西方妖々花   作:縁々

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 ある方に誤字の指摘を頂きました。ありがとうございました。



 遅れて申し訳ありません。親戚のことでゴタゴタしてました。
「さっさと本編行けやこのノロマがっ」と自分でも思う。



2016.5.8 誤字修正しました。報告してくださった方、ありがとうございました。


妖花と父親(予定)③

 土鍋の蓋を上げると、大豆発酵食品の神秘を感じさせる香りが漂うが、それは一瞬で、前の梅雨から部屋に居座るカビの臭いと混ざり、形容しがたいものになった。

 鍋を覗き込むといい具合に鳥鍋が煮えていた。我知らず頬が緩むのが分かる。私は早速お玉を手に掬い上げる。

 具材は人里で購入した旬の野菜─費用はチンチロリンで駄目な大人たちから巻き上げた─、魔法の森で適当に採ってきた茸、迷いの竹林で乱獲した筍、藍師匠に奢ってもらったお揚げを無節操に放り込んだ。そしてメインに妖怪の山で仕留めた朱鷺を入れた。

 ──そう、あの朱鷺である。外ではもうすぐ絶滅するあの鳥である。雉よりよっぽど国鳥っぽい─学名がNipponia nippon (ニッポニア・ニッポン)。訳すと日本の日本─あの鳥である。

 朱鷺は勿論味も旨いが、何より絶滅種を食べている事への背徳感が堪らない。

 全国の朱鷺保護センターの皆さんごめんなさい。めっちゃ美味いです。

 

 私はもくもくと鍋を口に運んでいく。すぐに取り皿が空になったので、再びお玉を取ろうとすると、横合いから伸びてきた腕に阻まれた。太い骨と血管の浮いた男性らしい手だが、不釣り合いに白い。

 腕の持ち主──対面に座った霖乃助が言う。

 

「急いで食べ過ぎだ。朱鷺肉を独占するつもりかい?」

 

 霖乃助の手の中にもやはり、取り皿があった。今日は霖乃助の家で所謂鍋パである。

 

「あははー・・・すみません。白玉楼では鍋は戦争ですから。つい、いつもの調子で食べてました」

 

 白玉楼には腹ペコの女王が君臨しているので、少し目を離したら取り皿に取った料理が無くなる位の異常事態がありふれている。なので、効率的に料理をよそい、食べる動作が体に染み付いているのだ。

 だが此処は霖乃助の家である。料理を奪い合う必要はない。ああ、平和な鍋は何十年ぶりだろうか。

 私は食べるペースを落とし、ゆっくり噛み締めるようにする。霖乃助の憐れんだような目が気に入らないが、自分自身だいぶ憐れだと思うので黙認することにした。

 

「そういえばこの前お客さんに聞いたよ。お姉さんが結婚するんだって?」

 

 私より三分遅れて取り皿を一つ空にした霖乃助が言う。どうでもいいけれど湯気で眼鏡を白くしているのが少し笑える。

 

「はむっ・・こくっ。そうですね、姉様は結ばれる気満々みたいですけど、父様が認めるかどうか・・・」

 

 父様も姉様の態度から何かを察し始めているようだった。結ばれるにしても別れるにしても、事態が動くのはそう遠くないはずだ。

 私としては姉様に幸せになって欲しいが、姉様が誰かのものになるのが少しだけ気に入らなかったりもする。・・・私も一発殴ろうかな。

 

「相手の家柄とかに厳しい人なのかい?」

 

「妖怪がそんなこと気にする訳ないでしょう。はむ」

 

 それもそうか、と霖乃助は頷いた。彼の結婚観は人間寄りなのかもしれない。

 

「それじゃあどうして」

 

「単に親馬鹿なだけです。お相手がみじん切りにされなければ良いのですが・・・はふっ」

 

 勿論半分冗談である。酷くても半殺しで済むだろう。父様とて娘の想い人を殺めるような真似は恐らくしないはずだ。

 霖乃助は刻まれた赤い物体の姿を想像してしまったのだろう。僅かに眉をしかめた。普通の妖怪ならよだれを垂らすところであるが、やはり半分妖怪といえど、霖乃助の思考形態は極めて人間らしい。

 食事中にふさわしい表現ではなかったかと、私は反省した。

 

「・・想像したら食欲が・・・・」

 

「ふみまへん。かありに・・んくっ、私が食べますよ」

 

「いや、妖花が食べたいだけだろう。それ」

 

 ちっばれたか。

 自画自賛になるが私の料理は美味しい。これはひとえに能力のお陰である。私の能力を使えば料理の味など好きに弄れてしまうのだ。もっとも、愛情の味は再現できないが。

 なんだかんだ言いながらも鍋をつつく霖乃助。彼は結婚など考えないのだろうか。

 

「貴方には無いんですか?そういうゴシップ的な話は」

 

「無いね。そもそもこんなかび臭い男と一緒になろうなんて奇特な女性も居ないだろう」

 

「そうですか?最近、人里でちょっとした話題ですよ、霧雨道具店にイケメン(だが根暗)の店員が入ったって」

 

「へー。そー」

 

「そんなに興味ないですか。烏天狗の新聞にもちっちゃく載ってたんですよ。ほら、ちょうどあの窓の修繕に使ってるやつです。読んでないんですか?」

 

 ひび割れた窓をびしりっと指差す。穴を塞ぐようにして張られた文々。新聞の端っこに『霧雨道具店にイケメン店員現る』と題した記事がほんの小さく載っていた。紙面の八割五分は姉様の熱愛云々の話題で占められている。

 人里に速攻で噂が広まったのは奴のせいか。

 

「ああ。読んでなかった」

 

 あやや?まあ、そんなもんですよね、文々。新聞の扱いなんて。

 

 話が一区切りついたところで、具材を食べきっていたことに気づいた。が、まだ少し物足りない。此処はやはり・・・。

 

「締めはおじやですね」

「締めはうどんだな」

 

「ん?」

「む?」

 

 ・・・・鍋は戦争である。

 

 

■□■□■□

 

 

 虚しい戦いだった。

 小一時間ほど私たちは争い、結局スープを別々の鍋に分けて、各自好きな締めをすることで話がついた。私たちの小一時間は犬死にしたのである。

 おい誰だ、鍋は分け合う料理だとかほざいたのは。出てこい。

 

 今は食器の後片付けをしているところだ。この家の流し台はやや高く、私は浮かび上がらなければ手が届かない。まったく、面倒くさい。ユニバーサルデザインをもう少し考慮していただかなくては。

 

 食器をカチャカチャやりながら何となしに窓の外を見てみると、空を忙しなく動き回る二つの影を捉えた。どうも片方がもう片方を追いかけ回しているようだ。

 妖怪のドンパチだろうか。別に珍しいことではないが、あまり酷いようだとあのぐうたら巫女を引っ張ってこなければならなくなる。可能ならさっさと決着を付けてもらいたい。

 がんばれー。そこだそこー。いけー。

 

 ぼぅと窓の向こうを観ている間に洗う食器が無くなっていた。隣では半霊がせっせと皿を磨いている。

 未だに解らないのだがこれは何なのだろう。よく私の知らぬ間に動いたりしているようなのだが、自意識があったりするのだろうか。それとも私の深層心理的なものを反映しているだけなのだろうか。

 私の独り言にツッコンだりしてくるのはこれの意思なのか、私の願いなのか。・・・どちらにしろ、私は結構寂しい半人半霊なのでは?転生してすぐに寂しい一生は送らないと決めたのに。

 

 姉様に恋人ができたと知ってから考えるようになった。やはり私も恋人なり旦那様なりを作るべきなのだろうかと。私がリア充になりさえすれば「リア充爆発しろ」等と言ってしまうこともなくなるだろうから。

 しかし、作るとしても宛がない。まず人間は除外する。私は歳上が好きなので付き合い始めた次の日にポックリ逝っちゃった、何て事も有りうるからだ。

 かといって男性の妖怪には知人が少ない。そもそもどういうわけか、女性妖怪と男性妖怪では個体数が極端に違うのだ。数に表せば二十対一位だろうか。

 私の男性妖怪の知り合いと言えばまずじーさま先生など魔法使い達。が、研究が恋人のような種族であるからして望み薄だろう。

 ならば天狗や河童達ならばどうか。いや、これまた新聞や機械いじりが恋人の種族であった。そもそも私は妖怪の山に入れないから論外か。

 いっそ女性と付き合ってしまうか。いや、それは最終手段にしよう。

 

 考え方を変えてみよう。私はリア充になりたいが、それはイコール恋人を作ると言うことにはならないはずだ。つまり友達百人作ればリア充なのでは?ということ。

 あっ、友達と言えば霖乃助も男だったか。素で忘れていた。今までそういう風に考えたことがなかったが、なるほど。有りか無しかで考えれば・・・

 

「てい」

 

「うぇ?!」

 

 頭を揺らす衝撃に思考が中断される。霖乃助に本で叩かれたようである。それも背表紙の角で。

 

「何するんですか?痛いじゃないですか!」

 

「いや、いくら呼び掛けても棒立ちしてるからさ、仕方なく」

 

 気づけば手がすっかり乾いていた。それほど長く突っ立っていたのだろう。

 

「悩みごとかい?」

 

「?そんなに分かりやすいですか、私」

 

「妖花が分かりやすいと言うより・・・いや、どっちにしろ妖花の一部か。半霊が形容し難いことになっているよ」

 

 霖乃助が指差すので、後ろを振り返る。なるほど確かに半霊が妙けったいなことになっていた。

 何だろう、本当に形容し難い。五世紀ほど時代が進めばこれも芸術に昇華されるかもしれない、と考えるくらいには前衛的だ。何となくふざけているようにも見える。

 

「これはおちょくられてるんでしょうか」

 

「え?自我があるのかいこれ」

 

「よくわからないんですけど、生き霊のようなものですから、あっても不思議は無いかと」

 

 霖乃助につつかれて、半霊は絡まった体をさらによじった。私も加わってつつきだす。感触はソフトなゼリーのようで、ひんやりとしている。

 これでも半霊は私の一部である。当然感覚を共有しているので、僅かにくすぐったく感じた。

 

「かなり柔らかいんだね」

 

「よく抱き枕にしてます。夏は気持ちいいんですよひんやりしてて」

 

「へぇ」

 

 それを聞いて何を思ったか、霖乃助は半霊を腕の中に閉じ込めた。

 これに慌てたのは私だ。いや、半霊も抜け出そうと暴れているが、只でもこんがらがった体が更に絡まって大変なことになっている。

 霖乃助は成る程これは良い、等と言いながらいっそう強く半霊を抱き締めた。勿論、私にも霖乃助の感触やら体温やらは伝わってくる訳で。隣で私が顔を朱くしているのに気づかれていないのは幸いか。

 

「あれ、なんか温くなってきたな」

 

 体温上がってきてるんだよ黙ってろ。

 ついさっきまで恋人として有りか無しか、なんて考えていたものだから、恥ずかしさが倍増である。

 取り敢えず我が半身を取り返すため、誘拐犯の足と足の間を問答無用で蹴り上げた。

 ごすっっ!!

 

「はがぁぁっ!?な、なぜぇ」

 

「地獄で考えなさい」

 

 力無く誘拐犯(内股)の体は顔から倒れた。その際頭を打ち付けたようだが気にしない。銀の髪に紅色が混ざっているようだが染髪でもしたのだろうか。

 下敷きになっていた半霊を救い出さんがため、誘拐犯の体をひっくり返すと、眼鏡がバッキバキに割れていた。自業自得だ。

 まぁ眼鏡に罪はない。私は眼鏡をそっと誘拐犯の顔から取り外すと能力で修理した。

 ふと、霖乃助の顔を覗き込む。何故か半霊も一緒に覗き込んだ。顔の造形は良いんだよなぁ。

 我知らず、呟く。

 

「イケメン爆発しろ」

 

 はっ!

 慌てて自分の口を塞ぐ。私の前世もなかなか業が深いというか、くたばりやがれというか。ああ、もうくたばってるのか。

 半霊が慰めるように私の肩を叩いた。お前も何なんだもっと慰めて。

 

 どおぉぉん!!

 半霊に顔を埋めていたその時、玄関が吹き飛んだ。部屋中に強風が吹き荒れ、咄嗟に私は目を庇った。。

 

「?!何ですか?!ほんとに爆発した?!」

 

 目を開けた時、霖乃助の家は一瞬でコレクターハウスからごみ屋敷に変貌を遂げていた。今日は踏んだり蹴ったりだな、彼。

 爆発源を見ると、一人の男性が目を回していた。あれ?姉様の彼氏さんではないか。たしか彼は妖怪退治屋だったはず。返り討ちにでもあったのだろうか。念のため、刀の位置を確認する。

 土煙の向こうから、二つの影が近付いてくる。一つは歩いて、もう一つは浮かんでやってくる。何だかとっても見馴れた影だ。

 土煙の中から姿を表したのは半人半霊。木刀で武装している。額には血管が浮き出ていて、正に怒髪天を衝くといった様だ。

 

 というか父様だった。

 

 えー。何やってんのこの人。

 いや、何となく分かってはいるのだ。里で娘のデートシーンにばったり遭遇したのだろう。

 あまりの怒気に気圧されながらも、父様に話し掛ける。放っておいたら巻き込まれかねない。

 

「あの、父様?」

 

「む?おお妖花か。何しとるんじゃこんな所で」

 

 父様はやっと私に気づいたようで、腹の中の熱を逃がすように息を吐いた。

 

「それはこっちの台詞ですよ。人様の家で決闘騒ぎなんてやめてください。恥ずかしい」

 

「?人様の・・い・・・・え?」

 

 周りを見渡しやっと気付いたのだろう、父様は部屋の惨状に顔を青くした。というか今まで気付いていなかったのか。どれだけ怒っていたんだ。

 更に父様は倒れ付した霖乃助に気付く。

 

「そ、そこの方は?」

 

「親友の霖乃助です」

 

「ま、まじで?」

 

 大の男が生まれたての小鹿のように震え出す。

 

 さて、ここで父様の視点で考えてみよう。

 長女に手を出した男をぶちのめしていたところ、我を忘れ人様の家に乱入。

 実はそこは次女の親友の家で、玄関が半壊。室内めちゃくちゃ。明らかに貴重な物なども壊れまくり。

 挙げ句、家主は血を流して動かない。

 成る程。これは不味い。最後のは私がやったのだが、父様にはそうは見えなかっただろう。今にも崩れ落ちそうなほど震えてしまっている。これほど父様が取り乱す姿を見るのは、夫婦喧嘩以外では始めての事だった。

 

 倒れたまま動かない男二人、鈍器をもって震える男とその隣で震える半霊、そして呆気にとられた少女と倒れた二人の内銀髪の男に蹴りを入れまくる小ぶりの半霊。ごみ屋敷に生まれた混沌へ踏み込む人物があった。姉様である。

 姉様は部屋を見渡して一言。

 

「まぁ。すごくカオスだわ」

 

 

■□■□■□

 

 

 一時間後。

 目を覚ました霖乃助に洗練された所作で土下座を披露する父様を観ながら、姉様に話を聞いた。

 やはり人間の里で逢い引きしていたところをばったり父様に遭遇してしまったらしい。「お義父さん」「貴様にお義父さんと呼ばれる筋合いはない」的なやり取りの後、何故か決闘になり、更に何故か吹き飛んだ彼氏さんが玄関にホールインワンしたそうだ。

 父様が頑なに認めようとしないので、姉様は、どうしましょう駆け落ちでもしようかしら、なんて洒落にならないことを言っている。貴女が居なくなったら誰が幽々子様の胃袋を諌めるというのか。

 

 

 結局、人様の家を荒らした事に怒り狂った母様と、料理番に辞められる事を恐れた幽々子様に脅され、父様は結婚を認めざるを得なくなった。

 霖乃助には父様が何でも願いを三回聞くというポルンガ的条件によって許してもらった。道具に罪は無いので私がすべて直しておいた。父親が迷惑をかけた分、私も言うことを一回くらい聞いても良いですよ。

 

 以上、事の顛末。




 感想やリアルの友人に原作東方で良くね?的な意見を頂きました。正直作者も迷ってます。お考えのある方は感想でおっしゃってください。



 妖花ちゃん
──リア充になりたいお年頃なんです。ホグワーツで新たな出会いが有るかもしれないし、無いかもしれない。


 霖乃助
──踏んだり蹴ったりだった人。ですが半霊も妖花の一部です。抱き締めたら普通にセクハラです。タヒね。
 罪状 セクハラ及び半霊誘拐


 半霊
──明確な公式設定とかあるんでしょうか。本作ではとっても自由な感じに仕上がりそうです。


 妖忌さん
──今回色々やらかしましたね。戦闘以外では結構残念な人なのです。
 罪状 傷害、不法侵入及び器物破損


 お姉ちゃん
──実は家臣序列的に見ると一番地位が高いのはこの人。白玉楼は優秀な料理人を歓迎します。
 結婚おめでとう。


 彼氏さん
──ずっと気絶してた。末永く爆発しろ。


 朱鷺
──東方香霖堂にて、幻想郷で急増したという描写がある。見た目は悪いが旨いらしい。
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