艦CORE「青い空母と蒼木蓮」   作:タニシ・トニオ
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第八話「MISSION02_ガダルカナル島近海攻略-02」

 マルヨンマルマル

 まだ日の上がらぬ海域へ、加賀が率いる艦隊が進入していた。その旗艦の甲板には、まるで獲物を探しているように薄っすらと赤いグローを漏らす人型の機影が見える。

 

 加賀の甲板上で待機していたマギーは、硝煙の匂いを感じていた。無論、完全密封されたACの操縦席の中で実際にその匂いを感じることは無い。

しかし微かに聞こえる友軍の戦闘音と、マギー自身の戦闘勘が鼻腔に錯覚を起こさせていた。

 

(――戦闘が近い)

 

 マギーは待ちきれないかのように操縦桿を指で叩く。間もなく、加賀から通信が入った。

 

「マギー、予定海域に到着しました。情報どおりであれば敵新型の南方棲戦鬼率いる敵勢力が近くに潜んでいるはずよ。索敵をお願い」

 

 夜間の索敵ができるのもACの強みだった。光学カメラによって敵を捉える通常の艦載機と違い、光量を調節できるカメラとスキャンモードをもつACにとって暗闇は大した障害にならず、夜偵ばりの索敵が可能なためだ。

 

「了解、ブルーマグノリア、発艦する!」

 

 グライドブーストを吹かし、まるで流星のように甲板からACが飛び立った。

 

 

「……流石に不気味ね」

 

 夜間の海には昼間に見た美しい風景の面影はなく、ただただ暗闇と静寂のみが広がっている。モニターに映る代わり映えのない景色は、まるで自分は全く進んでいないのでは?と錯覚させるほどだ。しかしそんなことはなく、スキャンの端に艦影が映り始める。

 

「見つけたッ」

 

 まるで宝箱を見つけた子供のようにマギーは意気揚々と方向転換し、その艦影に近づいていく。

 

「これが…南方棲戦鬼…?」

 

 スキャンが捉えた艦影は、今まで見せてもらった資料の深海棲艦の形状とは明らかに異なっていた。その姿は、なんでも着ければいいでは無いだろうと思わせるように主砲や甲板、魚雷の発射管と思われるものまで搭載されており、その様相はまるでキメラだった。しかもその周囲には数機の球体の形状をした浮遊砲台が、まるで護衛のように漂っている。

 

「まったく…あの自立兵器みたいね。こちらブルーマグノリア、目標と思われる敵を発見!位置情報を送信する。先に仕掛けるわッ、援護を!」

 

「こちら加賀、了解。……最終目標は恐らくその奥よ、無理はしないで」

 

「この程度無理に入らないわ」

 

「慢心は禁物よ。…全艦、敵の位置情報をリンクします。北上は甲標的を発艦、急いで」

 

「りょうかーい。さてさて、やっちゃいますよ~」

 

 北上は甲標的のAIを起動させ、目標の座標を入力し海へと放った。

 

「さて、援護が来るまでにあれは落としてしまうか」

 

 マギーは大型自立特攻兵器を彷彿させる浮遊砲台に狙いを定める。敵もマギーに気付いたのか砲塔を一斉に向け反撃を仕掛けてくる。

 

「へえ、なかなかの弾幕ね。でも演習の金剛たち程度…、問題じゃない」

 

 当人達が聞けば怒り出しそうなセリフを言い放ちながらも、その言葉通りACの機動性を駆使し器用に砲弾を避ける。砲弾が起こす巨大な水柱から察するに当たればいくらACでも無傷では済まないが、それでもマギーは冷静だった。

 そしてヒートマシンガンでけん制しながら両肩のSu-J-A28、ヒートミサイルを放つ。計12発にも及ぶミサイルが浮遊砲台に襲い掛かり、敵を爆散させた。

 

「残りは南方棲戦鬼のみッ!これでもくらいなさい」

 

 ACの右腕に装備されているAu-L-K29をチャージしながら南方棲戦鬼に接近する。南方棲戦鬼はまるでハリネズミのように備え付けられている主砲や副砲をマギーに向けて掃射するが、そんなものはお構い無しにAu-L-K29の有効射程まで前進を続ける。

 そしてフルチャージを告げる発光を確認すると同時に、敵の艦艇に向けてそれを発砲した。青い閃光が海面を走り、南方棲戦鬼に着弾する。その圧倒的な熱量は艦艇に穴を開け、その周囲の装甲も赤熱化し溶けかかっていた。海水により急激に冷やされる金属の収縮音がまるで南方棲戦鬼の悲鳴のように鳴り響く。

 

「あと一歩ってところか…」

 

「マギー、北上の甲標的がたどり着いたわ。スポットをお願い」

 

「ちょうどいいタイミングね、了解」

 

 スキャンモードを展開し、南方棲戦鬼をスポットする。その情報は加賀をオペレーターとして介し、北上へ送信されていた。

 

「おお、これが噂のスポットか~。敵さんの位置がまるわかりじゃん、良いねえ、しびれるねえ~。さて、止めはいただいちゃうよ~」

 

 AMSのシステムを介し、北上の眼前に投影されるマーカーめがけ甲標的から酸素魚雷が発射される。魚雷はマギーのレーザーライフルにより空いた穴へと吸い込まれるように命中し南方棲戦鬼の内部から爆発が起きた。

 巨大な水柱と共に敵の艦艇は真っ二つに折れ、南方棲戦鬼は海中へと没していく。

 

「こんなものか…存外あっけないわね」

 

「マギー、先ほども言ったけど慢心は禁物よ」

(…とはいえ、まさかこれほどとは…)

 

 南方棲戦鬼はスキャンデータを見る限り並みの深海棲艦よりも強力な敵だった。夜間であったため敵が艦載機を出せなかったことを差し引いても、それを砲撃戦に移る前に仕留められたことに加賀は驚愕を隠せなかった。

 

――提督の言うとおりかもしれない。ブルーマグノリアがあれば、今の私達でも戦艦棲姫に…きっと…。

 

 厳しい態度とは裏腹に、その内心に希望が湧いてくる。そしてその心情を表すかのように朝日があがり、目に光が差し込んできた。

 

「oh、もうこんな時間ですカ~。戦場でなければこの景色も堪能できたんですけどネー」

 

「へッ、別にいいじゃねーか。こちとらさっきからなんもしてねーんだ!景色なんぞより敵さんを堪能できないと主砲がさび付いちまうぜ」

 

「…摩耶、その願いは叶いそうよ。いわゆる連戦ってやつね…」

 

マギーから各艦に通信が入る。

 

「こちらブルーマグノリア、新たな敵勢力を発見。……ビンゴよ、新型の空母1隻、さっきの浮いてる砲台が3機…。そして…戦艦棲姫2機」

 

「戦艦棲姫が2!?マギー、それは本当なの!!?」

 

「あんな『へんなの』、間違えるほうがおかしいわ」

 

 マギーは艦隊よりも突出していたため、先に敵を捉えていた。まるでタイミングを見計らっていたかのように日の出から現れた敵艦。

 太陽の逆光により、その姿は影でしかわからないが…少なくとも戦艦棲姫については間違いないと確信していた。敵の新型空母、装甲空母姫からその二本の脚でカエルのように飛び跳ね、戦艦棲姫は海面に着水する。

 

 

 マギーは初めて戦艦棲姫の資料を見たとき、その特徴からまさかとは思っていた。

 

(――確かに、並みの艦船が敵わないわけだ)

 

 深海棲艦は人間の模倣をする。きっと同じだ、“そこにあったから使う”。どこかで入手したあの『へんなの』を、やつらは乗っ取って運用しているらしい。

 頭に駆逐イ級のようなものが根を張っているようにへばりついているが、それは紛れも無く『To-605A』と『To-605D』…通称『へんなの』であった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

「戦艦棲姫は私が引き受けるッ。加賀たちはあの空母を!!支援する余裕はないッ、頼んだわよ!」

 

 私はそう伝えると一目散に戦艦棲姫――『へんなの』――に向かっていった。あの2体の火力は絶大でACでも直撃すればあっという間にやられてしまう。艦船でも瞬く間にスクラップにされてしまうだろう。とくに『To-605A』と呼ばれる実弾砲撃タイプの、まるでブーメランのように回転しながら向かってくる体当たりは駆逐艦程度なら一撃で真っ二つにへし折ってしまう威力を持っている。

 だからこそ、攻撃を避けながら戦える私が相手をするしかない。幸い、深海棲艦の口の奥から覗く真っ赤な目玉は私を捉えていた。

 

「いいぞッ、こっちに来い!!」

 

 気分が高揚し、まるで傭兵時代に戻ったかのように口調が荒々しくなる。

 ……この状況は一緒だった。

 彼が……、『黒い鳥の傭兵』が“処理”を受けた私と再会する前に引き受けていた依頼の一つと同じ敵だった。彼の戦果報告を聞くたびに、その圧倒的強さに憧れと嫉妬を募らせたものだ…。彼に敗れた身であるものの、彼と“比べっこ”するための指標が目の前にあることに私は嬉しさを感じていた。

 

「私にだってやれるッ、やってみせる!!」

 

 私は目の前の敵に全神経を集中させる。再び得た魂に火が灯っていくのがわかる。

 

――始めましょう、超えてみせるわ、あなたを……

 

 

◇ ◇ ◇

 

「マギーッ、マギーッッ!」

 

 必死の呼びかけも虚しく、彼女は単身で戦艦棲姫に向かっていってしまった。いくらなんでも無茶すぎる。しかし有効射程外から下手に砲撃支援を行えば彼女にも危害が及んでしまうなにより敵の新型空母や浮遊砲台も無視できる相手ではない。

 

(――ここは彼女を信じるしかない)

 

 『信じる』とは言うものの、要は彼女に丸投げじゃないか、と心の中で舌打ちをしつつ加賀は今自分の出来ることを必死に模索した。

 

「お姉さま、加賀さんっ、聞こえますか!?こちら支援艦隊旗艦、比叡、ただいま到着しましたっ!」

 

「こちら加賀。比叡、いいところで到着してくれました。これより主力艦隊で敵空母、及び護衛浮遊砲台を叩きます。こちらが砲撃戦有効射程まで接近するまでの間、支援砲撃をお願いします」

 

「了解しましたっ!よし!榛名っ、気合!入れて!いくよ!」

 

「はいッ、比叡お姉さま!」

 

 支援艦隊の砲が仰角を高めに構え、敵空母へ砲撃を開始する。主力艦隊もそれに合わせて前進を開始し、加賀も艦載機を空へと放った。

 

「支援砲撃、敵空母へ着弾」

 

 先行して放っていた艦載機から入ってきた情報を加賀は味方へと伝える。ブルーマグノリアのスポット射撃ほどの命中率はないものの、鎮守府で上位の錬度を誇る彼女たちの砲撃はなかなかのもので長距離にも関わらず見事に敵に命中していた。

 しかし、敵の状況を確認しようと近づけた艦載機が突如として落とされる。艦載機から送られる映像が砂嵐になる直前に捉えたものは、敵の艦載機だった。

 

「戦闘機!?そんな馬鹿な!!」

 

 確認していた限りでは敵空母は砲撃前にはまだ艦載機を発艦していなかったはずだ。しかも先ほどの支援砲撃の着弾具合からして、普通の空母であれば中破は逃れられないほどだったのに……。

 

「もしかして…噂に聞いた装甲型…?」

 

 その答えを肯定するように、敵の装甲空母――装甲空母姫――から次々と艦載機が放たれる。『目』を落とされてしまったため具体的な数は不明だが、空に映る機影から相当数であることがわかる。

 

「第一次航空部隊、戦闘陣形へ移行。各艦へ通達、対空射撃用意、……来るわ」

 

「おっ、やーっとあたしの出番かよ。ちょっとは残しておいてくれよな」

 

「そうね…あなたに頼ることになりそうだわ、摩耶」

 

 加賀の戦闘機、烈風は非情に高い性能を持っており、加賀の調整したAIのロジックと相まって、その強さはまさに『一航戦』を体現していた。しかし、浮遊砲台からも艦載機が発艦され単純な数では負けている状況であり、制空権をかろうじて確保するのが精一杯だった。

 

「おう、この摩耶様に任せときなっ!改造で得たこの力、見せ付けてやるぜっ!おまえら、砲角上げな!!」

 

 襲い掛かってくる爆撃機に向けて各艦が対空砲撃を放つ。特に摩耶の改造によって新しく集中配備された25mm三連装機銃の対空射撃は凄まじく、その弾幕のカーテンは爆撃をシャットアウトしていた。

 

「大丈夫そうね」

 

 仲間の奮戦を確認しつつ、加賀はお返しと言わんばかりに艦攻・艦爆を行う。

 

――かつての仲間だった二航戦の忘れ形見、『AI:江草』を搭載した『彗星』、『AI:友永』を搭載した『天山一二型』。

 

 二種の艦載機によって編成された航空部隊は敵の対空掃射を鮮やかに避けつつ搭載された魚雷・爆弾を敵に投擲した。その苛烈な攻撃に耐え切れず、浮遊砲台は全て煙を上げながら海へと落ちていく。しかし装甲空母の耐久度は凄まじく、いまだにその姿を健在させていた。

 

「頭にきました」

 

「HEY、加賀~、気持ちはわかるけどさー、旗艦はもっとCoolじゃなきゃNoなんだから。大丈夫!もう敵はこっちの有効射程内だヨ、私たちの出番ネ!さて……Sistersの手前、カッコ良く決めないとネ!!Follow me!霧島!」

 

「はい!金剛お姉さまっ!」

 

「全砲門! Fire!!」

 

 けたたましい掛け声と同時に35.6cm連装砲から轟音が鳴り響き、砲弾が発射される。その砲弾は容赦なく敵空母の装甲をぶち抜き、大穴の開いた甲板から艦体がひしゃげ、ギギギギギと音を立てながら装甲空母姫は海底へと没していった。

 

「Yeah!どうですカー!!」

 

「金剛、まだ本命が残ってます。早くマギーの援護に向かわないと……」

 

「Sorry、そうでしたネ」

 

 装甲空母姫を無傷で撃退できたのは本命の戦艦棲姫をブルーマグノリアが遠ざけていてくれたからだった。逆を言えばずっとその負担をマギーに押し付けている状態とも言える。

 

(――無事でいて、マギー……)

 

 第二航空部隊の発艦用意をしつつ、加賀は艦隊をマギーのもとへ全速力で向かうよう指示を出す。自らの艦の鈍足さをもどかしく感じたのは久々だった…。






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