艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ
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第五話「FAST MISSION_演習」

――鎮守府近海、演習海域。

 

 その海域の中央には小島群があり、この鎮守府での演習はその群をはさむような形で開始する。島々により最初は相手を確認することが出来ず、索敵から接近方法まで戦略を求められる地形となっている。

 加賀の艦隊と反対側に五隻の艦船が輪形陣で待機していた。それは瑞鶴を旗艦とした、金剛、愛宕、秋月、吹雪の五人編成の艦隊であった。

 

「瑞鶴さんは演習開始と同時に偵察機を発艦。敵勢力の位置、兵装等の戦力の確認をお願いします。特に加賀さんに配備されているという新兵器には注意してください」

 

 旗艦である瑞鶴に助言しているのは吹雪だった。彼女は白鳥提督の初期艦であり、この鎮守府の最古参の一人である。その経験を生かし、今回の演習が初出撃となる瑞鶴のアドバイザーとしてこちら側に配属されていた。

 

「わかったわ吹雪!偵察機発艦用意!!」

 

 吹雪の助言どおり、瑞鶴は甲板のエレベーターから偵察機をあげ、発艦準備を整える。あとは演習の開始を待つばかりだった。

 

「Hey!!瑞鶴~、そんな緊張しなくても大丈夫だヨ~。ちゃんとPlan通りやればワタシたちのVictoryで間違いないヨー」

 

 緊張気味な瑞鶴を少しでもリラックスさせようと金剛は声をかけた。実際よほどのヘマさえしなければ今回は勝てる勝負だった。

 

(今回加賀の艦載機の数は瑞鶴に載り切らなかった十数機のみ。編成は、艦攻・艦爆が半数、艦戦・艦偵が半数ぐらいだったかナ…。制空力も攻撃力もあまりに低すぎるネ。熟練した艦載機操作をしてくる加賀でも、この物量差は埋められないでしょ。だから索敵が済み次第、攻撃偏重の艦載機編成で発艦。摩耶や妹の霧島の対空も物量で押し切り、敵艦隊を蹂躙する。あとは島を盾にしながら一方的に観測射撃でFinish!!いくら新兵器とやらがすごくてもこれは覆せないヨ…)

 もしかしたら秋月の出番はないかも…とまで思っていた。

 

 しかしそんな金剛を尻目に、吹雪の表情は険しかった。

 

 実はこの鎮守府の吹雪は戦闘経験こそ豊富ではあったが、戦闘能力は最弱であった。艦船を操作するのに必要なAMS適正が他の『吹雪』よりも低いという障害を持った『粗製』だったのだ。しかしそれでも今まで生き残ってこれたのは、たゆまぬ努力と、もはや特殊能力ともいえる域の『危険察知能力』を持っていたためだった。

 その能力が告げていた。

 

――加賀さんに積まれてる新兵器…あれは危険だ…と。

 

 吹雪はまだその姿を見たことは無いが、今までに無い異質な圧力を感じていた。下手するとフル艦載した加賀さん以上かもしれない。はっきり言って異常だ。とはいえ、どんなものかサッパリわからないため対策のしようがなかった。

 

「…とりあえず予定通り展開するしかないかな…」

 

 吹雪が小声で呟いた直後、演習開始のブザーが鳴り響いた。

 

 勢いよく瑞鶴から偵察機が発艦する。この演習海域は地形こそ入り組んでいるものの、広さ自体はそこまででもない。偵察機が発艦してから程なくして瑞鶴から連絡が入る。

 

「敵艦隊を発見したわ!方角は11時、今のところ単縦陣。霧島さんも摩耶さんも観測機を持ってない…やっぱり制空権は諦めてるみたい。多分対空特化できてるのかも…」

 

「かまいまセン、瑞鶴!!予定通りアウトレンジで決めちゃってヨー」

 

「ちょっと待って、加賀さんの甲板上に…人型の兵器?ッ!?なにあの加速力!!?海面を高速で滑空してこっちに向かってきてる!!」

 

 瑞鶴の偵察機は『ブルーマグノリア』が甲板上からグライドブーストで発艦する様子を確認していた。『前世』と呼ばれる『正規空母瑞鶴の戦闘記録』、それには全く存在しない未知の機体。対処がわからず瑞鶴はうろたえていた。そこへ吹雪から通信が入る。

 

「瑞鶴さん!!加賀さんの戦闘機は確認してますか!?」

 

「えッ、ああえと…確認したわ!全部艦隊の防衛にまわしてるみたい。艦攻・艦爆機の発艦はまだよ」

 

――となると今接近してるのはあの一機のみ。

 よほど自信があるのだろうか?はたから見ると自殺行為にしか見えない。しかし、先ほどから胸を締め付けるような圧力は強くなるばかり……。油断はできない。

 

「瑞鶴さん!現在敵艦隊に向かっている戦闘機の半分をその人型兵器へ!また合わせて、それに向けて艦隊砲撃をすること進言します!」

 

「ちょっとブッキー!?敵は艦載機一機だヨ!??それはやりすぎじゃない?」

 

「相手の戦力は未知です…近づけるのは得策ではないと思います」

 

「でも~…」

 

「まあまあ金剛さん、旗艦は瑞鶴ちゃんですし彼女に判断を任せましょ」

 

「ウ~、まあ確かに愛宕の言うとおりだネ……瑞鶴、どうしますカ?」

 

「うっ、ええと…」

 

――正直やりすぎじゃ?…と瑞鶴も思っていた。しかしアドバイザー役の吹雪がコレほど警戒しているのを軽視もできない。代案も思い浮かばない瑞鶴は吹雪の進言を受け入れることにした。

 

「まず私の戦闘機でしかけるわ。戦闘機の離脱に合わせる形で各艦砲撃開始、それであの艦載機を確実に仕留めましょ!」

 

「「「了解!!」」」

 

 かくしてACと艦隊との戦闘が開始された。

 

◇ ◇ ◇

 

「綺麗ね……」

 

 加賀の甲板から発艦したマギーは、汚染が完全に無くなり澄み渡る青空と海に軽く見惚れていた。初めて見る新鮮な景色、できればもう少し堪能したい。しかしそうも言っていられない。上空よりこちらを銃撃しようと迫る戦闘機の機影を確認したからだ。

 正直プロペラ機に積まれているような20㎜の機関砲などACにとってカスリ傷である。特に『ブルーマグノリア』は実弾防御に優れている機体であり、機関砲どころか120㎜クラスの主砲なら弾くことができた。だから無視してもよかったのだが、この後の『作戦』のことを考えるとあまり得策ではない。

 

「落とせる分は落としておくか…」

 

 降下しながら迫る戦闘機は『ブルーマグノリア』を凌ぐ速度を誇っていた。しかしその機動は直線的であり、ACのFCS性能からしてみれば止まっているのと大して変わらない。スキャンモードを解き、ヒートマシンガンを掃射する。

 

「機動が甘いわ、まるでターキーシュートね」

 

 その言葉通り『ブルーマグノリア』へ向かっていった瑞鶴の戦闘機は掃射を受けバタバタと落ちていった。再びスキャンモードを起動したマギーは敵艦隊を捉える。その砲身は全て『ブルーマグノリア』へと向けられていた。

 

「たかが艦載機一機に随分豪勢ね。でもこの時代の砲撃精度を測るには調度いい!試させてもらうわ!」

 

 マギーは湾岸基地を襲撃した時を参考として思い出しながら、再びグライドブーストを吹かし敵艦隊へ突撃を開始した。

 

「相手は小型デス!!一斉掃射でなく波状攻撃で仕留めまス!!Fire~!!」

 

 金剛の掛け声とともに各艦の砲塔から轟音が鳴り響き、『ブルーマグノリア』へ鋼鉄の雨が降り注ぐ。しかしマギーはグライドブーストの旋回力とハイブーストの急加速を駆使し難なくその雨をかいくぐっていく。

 

「Shit!どういう機動性してるネ!?」

 

 戦闘機ですら不可能な機動をするACに金剛は苛立ちを募らせた。

 

――次の砲撃で仕留めてみせるヨ!!

 

 ブルーマグノリアの予想進路上に砲塔を向け、まだかまだかと装填完了を待つ。しかし、そのため上空への注意力が散漫になっていた。鳥とは違う影が海面に映っているのに気付いたのは秋月だった。

 

「しまったッ!金剛さん、愛宕さんッ!!直上ッ!!」

 

 自分たちの上空に舞う爆撃機の機影に気付き、急いで秋月は砲塔の角度を上げる。しかしマギーに向けて口角をだいぶ下げていたため、反応に遅れてしまった。急いで対空掃射をし爆撃機を落とすことに成功したが、爆撃は既に慣行されていた。金剛と愛宕に数発の爆弾が降り注ぐ。

 

「きゃあ!いつの間に爆撃機を…」

 

「Shit!新兵器はこのためのオトリでしたカ!?でもこの程度じゃ私も愛宕も沈みませんヨ!!」

 

「……いや、ちょっと待って金剛さん!!」

 

 そう、オトリは逆にこの爆撃だった。爆撃の衝撃と煙によって『ブルーマグノリア』を見逃してしまったのだ。どこだ…と周囲を見回そうとするが時は既に遅かった。

 

――瑞鶴、中破判定――

 

 突然のアナウンスが流れると同時にみなが瑞鶴を見ると、甲板上に先ほどの人型がたたずんでいた。既に瑞鶴への攻撃は完了しており、模擬弾が破裂した粉塵によってまるで甲板が焼き尽くされているかのようだった。

 『ブルーマグノリア』は甲板上で再びグライドブーストを吹かし、今度は秋月へと接近する。

 

「くっ!やらせません!」

 

 秋月は対空砲火を一斉掃射し近づけまいとするが、砲塔の旋回速度がその機動へと追いつくことが出来ず、捉えきれない。

 

「なかなかいい反応ね、でも…」

 

 秋月が射程に入ったことを確認したマギーは彼女に向けて銃弾を放つ。ヒートマシンガンは、駆逐艦の主砲と同口径の弾を機関銃のように発射する兵器である。装甲の低い相手に対してそれは絶大な威力を誇った。駆逐艦である秋月もその類に漏れず、あっという間に大破判定を下されてしまう。

 

 吹雪は思考をめぐらせていた。瑞鶴さんが甲板上で銃撃を受けても中破までだった。おそらく敵の武装は連射力は凄まじいものの、一発一発の威力はそこまでではないようだ。そして敵は確実にこちらの戦力を削ぎに来ている。

 

(……きっと次は私だ)

 

 やられることを覚悟した吹雪は、金剛たちに進言した。

 

「金剛さん!愛宕さん!恐らくあの機体の攻撃はお二人の装甲を突破できません!敵艦隊との距離も詰まってきています。悔しいですがここはあの機体を一時無視して観測射撃にて敵艦隊への砲撃を行ってください。現状を逆転するには旗艦の加賀さんを倒すしかありません。新兵器は次にきっと私を狙ってきます、その隙に早く!!」

 

 言い終えると同時にその視界の隅に『ブルーマグノリア』を捉える。必死の反撃を行おうとするが、秋月の弾幕をかいくぐるほどの機動力を持つ相手に、狙いすらつける事は敵わなかった。

 

「ぐッ」

 

 吹雪の船体に強い衝撃が走る。目を開けると、まるで一休みとも言われているように『ブルーマグノリア』に着艦されてしまっていた。ただそのおかげで、吹雪は相手の姿をはっきりと見ることができた。

 

 黒と蒼を基調としたカラーリングと、鳥をイメージさせるシャープな造詣…。

――まるで鴉だ。獲物をついばむ無慈悲な鴉……。

 

 そしてその口ばしは艦橋へと向けられていた。

 

 

――吹雪、大破判定――

 

 そのアナウンスを受け、金剛は舌打ちをする。

 

「ブッキーのAdvice、無駄にはしないヨ!」

 

 吹雪がやられている間に金剛と愛宕は水上偵察機を飛ばし、敵艦隊へ砲撃を開始していた。着弾位置から敵艦隊位置を計測し、砲塔の角度修正を行う。艦隊の距離は縮まっていたが、小島群が邪魔をしてまだお互い艦隊を視認できていたなかった。

 これなら偵察機の無いあちらを一方的に攻撃できる…そう二人は思っていた。

――しかしこれは大きな間違いであった。鴉の眼はすでに獲物を捕捉していたのだ。

 

 

「ここまで作戦通りだと、かえって気味が悪いわね」

 

 大体今までの任務は想定外の事態が起きることのほうが多かったため、どうもしっくりこない。まあ、こちらのオペレーターがそれだけ優秀なのだろう…と結論づけ、マギーは飛ばしておいたリコンの情報をそのオペレーターへ送信した。

 

「敵戦艦スキャン完了…スポット開始、加賀、情報をそちらへリンクする。うまく使ってちょうだい」

 

 これが今作戦の要だった。単機で活動する傭兵には忘れられがちだが、ACにはスキャンした敵の位置情報を味方に伝える機能がある。本来なら味方ACとオペレーターにしかその機能は作用しないが、空母をオペレーターとして介することで味方艦隊へ情報を伝えることが可能であったのだ。

 

――明石曰く、「艦船のAMS装置と、ACのOSが同じ規格だったから出来る芸当」らしい。

 

 偵察機の光学カメラでは捉えきれない緻密なスキャン情報を加賀は受け取る。

 

「すごい、なんて情報量……いけます」

 

 加賀はすぐさま霧島と摩耶に敵艦隊の詳細な位置情報を送信する。二人の視界にはAMSを通して小島の裏に隠れている敵艦隊の艦影が表示されていた。

 

「おう、すげーな!丸見えじゃねーか!!」

 

「これなら計算するまでもありませんね」

 

 二人は全砲門を敵艦隊へ向けた。

 

「距離、速度、よし!全門斉射!!」

 

 霧島の掛け声とともに、その砲門が火を噴く。発射された砲弾はまるで吸い込まれるように金剛と愛宕に降り注いだ。

 

「Shit!なんデ!?なんデ!??」

 

「いやーん!」

 

 この状況ではありえない砲撃を食らい、金剛と愛宕はあわてふためいていた。しかも砲撃は凄まじい命中率で着弾しており、そのダメージも深刻だった。

 

「愛宕!このままじゃまずいヨ!!いったん全速力でこの場を…」

 

「…あの、金剛さん……言いにくいのだけれど、私たちの“詰み”みたい」

 

「What!?」

 

 気付くと魚雷接近のアラームが鳴り響いていえる。それは敵艦隊の位置情報から死角を縫って接近していた夕立から放たれたものだった。

 

「やっと夕立の出番っぽい!ソロモンの悪夢、見せてあげる!」

 

 魚雷は戦艦と重巡洋艦の機動力では最早回避不可能の位置まで迫っており、直撃は避けられなかった。

 

――金剛、愛宕、大破判定――

 

演習は加賀率いる艦隊の圧勝で幕を閉じた。

 

◇ ◇ ◇

 

「――以上が演習内容です」

 

 演習の反省会が行われている会議室にて、加賀は映し出されている作戦ファイルを横に提督に説明を行っていた。

 

「まず新兵器『ブルーマグノリア』についての評価ですが…すばらしいの一言です」

 

 普段滅多に人を褒めることが無い加賀であったが、この時ばかりはベタ褒めだった。それほどまでに『ブルーマグノリア』の性能は凄まじかったのだ。

 

「艦載機でありながら軽巡にも匹敵する火力。制空権を取られた状態であっても偵察機より詳細な情報を得られる索敵能力。まさに驚異的です」

 

「……加賀、一部訂正させてもらうわ」

 

「発言を許可します、マギー」

 

「今回は武装が制限されていたから無理だったけど、それが無ければ私一人で全滅できたわよ。演習で使っていた左手のヒートマシンガンは…そうね、艦船でいえば副砲のようなもの。右手の主砲が使えれば、戦艦だって撃ち抜けるわ」

 

 場に居た全員が絶句する。特に相手していた艦隊側は若干顔が引きつっていた。

 

「……発言を訂正します、提督。火力については戦艦に匹敵するわ」

 

「…おまえが味方で本当によかったよ、マギー」

 

「お眼鏡には適った?提督」

 

「ああ、合格だよ、合格。マギー、おまえはこのまま加賀に艦載だ。第一艦隊にてその実力を発揮してもらおう。加賀、それでいいな?」

 

「了解しました。――次に新人二名の評価ですが…」

 

 ああ、本来はそっちが演習のメインだったな…と提督は思い出し、作戦ファイルに再び視線を戻した。加賀は淡々とした口調で秋月と瑞鶴の評価を発表していく。

 

「秋月から…、流石防空駆逐艦だけあってなかなかの弾幕でした。しかし周囲の警戒がまだまだです。今回、金剛、愛宕への爆撃を許してしまったのはあなたの落ち度です、精進なさい」

 

「はっ…はいっ!!」

 

 加賀の迫力に秋月は思わず敬礼をしながら返事をする。その後ろでは戦艦姉妹がヒソヒソ話をしていた。

 

「秋月はよく頑張ってくれたヨー。そもそもあんなタイミングの爆撃防ぐなんて無理だヨ、加賀はイジワルネ」

 

「お姉さま、加賀さんはお厳しい方ですから…」

 

「そこ、私語は謹んでもらえる?」

 

 加賀は眉を吊り上げ二人を睨み付けた。その圧力に二人は口にチャックをする。

 

――まったく、といいながら加賀は手元の資料をペラリとめくる。心なしか加賀の眉が先ほどよりも吊り上がっていた。

 

「次に、瑞鶴……やはり五航戦ね…」

 

「ちょっ、それどうゆうことですか!?たしかに演習じゃ負けちゃいましたけど…」

 

「そのことを言っているのではないわ」

 

 加賀からの容赦ないダメ出しが瑞鶴に浴びせられる。

 

「まず艦載機操作がなってないわ。艦爆・艦攻も機動が直線的で打ち落としてくれといっているようなもの。もっと陣形を考えなさい、あれでは七面鳥撃ちもいいところよ」

 

 事実、演習において瑞鶴の艦爆・艦攻部隊はあっという間に摩耶・霧島の対空砲撃、加賀の直衛戦闘機に落とされていた。話を聞いていたマギーも、相対した戦闘機に同じような感想を持っていた。やはりあの機動は未熟なものだったようだ。瑞鶴もそれは実感していたのか、肩をプルプル震わせながら黙ってる。

 加賀の苦言は止まらない。

 

「それに冷静さも足りないわね。ブルーマグノリアが接近していたとき、あなたは何をしていたの?旗艦であるあなたが最優先に狙われることは想定できたはず。直衛の戦闘機を新たに発艦するなり、回避行動に移るなり、やれることはあったはずよ。吹雪をアドバイザーにつけたのはあなたの経験不足を補うため、決して思考を停止させるためではないわ。状況に飲まれてアワアワしてるだけなんて愚の骨頂ね旗艦として、空母としての誇りは無かったの?」

 

 瑞鶴の目に涙がたまっていく。言われていることはわかっている、わかっているのだが…。

 人間は本当のことを言われるのが一番心に突き刺さる。

 

「泣いたってどうしようもならないわよ、五航戦。これが実戦だったら味方艦隊は全滅……殺したのはあなたよ」

 

 ついに耐え切れなくなり、瑞鶴はガタンと音を立ててその場に立ち上がる。その目には大粒の涙がこぼれ、顔も真っ赤になっている。

 

「うう、ぐずッ、えっぐ……」

 

 瑞鶴はそのまま走って会議室を出て行ってしまった。

 

「……おい加賀、ちょっと厳し過ぎるんじゃないか?」

 

「お言葉ですが提督、甘やかすばかりでは彼女の成長に繋がりません」

 

「それにしても限度ってもんがなぁ…」

 

「でも加賀の言っていることは事実よ」

 

「マギー…」

 

 マギーは実戦から成り上がってきた身であり、シビアな思考の持ち主だった。そのため自分が同じ立場なら似たようなことを言っていただろう、と加賀に同調していたのだ。彼女的には少なくとも今の瑞鶴には載りたくない、というのが感想だった。

 

「とはいえ、もう少しアメと鞭のバランスをだな…」

 

「…わかりました、考慮します」

 

 加賀は一言そう提督に告げると、一番付き合いの長い仲間へと歩み寄る。正直甘やかし方などわからないし、私がやるより彼女のほうが適任だろう。

 

「吹雪、申し訳ないのだけれど瑞鶴のフォローお願いできないかしら」

 

「あ、はい、わかりました」

 

こういったケアに関して、加賀は吹雪に信頼を寄せていた。吹雪もなんとなく察していたのかニコニコしている。

 

――本当、何度彼女に助けられたことか。

 

 MI作戦の生き残りを寄せ集めて出来たこの鎮守府がここまで形になったのも吹雪の尽力が大きかった。彼女の人当たりの良い性格と、何事にも一生懸命に取り組む姿勢にみな感化されまとまっていったのだ。そのため艦種に関係なく吹雪はみなと仲が良かった。彼女なら瑞鶴を励ましてあげれるだろうし、まだ姉妹艦どころか空母が私しか居ないこの鎮守府で瑞鶴の良い友になってくれるだろう。そう思い、加賀は瑞鶴のアメ役を吹雪に頼むことにした。

 

「今回は間宮の甘味を必要経費として認めます。提督の給料から引いておくわ」

 

「えっいいんですか?やったぁ!!司令官、ご馳走様です」

 

「おい、ちょっと待て、何勝手に決めてやがる」

 

 他の艦娘たちは「相変わらず仲がいいなぁ」と微笑みながら、まるでわがままな娘達とそれに手を焼く父親のようなやり取りを見ていた。そんな中、マギーはその光景に一種の懐かしさのようなものを感じていた。

 

 自分がオペレーターだった時、荒野にある隠れ家でファットマンと、そして“彼”と過ごしていたあの日々。

 

(――最後に一緒にコーヒーを飲んだのはいつだったか……)

 

 いつの間にかマギーは、会議室の窓に映る澄み渡る青空へ視線を移していた。






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