艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ
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第四十八話「MISSION07_本営奪還-04」

 巨大兵器から離れた工場地帯、そこに三体のACが居合わせていた。もはや言葉は不要と互いに臨戦態勢になっている。

 

「出し惜しみはしないっ!!加賀ッ」

 

「ええ、システム起動……」

 

<Over System『Next』Setup>

 

 上空を飛んでいる加賀の装甲ヘリから重低音が鳴り響く。ヘリに積まれた装置が『ブルーマグノリア』へハックを開始した。そして姿勢制御等のあらゆる演算情報を『ブルーマグノリア』から加賀の脳内へと流し込み、処理させ始める。加賀の脳内が情報の嵐に飲まれる中、『ブルーマグノリア』はその情報の処理に使用されていたエネルギーを全て鋼鉄の体躯へと伝搬させACを超えたACへ変貌を遂げた。

 白いAC達と対面して数秒も経たぬ間に『黒い鳥』と化した蒼いACは、地面を蹴り跳躍、No.8を飛び越えさらに建物を蹴って機体を加速させ、No.2の逆関節型ACに猛禽類さながらの強襲を仕掛けていた。両肩のミサイルハッチはまるで猛獣の口のように開口させNo.2へと牙をむく。

 近接戦向きではないNo.2のフォローをするためNo.8は『ブルーマグノリア』に向けてバトルライフルとショットガンを放った。背後から放たれているにも関わらず『ブルーマグノリア』は“空中で旋回しながら”それを躱すと、対面にとらえたNo.8に向かってヒートマシンガンとレーザーライフルを放つ。No.8はグライドブーストを吹かして地面を滑空し、滑り込むように建物に身を潜ませてその攻撃を凌いだ。

 

(二対一だというのに我らが飲まれかけている……か。まるであの時の様だ)

 

――No.8は電子化された脳内に残留している光景を思い出していた。

 

 

「我ら二人に勝るものなど、この世になってはならない」

 

「知っているさNo.2、そのために我らは生まれ変わったのだ」

 

 誰が命令していたのかもわからない、ただ勝つことだけを求めていたミッションが終了した時、目の前にいた存在。それと同質のものと再び対峙している。戦局はあまり芳しくないだろう。

 

(しかしそれでも、勝つのは我々だ)

 

 失敗作と確定し、存在価値を無くした我らに再び与えられたミッション。倉井と共に“新しい秩序を作り出すこと”。それの是非はわからないし、考えるつもりもない。ただ「戦うために戦っている」そんな我らの行きつく答えがこの先にあるような気がしていた。

 

「NO.2、私が仕掛ける。挟撃するぞ」

 

「了解した」

 

 リコンで身を隠している建物越しに『ブルーマグノリア』を捉えたNo.8は、バトルライフルとショットガンを構え隠れていた建物の影からその身をさらけ出す。『ブルーマグノリア』もNo.8を捉えており、すでにチャージを終えていたレーザーライフルを彼に向けて放った。No.8はそれを躱すそぶりも見せずに、その光弾が左肩の装甲板を融解させ剥がそうとも無視するように『ブルーマグノリア』との間合いを詰めてくる。

 

「こいつまさかッ!?」

 

 マギーの額に汗が流れる。No.8は回避をかなぐり捨てて、機動力の全てを『ブルーマグノリア』との間合いを詰めるだけに充てていることを悟ったからだ。

元々『ブルーマグノリア』は中量二脚の中でも高機動な機体である。その上マギーは工場地帯という入り組んだ地形での高機動戦を得意としており、『Next System』によってそれに拍車がかかっている今、No.8の『レオ』ではまともに追撃することは不可能であった。そのため、それを埋める手段としてNo.8は防御を捨てて『ブルーマグノリア』を捉え続けることに集中するという手段を取ったのだ。それは彼らにとって“生き残ること”は勝利条件ではないということの表れでもあった。後先考えずこの場で『ブルーマグノリア』を倒す、それが達成できればよいという覚悟がマギーの殺意を押し返し始める。

 

『ブルーマグノリア』は工場施設を跳躍しながら立て続けにNo.8にミサイルを放つ。しかしそれらはNo.8のショットガンに半分以上が撃ち落とされ致命にまで至らない。そしてNo.8から容赦なく放たれるバトルライフルとCEミサイルから逃れようと建物を蹴り飛ばし別の建物の影に隠れようとした時だった。マギーは首筋に突き刺さるような殺気を感じ取り、反射的に空中クイックターンで機体を反らす。同時に左脚の装甲板に高エネルギーのレーザーが掠め、その一部が融解する。

 

「ちいッ!うざったい!!」

 

 No.2の背後からの狙撃をギリギリで躱したものの、姿勢を崩した『ブルーマグノリア』は地面に足をつけてしまう。その瞬間を狙っていたかのように『ブルーマグノリア』が背を預けていた建物の上から、No.8がレーザーブレードを振りかぶりながら落下してきた。マギーはスキャンモードに切り替えながらグライドブーストとハイブーストを併用して『ブルーマグノリア』の最大速度を捻りだし、攻撃を紙一重で躱しつつそのまま二機から距離を離す。

 

(体制を立て直さないと……クソッ)

 

 行動全てを攻撃にあてているNo.8と、それに合わせてくるNo.2の予想以上の猛攻にマギーは焦りを覚える。『Next System』が起動中でなければ危ない場面がいくつかあった。そしてそのタイムリミットも刻一刻と迫っている。

 

(できる限り無傷で勝つのは諦めるしかないか……)

 

 彼らに勝利したとしても、まだ巨大兵器と倉井のACが控えている。特に倉井のACに確実に勝つには先行している吹雪と合流して当たる必要があった。だから余力を……と考えていたが、それが甘すぎる判断であったとマギーは自戒する。

 

――紛れもなく、この二人は強い。認めよう、余裕なんか無い。

 

 早々に勝利条件を切り替えるとマギーはNo.8に狙いを絞った。

 

「まずはお前を殺す」

 

 No.2の攻撃で驚異なのは『X000 KARASAWA』の高威力レーザーであり、それに注意さえすれば他の攻撃はひとまず考えない。そしてその高威力レーザーは次発までに時間がかかる。その隙にNo.8とは決着をつける。多少の犠牲は払ってでも。

 マギーは殺り方をある程度定めると、身をひそめていた建物の隙間を縫うように『ブルーマグノリア』を跳躍させ、No.8との間合いを再び縮めていく。No.8もそれに気づいているのか、マギーと同じように機体を跳躍させて間合いを詰めていく。――どこかへ誘い出すように横に逸れながら。

 

(その先は……広間か)

 

 スキャンモードによって読み取れる建物の外郭から、N0.8が誘い出そうとしている地形をマギーは予想する。低層の倉庫が集まっている地帯のようだ。そのような広間であれば『ブルーマグノリア』のブーストドライブをある程度抑制できるうえ、No.2の支援も行いやすい。そこで決着をつけるつもりなのだろう。

 

(ちょうどいい)

 

 こちらも時間に余裕があるわけではない。ならばその案に乗ろう。多少の不利は想定内だ。No.2の援護を躱し、リロードの隙にNo.8を倒してみせる。マギーはNo.8の誘いに乗り、その地へと機体を跳躍させてゆく。そしてレーザーライフルのチャージも済ませながら倉庫密集地帯へと機体をさらけ出した。No.8もほぼ同時にたどり着いており、右手のバトルライフルをレーザーブレードに持ち替え左手のショットガンを『ブルーマグノリア』に向けると同時に、ブースター孔から大きなプラズマを吹き出して急加速する。No.8はグライドブーストをしながらCEミサイルとショットガンを放った。『ブルーマグノリア』はそれをハイブーストで躱しつつ、レーザーライフル、ヒートマシンガン、CEミサイルと自らのACのありったけの火力をNo.8にたたきつける。レーザーがNo.8のAC『レオ』の左腕を千切り飛ばし、マシンガンとミサイルが胸部や脚部の装甲を粉砕した。しかしそれでもNo.8は突撃を止めずひたすらに突っ込んでくる。

 

「なにがそこまでッ」

 

 マギーがその圧力に一瞬怯んだ時だった。『ブルーマグノリア』に凄まじい熱量を持った光弾が迫る、が……。

 

「お見通しよ!」

 

『Next System』によって可能となるハイブーストの隙を無理やりハイブーストで潰して加速する連続ハイブーストで不意を突いたはずのNo.2のレーザーライフルすら捌く。ここまではマギーの思い描いた通りだった。あとはNo.8に止めを刺すだけだ。

 

「マギー!そこを離れて!!」

 

 不意に加賀から通信が入る。『Next System』発動中はまともに喋ることすらつらいはずの彼女からの叫び声を受けて、マギーは反射的にスキャンモードへと切り替えた。

 

「これは!?」

 

 そして理解する。自分は嵌められていたのだと。スキャンモードに映し出された映像には周囲を可燃物に取り囲まれた『ブルーマグノリア』が映っていた。No.8とNo.2の今までの攻撃はすべてここに追い詰めるための布石だったのだ。

 そしてそれを理解する一瞬が命取りになっていた。No.8はブレードを振りかぶる寸前まで来ており、No.2も肩部のミサイルハッチを開けている。離脱しようとしてもNo.8に追いつかれ切り裂かれる。それを撃墜しようと銃撃を加えようものなら可燃物に引火する恐れがある。でなくともNo.2のミサイルによって引火、あたり一帯爆発四散する運命。いわゆる詰みだ。

 

――ふざけるなッ!!

 

 また燃え落ちるつもりはない。そうならないために、何にも、誰にも負けたくないから、だから加賀の力を借りてまで『黒い鳥』に手をかけたんだ。ここで終わることなんて許さない。

 マギーの闘争心が倉庫の可燃物よりも先に爆ぜる。『ブルーマグノリア』は両手の武装を放棄し、ブレードを振りかぶる寸前のNo.8へ突撃した。『ブルーマグノリア』は最大出力のブースターでNo.8に接近すると、ブーストチャージさながらのスタンプで『レオ』のブレードを振りかぶっている腕ごと胴体を踏み潰し、跳躍、No.2のいる空中へと飛ぶ。No.2の放ったミサイルをあえて受けながら、その爆炎を振りほどきNo.2の眼前へと迫った。

 

「化け物め」

 

 No.2のメインカメラには『ブルーマグノリア』の左肩に携えられていたハンドガンの銃口が映っていた。隙間から両肩のミサイルハッチが全開になっているのも見える。『ブルーマグノリア』は躊躇なくNo.2『アクアリウス』の頭部を撃ち抜くと同時にミサイルを零距離で全弾浴びせ、さらに組み付き落下しながらハンドガンをひたすら放ち続けた。二機のACが地面に落下し、しばらく銃声が響いた後、砂煙から蒼黒いACのみが姿を現す。

 

「……流石だ、マグノリア・カーチス」

 

 ひどくノイズの入った声がマギーの耳に届く。それは先ほど踏み潰され地に伏しているACからのものだった。

 

「残念だったわね、私の勝ちよ」

 

「……いや、今回は我らの勝利だ」

 

「どこをどう見ればそうなるわけ?」

 

 No.2は完全に沈黙し、No.8ももはや指先一つ動かせる様ではなかった。放っておいても活動が停止してしまうだろう状態だ。しかしNo.8は言葉を続ける。

 

「直にわかるさ。我らのミッションは達成された。……貴様がここに来た時点でな」

 

「何を……」

 

「マグノリア・カーチス、貴様は我らと同じだ。だからこそ、この先を見届ける…権利と、義務がある。闘争の果てに何があるのか、その答えを……貴様が……」

 

「No.8……」

 

 『レオ』のメインカメラにはもう光は宿っていなかった。しばしの静寂が『ブルーマグノリア』を包む。

 

「……加賀、装甲ヘリの操作はまだできる?」

 

「……ッ、少し厳しいわ」

 

 加賀は頭痛をこらえながら装甲ヘリを着陸させる。元々『Next System』は加賀にとって一種の裏ワザのようなものであり、前回はその負担で気絶しかけたほどだ。一定時間はまともに艦載機の操作はできそうになかった。

 

「わかったわ。加賀は少し休んでいて。私は吹雪の応援に向かう」

 

「大丈夫?」

 

「アオバたちは大丈夫よ、あの調子なら。それにここからなら大本営のほうが近い」

 

「それもあるけど、マギー、あなた自身は?」

 

「……大丈夫よ。それにNo.8の言葉、あれも気になる」

 

「……そう、気を付けて。瑞鶴に通信を引き継ぐわ」

 

「了解」

 

 マギーはパージした武装を回収すると、大本営へとACを向かわせた。

 

◇ ◇ ◇

 

 マギーたちが二機のACと対峙したころ、吹雪は大本営へとたどり着いていた。各鎮守府に備え付けられている工廠施設などを担う装置、それが発掘された遺跡の上に大本営は建設されていたが、巨大兵器の襲撃により半壊しその遺跡へ続くメインシャフトが露わになっている。

 

(確かサーバー施設は奥にあったはず)

 

 サーバーを含むこの国の防衛を担う根幹のシステムは遺跡から発掘された装置を利用したものであり、遺跡自体も非常に堅牢な作りであったためそのまま利用されている。ACすら通れる広さがあるシャフトの中を『吹雪弐式』は降りていく。奥へと進んでいく中で吹雪にある不安が芽生え始めていた。

 

(なにも感じない……)

 

 怖くてたまらなくなるから、すぐにわかるはず。倉井がすぐ近くにいれば。吹雪の持っている恐怖を感じ取る直感、それに何も反応がない。そのことが吹雪にある疑念を抱かせていた。

 

「ッ!」

 

 『吹雪弐式』がシャフトを降りきると同時にレーザーライフルの弾が放たれる。吹雪は辛うじてそれを躱すと、辿り着いた広間の奥を見た。

 

「あれは!?」

 

 待ち構えていたのは倉井のAC『フォール・レイヴン』だった。左手に盾を構えながら右手に持ったレーザーライフルを『吹雪弐式』に向けている。

 

「勝負だ傭兵、どちらが正しいかは戦いで決めよう」

 

 倉井の声が地下の広間に響く。それを聞いて吹雪は抱えていた疑念を確信に変えた。

 

「……なにが勝負ですかッ!?あなたは“そこにいない”癖にッ!!」

 

 どおりでなにも感じないはずだ。どおりで恐ろしさが無いはずだ。目の前にいるACは姿形こそは『フォール・レイヴン』であるものの、誰も乗っていない紛い物。ただのUNACだろう。倉井がここにいないことへの焦りと怒りが吹雪にこみ上げる。

 

「こんなものッ」

 

 吹雪は『吹雪弐式』のレーザーライフルをKEライフルへ切り替え、ガトリングとミサイルと共に『フォール・レイヴン』へと放った。『フォール・レイヴン』はそれを避けることはできずにシールドで受けながらレーザーライフルをチャージする。しかし『吹雪弐式』はすでにグライドブーストを吹かしてその射線から離れており、シールドに引き続き攻撃を加えていた。『フォール・レイヴン』の装備しているシールドは曲面加工されているTE攻撃向けのものであり、実弾攻撃にあまり耐えられるものではない。瞬く間にシールドは崩れ落ち、同時に生じた『フォール・レイヴン』の死角に『吹雪弐式』の左足が差し込まれていた。『吹雪弐式』のブーストチャージが直撃し、『フォール・レイヴン』はその左上半身を大破させ崩れ落ちる。

 

「ショーブダ、ヨうへい…けっチャクをつ……しょーぶだ、ヨウヘ…」

 

 コアと共に破損した機械が録音された音声をただ繰り返す。壊れた録音機と化したそれを吹雪はもう一度蹴り飛ばした。『フォール・レイヴン』が完全に沈黙する。

 

「ここまでのようですね」

 

 録音されていた倉井の声が途絶え、その代わりのように『吹雪弐式』に翔鶴から通信が繋がった。吹雪はACを奥にある施設に向かわせながら翔鶴と言葉を交わす。

 

「そうですよ、翔鶴さん。直ちに地上の兵器を止めて投降してください」

 

「……はい、わかりました」

 

「……やけにあっさりしてますね。倉井がここにいないから、ですか?」

 

「ええ。先ほど倉井様から連絡が入りました。倉井様からのメッセージをあなたたちに伝えることで私たちの任務は完了します」

 

「メッセージ…?」

 

 翔鶴は一呼吸置き、倉井から届いたメッセージを読み上げる。一言一句、丁寧に。

 

「我々はいつも誤りを犯す。そうは思わないか、諸君。戦いこそが人間の可能性だが、際限なく増長した力の先には滅びしかない。人類には天敵が必要だ。人類には人類を間引く裁断者が必要なのだ。そして艦娘を大量に生み出したこの世界は破滅へと進んでいる。だからインターネサインの力をもってこの世界を浄化する。全ては人類という種を残すため、再生のため、お前たちには消えてもらう。……猶予は二十四時間だ。その運命を拒むというのなら、足掻いてみせろ」

 

 吹雪は息を飲み込む。

 

「……まさか」

 

「はい、この大本営襲撃はあなたたちを足止めするための陽動です。倉井様はすでにインターネサインへと到達いたしました。これより二十四時間後に『大破壊』が執行されます」

 

翔鶴の口から“運命を決める評決の日”が始まったことが告げられた。

 




次回から最終ミッションへと突入します。





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