西方妖々花   作:縁々

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妖花と父親(予定)①

 灰色の空。草木が生い茂るにも関わらず、生気が全く感じられない庭。そしてそこを飛び交う斬撃やら武装解除術やら。

 縁側でそれら、いつもの白玉楼の午前の風景を眺めながら、西行寺幽々子はお茶をすすり、共のおはぎを飲む。彼女にとって、おはぎは飲み物である。

 

 幽々子の視線の先で妖忌と妖花の試合は佳境を迎えていた。

 妖忌が木刀で妖花に一太刀浴びせたが、妖花が吹き飛び様に武装解除呪文で己を打った木刀を吹き飛ばす。その代償に受け身は間に合わなかったようだ。妖花は十メートルほど空を飛び、地面を五メートルほど転がった。

 木刀で打ったにも関わらず妖花の脇腹には大きな切り傷ができていた。しかしそれは一つ瞬きすれば幻のように消え失せる。能力で直したようだ。

 能力を行使する僅かな隙に妖忌が手刀でもって斬りかかる。

 妖花が避け、地面に大きな切断跡が出来た。

 伸びきった右腕を切断せんと妖花が左手に握った草薙の剣を振るうが、妖忌の左手で容易く弾かれた。返す太刀で妖花を二本の手刀が襲う。

 

「プロテゴ・ホリビリス─恐ろしきものから守れ─!」

 

「甘い!」

 

 盾の呪文で最上級のそれを、妖忌が易々と切断する。

 手刀が妖花を切り裂こうかという間際、妖花の右手に握られた杖が強烈な光を発した。一瞬遅れて強い衝撃波と石礫が二人の体を吹き飛ばす。

 ルーモス・マキシマ─強き光よ─とエクスパルソ─爆破─だ。

 

 二人の間に十メートルほどの空間が出来た。

 

「ディフィンド─裂けよ─!」

 

 妖花は叫ぶと共に刀を振るった。魔力の伝導率が高い草薙の剣は十分に魔法の杖足り得、切り裂き呪文に限れば並みの杖より適正が高かった。

 

 妖忌に向かって飛ぶ魔法の凶刃はしかし、対象を切り裂くことはなかった。妖忌がひとたび手刀を振るうと、煙が散るように魔力が霧散する。

 妖花が魔法で斬撃を飛ばせるように、妖忌も己の技術だけで斬撃を飛ばせた。

 

 妖忌に切り裂き呪文の連撃を放ちながら、妖花は杖に魔力を集めていく。妖忌には先程のルーモス・マキシマの目潰しが効いているようで、治るまでは接近してくる気配はない。

 妖花は新たな呪文を唱えた。

 

「アグアメンティ─水よ─」

 

 妖花の膨大な魔力を食らった水の怪物がその姿を表す。それは九つの頭を持つ、蛇の形をしていた。

 ──ヤマタノオロチ。草薙の剣の使い手である妖花に似合いの姿であると言える。

 

 妖忌に杖を向けた。

 

「行け!」

 

 主の言葉に答えた怪物が津波、或いは滝のように妖忌を飲み込もうと迫る。

 一つの首が今、正に妖忌に食らいつこうかというその時、その首から先が脱力したように崩れ落ち、水溜まりを作る。

 

「水程度切れんと思うてか?」

 

 瞬間、残りの八つの首が同時に爆ぜ、地に落ちた。

 

「的が大きければ寧ろ斬りやすいと言うことすら分からんほど焦っておるのか?───む!?」

 

 崩れ落ちた怪物の後ろに何時の間にやら術者の姿がなくなっていた。

 注意深く辺りを見回す。瞬間、武人の勘ともいうべき物が働き、後方に手刀を振るう。

 それは何者かに受け止められた。空間から染み出すように現れたのは妖花だ。目眩まし術で隠れていたようである。

 妖忌の手刀と妖花の愛刀がつば競り合う。

 

「もう少しで勝ったと思ったんですがねっ」

 

「ほっ実際危ない所じゃった─なあっっ!!」

 

 妖忌が力任せに草薙の剣を吹き飛ばす。

 体制を崩した妖花に手刀の連撃を振るう。妖花もなんとか受け流しているが、妖花が草薙の剣一本なのに対して妖忌は右手と左手の二刀。手数は妖忌が多い。

 

 遂に妖花の刀を弾き飛ばし、止め、と言うところで鋭く風を切る音を耳が捉えた。

 瞬間、強烈な衝撃が後頭部に直撃し、脳を揺らす。

 

「(?!何が起こった?!)」

 

 揺れる妖忌の視界の端に茶色い影を捉える。

 

「(これは・・木刀か!)」

 

「アクシオ─来い─で引き寄せました。そして、これで止めです」

 

 妖花が妖忌の額に杖を突きつける。体の自由が効かない妖忌は抵抗できない。

 

「ステューピファイ─麻痺せよ─!」

 

 閃光が瞬き、力を失った妖忌の体が倒れた。

 妖花は噛み締めるように身を震わせると、腕を天に突き出した。

 

「やっっったーーーー!!遂に父様に勝ちました!幽々子様!見ていてくれまし・・た・・・・・か?」

 

 妖花が縁側に座る幽々子を振り向くと、水浸しになった主人の姿がそこにあった。おそらく、妖忌が吹き飛ばした水のヤマタノオロチがかかったものと思われる。

 幽々子は笑顔だった。聖母のような完璧な笑みの中で、目だけが八寒地獄のように冷たい。

 幽々子の膝に乗せられた皿にはどろどろになったおはぎが山盛り。

 

「そう、勝てて何よりだわ。初勝利だものね、嬉しいわよねぇ」

 

「え?あ、その、えっと」

 

「おめでとう妖花」

 

「あ、ああありがとうございます」

 

 優しい声のはずなのに、なぜか妖花は冷や汗が止まらない。

 妖花は白玉楼の絶対のルールを思い出した。曰く、幽々子様から食べ物を奪ってはならない。

 打開策はないかと視線をさ迷わせる。

 足元に共犯が転がっていた。

 

───娘の危機ですよ!起きてください父様!

 

 当然起きるわけはない。止めの失神呪文にはありったけの魔力を込めたのだから。

 

「ねぇ妖花、次は私の相手もしてくださらない?」

 

「ひっ違うんです幽々子様!水呪文を吹き飛ばした父様が悪いんです!」

 

 父親を売ったよこの娘。

 

「あらあら、何を怖がっているの?あなたは二戦目だもの、きちんと加減はするわ」

 

「ヤバイ気配のする夥しい数の蝶々を仕舞ってから言ってください!」

 

 幽々子はにっこり笑うと、無言で無数の蝶を妖花に差し向けた。

 

「すみませんでしたーーーーー!!!」

 

 ちゅどーん。

 

 

■□■□■□

 

 

「死ぬかと思いました」

 

 そう言って私はグラス一杯に入ったお茶を煽った。

 それに良い顔をしないのは霖之助だ。霖之助は眉間を揉みながら言う。

 

「あーとっ妖花、ここは茶屋じゃないんだけど?」

 

「当たり前じゃないですか。霧雨道具店は道具屋ですよ?」

 

 私が何をいってるんだこいつは、みたいな調子で言うと、霖之助の頬がひきつった。

 最近、霖之助は霧雨道具店の店主に弟子入りしたらしい。そこを私が冷やかし半分に見に来たわけだ。

 

「おー妖花じゃねーか久しぶりだな何しに来たんだ」

 

「お久しぶりです。最近どうですか?儲けてます?」

 

「まあ、ぼちぼちだな」

 

 私が霖之助の小言をかわしていると、裏から顎髭を生やした男が出てきた。今代の店主だ。

 私たちが親しげに話し出すと霖之助が不思議そうな顔をする。

 

「あれ?旦那さん知り合いだったんですか?」

 

「何言ってんだおめー。こいつはうちの店一番の上客だぞ」

 

 店主がそう言うと、霖之助が呆けたように口をポカーンと開ける。

 

「ついでに言うと私も先代の店主さんに交渉術とか習ってたんです。つまり霖之助は私の甥弟子と言うことになります」

 

「俺の姉弟子っつー事だ」

 

「ところでなんですかその口調と髭は。昔の可愛かった貴方は何処に行ったんですか」

 

「客の前ではもっと真面目に話すぜ?髭は若く見えると嘗められるから伸ばしてる」

 

「そのままだと娘がだぜ口調になったり家出したりしますよ」

 

「何で娘が生まれる前提なんだよ」

 

 私達が世間話をしていると、呆けていた霖之助がようやく覚醒した。

 何度か私たちの間を視線が行き来し、それから霖之助がニヤリと笑う。

 

「つまり妖花は僕の"叔母"弟子ってことかい」

 

 その発言に店主が乗る。

 

「そういやぁ俺の親父もあんたの事姉さんっつってたな。つまり俺の叔母ポジションだと言えなくもねぇ」

 

 男二人がにやにや笑う。

 女性に「おばさん」は禁句である。たとえ血縁上そうであっても呼ぶべきではない。

 実際私は怒った。

 

「ほー良いですよ私を敵に回したらどうなるか、教えてあげましょう」

 

 私は着物の上に羽織ったパーカーのポケットを漁る。このポケットには検知不可能拡大呪文と私の能力を合わせたものがかけてあるので、見た目の数百倍の物が入る。

 

──確か三年前から入れっぱなしにしてたはず・・・。

 

「あったこれです」

 

 私はようやく目当ての物を引き当てた。

 それは十数枚に及ぶ紙の束だった。すべてに文章がびっしり書き込まれている。

 霖之助は怪訝な顔をしているが、店主はこれの正体に思い至ったようでみるみる顔色を悪くしていく。

 

「そ、それは俺の黒歴史の・・・」

 

 その通り、これこそ店主が青春と言う名の熱病に浮かされ書き綴ってしまった人生の恥部。

 その名も『想い人へのポエム』!

 

「ためですよぉ黒歴史を処分する時はちゃんとシュレッダーにかけなきゃ。お姉ちゃんが拾っちゃいますからねぇ」

 

 今の私は素晴らしいゲス顔をしているんだろうなぁ。

 

「私は今からでも外に出て、このポエムを高らかに読み上げることができるんですよ?」

 

「それだけは!それだけはどうかご勘弁ください妖花お姉さま!何とぞ!この通りでございます!」

 

 見事な土下座を披露する店主。良かったねお客さんいなくて。

 その隣で霖之助が呻くように言った。

 

「これなら晒し首の方がまだ尊厳が保たれるよ」

 

 妖怪からするとこういう精神攻撃は致命傷になりかねない危険性を秘めている。心が打ちのめされると、精神に生命活動を大きく依存する妖怪は死にはしないまでも弱体化は必至だろう。

 

「他人事のように言いますが霖之助、貴方にも相応の罰を受けて貰いますよ?」

 

 足元にすがり付く店主を、蹴り飛ばしながら言う。

 

「私には隠しているつもりでしょうが、秘蔵のお酒が食料庫の隅にあるでしょう。あれをあなたの前でイッキ飲みしてやります」

 

「い、嫌だー!。酒はともかくその後の妖花のからみが嫌だー!」

 

「そんなことより、俺の黒歴史!いますぐ燃やしてくれー!」

 

 昼の霧雨道具店。そこには幼女に膝を屈する大の男二名と、こっそり入り口で面白そうに事のなり行きを眺める客たちの姿があった。

 

 割りとよく有る風景である。




──妖花ちゃん
 遂に妖忌さんに初勝利。ただしこれは試合であるから。純粋な殺し合いなら妖忌さんの刀の一太刀で魂ごと斬られて即殺。
 幽々子様に地獄を見せられた模様。
 サドの素質あり。


──妖忌さん
 娘に負けた人。
 気絶していたところを幽々子様の折檻の流れ弾を受け危うく死にかけたりそうでもなかったり。


──幽々子様
 食べ物を奪うやつには死あるのみじーーー!!!
 半人半霊には幽々子様の能力は効きづらい。精々体が腐ったり、精神に狂いそうなぐらいの負荷がかかるだけ♪


──親子試合
 端から見れば殺し合い。
 知らなかったのかい?肉体言語が幻想郷じゃぁ共通言語なんだぜ?


──今代店主
 前に登場した店主の孫。まだ十代だが商才がピカ一だったので既に代替わり。
 先代がさっさと隠居したかっただけかも。
 魔理沙の父(予定)


──霖之助
 弟子入りしました。
 枯れてたと思ってたのに妖花に絡み酒される度に段々意識しちゃってきて自分でもビックリ。でもね霖之助くん、手を出したら作者と妖忌さんが黙ってないよ☆


──想い人へのポエム
 魔理沙の母(予定)への思いの丈が込められた桃色の黒歴史。
 うっかり読み上げると魔理沙が産まれてこなくなるかもしれない。
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