ISー王になれたかもしれない少年は何をみるか   作:nica

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はい、えっと、深く突っ込まないでいただけると幸いな二十話です。
まぁ、いつもの事ですが。この話も、てか全体的に要修正ですな。


第二十話:太陽と月

 翌日の朝。

 朝食を済ませた一夏が教室に入るとクラス中の女子がわいわいと賑やかに話し合っていた。

「う~ん、やっぱりハヅキ社製のがいいかな」

「そう? ハヅキってデザインだけって感じしない?」

「そのデザインがいいの!」

「そうかな~? 性能面で見れば、私はミューレイのがいいと思うけど」

「あれか~。でもあれ、モノはいいけど高くない?」

 手にカタログを持ってあれやこれや話し合うクラスメイト達。

 一夏はそのまま教室に入ると自分と同じ立場である稟を探すように教室内を見渡すが、彼はいない。いつもならぼんやりと窓の外を見ている稟がいるのだが、どうやら本音が言っていた通り教師の手伝いをしている為にまだいないようだ。

「あ、織斑君織斑君! 織斑君のISスーツってどこのやつなの? 見た事ない型だけど」

「あ! それ私も気になってたんだ」

「実は私も私も!」

 一夏の姿を見つけた数名のクラスメイトが一夏の下に寄ってくる。

「あーっと、俺のは特注品なんだってさ。男のスーツなんてないからどっかのラボが作ったらしいぞ? えーと、確か……元はイングリッド社のやつって聞いたような」

「ふ~ん、そうなんだ。じゃあ土見君のもそうなのかな?」

「そうなんじゃないのか? 聞いてないから断言できないけど」

 千冬より先に教室に来ていた真耶が他のクラスメイト達に弄られているのを視界の端に捉えつつ答える一夏。ちなみに稟も真耶と同じ時に教室に来ていた。

 そうして話している間にホームルームの時間が近付いていたのだろう。

「諸君、おはよう」

「お、おはようございます!」

 千冬が教室に入ってくる。

 千冬の登場と同時にそれまでざわついていた教室は一瞬で静まり返り、ほとんどの生徒が慌てたように返事を返して自身の席へと着いた。

 それを確認した千冬は教室を見渡し、

「さて、本日より本格的な実戦訓練が開始される。訓練機ではあるが、ISを使用しての授業になる為各人気を引き締めて授業に臨め。また各々のISスーツが届くまでは学園指定の物を使ってもらうが、忘れた者は学園指定の水着で訓練を受けてもらう。それさえ忘れるのならば、まぁ下着で構わんだろうな」

 千冬のその言葉に一夏は机に突っ伏し、稟は苦笑い。アレンを除く少女達は顔を朱に染めて稟と一夏をちらちら見ているのは余談だろう。

 それを気に留める事なく、伝える事は終わったと言わんばかりに千冬は真耶へバトンタッチする。

「それでは山田先生、ホームルームを」

「は、はい!」

 若干顔が引き攣っていた真耶は慌てて返事をし、軽く息を吸って教室を見渡し、

「ええ、ホームルームをはじめる前にですね。皆さんにお知らせがあります。今日はなんと転校生が来ます! それも二人です!」

『……………………え?』

 真耶の言葉によって教室から呆然とした声が漏れた。

 そして程なくして。

『ええええええええええええええええええええええっ!!??』

 驚愕の声が上がる。その威力はギャグ漫画であれば窓ガラスに罅が入る程のものであったろう。

 その声に千冬の眉はピクリと動き、真耶は思わず耳を防ぐ。しかしそれも数瞬の事で、

「そ、それではお二人とも入ってきて下さい」

 真耶は自分の仕事を全うすべく教室の外へと声をかけた。

「失礼します」

「………………」

 そうして入って来た転校生二人。

 その内の一人を見て、ざわついていた少女達はピタリと静まる。

「…………マジ、か?」

「………………」

 自分でも意識していなかったのだろう。呆然とした声を漏らす一夏と、瞳を微かに細める稟。

 二人の、否。クラス全員の視線の先にいたのは、

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。日本は初めてで不慣れな事も多いですが、これからよろしくお願いします」

 シャルルと名乗った転校生の一人。

 柔らかな笑みを浮かべた、中性的に整った顔立ち。太陽の輝きを思わせるような濃い黄金色の髪は首を後ろで綺麗に束ねられている。身体はとても華奢で、見る者に思わず守ってあげたくなる気持ちを抱かせる。

「お、男……?」

 再起動したであろう誰かの声が上がる。それが聞こえたのだろう。

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方達がいると聞い――っ!?」

 シャルルの言葉が不自然に止まる。彼はとある場所を見て驚愕に眼を見開くが、それに気付いたのは稟とアレン。千冬と真耶のだみだった。その変化に気付かなかった女子達は、

『きゃあああああああああっ!!!!』

 爆発した。

「男子! 三人目の、三・人・目の男子!!」

「それもまたうちのクラス!」

「そんでもってまた美形! しかも今度は守ってあげたくなる系よ!」

「イケメンの織斑くん! 凛々しい男の娘系の土見くん! 土見くんと同じく男の娘系だけど可愛い系のデュノアきゅん!」

「土見君、織斑君に続いてデュノア君までもが我がクラス。素晴らしい布陣じゃないの!」

「織×土、もしくは土×織。そこにデュノアくんが加わる……」

「これは筆が捗りますわ~!」

「この夏はいただいた!!」

「この世に生まれて、IS学園に来て良かったわ~!!」

「静かにしろ」

 隣の教室、下手をすれば学園中に響き渡ったのではないかと思わせる女子達の歓喜の叫びは、千冬の鬱陶しそうな声によって再び静まる。

「み、皆さん、お気持ちは分らなくもありませんがお静かに。まだ自己紹介は終わっていませんから」

 そう言って紹介の続きに入ろうとする真耶。

 次いでクラスの視線が注がれたのはもう一人の転校生。どこか月を思わせるような銀髪は、綺麗ではあるが腰近くまで無雑作に伸ばしてある。背はシャルルより小柄で儚げな印象を与えそうな華奢な体躯だが、彼女が見に宿す雰囲気。そして左眼を覆う黒の眼帯。温度を感じさせない赤い色をした右眼がその印象を覆していた。彼女を見た時の人が抱くであろう印象は、『軍人』。例え幼い見た目であろうが、彼女の鋭利な雰囲気は軍人のそれを匂わせる。

 視線を注がれている当の本人は口を開こうとはせず、その視線の主達を下らなさそうに見下ろしている。かと思えば。彼女の視線はとある一人の方へ向けられた。

「……挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

 視線を向けられた人物――千冬の言葉に、今まで腕を組んでいたラウラと呼ばれた転校生は佇まいを正して千冬に敬礼する。

 千冬はそんな彼女に対して面倒くさそうな顔をして、

「此処ではそう呼ぶな。私は最早お前の教官ではないし、私は教師でお前は一般生徒だ。私の事は織斑先生と呼ぶようにしろ」

「はっ、了解しました」

 二人のやりとりにぽかんとしている周囲の反応をよそに、ラウラは直立不動の姿勢をとると、

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 ただ一言、そう言った。

 クラス全員がその続きを待つが、ラウラは己の名を言ったきり口を開こうとしない。

「あ、あの、以上ですか?」

「以上だ」

 妙にいたたまれない沈黙に耐えかねた真耶が言葉を発するが、それに帰ってきたのは無慈悲にも冷たい即答だった。真耶の顔を見ずに放たれたその一言に若干涙目になる真耶。

 真耶は助けを求めるように千冬を見るが、千冬は千冬で眉間を揉んでいて真耶の視線に気付いていなかった。

「! 貴様が!」

 そんな空気の中でも我関せずだったラウラだが、一夏を見つけると途端に表情を変え彼の席につかつかと歩み寄る。

 そんな彼女に首を傾げる一夏達。

 そして次の瞬間。

 

 

――バシンッ!

 

 

 何かを叩いた、乾いた音が響いた。

 全員の視線が音のした方へ向けらる。

 そこには頬を叩かれてぽかんとした表情を浮かべた一夏と、一夏を叩いた姿勢のまま、彼を憎々しげに睨み付けているラウラの姿があった。

「認めるものか。貴様があの人の弟などと、断じて認めるものか!」

「てめっ、いきなりなにしやがる!?」

「ふん……」

 状況を漸く理解した一夏が慌てて立ち上がるが、ラウラは鼻を鳴らすと指定されていた席にさっさと座ってしまった。そして眼を閉じ、そのまま微動だにしなくなった。

 教室の空気がかなり悪くなったところで、

「……ゴホンゴホン! これでホームルームを終わりにする。各人は速やかに着替えて第二グラウンドに集合しろ。今日は二組と合同でのIS模擬戦闘だ。決して遅れる事がないようにしろ」

 千冬が手をパンパンと叩いて行動を促すようにした。

 それでこの空気が良くなる訳ではないが、だからと言って授業に遅れる訳にもいかない。生徒達は慌ただしく動き始めた。

 それは稟と一夏も同じ。彼等は男であるが故にこの場で着替える訳にはいかないので、許可を貰っている第二アリーナに向かわなければならない。

「おい織斑、土見。お前達がデュノアの面倒を見ろ。同じ男だからな」

 何やら戸惑っていたシャルルの背中を押して、千冬が稟と一夏にそう言ってくる。

「えっと、君達が織斑君と土見君かい? 初めまして。僕は……」

「ああ、挨拶は今はいいから先に移動するぞ。このままだと女子が着替えはじめるからな」

 挨拶をしてくるシャルルを遮った一夏は、シャルルの手を取ると先導するように歩き出す。その後ろをついていく稟。

「取り敢えずだ。ISを使った実習がある時、俺達は空いているアリーナで着替えないといけないから早く動けるようにしてくれ。でないと……」

 シャルルの手を引きながら教室を出て廊下を歩いている最中。一夏の声色が少しずつ険しいものになっていく。

 シャルルが気になって後ろの稟に振り向けば彼も若干険しい表情をしていたが、シャルルの視線に気付くと苦笑を浮かべた。一体何なのかと不思議に思って首を傾げるシャルル。

 その疑問の答えはすぐにやってきた。

「はっ! 転校生発見!」

「何ですって!?」

「しかもしかも! 織斑くんと土見くんも一緒じゃないの!」

 他の学年やクラスもホームルームが終わったのだろう。噂になっているシャルルを一目見ようと一人一人人数が増えていく。その全員に共通して言えるのが、瞳が猛禽類が獲物を補足したような眼をしていて。

「三人ともこっちにいるわよ!」

「者ども出会え出会え!」

「いいわ~。実にいいわ~! この三人は絵になるわよ~!」

「ふ、ふふ、ふふふふふふふふふふ。この夏はこれで決まりね」

「これは譲れません。私が先に!」

 稟達の背に悪寒が奔る。そして彼等が動くよりも速く。

「でも、その前に」

「全員で包囲網を敷くわよ!」

「ぐふふふふふふ。……おっと、鼻から愛が」

 一体いつの間に連絡をしていたのか。

 後続の女子達が、気付けば稟達を包囲していた。

「しまった!? いつの間に……」

「え、え? 何、何なのこの状況??」

 一夏はいつの間にか包囲されていた事に顔を歪め、シャルルは状況が分からずに困惑の声を上げる。唯一声を上げなかった稟は自分達の状況に顔を歪め、女子生徒達の包囲網の穴を探す。しかし穴は見つけられず。仕方なしに付近の窓がどうなっているかを確認し、

「……一夏。彼女達の隙を作るから上手く逃げろよ」

「は? 稟。お前何言って」

 自分の近くにある窓がたまたま空いているのを見つけた稟は、小声で一夏に言う。稟の言葉を訝しんだ一夏は稟に聞き返すが、稟はそれに答えず。

「シャルル」

「ぅえ!? あ、な、何かな? 土見君」

「後で殴ってくれて構わないから、今はじっとしていてくれ」

「? 何を言って……!!??」

 戸惑っていたシャルルに声をかける。

 稟に声をかけられたシャルルは過剰と思われる程に身体をビクリと反応させ、上ずった声で稟に返す。稟はシャルルの反応を気にする事なく用件を述べると、シャルルの答えを待たずに右腕でシャルルの脚を、左腕で背中を抱えて横抱き――つまりお姫様抱っこした。

 シャルルの表情は一気に朱に染まり、それを見た一夏は眼を見開き、彼等を包囲していた女子達は。

『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』

 爆発した。

「土見君が!」

「美少女系男子の転校生を!!」

『お姫様抱っこ!!!!』

「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

「きたきたきたキタキタキタアアアアアアアアアアアッ!!!!」

「ごふっ…………だ、ダメージが」

「あかん。これはあかんよ……」

「ふ、ふふふふ、ふふフフフフフフ腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐」

 最早語るまい。

 様々な反応を見せる女子達だが、稟は完全に無視して空いている窓まで行くと、その枠に足をかけ、

「一夏、先に第二アリーナで待ってるぞ」

 そのまま飛び降りる。

「ちょ、ここ三階!?」

『きゃああああああああああああああああ!!??』

 まさかの稟の飛び降りに血相を変えて窓に走り寄る一夏と、悲鳴を上げるシャルルと彼等を包囲していた女子達。

 彼女達の脳裏には想像もしたくない結末が浮かび、一夏が飛び降りた稟を見守る中。

 稟は左腕でシャルルを強く抱き締めて落ちないように何とか支えると、右腕を腰元にやる。稟の腰元あったのは、先日クロエと再会した時に渡された物があった。それは金属製の筒で。

 稟は猛スピードで地面が近付いてくるのを確認し、抱き締めているシャルルを一瞥する。飛び降りた時こそ叫び声を上げたシャルルだが、落下中の今は一人で落ちないよう必死に稟にしがみ付いている。

 そんなシャルルに苦笑し、飛び降りた窓を見上げる稟。窓には血相を変えた一夏と、顔を青褪めさせて稟とシャルルを見下ろしている何人かの生徒達の姿が。一夏と彼女達を心配させてしまった事は悪いと思うが、あの時包囲網からシャルルを連れて逃げるにはこうするしかなかったから仕方ないと無理矢理自身を納得させる事にした。

 稟は落下中に色々と思考を巡らしつつ腰元の金属製の筒をしっかり握ると、落下速度とクロエから渡された筒の事を計思考する。そして数瞬で思考を終えると、器用に右腕を動かして筒を動かし。

 カチリと、筒の柄にあったスイッチを押した。

 

 

――バシュッ。

 

 

 そんな音と共に、筒の先端からワイヤーが射出された。ワイヤーの先には強力な吸盤が付けられており、凄まじい速度で伸びていくワイヤーは二階と三階の間の校舎壁を目指す。見る見るうちに校舎の壁まで近付いたワイヤーの先端は壁にくっついた事を振動で稟に知らせた。

 稟は筒を軽く動かしてワイヤー先の吸盤がどこかしらにしっかりくっついている事を確認すると、さらにワイヤーの長さを調節していく。調節しなければそのまま地面に叩きつけられるからだ。

(束さんとクロエには感謝だが、何をどう予想すればこんな物が必要だと考えられるんだろうな。まぁ、今回はかなり助かったけど)

 クロエから渡された束お手製の道具を操作しながらそんな事を思う稟。ご都合主義にも程があるだろうと思わないでもないが、それによって助かった事実があるのであれこれとツッコミを入れるのは無粋と思う事にした。ワイヤーの長さ調節も無事に終え、落下速度もある程度殺し。

「ん。無事に降りれたか」

 稟とシャルルは怪我一つなく校舎外に降り立つ事が出来た。

「立てるか?」

 抱き抱えたままのシャルルにそう確認をとる稟だが、シャルルは稟にしがみ付いたままで彼の質問に答えられるよな状態ではなかった。身体が震えている事が分かったので、稟は罰が悪そうな表情を浮かべ、

「あ~、その……色々とすまん。後で思う存分叩いてくれていいから今はそのまま目的地に向かわさせてもらうな」

 柄にあるスイッチを押せばどういう原理でそうなるのか。吸盤の粘着性が弱まりワイヤーが筒へと戻ってくる。そのご都合主義っぷりをあえて無視する稟。

 稟はシャルルを抱き抱えた状態で第二アリーナに向かうのだった。

 周囲を警戒しながら進む稟。流石にあの短時間で、一階まで包囲網を敷いている事はないだろうが警戒するにこした事はない。この学園の女子達の行動力は時として予想外の事をしでかすからだ。

 追いつかれる気配もなく順調に目的地に向かう稟。

 そうして無事第二アリーナに着いた頃にはシャルルの震えも止まり、シャルルも立てる状態になっていた。

 シャルルを立たせた稟はひたすら謝っていた。それはもう、謝られる方が困るほどに。

 稟の猛烈な謝罪に戸惑ったシャルルだが、方法は問題ありまくりだろうが稟がああしてくれたおかげであの状況から助けられたのも事実。自分はあまり気にしていないからと稟に言って彼のその後の謝罪を断った。

「さて。一夏が此処に来るまでもう少し時間がかかるだろうから、君が先に着替えてくれ。流石に一緒に着替えるのは不味いだろう?」

「っ! 覚えて、いてくれたんですか?」

「…………」

 返ってきた答えは沈黙。だが、その沈黙と稟の表情が答えを示していた。

 即ち、稟がシャルル――隠す気があるのかお粗末にすぎる男装をしている少女――を、嘗てフランスで出逢った少女である事に気付いているだろう事に。

 彼女は稟の事を覚えていたが、彼が自分の事を覚えているとは思っていなかった。所詮あの時偶然に出逢い、偶々自分の話を聞いてくれただけの出逢いだったのだから。

 だが、その偶然に彼女は救われた。僅かな時間ではあったが、確かに彼女は救われたのだ。今この時が、どんなに辛い現実であっても。

 シャルルは、彼女は、嬉しそうな泣きそうな。どっちともつかない表情で稟を見つめる。

 一体どれくらい稟の事を見つめていたのか。ハッと我に返った彼女は慌てたように稟から視線を外すと、

「その、すいません。先に着替えさせてもらいますね!」

 そそくさと、逃げるかのように第二アリーナの更衣室に入って行った。

 彼女が更衣室に入ったのを見届けた稟は扉横の壁に背を預けて眼を細め、

「……デュノア、か」

 先日の喫茶店で、クロエから語られた事を思い出すのだった。

 

 

 シャルルと稟がISスーツに着替え終えて暫く経った頃。

 置いてけぼりをくらった一夏が第二アリーナに姿を現した。その姿はどこかボロボロで、表情も若干げっそりしていた。

「ん、意外と遅かったか?」

 一夏の姿を見つけた稟が不意にそう呟いた。

 その声が聞こえた訳でもないだろうが、一夏もまた稟の姿を見つけ、その表情を怒りの色に染めてつかつかと稟達の下へ近付いてくる。

「稟、お前なぁっ!」

 そして稟の近くまで来ると、一夏は彼の肩を掴んで思いっきり稟を揺さぶり、

「なんつー真似してくれてんだよ! あんな真似されて平然とできるか!? おかげで俺の寿命が縮まったじゃないか!?」

 先程の稟の行為に対して抗議する一夏。シャルルも一夏に同意しているのか、コクコクと必死に頷いていた。

 一方で稟は何を言われたのか分らずにキョトンとした表情をするが、一夏の言葉の意味を理解すると申し訳なさそうな顔をして、

「あ~、すまん。つい昔の癖で……」

「どんな癖ですか!?」

「昔の癖ってなんだよ!?」

 そう漏らした稟に思わずツッコむシャルルと一夏。

 どうすればそんな、一歩間違えずとも死ぬような癖を身に付けると言うのか。というかそれを癖と言うのは如何なものなのか。

「二人が気にするような事じゃないさ」

「気にするなって無理だろ!?」

「気にするなって無理ですよね!?」

 稟の言葉に再びツッコむ二人。

 稟としては先程の行為は日常茶飯事なようなもので、かつて光陽町では似たような事を何度もやっていた。流石にあの高さから飛び降りた事はなかったが。

 しかし、それを二人に話す訳にはいかない。例え納得されなくても、過去の事を話す訳にはいかないのだ。

「そんな事よりも、一夏は早く着替えたらどうだ? このままだと織斑先生の出席簿をくらう羽目になるぞ」

「む」

 そう言われて思わず開きかけた口を閉ざす一夏。稟の身体に無数の傷がある事を知っている一夏としてはそのまま流していいものではないが、その事を追及して授業に遅れる訳にもいかない。何せ次の授業は千冬の授業だ。遅れてしまえば頭上に出席簿が炸裂してしまう、どころか、それ以上に凄惨な目に合う可能性もありえる。

 暫し逡巡した後。

「…………さっさと着替えてくるから今度は置いてくなよ?」

 そう言い残して更衣室へと入って行く一夏。

 一夏のジト眼を受けた稟は苦笑しながら頷いてそれに答える。

 一夏が更衣室に入った後、シャルルが何か言いたげな視線で稟を見ていたが、彼は敢えて何も答えず沈黙を貫いたのだった。

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