PSYCHO-PASS MAGICA   作:DHCT

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戦乙女の腸

僕は今グソンの暮らしている家に来ている。

僕のマンションとは違い、かなり広くそして…白かった。

 

「君がこの世界に来てどれぐらいになるんだ?」

 

「まだ4日目ってところですかねぇ…」

 

「なんだ…僕とそう変わらないのか。しかし何故僕の後をつけたりしたんだ?すぐに声をかければいいものを。」

 

「こんな世界に迷いんこでしまったんですよ?旦那に似たそっくりさん…って可能性だってあるでしょう?顔だけ同じで別人なんてSF小説じゃあよくある話でしょう?」

 

槙島のティーカップに紅茶を注ぎながらグソンは続けた。

 

「それで後をつけてしばらく様子を見ようと思ったらばれてしまっただけの話ですよ」

 

「そうは言うがね…本当に偶然かな?偶然にしてはタイミングが良すぎると僕は思うのだが…」

 

「流石は槙島の旦那だ。偶然なんかじゃあありませんよ。いや旦那にあったのは本当に偶然なんですがね?」

 

「ほう…とすると君も魔法少女を追っていたわけだ」

 

「俺たちの世界にはなかった完全ないレギュラー…これを解き明かしたいと思わないやつはいないでしょう。まぁこの世界にとっちゃあ俺たちのほうがイレギュラーなんでしょうが…」

 

とグソンは苦笑した。

 

「それにしてもこの世界は何なんでしょうね?最初はあの実験の副産物かなんて思いましたよ。」

 

「あの実験?」

 

「ほらシビュラシステムを暴く前に俺だけやったでしょう?脳の完全なトレース」

 

「あぁ…まだ安全性に難があるから君だけやったあの実験か。脳その物を完全にコピーすることで自身の記憶、感情、思考能力をそのままトレースしコンピューター上に保存することでいずれ来るであろう脳その物の義体化に備えようとしたんだったね。」

 

「シビュラシステムに殺されて俺という実体は消えても存在はコンピューター上に残っていたわけですからね。遠い未来でデータを見た誰かが再生したんじゃないかって思ったんですけどね。現実は遠い未来ではなく遥か昔だったわけですが…」

 

「人間の脳そのものを義体化する技術は兄時点での世界でもまだできなかったことらしい。それにしてもメモリースクープで記憶の抽出ができるならばそれに付随した感情や思考能力といった不確かなものも抽出できるのではないかと考えた君はやはり天才だな」

 

「俺は天才なんかじゃありませんよ。本物の天才なら都合のいい部分だけ抽出して完全な別人格を形成するとか色々転用してるんでしょうが俺には部分的な抽出できなかった。だからすべてを丸々コピーするなんて言う誰でもできる手段を使ったのは分かっているでしょう?」

 

「目の付け所…着想の問題さ。シビュラシステムでさえそこにたどり着くことはできなかったと見える。」

 

だが…と僕は続けた。

 

「…となるとそっちは手掛かりなしか」

 

僕はため息をつき、マドレーヌの封を切った。

 

「ところで君は魔法少女についてはどこまで知っているんだい?」

 

「魔法少女、魔女の存在。魔法少女を量産する謎の生き物…まぁこいつは俺には見えないので会話から推測しただけですが…。あとは願いを一つ叶えるとかいう胡散臭い事実ぐらいですかね?」

 

「君も見ていた通り僕は魔法少女とすでに接触していてね。君よりは色々な情報を持っているわけだが…その情報を基にした疑問と仮説…聞いてみたくはないか?」

 

と僕はいたずらっぽい笑顔をグソンに向け反応を待った。

 

「そいつは是非とも。正直持て余し気味だったんですよこの話」

 

「まずはこれを見てほしい」

 

と言って僕は鞄からドミネーターを取り出した。

 

「こいつは…本物なんですか…?」

 

グソンは驚きを隠しきれない様子でドミネーターを見た。

 

「あぁ…しかも驚くべきことに監視官でも執行官でもない僕がなぜか使用できる状態になっている」

 

「へぇ…そいつはすごい。それでこいつが魔法少女とどんな関係があるんです?」

 

「実は今日、魔女の結界という奴に迷い込んでしまってね。護身用にと思って持ってきたドミネーターを魔女の使い魔に向けてみたんだ。そうすると何が起こったと思う?パラライザーが起動したのさ」

 

「それの何がおかしいんですか?」

 

「問題は人間以外の危険物に対して起動するはずのデコンポーザー(・・・・・・)ではなく、軽度の潜在犯に対して起動するパラライザー(・・・・・・)が起動したということだ」

 

「つまりその魔女の使い魔ってやつは人間だったんじゃあないかってことですか」

 

なるほど、とグソンは頷いた

 

「その通り、まだ魔女には出会ってないが彼女らにエリミネーターが適用されればほぼ間違いないだろう」

「それで二つ目はなんなんですかい?」

 

少し急かす様にグソンは槙島に問うた。

 

「二つ目は彼女たちの持つ変身アイテム、ソウルジェムだ。さっき黒髪の少女、暁美ほむらというんだが彼女にドミネーターを向けた時なぜか彼女の手の宝石に照準が向いた。そして彼女が変身を解いたとき指輪のあたりに少し照準がずれたんだ」

 

「つまり?」

 

「ドミネーターが正常に起動しているとすれば彼女たちの魂はそのソウルジェムに封じ込められている。というよりソウルジェムその物に作り替えられてると推測できるわけだ」

 

「そんな細かいところまで気を向けるだなんて流石ですねぇ…」

 

「…とするならば、だ。君は知らないと思うがソウルジェムが濁るということは魂が濁るということになる。魂が濁り切るといったい何が起きるんだろうね?」

 

僕は少し冷えた紅茶に手を付け、グソンを見つめた。

グソンは話を聞きながら理解しようと頑張っていたようだがいまだ答えは出ないようだ。

 

「魔法少女の魂が濁る…まさか魔女になるっていう安直な答えじゃあ…」

 

「その通りだ。たぶんそれが答えなんだ。魔女の結界なんてふざけたものをただの人間が作れるわけがない。内装ホロといった類でもない…とするならばやっぱりあれも魔法だったというわけさ」

 

少し興奮気味に僕はまくしたてた。

 

「この二つの疑問からくる仮説はたぶん間違っていない。他にもまだ疑問はあるがまだ情報が少ない。それはまた今度にしよう」

 

「しっかし、ソウルジェムってやつが魔法少女の魂に改造されてるとしたら肉体の方も、もう人間じゃあないのかもしれませんねぇ…」

 

皮肉めいた笑みを浮かべそう呟いたグソンに僕は驚いた。

 

「確かに…いいところに目をつける。僕たちの世界でも全身の義体化なんていうものがあったんだ。魔法少女や魔女という存在がある以上彼らの肉体はそれ以上にハイスペックな物に変わっている可能性は十分にある」

 

「しかし俺達の世界では知識として当たり前だった義体化がこの世界じゃあ…ねぇ。中学生で全身義体化なんて俺には耐えられませんねぇ…」

 

「それは精神と肉体をどう認識するか…さ」

 

「…といいますと?」

 

「精神は肉体を生き延びさせるための単なる機能であり手段だ。肉体の側がより生存に適した精神を求め、簡単に交換できる世界が来れば、逆に精神…心のほうがデッドメディアなってしまうかもしれない。人間が究極的な意味で社会的に生きるのであれば魂や精神などいらないわけだが、彼女たちは滅びない肉体を手にしたわけだから生存に適した精神はいらなくなる。つまりはある意味では完成された人類という考え方ができる」

 

しかし、と槙島は続ける。

 

「こんな考えをできる中学生なんていないだろう。僕だって中学生でここまでの事を考えたことなんてない」

 

「旦那に無理だったなら、この世界のどの中学生にもきっと無理でしょう」

 

グソンは呆れ顔で槙島に言った。

 

「ははは言ってくれるね。しかしまぁ彼女たちの存在でデカルトの心身二元論や機械論は修正せざるを得ないだろうな…」

 

「哲学なんてものは時代の表現みたいなものでしょう?」

 

「ヘーゲルか…まぁ確かにそうなのかもしれないね」

 

と完全に冷え切った紅茶を飲み干した。

 

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