が差す。先ほどの光弾を放ったNo.2の『アクアリウス』、そしてNo.8の『レオ』が『ブルーマグノリア』の横へ並び立つように降り立った。

 

「それで?どうするの」

 

「私と貴様が前衛、No.2は後衛で援護を頼む」

 

「異論はない。了解した」

 

早々に役割を決めると3機のACはすぐさま行動を開始した。『ブルーマグノリア』は甲板を蹴り上げ、カラスが獲物を啄むようにヒートマシンガンとハンドガンによる銃撃を上空から開始する。『レオ』はその名と同じ動物の様に力強く甲板上を駆けながらバトルライフルとショットガンの猛攻を砲台へと叩き込んでいく。砲台に接近するACが2機に増えことで砲台の攻撃も二つに分かれ手薄になり、さらにACの接近を助長させる。砲台には接近してきた敵のジェネレータを機能不全にするジャマーも備え付けられていたが、2機がその射程に入る前に『アクアリウス』がライフルで狙撃して破壊していった。

 

「こちらは私が潰す。貴様は奥のを」

 

「言われなくたってッ!」

 

 『レオ』はバトルライフルをレーザーブレードに持ち替えながらヒートキャノンを放つ砲台の懐へと潜り込み、青い三日月型の光刃を砲台へと食い込ませた。『レオ』がそのままレーザーブレードを振りぬくと、その跡に沿って砲台はずるりと崩れ落ちる。

 

「はぁぁぁッ!」

 

 その上を蒼い機影が高速で通り抜けていた。それを迎撃するように最奥の砲台からブレード光波が放たれるが、ブーストカットし急降下をした『ブルーマグノリア』の上部をかすめるだけに終わる。『ブルーマグノリア』はそのまま砲台へとハイブーストで接近し、先ほどは決められなかった鬱憤を晴らすようにその砲台を蹴りぬく。

 甲板上の砲台は3機のACによりあっという間に破壊された。

 

「甲板に亀裂を確認。二人ともそこから離脱しろ」

 

「「了解」」

 

 No.2からの報告を受けてマギーとNo.8が甲板から離れると、それは根元から折れ海へと落下していく。巨大な甲板の崩落にスピリット級要塞の周辺を護衛していた駆逐イ級が巻き込まれていた。

 

「これで残るは5枚ね」

 

「……いや、どうやら4枚のようだ」

 

 No.8がマギーにそう告げると同時に3機のACがいる反対側の甲板が崩れ落ちる音が響いてくる。

 

「ああ、吹雪たちか。この調子なら難なく済むわね」

 

「当然だ。我らに勝るものなど、この世にあってはならない」

 

「……その“我ら”って、私たちも入っているの?それともあなたたちだけ?」

 

「…………」

 

「そう。私もこのスピリット級要塞と“同じ側”って訳ね、あなたたちにとって……」

 

 『ブルーマグノリア』は『秋霧』をレーザーライフルに持ち替え、メインカメラで『アクアリウス』を射竦める。

 

「なんだったらここで全ての決着をつけてもいいのよ?」

 

「それぐらいにしておけ、マグノリア・カーチス。今は同じ部隊だ。少なくとも今はな……」

 

 マギーの闘志が自分たちに向いてきているのを察知し、No.8が口を挟む。それに興ざめしたのかマギーはそっぽを向くように『ブルーマグノリア』のメインカメラを次の甲板へと向けた。

 

「……冗談よ、さっさと済ませましょう。ティータイムに遅れたくないし」

 

 『ブルーマグノリア』は先陣を切り、次の狩場へと跳躍をする。

 

(やはり障害となるか、この女は……)

 

 No.8は移動しながら、初めてマギーに会った時のことを思い出していた。

 

 初めて会ったあの時、深海鉄騎を巡って対立した時。あの時点では私たちのほうが優位であった。例えあの時『ブルーマグノリア』が万全だったとしても、戦闘になれば私たちが勝っていただろう。しかし今はどうだ?今までの戦闘データよりもこの女は明らかに強くなっている。恐ろしいナニカになっている。……先の瞬間、圧力に飲まれかけた。あのまま戦闘になっていたら、もはや結果はどうなるかわからないだろう。

 

(あの演習で化けたか。次のミッションは骨が折れるぞ、倉井。それとも、これも織り込み済みなのか……?)

 

「動きが鈍くなっている。また考え事か、No.8」

 

 No.2からプライベートチャンネルで通信が入り、No.8は思案を打ち切る。

 

「済まない、No.2」

 

「No.8、我々は“今回のミッション”を果たすためのただのコマだ。今の我々はそのために存在している。だから今はこのミッションに集中しろ」

 

「そうだな。その通りだ……」

 

 2機の白いACは蒼いACに続いて砲台への襲撃を再開した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

「なるほど、No.8とNo.2が言うだけのことはある。いい腕だ」

 

「あ、はいッ、恐縮です……」

 

 私はスピリット級要塞を駆け上がった先で偶然にも倉井元帥の『フォール・レイヴン』と合流し、共に砲台に攻撃を仕掛けていた。効率を優先しての共闘だけど、倉井元帥には『吹雪弐式』を回収した際に「騙して悪いが」を経験させられているため、正直あまりいい気分ではない。だがしかし、これはチャンスでもある。倉井元帥と二人きりという状況は今後起こりえないだろう。私はこの人にどうしても聞いてみたいことがあった。防衛のために現れた『HELLKITE』を迎撃しながら倉井元帥に通信を繋げる。

 

「あの、倉井元帥。少々よろしいでしょうか?」

 

「戦闘中に随分と余裕だな」

 

「あなたが隣にいますから」

 

「……フッ、それで?」

 

「あなたは何のために深海棲艦を支配しようとしているのですか?人間を管理するって、どうするつもりですか?」

 

 あまりにも愚直な質問。普通なら答えてくれるはずがない。でも、なんとなくだけれど倉井元帥は答えてくれる、そんな気がしていた。特別演習の時も元帥自らマギーさんたちに話を持ち掛けていたことは聞いていたし、なによりACに乗っている時のこの人は策謀家ではなく傭兵だからだ。

 

「……言葉の通りだ。深海棲艦を使って人間を管理する。それによって秩序を復活させる、ただそれだけだ」

 

「ヴェニデのように力で人間を支配するとでも?」

 

「ほう、セサル・ヴェニデのことも知っているのか。だがそれは違う。その方法は失敗している。それは“私たち”が一番理解していることだろう、『傭兵』?」

 

 『吹雪弐式』がライフルとガトリングガンでジャマーや『HELLKITE』を破壊しながら、その中を『フォール・レイヴン』はシールドを構え突進し、砲台をブーストチャージで破壊していく。『フォール・レイヴン』の動きが止まった隙を狙った砲台は逆に『吹雪弐式』のミサイルを含めた一斉掃射により瞬く間にスクラップと化した。2機のACは初めて組むとは思えない連携を取りながら次々に砲台を破壊していく。そしてなお、会話を続ける余裕があった。

 

「人間を支配することは不可能だ。必ず『例外』が現れる、貴様たちの様なものがな……。あるものは言った。その力は人間の可能性だと。だがその可能性が何を生み出した?貴様は、貴様の中にいる者は知っているはずだ。セサルが、フランシスが、ロザリィが、作り出した世界の果てを……」

 

「それは……」

 

「人間の可能性、それは希望と同義ではない。あの時の破滅はどうやって回避した?それが私の答えだ」

 

 砲台のダメージが伝搬することによる甲板の崩落が再び起きる。2機のACが崩れ落ちる甲板から要塞の本体側へと退避すると同時に、そのうちの1機、『吹雪弐式』がライフルの筒先を『フォール・レイヴン』へと向けた。

 

「まさか……、破滅を回避するために破滅を引き起こすつもりですか!?そんなの矛盾してますッ!!」

 

「矛盾してなどいない、それこそが人類種の管理方法だ。それよりも矛先を間違えるな。ここを越えねば、待っているのは正真正銘の破滅だけだ」

 

 吹雪はトリガーに指をかけ、『フォール・レイヴン』の後ろにいた『HELLKITE』を撃ち抜く。

 

「今は共闘します。ですが、あなたの目的は絶対に阻止します」

 

「そうか。結末を知っている貴様ならあるいはと思ったが……、残念だ。やはりRDとは似ても異なるか……」

 

「RD……?」

 

 吹雪がだれのことだと聞く間もなく、要塞全体を振動が襲う。

 

「……ミッション完了のようだな。崩落に巻き込まれる前に退避するぞ」

 

「……はい」

 

 2機のACはグライドブーストを吹かし上空へと飛び去った。要塞の反対側から3機のACが同じようにブースターの火を吹かして飛び去っているのを吹雪は確認する。

 AC達が退避して間もなく、スピリット級要塞の内部から爆炎が吹き出し、強固な装甲が四散していく。そして緑色の爆発を最後に、周囲にいた駆逐イ級を巻き込みながらスピリット級要塞は崩壊し海の底へと沈んでいった。それは同時に深海棲艦の統括機構への道が開けたことも意味する。『沈黙海域』が消え去った瞬間だった。

 

◇ ◇ ◇

 

 任務を終え艦隊が母港へと帰投をした。だがそこに空母『翔鶴』の姿はなかった。

 

「次の準備がありますので」

 

 そう翔鶴は加賀達に告げると艦隊から離れどこかへと帰投して行ってしまったからだ。そのためドックにあるのは『加賀』『瑞鶴』『金剛』『摩耶』『夕立』だけだった。

 『吹雪弐式』を修復装置まで移動させ入渠させた吹雪に、金剛が待ってましたとばかりに駆け寄り、思い切りハグをする。

 

「お疲れ様デース、ブッキー!!Congratulations!!みんなで勝利のTea Timeデース!今sistersが準備してくれてるから、参加してくれないとNo!なんだからネ!」

 

「ええ、はい……。でもその前に司令官に報告しないと」

 

「……どうしました、ブッキー?元気ないですヨ?」

 

「ちょっと疲れただけです。大丈夫ですよ……。加賀さんたちは?」

 

「二人なら先に執務室に行ってたヨ」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 吹雪は早歩きで執務室へと歩を進めていく。金剛を含め同艦隊のメンバーはそれを心配そうにただ眺めることしかできなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

「どうした吹雪?お前さんにしては珍しく、やけに不機嫌そうだな?」

 

 戦果を報告に来た吹雪の表情がいつもより険しいことを察し、白鳥提督は尋ねる。

 

「司令官、報告があります」

 

「戦果なら加賀とマギーからすでに聞いている。綺麗にぶっ壊したそうじゃないか、お疲れさん」

 

 提督の隣にいた一航戦ズを親指で指さしながら提督は答えた。だが吹雪は態度を軟化させず話を続ける。

 

「……倉井元帥の目的がわかりました」

 

「深海棲艦を支配することじゃないのか?」

 

「その先です。あの人は深海棲艦を使って『評決の日』に起きた出来事を……、再び『大破壊』を引き起こすつもりです!」

 

「『大破壊』……?」

 

 その単語を聞いて吹雪の言っていることを理解したマギーが確認するように発言する。

 

「なるほどね。要はあのクソ元帥の目的は、人類を戦争できない程度に滅茶苦茶にすることってことでしょ。技術も文化も何もかもリセットする。とんだ管理方法だわ」

 

「……その通りですマギーさん。止めなくちゃ、絶対に……ッ!司令官ッ、どうにかなりませんか!すぐにでもあの人を拘束しないと……ッ!」

 

「それはできんよ、吹雪。お前のことを信用していないわけじゃないが、証拠もないのに動くことはできん。下手に動けば逆にこっちがお縄だ」

 

「でも提督。あいつに不信を抱いてる連中もいるんでしょう?そいつらを動かせば……」

 

「それも無理だな、マギー。それ以上に上の連中は奴のことを恐れている。猛獣の檻の中に好き好んで手を入れる奴なんかいないさ」

 

 吹雪は悔しそうに顔をしかめた。倉井元帥が自分に目的を話したのは、つまりもう止めることはできないと分かっていたからだと理解した。上層部の不甲斐なさと自分の無力さに、怒りで握りこぶしに力が入る。

 

「そんな顔をするな吹雪。網を張ることぐらいならできる。赤羽や信用できる鎮守府に連絡して警戒網を敷いてもらおう。そうすれば少なくとも、奴がこの国の海域を出る前にお前たち程度なら出撃させられるはずだ。銀爺にも協力を仰げば陸軍も動いてくれるだろう」

 

「司令官……」

 

「面倒だが、ここからは俺の領分だ。加賀、大淀に電報の用意をさせておいてくれ」

 

「了解しました」

 

 加賀はすぐさま執務室の通信機から大淀へと連絡を入れる。提督はその様子を確認すると、マギーと吹雪に顔を向けた。

 

「……しかしきっと、奴を直接止められるのはお前たちだけだ。だからその時まで英気を養っておけ。金剛たちが待ってるんだろう?さっさと行ってやれよ、MVPども」

 

 提督はシッシと手を振りながら休息をとるように二人を促す。二人は軽く目を合わせると、啓礼してその場を後にした。

 

「加賀、お前も連絡が終わったら向かっていいぞ」

 

「……お一人でサボらずにちゃんとやれますか?」

 

「あのなぁ、俺だってさすがに分別はつく。これぐらいは信用してほしいがね」

 

「……そうね。ではお先に失礼するわ」

 

 加賀も軽く会釈してマギーたちの後を追っていった。自分以外誰もいなくなった執務室で提督は椅子に体を預け、天井を仰ぎ見る。

 

「……倉井、人類を残すために人類種の天敵にでもなるつもりか。イカれてるよ、お前。……同期のよしみだ。止めてやるさ、俺たちがな」

 




ついに明かされる倉井元帥の思惑。
……カーチャン脇役になってしまった。





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