西方妖々花   作:縁々

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 テストの次の週に模試とかうちの学校マジ鬼畜。


妖花と掃除と家族愛

 最近、私の部屋が混沌としてきている。

 

 先ず、引き戸を開けると狸の信楽焼が出迎えてくれる。彼は脆い焼き物でありながら、一切の破損無く幻想郷に流れ着いた猛者だ。無縁塚で仁王立ちする彼に出会ったときは、運命を感じたのだが、最近は乙女の部屋にこれはどうなのか、と思い始めている。

 

 そして、彼の脇を抜けると現れるコレクションの山、山、山。

 

 向かって右側の壁にはマジックアイテムの数々。火が消えないランタンや、勝手に掃除をしてくれる箒のような便利グッズから、当たった相手を豚に変えるダーツ等のタチの悪い悪戯道具。魔法の杖に空飛ぶ箒のように無難なもの、果てには勝手に呪ってくる藁人形など、物騒極まりない物まで、実にバリエーション豊かである。

 この中のいくつかは魔法界と言うところで作られた物のらしい。どうやら転生先のくじ引きはどちらも反映されていたようだ。何時かは魔法界に行ってみたいが、幻想郷から出る方法が検討つかない。なので今は保留している。

 

 左には大量の本。歴史書から魔導書までオールジャンル揃えてあるが、これがなかなか場所を取るもので、近く他の壁を侵食しそうだ。実は本棚と床の隙間には春画が隠してあったりする。興味はそれほど無いが、珍しいので保管してあるのだが、正直対処に困っている。本当に興味は無いのだが。

 

 そして中央、ベッド脇にはちょっとした小物類が棚一杯。装飾品やオルゴール等が呪いの有無関係なく、置いてある。

 

 正直、乙女の部屋としては落第点だし、掃除婦の部屋としてはクビに成っても良いレベルである。

 これは不味い。私は思った。これでは、主人公としても、女としても終わっていると。コレクターにも死守すべき一線があるのだ。

 

 そんなわけで大掃除をしようと思う。

 

 

■□■□■□

 

 

 その日の夜、私は父様を誘って縁側でお酒を飲んでいた。

 たわいない話をしながら、合間にお酒で唇を湿らせる程度に呑む。最近になって私は自身の酒癖の悪さを知ったので、がっついたりはしない。

 

「そういえば、今日は一日中部屋に籠っとったの。何しておったんじゃ?」

 

「さすがに部屋が見れたものではなくなってきたので、部屋の掃除を。まあ、色々目移りして捗りませんでしたが」

 

 そうなのだ。つい手に取った本を読んでしまったり、小物の思い出を思い返したり、マジックアイテムに呪われたりして、これっぽっちも部屋が綺麗にならなかった。

 お酒を一口煽ってから、ため息をつく。

 

「はぁー。能力を使えば、楽にかたがつくのですが」

 

 実は三年前に私はとある能力に目覚めている。が、この能力がかなりのじゃじゃ馬で一度暴走させてしまったのだ。その時、運悪く能力が博麗大結界に干渉してしまい、危険と判断した八雲紫様に監督下以外での能力の行使を禁じられてしまった。以後、私は彼女の式神の藍様の元で能力の制御を学んでいる。

 

「藍殿に許可を貰えば良いじゃろう。丁度、明後日に紫殿がお越しになるそうじゃし」

 

「藍師匠を私の部屋にお招きするのはちょっと・・」

 

「まぁ、人に見せられる状態でないのは確かじゃな」

 

「はっきり言いますね。それに掃除ごときで藍師匠の手を煩わせるのも気が引けます」

 

「弟子が師匠に頼らんでどうする。そっちの方が不安になるわい」

 

 それは、遠回しにもっと甘えてくれと言っているのだろうか。

 私は、何となく悪戯心のようなものが湧いて、父様の足の間に割って入った。そして、ぎゅっと抱きつく。

 霖之助が言うには、これが私が酔っぱらったときの鉄板行動パターンらしい。酒が少し入っているからか、恥ずかしいとは思わなかった。

 

「酒が回ってきたかの?」

 

 父様が私の頭を優しく撫でた。私はそれが心地よくて、甘えるように父様の腹に頭を擦り付ける。

 父様は杯に残った酒を喉に流し込み、一つため息をついた。そして自嘲するように言う。

 

「酒の力に頼らなければ娘を甘やかすこともできんとは、我ながら情けない親じゃな」

 

「・・・いつも甘えさせてもらってますよ。私は皆が側に居れば、それで幸せなんです」

 

 父様の私を撫でていた手が止まる。

 

「なんじゃ、酔っておらんだか」

 

「甘えてほしいなら、言ってくれれば良いですのに」

 

「・・わしは元は人間じゃった。妖怪の子供にどう接すれば良いか、よう分からん」

 

 なるほど。私は納得した。人間に妖怪を育てろと言っても、戸惑うのは無理のないことだ。人と妖怪では何から何まで違うのだから。それが我が子では戸惑いはより大きなものとなるだろう。

 

「父様は私がお嫌いですか?」

 

「そんなことはない!愛しておる。お前はワシの大切な娘じゃ」

 

「なら、今のままで良いんじゃないですか?大切なのは気持ちですよ。勿論、私も父様が大好きですし、姉様も同じ気持ちだと思います」

 

 父様は私の言葉を聞いて、暫しの間空を見上げていた。冥界の空に月は無く、どんよりとしている。

 

「そうじゃな」

 

 父様がポツリと呟く。

 

「どうやらわしの一人相撲だったようじゃ。妖花のお陰でスッキリしたわい」

 

 父様は晴れ晴れとした顔で笑った。

 

「よし。気持ちの整理もついたところで、呑むとするかの。ほれ、妖花もどんどん呑めい」

 

 そう言って父様は私の杯に溢れそうになるほどのお酒を注いだ。私は慌ててそれを呑む。すると、お父様がまた注ぐ。

 

「もしかして、酔わせようとしてます?」

 

「もっと甘えてほしい気持ちは変わらんからの。甘々の妖花は捨てがたい」

 

 わずかに赤らんだ顔で父様が笑う。

 今日だけで好々爺然とした雰囲気が随分増したように思う。見た目は全然若いのに。

 

 父様が次々と注いでいく酒を呑むうちに、私の意識は蕩けていった。

 

 

■□■□■□

 

 

 あの夜から2日経ち、私は不思議な空間に居た。

 立っているようでもあり、飛んでいるようでもある。前を見ているようでもあり、天を仰いでいるようでもある。本当に不思議な空間だ。辺りは暗く、そこかしこに目が浮遊している。

 ここは八雲紫様が作り出した空間だ。

 

 私の隣には能力制御の指導役の藍師匠が。私の手元を注視している。

 

 私は今、試験を受けている。卒業試験とでも言うべき、重要な試験だ。

 事の発端は昨日のことである。昨日、白玉楼に遊びにいらっしゃた紫様に付き添われた藍様に、能力の使用許可を求めたのだ。

 これに対し、藍様はとある提案をした。「最近は能力も安定してきたし、監視をなくして良いかもしれない。試験をして、その結果によっては卒業しても良いだろう」と。

 その様な訳で、今回、卒業試験という運びになったのである。

 

「先ずは初歩だ。その石に能力を使ってくれ」

 

 藍師匠の言葉に従って、手に持ったこぶし大の石に能力を行使する。すると、石は次第にその形を歪めていく。霧のように揺らめいていき、その様はひどく曖昧だ。

 これが私の能力『形が定まらない程度の能力』。文字道理、様々な物質や性質をあやふやな状態にしてしまう能力だ。

 

 以前暴走させてしまった時は博麗大結界の構成式を滅茶苦茶にし、危うく大穴を開けるところだった。

 

「次は応用だ。その石を好きな形に変えてみて」

 

 この能力の本質は情報の改竄である。この世界を情報の集積体と考えたとき、この能力はそれをぐちゃぐちゃにかき混ぜてしまう。ゲームでいうところのバグのようなものだと考えれば良い。

 このバグを利用して、情報を望む形に整えるのがこの能力の主な活用法である。

 

 私はどんな形にするか少し迷って、猫に決めた。私が頭の中に猫の姿を思い浮かべると、石も二頭身のデフォルメされた猫の姿をとる。カラーリングは橙風にしてみた。可愛い、中々の出来だ。

 

「可愛い」

 

 藍師匠が小さく呟いた。

 

「なあ、妖花。これもらって良いかな」

 

「え?ああはい構いませんよ」

 

「ありがとう」

 

 手乗り橙ちゃん(仮)を藍師匠に手渡した。藍師匠はそれを受け取ると、色々な角度からしげしげと眺める。

 

「良いなぁ、猫可愛いなぁ。今度、猫の式でも作ろうかなぁ」

 

「あのー?藍師匠、試験は?」

 

「へ?あ、ああ!そうだったな!」

 

 大丈夫かなこの人。やはり、紫様の式なんてやっていると、癒しが欲しくなるのだろうか。そういえば、よく私の頭を撫でてくるし。

 

「ごほん!さて、次は自分に使ってみてくれ。くれぐれも前みたいな事にはなるなよ」

 

 藍師匠が言う「前」とは以前の修行の失敗のことだ。そのとき私は自分の手の形を変えようとしたのだが、上手く行かず腕がチーズのようにどろどろになってしまったのだ。あの失敗以来、私は能力の制御によりいっそうの注意を払うようになった。

  なお、腕は紫様に治していただいたので安心してほしい。

 

 先ず、腕に意識を集中させる。するとやがて、私の肘から先が刀の刀身に姿を変えた。やはり、慣れ親しんだ刀の形が一番取りやすい。

 

「よし。じゃあ次は全身に作用するようにしてくれ」

 

 全身、というと刀にするわけにはいかない。武器人間にはなりたくないからだ。

 ならば、と私は全身に力を込めた。先ず、髪の色が銀から金に代わり、頭から大きな耳が生える。次に腰からは九本のふさふさとした尻尾。最後に、日に弱く忌々しいほど白い肌を健康的な血色に変えれば、似非九尾の妖狐の完成である。

 

 私が耳や尻尾を触って、出来の良さに満足していると、藍師匠が私に抱きついてきた。

 

「可愛い!」

 

「わ、あ、あの?藍師匠?」

 

「お姉ちゃんって呼んで!」

 

「は?」

 

「お・ね・え・ちゃ・ん!」

 

「お姉ちゃん?」

 

「可愛いいぃぃーーー!!!」

 

 藍師匠の私を抱き締める腕がどんどん強くなっていく。強すぎて中身が出そうだ。

 本当に大丈夫だろうかこの人。

 

「落ち着いてください藍師匠!弟子をプチっと潰すつもりですか」

 

「は?!すまない取り乱した」

 

 そう言いながらも彼女に私を逃がすつもりはないらしい。依然、私は腕の中にホールドされたままだ。

 

「あの、試験は」

 

「このままでやろう」

 

「えー」

 

 大丈夫じゃないわこの人。

 藍師匠は一つの狐火を出現させると、言った(私をホールドしたままで)。

 

「最後は性質変化だ。この狐火の温度を上げてくれ」

 

 藍師匠が私に指示する(私をホールドしたままで)。

 私は狐火に手をかざし⎯抱き締められているのでやりにくかった⎯、力を送る。すると狐火は段々と火力を上げていき、側にいるだけで燃えてしまいそうになる程になった。

 

「よし。良いだろう合格だ」

 

 そう言って藍師匠は狐火を吹き消した(私をホールドしたままで)。

 

「あの、終わったなら離してく「だめだ」

 

 藍師匠は腕にぎゅっと力を込めた。

 

 

■□■□■□

 

 

 戸を開けて自室に入る。

 狸の信楽焼くんはもう居ない。彼は霖之助の家に居を移したのだ。

 

 部屋は一週間前とは様変わりしていた。

 

 先ず、広さが違う。私はこの部屋の空間を弄り、無理矢理拡張したのだ。現在の広さは元の四倍程だろうか。

 昔の偉い人は言った。置く場所が無いなら、作ってしまえば良いじゃない、と。

 何分面積が余っているので、コレクションも余裕を持って並べられている。

 

 次に押し入れを作った。いくらでも入る魔法─正確には妖術─の押し入れである。名付けて、妖花ちゃん式四次元押し入れ!

 拡張に失敗して、よくわからないことになった空間をここに押し込んである。

 

 私は新たに設置した西洋式の机の上に置かれた腕輪を手に取ると、部屋を後にした。

 

 

■□■□■□

 

 

 庭で素振りをする父様を見つけて、駆け寄る。

 

「父様!」

 

「おお、妖花か。何かようかの?」

 

「能力でこれを作ったんです。父様にプレゼントしたくて。貰ってくれますか?」

 

 私は先ほど部屋から取ってきた腕輪を差し出した。

 

「中々粋な腕輪じゃのう。有り難く貰うとしよう」

 

 父様は私から腕輪を受け取ると、早速右腕に嵌めた。

 

「能力で作ったと言っとったが、何か特別な効果でも付与したのかの?」

 

「ええ。それは妖力を霊力に変換する事が出来ます」

 

「なんと!」

 

 この腕輪は元々、私が魔法を使いたくて、妖力を魔力に変換出来るようにした時の副産物だ。

 父様は妖怪に変じて、霊力を失ったことで代わりに妖力を得たが、それを上手く使えていなかった事を思い出し、丁度良いので腕輪としてプレゼントすることにした。

 

「早速試してみてください」

 

「おお、わかった」

 

 父様は目を瞑り、霊力に変換された妖力を身に纏っていく。力が限界まで高まったところで、一つ息を吐き出した。

 

「ふぅ。懐かしい感覚じゃ。ありがとう妖花、最高の贈り物じゃったよ」

 

「喜んでもらえて良かったです。早速試し切りしてみましょうよ!」

 

 私がそういうと、父様は頷き庭にいくつも設置してある巻藁の正面に立った。

 すらりと刀を抜き、袈裟懸けに一閃。巻藁は滑らかな断面を晒した。何時見ても美しい動作だ。

 

「どうですか?」

 

「良い。とても良い。重石がとれたような気分じゃ」

 

 その時、ずしん、と重い音が辺りに響いた。音源を見ると、巻藁の延長線上に生える木々が次々と倒れていくではないか。

 その木々はどれもが滑らかな断面を晒していた。そう、丁度今父様が切った巻藁のような。

 

「暫くは練習が必要かのぅ」

 

「ですね」




⎯⎯妖花ちゃん
 そうだよ!ファザコンだよ!


⎯⎯妖忌さん
 パワーアップしました。
 ちなみに、ラストのシーンでは500メートル先の木まで切れていたとか。


⎯⎯藍さん
 書いてて思った。誰だお前。もはや原型ねーよ。


⎯⎯妖花ちゃんズコレクション

├狸の信楽焼
│ 今は霖之助の家の玄関でどっしり構えてる。

├消えないランタン
│ 気づけば一酸化中毒に。

├その他呪いの品
│ 週五で呪われる。

├本類
│ 約三割は呪われてたり、付喪神だったり。

└春画
 えろい。妖花ちゃんもお年頃。


──形が定まらない程度の能力
 ネーミングセンスェ。主な用途は以下の通り。

 ①物質の形を好きに整形する。
 能力の及ぶ範囲は手が触れているもののみ。
使用の際には妖力を消費し、消費量は使用する前と後の形が違うほど大きい。

 ②物や現象の性質を改竄する。
 能力の及ぶ範囲は前者なら手が触れているもの。後者ならその現象の影響が及ぶ範囲で中心に近いほど干渉しやすい。
 例)炎なら熱が伝わる範囲から干渉でき、直接手を突っ込めば最も干渉しやすい。まあ、熱すぎてろくに制御できないだろうが。

 性質を強化することに長け、弱化させることは得意ではない。なお、ここでいう性質とは、妖花の認識に強く依存する。
 例1)マッチの火を強力な炎には出来ても、冷たい火にはできない。
 例2)業物の刀の性質を強化すると切れ味が増し、なまくらの性質を強化すると切れ味がより悪くなる。
 例3)水は中間の性質を持つと妖花が認識しているので、熱湯にも氷にもできる。
 使用には妖力を消費する。消費量は安定しない。

 ③空間に干渉する
 干渉する範囲は、結界などを用いて指定しなければならない。
 妖花は空間を正確に把握しているわけではないので、適当に空間を弄り、望んだ効果が出るまで試しまくる。ほとんどくじ引きに近い状態。そのうちうっかりブラックホールとか作るかも。
 使用には妖力を消費する。消費量は安定しない。

 ④対象を不定形にする
 結界や魔方陣の構成を滅茶苦茶に書き換え、誤作動させたり、破壊したりする他、敵に直接使用しよくわからない何かにすることも可能。多分生命機能は維持できない。が、生命体に干渉することはかなり難しい。これは魂や精神など、妖花が認識できないものを含めて生命体であるため。逆に魂が直接形をとったもの亡霊などは魂を視認できるため幾分干渉しやすい。

 以上、「ぼくがかんがえたはずかしいちゅうにのうりょく」でした。
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