物語は、次のステージへ……
『なっ……!?』
一夏と鈴音、箒は突然の出来事にそんな声を漏らしていた。
あまりの出来事に動く事が出来なかった一夏と鈴音。
暫くして『異形』からの砲撃が止み、
――ズドオオオォォォォン!!!
稟の墜落と共に轟音がアリーナに響き渡る。
砲撃を終えた『異形』は稟が墜落した場所を一瞥すると、再び一夏達と相対する。再度箒へと砲撃しない様は、まるで興味をなくしたかのように見えて。
一夏達と相対しても、まるで彼等を観察するかのように攻撃してこようとしない『異形』に、一夏と鈴音の胸がざわついた。
そして、墜落した稟の方へ視線を向ける。その場所には砂塵が舞っていた。彼が無事ならばすぐにでもそこから出てくる筈だが、稟は一向に出てこない。
どれだけ待とうが、彼が出てくる気配さえも見えない……
一夏の胸に、ドロリと、黒い感情が込み上げた……
『ISについてと勉強を教えてほしい? 俺は独学だからちゃんと教えられる自信はないぞ。それでもいいなら、まぁ……』
『そこはそうじゃない。さっきの問題の応用だから……こうなるんだ。分かったか?』
『ん、さっきよりかは理解してきているな。その調子だ』
『一夏は猪武者なのか? そんな戦い方じゃ、エネルギーがすぐ枯渇するのは当たり前だろうに』
『今のは、まぁよかったんじゃないか? まだ改善すべき個所は多々あるけど、前と比べればマシになってきていると思う』
『一夏、お前なぁ……』
そして何故か、稟の今までの言葉が一夏の脳裏を過った。
呆れたような、困ったような表情を浮かべている稟の顔と共に。
これでは、まるで……
「やってくれ、鈴!!」
「…………ええ!!」
そんな筈はないと、一夏の何かを堪えるかのような呼び掛けに、鈴音も同じく何かを堪えるかのような声で応える。二人の胸中に宿る想いは、きっと同じなのだろう。
鈴音の射線軸に入って来た一夏に彼女は驚きを表したが、すぐに獰猛な笑みを浮かべると、
「アンタってば相変わらずね! あたしの分まで思いっきりやってきなさい!!」
現段階で撃てる最大威力の『衝撃砲』を容赦なく撃ち込む。
その『衝撃砲』が一夏に当たる直前。彼は瞬時加速を発動。身体が軋む程の衝撃が彼を襲うが、一夏はそれを堪えて流れを掴み……
「ぉぉぉおおおおっ!!!」
吼えながら『異形』へと接近する。
暴虐的な痛みが一夏の身を苛んでいるが、稟が『異形』から受けたダメージはこの比ではないだろう。
一夏はその痛みを堪え続け、瞬時加速よりも速い速度で『異形』との距離を縮めていく。
それに振り返った『異形』はセンサーレンズを明滅させ、今まで使おうとしなかった鉤爪を振り上げながらガトリングガンを一夏へ向ける。
――警告。敵機から高エネルギー反応を検出。
『白式』がそう警告するが、一夏には避ける術も軌道を変える術もない。
だが、一夏は臆する事なく突き進み、ガトリングガンが
放たれるよりも、鉤爪が振り下ろされるよりも僅かに速く。
「はああああっ!!!」
その《
『白式』の残りのエネルギーを注ぎ込んで発動した⦅零落白夜⦆。その刃は『異形』の危険極まりないと感じさせる
均衡を崩した『異形』は倒れそうになるが、寸でのところでブースターを吹かして体勢を戻す。そして再び一夏にガトリングガンを向ける。
⦅零落白夜⦆に残りのエネルギーを使い果たした一夏に余力などなく、最早攻撃も防御も不可能。このままでは蜂の巣にされてしまうだろう。
『稟さんは』
そう。
アレンが、何の行動も起こしていない状況のままであったのならば。
『貴方のような輩が傷付けていい方ではなくってよ!』
いつの間にアリーナに駆けつけていてくれたのか。
『蒼き雫』を纏ったセシリアが『異形』の上空に陣取っており、そこからレーザービットを放つ。放たれたビット達は『異形』の動きよりも速く敵に接近し、残っていた『異形』の
その攻撃は予想外だったのだろう。
突然の攻撃に反応できなかった『異形』はあっさりと四肢を捥がれてしまった。倒れそうになる
エネルギーはほぼなく、機体を辛うじて展開できている前方の一夏と鈴音。上空からビットを纏って接近してくるセシリア。四肢と武装を踠がれた『異形』に、最早逃げる術は残されていない。それでも何とかしようと動く『異形』に、最後の刺客が現れる。
『たかが鉄屑風情が、あの方に何をした』
その声は決して大きいものではなく、寧ろ小さいとも感じるような大きさのものだった。しかし何故か。その声はアリーナにいる全員の耳に響き渡り。
『己の意思も感情もないたかが操り人形が、あの方に何をした』
『異形』を含めた全員が、声の聞こえてきた方向へ顔を向ける。
声が聞こえてきた方向――アリーナのAピット側出入口には、ISの近接ブレードを肩に担いだアレンが、視線だけで人を殺めてしまうと錯覚する程の怖ろしい色を宿した瞳で『異形』を睨み付けていた。
『異形』を睨み付けながら、アレンは歩を進める。彼女が歩を進める度、比喩表現などではなく、実際に空気が重くなっていくと一夏達は感じた。
「あの方を傷付けた罪、万死に値する。みすみすこの状況を作ってしまった私も同罪ではあるが、今は貴様の断罪を優先させよう。私の罪は、後程あの方に裁いて戴けばいい」
数百メートルある距離をゆっくりと縮めていくアレン。
感情がない筈の
アレンは『異形』へと近付きながら稟が墜落した方へ視線を向け、次いでセシリアへと視線を向ける。
アレンの瞳を見たセシリアは、何故かアレンの言いたい事を理解してすぐさま稟の下へと向かって行った。
歩みを止めずにそれを見送り、少しずつ距離を詰めていくアレン。そしてついに、アレンと『異形』の距離は零となった。
「もしも呪う事が出来るのならば、貴様を生み出した愚者と操り人形にしかなれなかった己自身を呪え。そして……」
決して人が片手で軽々と振り上げる事が出来ない筈の
「私達の逆鱗に触れた事を後悔しながら無様に砕け散れ!!」
その瞳に憎悪の炎を灯し、勢いよくその刃を振り下ろす。
満足に身動きの取れない『異形』がその凶刃を避けられる筈もなく。『異形』はあっさりとその身を真っ二つに引き裂かれ、その機能を停止させた。
『織斑くん! 凰さん! 無事ですか!?』
真耶を筆頭に、救援部隊に選抜された教師達が駆けつけたのはそれから僅か数分後の事であった。
侵入者を退ける事が出来た一夏達。
彼等は念の為という事で、検査を受けに医務室へと訪れていた。
「中々起きないな……」
「……そうね。そろそろ目を覚ましてもいい頃とは思うけど」
「稟さんが心配なのは分かりますが、じっと見ていても何も変わらないでしょうに」
そしてその医務室には、心配気な表情を浮かべている一夏と鈴音。そんな二人に若干呆れ気味な表情を向けているセシリア。どこか気まずそうな雰囲気を漂わせている箒が、それぞれベッドで横になっている稟――セシリアが回収した時には既に『疾風』は解除されていた――へと視線を向けていた。
真耶達教師が救援に駆けつけたあの後。
随伴の教師達に『異形』を任せた真耶はすぐに一夏達の下に駆けつけ、怪我がないか等の心配をされた。
幸い一夏達は怪我をしていなかったが、稟の事があった為に沈痛な表情を浮かべた一夏達に対して真耶が小首を傾げた時。『疾風』が解除された稟を抱き抱えたアレンが一夏達の前までやってきた。
額から血を流して気を失っている稟。そんな稟を見て、一夏達は顔から血の気が引くような錯覚に陥った。
慌てる彼等に対し、アレンは無表情で稟を一夏へと渡す。突然の事に戸惑う一夏達だったが、アレンは消え入るような声で稟を頼むと彼等に頼んできた。
何故アレンがそんな事を頼むのか。一夏達には解らなかった。ただその言葉に、その声音に何かを感じ取り、一夏達は稟を医務室へと運び込んだ。
医務室にいた保険教諭はいきなり飛び込んできた一夏達に驚き、次に稟を見て表情を驚愕に染めた。そこから教師の行動は素早く、一夏から稟を奪い取って診察し、治療に移っていった。
稟の治療が終わった教師は一夏達に、怪我は酷かったものの命に別条はないとそう告げた。それから一夏達に何があったのかを訊き、彼等も念の為という事で検査をして今に至る。
現在。稟を治療した教師はいない。彼の看病を一夏達に任せ、彼女は呼びに来た他の教師に付いて行った。
それから既に、一時間は経過しているが稟はまだ目覚めない。穏やかな寝息を浮かべて眠ったままだ。
「ところで、篠ノ之さんはいつまでそんな表情をしていますの?」
彼等の気持ちは分かるが、言っても変わらないだろう一夏達にやれやれと首を振ったセシリアは、一緒に医務室に来てから一言も発さずに顔を俯け続けている箒に対してそう言った。
箒が顔を俯かせている理由は察しているセシリアだが、いつまでもうじうじと顔を俯けられていても正直こちらの気が滅入ってしまう。語調が強まるのは仕方ない事だろう。
一夏達から少し離れた所で立ち竦んでいる箒に近付きつつ、セシリアは何故自分がこの三人を諌める立場にいるのかとげんなりしていた。本当なら、自分も一夏達と同じように稟を心配していたいというのに。
「……まったく。気持ちは分らなくもありませんが、いつまでもそんな顔をしているものじゃありませんわ。そのお顔でお見舞いに来たと言っても、稟さんが戸惑ってしまいますわ」
「な、何をする! 離せっ!?」
セシリアにいきなり腕を掴まれた箒は顔をばっと上げ、抗議するように声を上げる。
「いきなり大声を上げないで下さいまし。稟さんの身体に響いたらどうしますの」
「む、すまない……いや、そうではなく!」
箒の大声に眉を顰めながらも彼女の腕を離す事なく、セシリアは箒を半ば問答無用で稟が寝ているベッドまで連行する。
一夏と鈴音はセシリア達を一瞥したがすぐさま稟の方に向き直り、我関せずの態度を貫き通している。セシリアもそれを気にする事なく、近くから椅子を持ってきてその椅子に箒を座らせる。
「稟さんが目覚めたらお礼を言う事だけを今は考えておきなさいまし。貴女が何故稟さんを邪険にしているかは分かりませんが、恩人には礼を言うべきでしてよ」
それ以降箒に声をかける事なく、セシリアもまた稟へと視線を向けた。
セシリアの勝手な行動に物申したい箒であったが、此処が医務室であると今更ながら思い出した為に口を開かず、内心で文句を言うだけに留めておいた。まぁ、セシリアの言う事も尤もではあるがと思い直して。
そこから暫くは誰も言葉を話さず、静寂が医務室を包み込む。
「………………っ」
静かに稟を見守り続け、どれ程の時間が経過したのだろうか。
今まで眠り続けていた稟の口から微かな音が漏れた。
「………………こ、こは……?」
『稟っ!?』
徐々に開かれていく稟の瞳。
撃墜されて数時間経って漸く目覚めた稟に、一夏と鈴音は身を乗り出しそうになるが、
「お二人も落ち着きなさいまし。稟さんの身体に負担がかかってしまいますわ」
『ぐえっ!?』
セシリアに首根っこを掴まれて阻止された。
その際に二人の口から妙な音が漏れたが、セシリアは特段気にする事なく。
「お加減はどうですか、稟さん?」
稟は目覚めたばかりで少しばかり思考がぼんやりしていたが、何とか声の聞こえた方へと顔を向ける。顔を向けた方には心配気な顔で己を見つめているセシリアと、そんな彼女に首根っこを掴まれた一夏と鈴音。どこか気まずそうな表情を浮かべている箒がいた。
暫く四人をぼんやりと見続ける稟。
それから徐々に今までの事を思い出し、身体を起こそうとしたところで、
「っ!?!!」
身体に激痛が走り、思わず苦悶の表情を浮かべる。
『稟!?』
「稟さん!?」
「土見!?」
それを見た四人は此処が医務室である事を忘れ大きな声を上げてしまう。
身体から力の抜けた稟は、起こそうとしていた身体が再びベッドに倒れようとした寸前。
「稟さん、大丈夫ですか?」
刹那の差で、倒れかけた稟をセシリアが抱き留めた。
一夏達よりも先に稟を抱き留めたセシリアは彼等を制するように視線を送り、すぐに一夏達が大人しくなったのを確認すると稟へと視線を向ける。
心配そうに自身を見つめてくるセシリアに大丈夫という意味を込めて微笑を浮かべようとする稟だが、あまりの痛みにその微笑は少し歪んでしまった。
それを見たセシリアは眉を微かに顰めるが、稟の体調を慮って何も言わずに支えた稟の身体をそっとベッドに戻す。
「……少々、状況を説明させていただきますわね」
本当ならば、稟が目覚めたら箒にお礼を言わせてすぐに医務室を去るつもりだった。治療は終わったといえど、無駄に長居して稟に負担をかけたくなかったから。
しかし、状況説明を求めるような稟の視線を受けてセシリアは少し悩んだ後、彼の視線に負けて状況の説明をした。
彼が撃墜され、目覚めるまでの出来事を。
説明は複雑なものではなかったのですぐに終える事が出来た。
説明を聞いた稟はそうかと呟いて、眼を閉じて黙した。そのまま稟が何も言わなかったので、セシリアが一夏達を連れて医務室を去ろうかと考えた時。
「篠ノ之さんに、怪我がなくてよかった」
稟が、ポツリと溢した。
稟の呟きを聞き、思わず唖然とするセシリア達。
自分の事よりも他人の事を心配する稟に、普通こういう時は自分の事を心配するのでは?という言葉が過るがそれを口に出せないセシリア達。
「あ、あぁ、土見のおかげで私に怪我は…………ではなく! どうしてお前は私なんかを助けた! 私はお前を邪険にしていたのに、何故庇う様な真似をした!?」
「…………君を傷付けたくなかった。だから、気付いたら身体が勝手に動いていたんだ」
再び開いていた稟の瞳。その瞳は優しげに箒を見つめていたが、どこか寂しそうな色も宿していて。
箒を見ていながらも、いや、此処を見ていながらどこか違う場所を見ているように見える瞳に、セシリアの胸が微かに痛んだ。
「だから、篠ノ之さんが気にする事はないさ」
「お前は……」
二人のやり取りを黙ってみていたセシリアは、これ以上自分達がいても邪魔になるだろうと判断してゆっくり立ち上がる。
「私達はこれでお暇させていただきますわ。稟さん、ゆっくり休んでくださいましね」
稟の瞳を見た時に感じた胸の痛みが気になるが、それは今考えないようにして。
立ち上がったセシリアは一夏と鈴音の腕を引いて退室しようとする。
「セシリア? あの、何を?」
「ちょ、ちょっと、あにすんのよ?」
何やら二人が声を上げるがセシリアはやはり気にしない。
箒と擦れ違い様、セシリアは小声で、
「私達は先に出ます。ですので、素直にお礼を言って下さいまし」
そう囁いていく。
退室の間際、セシリアは一礼してから部屋を出て行った。一夏と鈴音を連れて。
残された稟と箒。
部屋には再び沈黙が訪れる。
(オルコットめ。余計なお世話を)
内心でそう悪態を吐く箒だが、実を言えば感謝をしていた。
あのまま彼等がいれば、恐らく彼女は稟に対して素直にお礼を言えなかっただろう。
自身が素直な性格じゃないのは自覚しているし、性格だけが理由ではないので、セシリアの気遣いはありがたかった。
「土見、その……」
それでも、やはり素直に言葉を紡ぐのには勇気がいる。
お礼を言おうとして口が止まり上手く言葉を紡げない箒に、稟は何も言わない。
彼はただ黙って、優しい瞳で箒を見つめるだけ。
その瞳に、不思議と箒の気持ちが落ち着いていった。彼女は軽く息を吸うと、稟の瞳を見つめ返し、
「助けてくれて、ありがとう。そして、今まで邪険にしていてすまなかった」
お礼と、今までの態度を謝罪した。
その言葉を受けた稟は微笑を浮かべる。
その微笑は、見る者を虜にさせてしまうかのような不思議な魅力を放っていた。一夏に好意を抱いている箒でさえ、思わず顔を赤らめてしまった程だ。
そんな笑顔を浮かべたまま稟は、
「どういたしまして。それと、今までの事はそんなに気にしていないよ」
優しい声音でそう応えたのだった。
IS学園の地下五十メートルにある機密区画。
其処は、このIS学園内においてもレベル四の権限を持つ者でないと入れない、隠された空間。其処に、アレンによって破壊された『異形』は運び込まれ解析が行われていた。
そこから二時間。千冬はずっと、アリーナでの戦闘映像を繰り返し見ている。
薄暗い室内。ディスプレイの光で照らされた千冬の顔は険しく。
「解析が終わりました」
そう言って入って来たのは、ブック型端末を持った真耶だった。
「……結果は?」
「……無人機でした。見た目からは予想できていましたが、正直信じ難いというのが本音です」
真耶を一瞥した後、すぐさま戦闘映像に視線を戻した千冬の問い掛けに、普段のぽややんとした雰囲気と違い、今はどこか鋭い雰囲気を纏った真耶はそう返す。
その返しに、千冬は眉を微かに顰める。
世界中でISの開発が進む中、ISに適応出来ていない技術が二つある。それは、
「まぁ、アレがISであったのならば山田真耶の言う通り信じ難いという発言も分からなくはありません。無人機が存在しないなんてありえない事ではありませんが。ですが、アレはISではない。ただの
そう口を挟んできたのは、本来ならこの場にいる事が許されない存在。アングレカムだ。
彼女は入り口の壁に凭れかかり、無表情でそう言った。
「何故、そう断言できるのかしら?」
その言葉に疑問の言葉を放ったのは開いた扇子を口元に当て、探る様な表情でアレンを盗み見る青髪の少女――この学園の生徒代表、生徒会長更識楯無。
彼女のそんな視線を受け、アレンは無表情で楯無を見つめ返す。
普段ならば口を挟もうとする千冬と真耶も何も言わず、楯無と同じような視線でアレンを見ていた。
その視線の意味も理解できるので、その事に関してアレンは特に何も言わない。楯無の言葉に答えるべく、アレンは口を開いた。
「貴女達は知っているだろうが、私がISだからだ。私がISであるが故に、奴がISであるかどうか否かを断言できる。ISとしての在り方から著しく逸脱していなければ私が、我等がISとそうでない存在とを間違える筈がないのだから」
普段からの彼女からは想像もできない無機質な声。それはまさに機械音声というべきもの。
今の彼女は、稟の楯としての『
「それとこの事は、創造主の仕業でないと断言しておきましょう。嘗ての彼女であれば同様の事をしでかしたかもしれないが、今の彼女はこんな無駄な事をしない。私が、『王』が此処にいるのだから」
「…………本当に、奴は関与していないのだな?」
「この名と、我等が『王』に誓って」
遠隔操作と独立稼動。
ISに適応できていないその技術。だが、千冬の知る人物の中でそれを平然と行える者が一人だけいた。彼女ならば、今回の騒動を起こしても不思議ではないと思える。理由は定かではないが。
千冬からの鋭い視線に動じる事もなくきっぱりと応える『白銀』。
そこから二人の睨みあい――千冬が一方的に睨んでいるだけであるが――が起こり、緊迫した空気が流れる。とはいえ、それも長く続く事はなかった。
「…………そうか。ならばいい」
先に千冬が折れたからだ。しかし、彼女が簡単に折れる訳もない。
「だが、もし奴の関与が僅かでもあれば、その時は……」
学園の防衛を任されているには。
彼女の護るべき者がいるからには。
しかし、千冬の殺気混じりの警告にも『白銀』は一切動揺せず、
「その時はご随意に。貴女方が彼女に対してどう動こうが、私達は一切関与しませんので」
肩を竦めてあっさりとそう言い切った。
その言葉に、態度に、困惑の色を示したのは千冬達の方だ。
『白銀』がISである事をこの場にいる三人は知っている。彼女を造ったのがかの『
「……貴女達は、一体何を企んでいるのかしら?」
それでも、『白銀』の言葉を鵜呑みにする訳にはいかない。
鋭い視線で『白銀』を射抜くように見つめる楯無の口元には、疑惑という文字が浮かんでいる扇子が。
彼女からの問い掛けに、『白銀』は表情を変える事なく楯無を見つめ返す。
楯無の言葉は尤もだろう。
稟と『白銀』の入学は都合が良すぎたのだ。織斑一夏の出現の後に、間を置かずに現れた土見稟という存在。
一夏と違い、稟という存在は騒がれる事なくIS学園へと現れた。『白銀』という、今まで名も聞いた事のないISと共に。ISでありながら人間と同じ姿を持ち、人間と何ら変わらない言動をする異質すぎるISと共に。
入学の為の書類は自然な物だったが、それはあまりにも自然すぎた。自然すぎるが故に、その手の者達には逆に怪しいと疑われる程に。
そして極めつけは篠ノ之束の存在。あの他人嫌いで有名な彼女が、稟達の背後にいるという事実。この事を知る者は此処にいる三人とあと一人しかいないが、それでもこの事実は無視できるものではない。
『白銀』も楯無と同じ立場であれば、彼女と同様の態度を示しただろう。
故に、楯無の言葉には嘘偽りない言葉で答えなければならない。
「……創造主の想いと私の想いは同じではありますが、彼女が何を企んでいるのかは分かりません。ただ、『王』がいる限りこの学園に変なちょっかいはかけない筈です。そして私ですが」
『白銀』はそこで一度口を閉じると瞳も閉じる。
そして自身の想いを再確認するかのように、
「私は何も企んでいません。私という存在はあの方を、『王』を護る為だけに存在している。あの方を傷付ける輩から、あの方を護る為の楯でしかない存在」
言葉を綴る。
そう語る『白銀』は、どうしても造られた存在とは、機械とは思えない程に人間らしくて。
「しかし、もしも貴女方が『王』を害するような事があれば」
無表情から一転。
「私は貴女方の敵となるだろう。この身を賭して、貴女方を排除すべく動くだろう。我が全ては、『王』の為だけに存在するが故に」
その顔に決意の色を浮かべ、この学園でも飛び抜けた実力者達に対してそう言い切った。