艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ

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第四十六話「MISSION07_本営奪還-02」

 アオバ率いるレイヴンズが鎮守府へと到着した。隊長であるアオバは執務室へと招かれ、状況の説明を求められる。執務室には提督、大淀、マギーの通信を聞いていた者たちと、必要と思われたのか加賀と吹雪も加えられていた。

 

「これを見てもらえますか?」

 

 アオバはメモリーを一つ差し出す。大淀がそれを受け取り、執務室のPCに差し込んだ。その中には映像ファイルが入っており、モニターを皆に見えるよう調整してから、その映像を再生する。

 

「なんだ、こりゃ……」

 

 モニターを流れる映像に提督は顔をゆがめた。

 映像の舞台は大本営周辺都市であった。画面の端に大本営の建造物が見えることからそれがうかがえる。そしてその都市に突如として妙な影がかかる。複数のヘリに吊られた『直立したタコのような巨大兵器』が都市上空を通過していくのだ。しかもその数は四つ。見ているもの全員があっけにとられている中、堂々と大本営の周りを取り囲むように『巨大兵器』は投下され、同時にACのミサイルの何倍もあろう大きさの特攻兵器が次々と降り注いでいく。そして大本営やその周囲に突き刺さった『特攻兵器』から蛇のような射出兵器が次々と飛び出し、無差別に周囲を破壊し始めた。都市はさながら火の海と化し、その海の中を『巨大兵器』が大本営めがけて行進していく。そして脚部装甲を展開し、現れた目玉のような砲台から光弾が吐き出された。光弾を受け大本営は倒壊しそうになり、それを阻止しようと防衛部隊として配備されていた戦車隊などが必死の抵抗を試みようとするが、『特攻兵器』と『巨大兵器』からの攻撃でそれすら許される間も無く殲滅されていく。蛇のような特攻兵器のアップが写ったところで映像には砂嵐が入り、終わりを告げた。

 馬鹿げた悪夢の様だった。あまりの突拍子の無さに、現実味の無さに、映画のワンシーンと言われたら信じてしまいそうな惨劇。しかし数刻前に現実として起きた事実である。

 

「この映像は陸軍の仲間より送信されてきたものです。そして結果として大本営防衛部隊は全滅、大本営もほぼ壊滅状態です」

 

「どうしてあれの接近を許したの!?あんなの流石に気付くでしょう!」

 

 マギーの怒号がアオバに向けられる。アオバは憤りを隠さずマギーの言いがかりに反論した。

 

「気づくも何も、倉井は堂々と運んできたんです!元帥の権限を使ってぬけぬけと!!」

 

 普段は傭兵のような立ち振る舞いをしているが、その圧倒的な戦績で元帥にまで上り詰めた人物である。逆らえるような人物など、あの場には存在していなかった。そして大本営が対応にもたついている間に侵攻が行われたのだとアオバは語る。――まるで嘲笑っているかのような侵攻に、悔しさからか眼に涙が滲んでいた。

 

「はぁ、これだから軍ってのは……。まあいい、レイヴンズが無駄な特攻しないでこっちに来たのだけは評価してあげる。いい気分ではないでしょうけど、それで正解よ」

 

「銀爺大将のご指示で……。それにアオバも、情けない話ですが自分たちの実力はわかっているつもりです。きっとあの巨大兵器だけでなく倉井と白いAC達も控えていると思われます。皆さんの協力がないと大本営の奪還は不可能でしょう」

 

「でしょうね。……罠、かしら?」

 

 マギーはちらりと提督に視線を向ける。提督はやれやれと肩をすくめながら答えた。

 

「だろうな。海軍の統括機構(インターネサイン)侵攻の足止めと、オマケに俺たちをここで仕留めるつもりなんだろう。しかし無視するわけにもいかん。大本営のサーバーを押さえられてちゃ、各鎮守府が孤立していることになる。当然、この国の防衛網もバラバラだ。急いで復旧しないとやばいぜ」

 

「作戦はどうする?私と吹雪、サポートに加賀のヘリと龍驤のUNAC、レイヴンズ……戦力は限られるわよ」

 

「そうだな……。マギー、吹雪。映像に映っていた巨大兵器の弱点を知っていたりはしないか?」

 

 映像の兵器は明らかに異質な、この時代の兵器でないことは明らかだった。倉井の持ちだしたものであるならACと同質のものであるだろう。であればマギーと、その時代の傭兵の戦闘記録がインストールされた吹雪なら何か知っているかもしれないと思い、提督は二人に質問を投げかける。しかしその返事は芳しいものではなかった。

 

「悪いけど私は知らないわ。あれの残骸をどっかで見たかもって程度」

 

「すみません司令官、私もあれの記憶は……。マギーさんと同じです」

 

「そうか……。どうしたもんかね」

 

 映像を再度見ながら白鳥提督は考え込む。そして火の海になっている都市のシーンのあたりで何かを思いついたのか、執務室に貼られている地図の前へと移動した。

 

「……ギリギリ届くな」

 

 その一言をこぼしたのち、艦娘たちの方へ振り返りオーダーを出す。

 

「加賀。瑞鶴と龍驤、千代田、金剛姉妹に……叢雲、綾波、夕立、秋月を呼び出してくれ。マギーは今言った連中の発艦準備を整備兵たちに通達。急げよ」

 

「提督、敵は内地よ?なぜ発艦準備を………まさか!?」

 

 加賀は呼び出す艦種から提督の意図を読み取った。読み取ったのだが、その内容が信じられず怪訝そうな表情を提督に向ける。白鳥提督はそれに不敵な笑みで返した。

 

「弱点がわからないなら、こっちの最高火力で叩き潰すしかあるまいよ。あんなものと渡り合うんだ、多少の無茶は承知せんとな」

 

◇ ◇ ◇

 

「時間が無い、手短に済ますぞ」

 

 先ほど白鳥提督から指名された艦娘たちとアオバを隊長としてレイヴンズの隊員たちが会議室に集められていた。部屋にあるスクリーンを兼ねたホワイトボードには大本営のある都市を中心とした地図が映し出されている。そこへ提督が本営の場所と映像から予想される巨大兵器の場所にバツ印をつけた。

 

「本作戦の目標はこの『巨大兵器の撃破』及び『本営施設の奪還』だ。ACは龍驤のUNACとレイヴンズの混成部隊、『ブルーマグノリア』と加賀の装甲ヘリのコンビ、そして『吹雪弐式』の3つに分けて行動。艦隊は支援艦隊を編成。第一支援艦隊は旗艦を『龍驤』に『金剛』『比叡』『千代田』、その護衛に『叢雲』『綾波』が就け。第二支援艦隊は旗艦を『瑞鶴』、そして『加賀』『霧島』『榛名』護衛に『夕立』『秋月』だ。支援艦隊はこの場所に就いてくれ」

 

 提督は本営に近い湾にマーカーで印をつける。瑞鶴が「え?なんで私が旗艦なの!?」と言いたげにしているが、提督は無視して話を続けた。

 

「作戦概要を説明する。第一段階はAC混成部隊で首都圏に侵入。特攻兵器を排除しつつ、そのまま巨大兵器全4機を破壊してくれ」

 

「「はあッ!?」」

 

 アオバと龍驤が同時に声を上げた。レイヴンズの面々も戸惑いを隠せていない。自分たちは確かにACを扱える人種ではあるが、しかしジャイアントキリングを成し遂げられるイレギュラーではないのだ。マギーや吹雪が前に出てその支援を行うものばかりだと思っていたため、提督の発案は全くの想定外であった。しかし提督はその反応は想定内とばかりに言葉を紡ぐ。

 

「そのための支援艦隊だ。龍驤、お前ならUNACのスポットで艦隊に敵の位置を知らせられるだろ?」

 

「確かにできるけど、キミ、自分のゆーてることわかっとるん!?」

 

「ああ。AC混成部隊で巨大兵器の詳細な位置を索敵、そして支援艦隊の爆撃と長距離砲撃をあれにブチかましてやるのさ」

 

「ブチかますって、場所は本土やでッ!?正気なん?」

 

「正気も正気だ。なあに、もうあの辺りは焼け野原だ。これ以上なに撃ちこんでもそう変わりはせんよ。それにお前らの腕なら可能なことも知っている。だからやってくれ」

 

「なんちゅう作戦や……」

 

 龍驤は頭痛を起こし自らの頭を押さえた。金剛のみが提督が寄せてくれている信頼に「任せて下さいネー!」と息巻いているが、それ以外の面々は龍驤と同じ浮かない表情である。

 

「それで、私たちの任務は?」

 

 マギーはある程度役割を予想しているのか、神妙な顔をしているメンバーをよそに淡々とした口調で提督に尋ねた。

 

「予想はついているだろうが、マギーと加賀には敵ACの対応を頼みたい。作戦の第一段階が上手くいけば、それを挫くために必ずACが出てくるはずだ。そいつらばかりは支援艦隊でもどうにもならん。お前たちだけが頼りだ。これを作戦の第二段階とする。それまでは機体を温存するためにレイヴンズの後方で待機。加賀はマギーの支援で手一杯になるだろうから、瑞鶴、お前が第一支援艦隊との調整をするんだぞ、わかってんのか?」

 

 急に話を振られ瑞鶴は思わず「ひゃい!!」という言葉を返してしまう。赤くなっている瑞鶴をしり目に横にいた吹雪が提督に質問を投げかけた。

 

「司令官、そうすると私は……?」

 

「お前はマギーたちと同時に侵攻、ただしAC混成部隊の迎撃に倉井、白いACら両方が来なかった場合はマギーたちにその相手を任せて大本営に向かってくれ。残っている敵ACが施設防衛に当たっているはずだ。そいつを撃破して本営施設の奪還を頼む。」

 

「了解しました」

 

 吹雪は得心したのか佇まいを静かにした。しかしマギー、加賀を除くメンバーはまだ戸惑いがあるのか(金剛のみは別の理由でだが)ざわつきが収まらない。その空気を提督は机を軽くたたいて制する。そして咳払いをしたのち、参加メンバーを改めて眺めながら提督は口を開けた。

 

「俺が無茶を言っていることは十分承知だ。お前たちへの負担が大きいこともな。しかしそれでも、成さねばならん。勝たねばならん。……なに、さっきも言ったがお前らならできるさ。多少へましても俺が尻を拭いてやる。そのためにこんな大層な肩書を持ってるんだからな。――だから、頼むぞ」

 

 しばしの静寂。その言葉を受けて腹をくくったのか、みな一斉に席から立ちあがり強い視線を提督に向けた。提督も佇まいを直しそれに答える。

 

「それではこれより『大本営奪還作戦』を開始する!総員、出撃準備!」

 

「「「了解!!」」」

 

 日の出と共に艦隊は抜錨し、この国の存亡をかけることになる決戦の序章が静かに幕を開けた。

 


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