ようやく書ききったと思ったら、メンテナンス中で三割吹き飛んだ・・・。自動保存がなかったら死んでました。
種族的な魔法使いとは、生まれた頃から魔法が使える存在、若しくは捨食の術と呼ばれる魔法によって食事の必要がなくなった存在を指す。
更に、魔法使いが捨虫の術という、成長や老化を止める魔法を習得すると、その存在は完全な魔法使いと呼ばれるようになる。食事も時の流れも捨てて、知識を貪る妖怪だ。
つまり、魔法を使えるだけなら「ただの魔法使い」。食事の必要がなければ「種族的な魔法使い」。加えて不老なら「完全な魔法使い」ということである。
この定義でいうと、魔法族はただの魔法使いだ。
ハリー・ポッターに登場する彼等は魔力こそ備えているものの、それ以外は普通の人間─彼等が言うところのマグル─と何ら変わらない。霊力が魔力に成り代わっただけの存在だ。
また、魔法族から種族的な魔法使いに至るものは極端に少なく、ここ数百年は一人も出ていない。彼等にとってそれは眉唾物のお伽囃子でしかなく、目指すのは子供だけ、というのが現状である。
何故このようなことになったのかと言うと、それは彼等の魔法に対する意識によるところが大きい。
通常、魔法使いは知識やそれを得る過程をこそ重視し、結果や成果はそこまで重要視しない傾向に在る。反して魔法族は魔法を生活を便利にするもの、あるいは自衛の道具程度に考えている。
魔法に求めるものが端から違うのだ。
魔法の森に住む魔法使い達の中には「奴らが魔法使いを自称するだけでも腹立たしい」と言う者まで居る。
魔法使いに限らず、魔法族を良く思わない妖怪は多い。
私を含め、あまねく妖怪の全ては人間の敵である。私が人を殺めたことがないと言えば嘘になるし、如何に人間と友好的に接しようとも、彼等の恐怖心を啜って生きている事実に変わりはない。
が、魔法族は妖怪を恐れない。と言うより、存在を正確に認識していない。生態の良く解らない魔法生物程度に思っている。
無知ほど怖いものはない、と言うのはこのような事を言うのだろうか。
河童は人間を盟友と認識している種族だが、やはり魔法族を良くは思っていない。寧ろ魔法族に向ける嫌悪はいっそう強いものだ。
彼等が人間を盟友視するのは科学を究明する同志だからである。因って科学やそれを信奉する存在を蔑む魔法族は最も憎い敵と言って良い。
魔法族の教科書には河童にお辞儀すれば、皿の水をこぼして無力化できると記してあるそうだが、そんなことをしている間に首を跳ねられてしまっても可笑しな話ではないだろう。
魔法族に対する妖怪の評価は果てしなくマイナスと言って良かった。
結局、私が何を言いたいかと言うと、あまりに魔法族の評価が酷すぎて、このままではハリー・ポッターの物語に欠片も干渉できないかもしれないということだ。
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二週間前のことである。魔法の森に住む魔法族出身の魔法使い─彼も最近の魔法族をあまり良く思っていない─に師事し、ある程度の魔法の実力を備えた私は幽々子様に申し出た。十年ほどお暇をいただき、魔法界に行きたいと。そしてホグワーツという学校に通ってみたいと。
勿論、無条件に休みをくれなんて言うほど私は恥知らずではない。
近頃はマジックアイテムをいくつも製作して、私の仕事を百パーセント代行できるようになったし、幽々子様にも時々長期の休みを頂きたい胸の話はそれとなくしていた。
また、学費についても魔法の師匠に協力してもらい目処がついていた。
しかし、私の願いは秒速で却下された。
曰く「外の世界に行くなんて危ない。魔法族の学校に通うなんて教育に悪い」とのこと。
まさに正論だ。正論過ぎて反論できない。
そもそも百年も生きていない子供の話をしっかり聞いてくれるだけでもありがたい話なのだ。
どうにも幽々子様や両親の態度が頑ななので、私は例の師匠に相談することにした。
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「じーさま先生いらっしゃいますかー?」
木々の間を子供のソプラノボイスが木霊する。
私は魔法の森にひっそりと佇む古城の巨大な門を叩いていた。ろくな手入れをされていない門は叩く度に朽ちた粉を降らせ、今にも倒れそうだ。
私は返事を待つこと無く敷地内に踏み入った。ただし門は潜らず、空を飛んで壁の上を通る。門を開けるのが恐ろしかったからだ。
得体の知れない植物が犇めく庭を抜ける。開けっぱなしになっている玄関を潜り、廊下を進んでいく。
長い廊下を五十メートルほど進めば、何処か別の所から迷い混んできたような真新しい扉の前に辿り着く。
私はその扉を叩いた。
「じーさま先生、妖花です。入りますね」
扉の向こうに話しかけると、少しして独りでに扉が開いた。
その先は不思議な部屋だった。
まず何より広い。半径百メートルは有るだろうかというホール形の空間だった。
そして騒がしかった。膨大な数の実験器具が独りでに動き、常に何らかの物音をたてている。
部屋の中央には一人の少年が腰掛けていた。
年の頃は外で言う中学生くらい。ろくに手入れのされていない緋の長髪を頭の後ろで一纏めにしている。
だが見た目に騙されてはいけない。彼は先で述べた完全な魔法使いで、実際は長い時を生きている。
彼こそ私の魔法の師匠その人だった。
私は飛び交うフラスコやシリンダーを避けながら先生に駆け寄る。
「お久しぶりですじーさま先生」
「お久しぶりじゃ、なんかようかいの?妖花ちゃんにはもう卒業認定あげたじゃろ」
私が挨拶すると先生が私の頭を撫でながら問いかけた。その口調は見た目と釣り合っておらず、なんというか、父様とキャラが被っていた。
じーさま先生は見た目の歳で扱われるのを好まない。私にも老人として接するようにさせている。じーさま先生という呼び方もその現れである。
「相談がありまして」
そうして私は先生に現状を説明した。
先生は私の話を聞くと、首をかしげた。
「そもそも、何故今さらホグワーツに通いたいなどと思ったのじゃ?魔法史以外なら、あちらで学べるもの以上の知識を妖花ちゃんには既に授けたじゃろう」
ぎくり。
これは私にとって難しい質問だ。ばか正直に前世がどうの、原作がどうのと答えるわけにはいかない。
そもそも、明確な理由というものが私には無かった。ただ、ハリー・ポッターの世界に漠然とした憧れが有るのみである。
なので質問に対する答えも不明瞭なものになってしまう。
「何となく面白そうだなと思って。それにほら、じーさま先生もあの学校を出たんですよね?私も先生の母校に興味が湧いたというか」
以前、何気ない会話の中でじーさま先生がホグワーツのスリザリン寮出身だと聞いた覚えがあった。
「魔法界は妖怪にとってあまり良い環境とは言えんぞ?」
「その対策はもうとってあります」
魔法界に限らず外の世界は妖怪にとって最早住みやすい環境ではない。
それは妖怪に対する人々の恐怖が薄れてきたからだ。妖怪に全くと言って良いほど恐れていない魔法族の世界ならばそれはより顕著なものになるだろう。
妖怪にとって恐怖は水のようなものだ。何日も摂らないでいると命に関わる。魔法界は妖怪にとっての無水地帯──砂漠と言って良いだろう。
じーさま先生は何度かうむむ・・と唸った後、一つ頷き杖を振った。すると、何処からともなく黒板がすっ飛んできた。
先生はその黒板に何時からか持っていたチョークで何やら書き込んでいく。
『第一回 妖花ちゃんお外にいきたいの!会議』
「これより記念すべき第一回会議を始める!拍手じゃ。ほれ、ぱちぱちー」
「ぱちぱちー」
この師弟の授業はいつもこんな感じである。
「妖花ちゃんの思いは分かった!さすれば私が、師匠として、可愛い弟子に知恵を貸してやろうではないか」
そう言ってじーさま先生は黒板に文字列を猛スピードで書き込んでいく。
一通り書ききると、不要になったチョークをぽいと放った。放った先で何やら爆発したが私もじーさま先生も気にしない。
じーさま先生は最初の一文を杖で指す。
「プラン1学校に通うのに反対されとるなら別の理由をでっち上げれば良い。私としてはこれが一番無難に思えるのう」
「幽々子様に嘘をつくのは気が進まないです」
「そうは言うがのう・・そもそもお主、元々何か隠しとるじゃろ。私にも、幽々子殿にも、他の誰にもじゃ」
ぎくり。
じーさま先生は私の目をじっと覗き込んだ。瞳孔が縦に裂けた深紅の瞳はずっと見ていると飲み込まれそうだ。
私は慌てて目を逸らした。
「まあ良いじゃろう。私も弟子のプライベートエリアに踏み込むほど野暮なじじいじゃないからの」
じーさま先生は空気を入れ換えるように一つ咳払いをすると、二行目を指した。
「プラン2誰かに説得を協力してもらう。私は生憎幽々子殿と交流はないが、紫辺りなら適任じゃないかの?」
「紫様には負い目というか借りがありまして、そういうのを頼むわけには・・」
借りとは博麗大結界をぶち抜きかけた件の事である。
先生も借りが何かを思い至ったようで、納得したように手を叩いた。
「あの結界を三十層ほど溶かしたやつじゃな。私のプロテゴペアレス─万物から守れ─もドロドロになっとたわい」
幻想郷でも最古参のじーさま先生は博麗大結界の成立にも一枚噛んでいるそうだ。
「申し訳ありませんでした」
「そう落ち込まんで良い。私は気にしとらんし、あのばばあもとっくに水に流しとるじゃろ」
「そうでしょうか」
「どうしても気になるっちゅーなら借りを精算すれば良い。向こうに恩を売り付けるぐらいの勢いでの」
それもそうだ。借りたものは返せば良い。簡単なことだった。
「どうすれば返せますかね?」
私が尋ねると、じーさま先生は首を捻った。
「むう。そーさなぁ、博麗の巫女の仕事でも手伝えばどうじゃ?仲良いんじゃろ?」
「仲が良いというか、私が養ってるというか」
博麗神社のお賽銭のおおよそ七割は私の懐から出ている。今代の巫女はニート気質なので私が無理やり現場に引きずって行くことも多い。
あれ?既にこれ以上ないほどに手伝ってないかな?
私が唸っていると、じーさま先生に肩をぽん叩かれた。
「まあ私の方で何かないか紫に聴いとくでの、今日のとこは帰り。そろそろ日が沈む頃じゃ」
窓を見ると確かに、空が赤らんできていた。
「では今日のところは、おいとまさせていただきます。ありがとうございました」
「おーまた来るとええ」
じーさま先生に一礼すると、私は成長を見せつけるように姿表しの呪文で白玉楼に跳んだ。
体が少しバラけてしまったが、能力で直した。
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妖花が去った部屋で、少年は弟子について考える。
少年の一番新しい弟子は得意と不得意がはっきり別れていた。変身術や魔法薬学、攻撃呪文の才能等は光るものがあるのだが、それ以外が芳しくなかった。
さっきも姿くらましを使っていたが、大方跳んだ先で体がバラけてしまったことだろう。能力で簡単に治療できるだろうから、心配はしていないが、なまじ簡単に治ってしまうせいで失敗を恐れなさすぎるというか、懲りないというか。最近の悩みの種であった。
あの弟子が最も苦手としているのが閉心術である。
自作のマジックアイテムで補強しているようだが、それは任意に起動するものらしく、師匠の前で安心しきっていた妖花は先程も、転生やら原作やら本人にとって重要そうなワードが漏洩し放題であった。
「これは妖花ちゃんが外に行くまでに、どうにか解決せねばならんかのぅ」
あの少女を弟子にとってから気苦労が絶えない。が、あの手の掛かる弟子が孫のように思えて、可愛くて仕方がないのも事実であった。
描いてみました。
一枚目が妖花ちゃん。二枚目が妖忌さんです。
【挿絵表示】
【挿絵表示】
──妖花ちゃん
まだ危なっかしいですが、ホグワーツを卒業できるぐらいの実力はあります。
──じーさま先生
魔法で片手間に建てた城に住む大魔法使い。実際はキッチン、トイレを含む五部屋しか使っていない。
やや女性不信。
正体が分かった人には金一封あげません。サブタイトルでハリポタ好きの人はティンッとくるかもしれません。
──プロテゴペアレス
オリジナル魔法。
peerlessは天下一品、無双等の意味。
──姿くらまし
ワープみたいな魔法。場合によって姿表しとも言う。
──博麗大結界
今作の博麗神大結界は八雲紫やじーさま先生、当時の博麗の巫女など、幻想郷の創設メンバーが築き上げた何百層にも及ぶ大防壁群という設定です。