東方騎士譚   作:城縫威

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指揮者

小気味よい野菜を切る音が響く隣では、鶏ガラを煮込む鍋の音、台所の後ろにある作業台の上には山盛りの食材。名を挙げていくとすれば、長葱、茄子、鶏肉、豚肉、それらのひき肉、生姜、等々、傍から見れば、一体何食分、はたまた何品作るのかと問いたくなる程の量だ。素人、と言っても粗方の基礎は固めたアルトリウスだが、初めて作るというのに、こんなにも沢山量を調理するというのはやはり酷である。

今の状況を説明するとすれば、包丁一つで山盛りの食材を捌いていくアルトリウスと、文字が読めない故に咲夜が数々の指示をアルトリウスに下している。最初、調理を始める直前に咲夜はアルトリウスに中華を作るんだからと、中華包丁を使ってみないかアルトリウスに聞いたのだが、アルトリウスは使い慣れない道具をいきなり使うより、今まで使い、慣れてきた牛刀を使うことにした。

中華包丁は一旦、色々な料理に慣れた後、改めて練習していくことに決めたのだ。

ここで、アルトリウスの使っている包丁、牛刀だが、これは本来、塊の肉を小分けにしていく為の包丁で、刃の形状が大きく反れており、硬いものや筋のあるものを、押して切ることに優れている。この包丁、牛刀とは言うが、実際は肉以外の野菜なども切ることが出来る。包丁なのだから切れないということはまず無いのだが、何か専門的用途による包丁ではない。名を出せば刺身を切るための柳刃包丁や、麺を切るための麺切包丁等の様な特異な形状をしているわけではなく、肉、魚、野菜などオールマイティーに使うことが出来るのだ。実際にこの包丁はかなりポピュラーな包丁で、これを使う所では殆どの食材をこの包丁で済ましてしまう。アルトリウスの使う牛刀の刃渡りは大体20cmといった所である。同じ牛刀でも刃渡りの短いものもあり、切るものによって使い分けができる、いわば万能包丁なのだ。

 

「そうね、まずは全部の食材の下拵えが終わるまではこれといって言う事はないわね。もう基礎はしっかり固まっているでしょ?」

 

咲夜はちらりと手元に開いている料理本からアルトリウスを見て言った。

 

「ああ、その点については大丈夫なのだが…何分量が多いからな。全部を捌くとするともう少し時間がかかるな。」

 

アルトリウスは咲夜に目は向けず、言葉だけで返した。

 

「ええ分かっているわ。その為に一日、一切の仕事を休んでこうやって貴方の料理の練習に付き合ってあげているんだから。」

 

そう言う咲夜は料理本に目を落とし、どの料理から作っていくか思案している。咲夜としてはこの料理本に載っている、一般的に知られている料理は全て作りたいと思っているのだ。傍から見たら練習にしたら大分行き過ぎている様に見えるが、咲夜にとって、このぐらいは出来てくれないと紅魔館のコックとしては任せられないと思っている。

アルトリウスも咲夜の考えには承知しているし、沢山食べる自分がいるのだ。それぐらい作れなくては紅魔館の住人、何より自分の腹が満たされない。

この紅魔館の主、レミリア・スカーレットには前日の夜既に咲夜から説明を受けており、今日一日は普段やる仕事はぜず、アルトリウスの練習に付き合ってよいと、承諾を貰った。

その代わりとして大図書館の小間使い兼司書を務めているこぁが今日一日中、レミリアの世話や部屋の片付けを請け負うことになっている。勿論、図書館の主、パチュリーには了承を貰った。パチュリー曰く一日ぐらいでは死にはしない、だそうだ。その直後、パチュリーは、でも一日以上だと死ぬから、と言ったが、それにアルトリウスは返事をするわけではなく、呆れの念が篭った視線と嘆息で返した。しかし余りにもそれを言うパチュリーの顔が真剣味を帯びたものであったので、その顔で見つめられたアルトリウスは数秒の後に軽く吹き出してしまった。それを見たパチュリーが、少々ムッとしたのか、パチュリー周辺の乱雑と置かれた本の山をアルトリウスに整理させたのは余談だ。

因みに今日一日の予定としては、朝食、昼食はなく、夕食に紅魔館の住人全員が集まってアルトリウスの初めての料理を馳走することになっている。空腹はどんな調味料よりも最上の調味料とは言ったもので、もし仮にアルトリウスの料理があまり美味しくなくても、空腹が助けて料理を食べてくれるというわけだ。

例え百戦錬磨のアルトリウスだとしても料理に関しては全くの素人、さらに自分の初めての料理をこの館の主に馳走するとなっては、相手の見た目が小さな子どもと寸分違わなかったとしても些かの不安と緊張は伴うことになる。しかし空腹という調味料が味方してくれるとのことで、幾分か気分は軽くなった。

 

「よし、言われた下準備は全て終わったぞ。」

 

アルトリウスの言葉に咲夜は自分の銀時計に目を見やる。調理場の清掃から始まり、ひと通りの手順の説明を経てから全ての食材の下拵えを始めたのだが、慣れないことをしているためか予定の時間よりも幾許か過ぎていた。しかしながら、時間が過ぎたといっても誤差の範囲内、この紅魔館、幻想郷に来て一年も立たぬ内に唯の騎士だったアルトリウスが、と言っても騎士隊長で軍を率いる身ではあったが、料理とは食べることでしか関わりがなかったというのに、数ヶ月の練習の中でここまで出来れば御の字だろう。

 

「お疲れ様。でも予定より少し過ぎてるわよ。もう一寸早く出来なきゃ駄目ね。」

 

咲夜もアルトリウスが自分から学んで数ヶ月でここまで来れたことには感心しているし、嬉しくも思うが、咲夜はアルトリウスを褒めることはない。

 

「初めての事でも、今日、レミリア様にごちそうする料理なんだから一秒でも過ぎているようでは駄目よ。料理も時間も完璧でなければ貴方にこの紅魔館の料理人(コック)は任せられないわね。」

 

アルトリウスは次の工程に移るためにの道具を用意しながら驚いたように言った。

 

「私がここの料理人を務めるのか?私は一介の執事だった筈だが。」

 

「あら、紅魔館に務めている以上、一介のだなんて言葉は言わないで頂戴。ここで執事を名乗るならなんでも出来て当たり前、全て完璧にこなせなきゃいけないわ。」

 

そんなことを言う咲夜、アルトリウスは咲うしかない。

 

「まさか執事と言う肩書きにそんな大層な事を求められるとはね、思いもしなかったよ。」

 

「今までの貴方は執事見習いってとこよ。それは今でも変わらないわ。もし、紅魔館の執事として認められたかったら手を動かしなさい?時間内に終わらすことが出来たら執事として認めてあげるわ。」

 

「仮に私がその目標に達することが出来なかったらどうなるんだ?」

 

「その時は今と変わらず執事見習いってことになるわね。せっかく私が時間を割いて貴方に料理を教えてあげたんだから、今回のテストに合格できなかったら、これからの貴方の食事を少し、減らすことにはなるけど。それでもいいんだったら、時間に遅れてもいいわよ?」

 

チラリと器具を並べながら咲夜の方へアルトリウスが視線を向けるとそこには口に、ニヤリとした笑を浮かべた咲夜がいた。

 

「……その少し、と言うのはどれくらいなんだ?」

 

「さあね。貴方の少しと私の少しとは違うもの。でも、ない時間を割いてまでも貴方に料理を教えたけれど、それに応えられなかった罰としての少し、とだけ言えるわね。さあ選びなさい?期待に応えて完全で瀟洒な執事となるか、応えずに罰の少しを取るか。早く選びなさい?時間は刻々と過ぎていくわよ。」

 

アルトリウスは咲夜に向き直る。後には道具全てが並べられており、直ぐに手が届くように置かれている。

 

「それでは期待に応える方にしよう。これがテストだということに驚いたが、食事を減らされては身がもたないからな。」

 

両腕を横に大きく開いた後、恭しく一礼しアルトリウスは言う。

 

「どうか私を導くご指示をください、十六夜咲夜様?」

 

「ええ、いいわよ。私は指示を一回しか言わない。だから心して聞きなさい。そして全てを完全の内で終わらせなさい。妥協は一切許さないわ。」

 

「語るに及ばず。そんなことは言われる以前に承知している。さあ、早く指示をくれ。時間は一刻と早く過ぎ去ってしまう。」

 

咲夜は楽しそうに咲う。今まで紅魔館にアルトリウスの様な者は居なかった。そして今までに会ったことのないような男だった。大人で子供で老けているが若く、知識が深いようで浅く、だからといって浅はかではない。

 

「特別に、時間に間に合うように指示してあげるわ。間に合わなかったら一ヶ月食事は抜きよ。せいぜい期待に応えられるように頑張りなさい。」

 

「了解した。」

 

アルトリウスが意気込み十分だと言ったような調子で言う。

 

「ならまずは──」

 

指揮者が指揮棒を振るうが如く、咲夜はアルトリウスに指示をとばす。




はい、すいません
前回料理について詳しく書くとかそんなこと言っておきながらこの体たらくです…
正直に言って料理について詳しく書くことが面倒でした………
許してください
あと、やっぱり短くてすいませんorz
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