────僕は確かに誰かに殺された。
なのに今はどうだ…?目覚めると僕は見たこともない部屋に横たわっていた。
見覚えのない天井に見覚えのない部屋が眼前に広がっていた。
「これはいったいどういうことだ…」
撃ち抜かれたはずの頭をかきながら僕は考える。
記憶を辿ってもやはり答えは出ない。
それどころか真っ白なベールで被われたかのような、思いだせない記憶があることに気付いた。
「これは記憶喪失…というものなのかな?」
と誰もいない一室で苦笑いを浮かべた。
それにしても…と僕は部屋を見渡した。
家には鍵がついているし、冷蔵庫には購入が制限されているはずのアルコール類、ハイパーオーツに依存しない天然由来の料理、家電は小説に出てくるような旧世代のものだし、
「何もわからないこの状況で外を出歩くのは得策ではない…か。
家主が帰ってくるのを待った方がよさそうだ。」
肩をすくめソファに座るとテレビの電源が入った。
どうやら近くにあったリモコンのスイッチを押してしまったらしい。
「なに…?」
テレビに映ったのは、家に立てこもっている犯人を確保した瞬間だった。
槙島は動揺していた。
何故なら僕が今までいた世界では犯人を確保する瞬間などテレビで流せるわけもなく、
更にドミネーターを所持していない多数の警官らしき者達が犯人を取り囲んでいたからだ。
これは明らかにおかしい…僕の頭がおかしいのだとすればそれで全てが丸く収まる。
だがあのリアルな死の感覚が果たして偽の記憶なのだろうか?
────答えは否だ。
とするならば導かれる答えは一つしかない。
「ここは死後の世界…少なくとも僕の知っている世界とは全く違うなにかだ。」
退屈な社会に対する僕なりのささやかな反抗の結果がこれか。
テレビのリモコンをいじくりながら、戸惑いながら、僕は考える。
この社会で僕がどう生きるべきなのか、どう在るべきなのか。
シビュラ無き社会は、人の意思が優先される社会は、僕の求めた世界だ。
だがそれが実現してしまったこの世界で僕は何を求めどう生きていくべきなのか…。
ひとしきり悩んだ後、と槙島は昔、誰かに勧めたSF小説の一節を思いだし子供のような笑顔で口にした。
「どこへ行こうと人は間違ったことをする巡りになる。」
間違っているかどうかは終わってみなければわからない。
つまり僕が終わるまでは…ね。
そう考え静かに目覚めたベッドで目を閉じたのだった。