──...しまったな。道を覚えていたかと思っていたらよもや迷ううなんて。ここはどこらへんなのだろうか。
本で溢れかえっている世界は森となり樹海となりアルトリウスを惑わせた。うろ覚えの道を自力で帰ろうとするから迷うのだ。道の何処かに何か目印があるのなら別だが、この図書館にそのような物などありはしない。右も左も本ばかり、一度元の道を外れれば忽ちに行くべき道を見失ってしまう。本を探すのに数分、戻るのに何十分、アルトリウスはただ真っ直ぐに行けば何時かは端に着くかもしれないのに所々で道を曲がり行くから、アルトリウスの行くべき方向すらも見失ってしまい、この図書館は迷宮と化してしまう。
──どれくらい歩いただろうか。確実に案内してもらった時間よりも歩いているな。別段歩くことには慣れているからいいのだが……ん?
うろうろと歩いて彷徨ううちに辿り着いたのはパチュリーがいる場所ではなく遙か地下へ続く無機質な階段。
──この図書館にはまだ奥があるのか。何があるのだろうか。
早くに仕事が終わったアルトリウスにとって時間に余裕がある。急ぎパチュリーの元へ行く必要がないのも相まって、このコンクリートで固められた冷たい階段の下には何があるのか、アルトリウスの好奇心は駆り立てられた。アルトリウスは躊躇いなく冷たい世界へと歩を進める。踏み出す足が、石の階段に触れ、音が反響する。両側の壁に付けられた蝋燭の炎がゆらゆらと揺らぎ歩くアルトリウスの影は不安定に揺れる。
何段の階段を下っただろうか、長かった階段は終わり、次に現れたのは一直線に進む道。遠くには図書館に入る時にあった扉と同等、いや、それ以上に大きな扉が見える。好奇心が猫をも殺すと言ったような異国の諺があるが、アルトリウスの好奇心が何を齎すかは分からない。
扉の十数歩手前まで来たアルトリウスは歩を止める。
「これは…。凄いな。」
アルトリウスが目に捉えたのは巨大な扉よりも先に張られているそれ。
「結界か、それもかなり複雑な…。」
幾重にも扉に張られた結界がアルトリウスの歩を進めることを拒んだ。ふとそれにアルトリウスの手が伸びる。それに触れるまでほんの数センチ、唐突に酷く慌てた声がアルトリウスの耳に入る。
「ア、アルトリウスさん!それ以上先は駄目です!早く、早く戻ってきてください!」
何事かと結界に触れることをやめ、振り向くと顔には大粒の汗を滲ませ、荒げた息でこちらに向かうこぁの姿があった。
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ただならぬこぁの様子、この先に何があるというのか。
「どうしたんだ?そんなに急いで。」
「どう、したって、アルトリ、ウスさんがここに入って行く、のを見たからに、決まってるじゃないですか!」
慌てているのか、息切れを起こしている状態で矢継早に言葉を紡ごうとして何度も何度もつっかえる。
「ふむ、まずは落ち着いて話してくれ。ほら、一回深呼吸だ。」
アルトリウスの言葉にこぁは一旦目を閉じて、大きく息を吸い込み、吐いていく。
「って、落ち着けるわけないじゃないですか!」
「落ち着けなくても息は整っただろ?」
冷静に返すアルトリウス、慌てた様子のこぁに対して動じることなく答えるあたり流石は四騎士の一人になった者と言える。一寸した事には動じない。いや、流石と言って良いのかは分からないが。
「さ、早く戻りますよ、アルトリウスさん!大方道に迷っていたんでしょうけど、ちゃんと案内しますから、さ、早く!」
必死にアルトリウスの袖を引っ張るこぁ、それに抵抗する事はアルトリウスはしない、出来ない。勝手に入って行ったアルトリウスに抵抗するなどという選択肢などそもそも存在しないのだ。
──この奥、余程の物があるのだろうがここまで慌てなければならない物なんて何なのだろうか…。
アルトリウスは無機質な階段をこぁと一緒に登る時、そんなことを思ったが、しかしそれをこぁに聞くのは憚れた。紅魔館に来て少し、まだ紅魔館の外を知らぬようなアルトリウスが聞いていいことではないとちゃんと解っているからだ。むしろ厳重に処分を下されてもおかしくはない。
アルトリウスは今更ながらに自分の好奇心に従ったことに後悔した。好奇心が猫をも殺す。まさにその異国の諺が表すように、この後のアルトリウスに災難が齎されるのは確実だろう。
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何だろう?扉の向こうから音が聞こえた。またお姉さまが玩具を持ってきてくれたのかしら?それもとびきり上物の玩具。こんな分厚い扉に隔てられても臭って来る程の血の匂い。ふふっ。早く遊びたいな。早く早く、早く早く早く。ふふふ。どんな歌を聴かせてくれるのかな。他の玩具はもう壊れちゃった。お空を彩る絵の具も切れちゃった。壊れた玩具は歌わないし、全部乾いちゃったから何にも面白くないわ。だから早く来て?早く早く、早く来て歌って踊って、そして……私に、壊させて?うふふ、あは、あはははははははははははは………ねぇ、早く…来い。
狂気がよく表現できない……