教室はいつもの賑やかさに満ちていた。
誰もが楽しそうに笑顔で話し込んでいる。
「静かに」
大きな紙袋をもって教室に槙島が入ってきた。
「早速だが、僕が持ってきた小説を皆に配るから各々のペースで暇なときに読み進めるように。僕の授業ではこれが教材だ。」
槙島は大きな紙袋から文庫サイズの小説を取り出し皆に見えるように掲げて見せた。
「先生一つ質問なのですが、どうして学校指定の教科書は使わないんですか?」
一番前の席に座っていた男子が不思議そうに問いかけた。
「いい質問だ。えっと…そう中沢君だったね。『良き書物を読むことは過去のもっともすぐれた人たちと会話を交わすようのものだ』とオルテガは言ったわけだが…」
と雄弁に語りだそうとしたがオルテガって誰だよ…。とクラス中の生徒が頭にクエスチョンマークが飛び交っているのを見て言葉を止めた。
「昔の賢人、偉い人がそう言ったんだ。で、僕が何故教科書を使わないのかという話だが、随分前から国語の教科書というのは気に入らなくてね。小説の一部分を切り出して何の意味があるというんだ。偉人の言葉を抜粋し、生徒に教えることは君たちに仮初の全能感を与えるだけで終わってしまう。言うなれば会話のストラックアウトさ。無論、的は君達でボールが帰ってくることはない」
教科書をゴミ箱に投げ込み、槙島は続ける。
「僕はね、君たちに偉人の言葉を伝え真の意味で理解し昇華させてほしいのだよ。誰しもがそれをする力と素養を兼ねそろえている。若さというのはそれだけ偉大だ。だからこそ君達には
一通り語り終え教室を見渡したが、今の話を理解しているのはほんの一握りだけだった。美樹さやかに至ってはもはや聞くことを放棄し机に突っ伏していた。
「中学生にはまだ早すぎたかな。簡単に言えば君たちにふさわしくない教科書を用意した、それだけの事だ。では授業を始めよう」
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――…
魔法少女見習い…の付き添いとして巴マミの魔女退治についていくことになった槙島は待ち合わせ場所である、駅前のファーストフード店に着いた。彼女たちを探してみると既に到着していたようで世間話に花を咲かせているようだった。何も買わずに席に着くというのも失礼だと思い仕方なくコーヒーを頼み席に向かった。
「マミさんは、ほむらちゃんをどんな子だと思いますか?」
「何を考えているかわからない…としか言えないわね。後はクール…かしら?」
手元のオレンジジュースを見つめながらそう答える
「ふむ…僕の考えとは少し違うな」
「槙島先生!来てたなら行ってくださいよ!」
「今、来たんだよ」
注文したばかりアイスコーヒーを少し振ってみせる。
「それで…その…先生は…ほむらちゃんをどんな子だと思ったんですか?」
まどかはおずおずと先ほどの問いを繰り返した。
「魔法少女をこれ以上増やさない事とキュウべぇを襲撃したことが同じ目的であると仮定すれば…だが、一見クールに見えるが激情家。ある一つの物事に関連することには感情の起伏が見られる。物事の反復からは強い執着やトラウマが動機とも考えられる。もしくは…」
一拍置いて僕は答えに一つ足した
「強度の依存か…」
「つまり先生は魔法少女を増やしたことで彼女は何かトラウマを抱えたって言いたいんですか?」
マミは真面目な顔で槙島に問いを投げた。
「どうだろうね。
「どういうことですか?」
「魔法少女を増やしたことでトラウマを抱えたなら魔法少女の素質がある二人を殺してしまうはずだ。わざわざ大本のキュウべぇを殺すよりも確実に目の前のトラウマを排除できる。でも彼女はそうしなかった…考えられる可能性は二つ。人間や魔法少女は決して殺さない…そんな高潔な精神をもっているか、君たち二人、ないしは一人が彼女の目的、もしくはトラウマに関係があったかだ」
槙島はまどかとさやかに視線を向けた
「でも私達は一度たりともあの転校生にあったことなんてないよね?」
「う…うん」
必死に記憶を辿っているのであろうまどかだったが、やはり記憶にはなかったのであろう諦めて目の前のハンバーガーにかぶりついてしまった。
「もし君たちに記憶がないというのなら…それは彼女の能力に起因するモノなのかもしれない。魔法少女には願いに起因した固有の特殊能力があるのだろう?」
「確かに私たちはそう言った特殊な能力を持っています。でも槙島先生…彼女が高潔な精神を持っているとは考えないんですか?私はそれを信じたい」
「この世に綺麗なだけのものはない…全てに裏があり全てに影がある。高潔な精神、もしかするとそんなものがあるかもしれない。でも僕は生まれてこの方そんな人間を見たことが…っ」
不意に槙島の脳裏にドミネーターを構える女性の姿が浮かんだ。
体格と公安局の制服で女性と判断したが顔だけはどうも思い出せない。
動悸が止まらない。その姿を見てまどかたちが声をかけてくる。
「先生…大丈夫ですか?突然頭を押さえて…その顔も青ざめてるし…」
「いや…大丈夫。大丈夫だ、気にしなくていい。ところでマミ少し長話をしすぎた。魔法少女体験ツアーそろそろ出発しなければいけないのではないか?」
槙島は自分にかまってほしくないのか、まくしたてるようにマミに話しかけた。
「あ!もうこんな時間…。槙島先生本当に大丈夫ですか?」
「あぁ…問題ない」
そう言って額の汗を拭いマミに向き直った
「じゃあそろそろ行きましょうか」
4人は席を立ち、魔女の足取りを追うのであった。