西方妖々花   作:縁々

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 テスト期間ですよ。気にせず小説書きますよ。


 授業の合間に投稿。


2016.5.16 誤字修正しました。


妖花と異変①

 良い事があると、まるでバランスを取るかのように悪い事が起こるよう、世の中は出来ている。これは以前読んだ本に書いてあったことだが、案外的を射ているように思える。

 ちょうどこの前姉様が結婚した。これは良い事だ。しかし、それに伴い姉様が人里に移ってしまった。夫が人間である以上仕方の無い事だが、お陰で私は寂しい思いをしている。これは悪い事だ。

 勿論、姉様は料理番の仕事を続けているが、それが終わればすぐに愛の巣へ帰ってしまう。

 幽々子様も同じく寂しいらしく、さらに私に構ってくださるようになった。良いことだ。しかし、寂しいから絶対魔法界には行かせないと言う。これは不味い。

 今まではじーさま先生と紫様の協力を得て、幽々子様の説得に挑戦していたが、姉様の結婚によって苦労が水の泡。スタートラインに戻ってしまった。いや、むしろ反対の意識はより強くなったかもしれない。

 

 そこで、紫様は一計を案じた。閃いたときの顔はとても不吉だった。

 紫様の策略によると、私は強い妖怪と戦う必要があるらしい。さらにその妖怪は人間に都合の悪い者ほど良いようだ。

 私はこの条件にぴったり当てはまる妖怪に心当たりがあった。種族を空亡と言う。百鬼夜行絵巻の巻末に画かれ、最強とも噂される謎多き妖怪だ。外見は黒い太陽のような姿で、幻想入りしてからそう長くない間に数人の被害を出したという。

 

 ぶっちゃけルーミアの事である。

 

 一度遠目に見たことがあるが、彼女の力は大妖怪に数えられるほどのものだった。所謂exルーミアとか言う状態なのだろう。

 端から見て私に勝算は無い。が、今回はあくまで戦うことが重要であって、勝敗は問わないらしい。負けた際は殺される前に紫様が救出してくださるようだから、経験だと思って挑んでみよう。

 

 

■□■□■□

 

 

「うわー。めっちゃ暗いです。ブラックホールみたい」

 

 今回の標的を見て、私は思わず呟いた。

 無縁塚の程近く。ルーミアと思わしき、昼の光の一切を拒絶する悍ましい闇の塊が、上空からはよく見えた。休んでいるのだろうか、黒い太陽はその場に留まり動く気配がない。

 発せられる妖力は途方もなく大きい。今からあれに挑むのだと思うと、背中を冷たい汗がつぅと撫でた。

 

 奴を倒すならば先ず、あの闇をどうにかしなければならない。事前に人里で調べられれば解決策も見えたのだろうが、生憎目ぼしい情報は何も無かった。ならば文字通り暗闇を手探るようにして、見つけ出さなければならないだろう。

 

 私は徐に懐から黄リン製のマッチを取りだし、火を点けたそれを眼下の暗闇に放った。マッチの小さな光は闇を晴らすことはなかった。黒い太陽に飲み込まれるとその姿を消したのである。

 光が闇に呑まれたのか、それともマッチがルーミアに喰われたのか、それすら此方からは伺い知ることはできない。どちらにせよ、無鉄砲にあの塊へ突撃することは得策でないだろう事が良く解った。

 

 次いで私が懐から取り出したのは長いロープだ。五十メートル程有るそれを慎重に垂らしていく。

 ロープの端が闇に触れた。瞬間、強力な力で吸い込まれる。

 

「うわわっ?!」

 

 引き込まれまいと空中で踏ん張るが、ロープはどんどん手から滑っていく。このままでは手に摩擦で火が着きかねないと判断し、泣く泣く手を開いた。

 ロープはまるで掃除機のコードを巻き戻すように、深淵の向こうへ消えていった。

 

「あっつ?!熱ちちっちち!」

 

 私は宙でのたうち回る。ロープの摩擦熱に伴う苦痛は、かなり拷問的であった。

 ほんのりと焦げた臭いを発する掌に必死に息を吹き掛け、熱を冷まそうとする。私の能力は切り傷や骨折等の単純な怪我を直すことに長ける反面、火傷や壊死等の複雑な怪我に効果が薄いのである。

 

 大体五分後。ようやく掌の熱を飛ばし終えた私は改めて憎き敵を見やる。黒いまりもみたいな塊は依然として動かず、其処に在った。

 再三私は懐に手を入れ、取り出したのは多数保持する杖の内の一本だ。杖コレクションNo.36『メルラン・プリズムリバーの髪及びデイジーの花 二四センチ』。本人の性質に由来するのか光呪文に適する。また、使用した際に対象へ幸福感を与えるが故か、服従の呪文にも一定の適正を示す恐るべき杖である。

 私は黒まりもへ照準を合わせ唱えた。

 

「ルーモス・マキシマ─強き光よ─」

 

 途端に杖の先端は発光し、それを黒まりもに向かって放出する。本来なら着弾と同時にスタングレネードよろしく閃光を放つ魔法なのだが、やはり暗闇に飲み込まれて消えた。

 これが駄目ならいよいよ打つ手がなくなったな。さて、どうしようか。私が思案していると、突然まりもが震え出す。

 何事かと観察しているうちに、まりもは動きを大きくしていき、遂には暴れだして周囲の木や岩をなぎ倒し始めた。

 そして、闇の中から一人の妖怪が飛び上がり、叫んだ。

 

「まっっっずうううううぅぅぅ!!」

 

 誰あろう、ルーミアである。

 ルーミアは口から汚いものを取り除こうとするように、唾をそこらじゅうに吐き出している。ちょうど、私が今よりずっと小さかった頃に作った泥のおはぎを誤って幽々子様が飲んだ時のような反応だ。

 ルーミアは一通り唾を吐き終えると、こちらの方をきっ、と睨んだ。

 

「アンタね!さっきからワタシに妙けったいなもの喰わせてたのは!憤ろしいわ!!」

 

「アッハイ。すみませんでした」

 

「ごめんで済んだら、博麗の巫女は要らないんだよ!」

 

「おっしゃる通りです」

 

 ヤバい。何がヤバいってルーミアの弁が正論過ぎてヤバい。今だかつてここまで正論を振りかざす妖怪が居ただろうか。いや、居なかったろう。

 他人に嫌がらせをすることは妖怪として何ら間違ったものではないのに、段々私の方が悪者みたいに思えてくる。ああ、いや、妖怪として生まれた時点で悪者なのか。

 

「アンタ今別の事考えてたろ!」

 

「あっいえ、そんなことは」

 

「いーや、考えたね。ワタシには分かるんだ。アンタどうせあれだろ?胸が大きけりゃ何しても許されると思ってんだろ?これだから胸のデカイ馬鹿女は嫌いなんだ。妬ましいったらありゃしない!」

 

 ルーミアは嵐のように捲し立てる。どうも記憶に有るルーミアとは様子が違うようだ。

 此処で私は一つの推測をたてた。彼女が使った妬ましい、と憤ろしい、の二つの言葉。そして、黒まりもが見せた食い意地から想像するに、もしや今のルーミアの能力はマイナスの感情や欲望──つまり、心の闇にまで作用するのでは?と。

 そしてどうにも能力を御しきれていないようだ。彼女の能力、『闇を操る程度の能力』の力が体のいたるところから漏れだし、黒煙のようになっている。

 容姿も記憶に有るものとはかなり異なるようだ。背は変化無いようだが、髪は黒く、眼も一切の光を写さない漆黒であった。ここまで表情豊かなレイプ目キャラも珍しいのではないだろうか。

 

「話聞けよ!」

 

「きゃっ」

 

 むんずっ、と効果音が付きそうな調子で、ルーミアが私の胸を鷲掴みにした。そのまま二度、三度と揉みしだく。

 

「柔らかい。柔らかい。柔らかい。柔らかい。妬ましい。妬ましい。妬ましい。妬ましい。・・・・ぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱる」

 

 いや、それ別の人の持ちネタ!(決してパルスィの公式設定ではありません。あしからず)

 人の胸を揉みながら怨嗟の声を壊れたレコードのように吐き出し続けるルーミア。だがそれは本当に壊れたようにピタリと止まった。

 

 操り糸に吊られた人形みたいに、不自然な動作で私の顔を見上げて、口を裂けんばかりに吊り上げて言う。

 

「デモオイシソウ」

 

 ぞっとした。私が何か指示を出す前に、私の体は刀を抜き放ち、ルーミアの首を跳ねていた。

 はっ、とルーミアの首を落としたことに気づいて、さらに返す太刀で私の胸を掴む腕を肩から切断した。そうしなければ殺されるような予感がした。

 急いで距離をとる。切断した腕は私の胸に食い付いたままだ。

 

「ルーモス・マキシマ─強き光よ─!!」

「ルーモス・マキシマ─強き光よ─!!」

「ルーモス・マキシマ─強き光よ─!!!」

 

 強化された光の呪文を三度受けて、漸く腕は離れた。食い込んだ爪が付けた傷を能力で素早く直す。

 ルーミアの方を警戒する。彼女は既に首も腕も生えていて、ニタニタ気味の悪い笑顔で私を見ていた。

 

「必死になっちゃってさぁ。カーワーイーイー。スッゴクそそるよアンタのその怯えた顔」

 

 そう言って舌舐めずりする。蛇のようで気味が悪い。

 

「何ですか貴女百合ですか。生憎私の恋人は歳上の堅実な男性と決めているんです。出直してきなさい」

 

「ンフフ。レズじゃないよバイだよぉ。でも、肉質は柔らかい女の子が好みかなぁ」

 

 ルーミアの言動一つ一つから隠しようのない狂気が垣間見えた。よく目を凝らすとルーミアが周囲から何か黒いものを取り込んでいるのが解った。・・・あれはこの地の怨念か。ルーミアが豹変した原因もあれと見て間違いないだろう。あれを吸収され続けるとヤバいのは火を見るよりも明らかだ。私は攻勢に出る事にした。

 先ず、私が戦いやすい環境を作るため、草薙の剣の切っ先を天上に向けて叫ぶ。

 

「草薙の剣よ雨をもたらせ!」

 

 私の言葉に喚ばれて、雲が頭上に集合し始める。これで直に雨が降るだろう。

 お次は杖を掲げ、唱える。

 

「メテオロジンクス・レカント─気象呪い崩し─」

 

 天気を変える魔法だ。これで少しは雨の助けになるはず。

 私が呪文を唱えている間も、ルーミアは余裕の表情でこちらの様子を見ていた。その余裕も今のうちだ。泣きっ面掻かせてやる。

 

「アクシオ─来い─!私の杖全部!!」

 

 呼び掛けに応じ、イナゴの群れのような集団が猛スピードで私に飛んでくる。それらは私を取り囲むようにして停止し、一斉に先端をルーミアに向けた。これにはルーミアも面食らったよで、暫し目を瞬かせる。だが、すぐに馬鹿にしたような嘲いを見せた。

 

「はっ馬鹿馬鹿しい。数さえ揃えれば勝てると思いまちたかー?ガキじゃねぇんだから、も少し頭捻れや」

 

「ふふ。馬鹿にしたければするがいい。けれど四~五十年後にはこの戦法が幻想郷のスタンダードになってますよ。きっと」

 

 総数百八十三本。全ては私が保有する魔法の杖だ。それぞれが私の友人達の髪から作られており、性能こそ尖っているものの、品質は彼のオリバンダーにさえ負けないと自負している。

 それらが一斉に、火を吹く。

 

「ルーモス・マキシマ─強き光よ─!」

 

 




 一章ボス exルーミア表る。というわけでして、如何だったでしょうか。作者が考え付く限りの闇々しさをぶっ込んでみました。「俺の嫁がキチガイになった?!」「よし。作者氏なす」という方もいらっしゃるでしょうが、どうかお怒りをお鎮めくださいますようお願い申し上げます。次話では正気に戻りますから。



──形が定まらない程度の能力についての補足
 怪我の治療の際に妖花が言う「複雑な怪我」とは、怪我を負うか治る時のプロセスを妖花が理解しているかどうかを指します。なので「複雑骨折」は妖花が言う「複雑な怪我」の範疇には入りません。
 ちなみに火傷は高熱などによって細胞膜が破れた状態などを指すそうです。妖花の能力では細胞単位の細かい操作は出来ませんし、無理に理詰めで考えると基本的にフィーリング命な能力行使に影響が出るため、どう足掻いても「形が定まらない程度の能力」で火傷を治すことは出来ません。
 一応回復力を増強する手もありますが、さじ加減を間違えると過剰回復により癌のような状態になったり、死後も体が活動を続けたりする弊害があります。


──能力による治療のプロセス
 紙粘土で考えてください。
 自然治癒は損傷部分に新しい粘土を継ぎ足して治します。怪我の程度によってはそこだけ色が違ってしまったり、脆くなってしまいます。これが傷痕や後遺症です。
 能力による治療では怪我を負った場合、バケツをひっくり返して粘土を柔らかくし、一から同じ形のものを作り直します。後遺症などが起こりにくい反面、一つ間違えると別物が出来上がる危険な方法です。
 能力で怪我を直すプロセスは治療というより修理に近く、そのため作中では「治す」ではなく「直す」を使っています。


──exルーミア
 実は、鈴仙と妖花の会話にちょびっと出てました。鈴仙は「新顔が暴れている」と言っていましたがこれは正確ではなく、実際はずっと黒まりもに閉じ籠っていたが、興味本意やうっかりで触れた者を反射的にごっくんしてただけ。
 ex仕様では「常闇の妖怪」というより「闇」そのもののため、人間が闇に抱く根元的な恐怖を常に供給され、外でも問題なく活動できる。という設定。
 ちなみに作者はルーミアの元ネタ空亡説は否定派。ここまで書いて何言ってんだと思うでしょうけど。


──闇を操る程度の能力(ex仕様)
 物理的、概念的のみならず比喩的な闇すらも操る反則級の能力。しかし制御は難しく、其処に居るだけで周囲のあらゆる闇を増幅させたり、惹き付けたりしてしまう。
 それを防ぐため、普段は暗闇の繭の中で眠っている。つまり、妖花がちょっかいかけなければただのおとなしい危険物状態だった。
 常に自分の心の闇を増幅し続けるため自然とルーミアは苛烈な性格になる。
 途中からのキチガイっぷりは、惹き付けてしまった怨念に取り付かれ、正気が薄れ、怨念を能力で増幅し、それによりさらに正気を引き換えに力を増し、増した力でまた怨念を引き付けるという永久機関的な性質によるもの。空亡最強説もあながち間違っていない。


──杖コレクション
 妖花が友人達の髪と、それぞれに相性の良い植物から作成した杖。総数百八十三本。これからも増える予定。
 作成の際に自身の血液を混ぜ混むことで、適合する杖を作り出すことに成功している。血を分けたためか、それぞれの杖とは主従というより兄弟のような仲。忠誠を誓った杖ほどの力は引き出せないが、誰かに絆を奪われることもない。


──杖の例
①「魂魄妖忌の髪及び本枇杷」生真面目で忠実。三十センチ。切断呪文に抜群の適正を示す反面、他の呪文はからっきし。
②「今代博麗の巫女の髪及び綿の木」サボり癖が目立つがやる時はやる。二十三センチ。盾の呪文に適する。
③「八雲藍の尾の毛及び夏梅」生真面目だが暴走癖が有る。三十二センチ。変身術に適する。
④「因幡てゐの髪及び松」邪かつ無邪気。二十四センチ。ジンクス─ユーモアの有る呪い─に凶悪なまでの適正を持つ。
⑨「チルノの髪及びスノードロップ」無邪気で⑨。三十三センチ。グレイシアス─氷河となれ─一辺倒。
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